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強迫症状の種類について
自己完結型と巻き込み型

[2024.10.19]

強迫症状がどのようなものか、一緒に見ていきましょう。

強迫症状の種類

ケース1

ある人は、「なぜ頭は上にあって足が下にあるのか」という考えが頭から離れません。そんなことはどうでもいいと思っても、その考えを止められず、他の仕事や勉強、趣味も手につかなくなってしまいます。無理に考えないようにすると、落ち着かなくなり、また同じ考えを繰り返してしまいます。

この方は、自分の頭に浮かぶこのような考えが意味のないことだと理解しています。それでも、その考えを振り払えないのです。このように、自分の本来の考えとは調和せず、受け入れがたいと感じる特徴を「自我違和的(じがいわてき)」と言います(反対に、調和して受け入れられる場合を「自我親和的(じがしんわてき)」と言います)。

強迫観念と呼ぶとき、その内容自体(どんな考えか)は問題ではありません。自分でも無意味だとわかっている考えが、強制的に頭に浮かび、それを振り払おうとしてもできないという「状態」が問題なのです。

ケース2

手に細菌がついて汚れているから洗わなければ、という強い気持ちが起こります。十分に手を洗っても、「まだ汚れが残っているかもしれない」と感じ、また手を洗わずにはいられません。これを1~2時間も繰り返してしまいます。手を洗わずに我慢すると、不安でじっとしていられなくなります。

ケース3

学校へ行くとき、スニーカーの紐を結びますが、「うまく結べていないのではないか」と不安になり、紐を解いては結び直します。それでもまた心配になり、何度も結び直すうちに、学校に遅刻してしまいます。

ケース2では「手洗いを繰り返す」、ケース3では「何度も確認する」という行動が見られます。他にも以下のような強迫観念があります。

  • 不潔恐怖:自分が汚れているのではと不安になる。
  • 加害恐怖:自分の不注意で他人に危害を加えたのではと不安になる。
  • 被害恐怖:自分が被害に遭うのではと不安になる。
  • 疾病恐怖:重大な病気にかかっているのではと不安になる。
  • ためこみ:大切なものを捨ててしまうのではと心配で、物を溜め込んでしまう。

これらは、強迫観念としてよく知られています。

強迫行為について

「手洗い」や「確認」といった強迫行為は、必ずその前に強迫観念や強迫イメージがあります。つまり、「手が汚れている」と思うから「手を洗う」のであって、いきなり「手を洗う」行動が起こるわけではありません。このことは、診断にも役立ちます。強迫観念なしに行動だけが現れる場合は、他の脳の病気を考える必要があります。

強迫神経症の治療方法

治療には大きく分けて「薬物療法」と「精神療法」があります。

  • 薬物療法:主に「SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)」という抗うつ薬のお薬が有効です。
  • 精神療法:以前は精神分析的な方法が主でしたが、現在では薬物療法に加えて「行動療法」や「認知行動療法」が行われます。

暴露反応妨害法(ERP)

特に「暴露反応妨害法」という方法がよく使われます。この方法では、まず不安に感じることをリストアップし、その不安の強さによって順番を決めます。そして、不安が比較的低いものから順に、その状況に「慣れて」いきます。このとき、強迫行為(例えば手洗い)をしないようにトレーニングします。これを繰り返すことで、不安が徐々に和らいでいきます。

例:不潔恐怖がある場合、トイレの床を10秒間触り、その後すぐには手を洗わない、という練習をします。

自己完結型と巻き込み型

強迫症状には「自己完結型」と「巻き込み型」の2つのタイプがあります。

自己完結型

これまでのケースは、自分一人で強迫観念に悩み、強迫行為も自分だけで行う「自己完結型」でした。

巻き込み型

ケース4

50代の女性の例です。もともと少し神経質で、気が小さいところがありましたが、人前では明るく社交的にふるまい、職場では周りから好かれていました。

過去に2人目のお子さんを妊娠中に、お葬式で「亡くなった人の顔を触ると、生まれてくる子どもにあざができる」という話を聞いて、それ以来恐怖感を持つようになりました。

さらに、ある年末に夫の弟さんが酔った状態で事故に遭い亡くなり、不安が強くなりました。夫もお酒を飲むことがあり、「夫が死んでしまったら困る、長生きしてほしい」という思いが強くなったのです。

それからは、家族の手相、特に夫の生命線が気になり始め、夫が仕事に出かける前になると「手相を見せて」と引き止めるようになりました。時には30分以上も手相を見ないと落ち着かず、夫に迷惑をかけることに悩んでいました。しかし、自分でも「もうやめたい」と思っても止められず、何度も「もっとシワを寄せて」と注文をつけてしまいました。

夫が「今までお前に苦労をかけた」と言ってお酒をやめてくれたものの、手相を見る症状は改善せず、自分でも「馬鹿らしい」と思いながら止められず、悲しくなって泣いてしまうことがありました。このような状態が続き、精神科を受診しました。

この方は、強迫観念を自分だけで処理できず、強迫行為の際に他人を巻き込んでいます。これが「巻き込み型」です。

タイプの違い

この2つのタイプは子どもの頃から価値観や人との接し方に違いがあると言われています。

自己完結型
  • 子どもの頃から明確な価値観や人生の目標を持っています。
  • その価値観に基づいて行動を選択します(例:進学先や目標設定など)。
  • 強い自我を持ち、人からのアドバイスをあまり受け入れません。
  • 他人との関係も自分の価値観で判断し、共感的な関わりが少ないです。
巻き込み型
  • 明確な価値観や独自の内面世界を持っていないことが多いです。
  • 周囲の人に依存し、その人たちを自分の思い通りに動かそうとします。
  • 自分に自信がなかったり、人と接するのが苦手で、心を開いて関わることができません。

まとめ

このように、強迫神経症を治療する際には、症状だけでなく、その人の生き方や人との接し方も考慮することが大切です。これまでの経験や対人関係が症状に影響していることが多いからです。一人で悩まず、専門家に相談してみましょう。

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

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