うつ病
うつ病
うつ病は「落ち込みが目立つ脳の不調」です。
落ち込みや意欲低下などのうつ症状が続く状態を指します。
主には、脳のセロトニン不足が背景とされ、治療としては休養、薬物療法、精神療法の3本柱が基本です。
一生での罹患率は約6%、女性の方が約1.5倍多く、幅広い年代で発症します。
うつ病を考える場面の例
仕事で昇進し、だんだん負担や責任が重くなる中で、しばらくは気を張って頑張ったものの、徐々に不眠になり、休日も前のように活動せず寝て過ごすことが増え、何事にも興味を持てなくなってきた。
そして、次第に仕事にも集中できなくなり、普段しないようなミスを繰り返し、その中で上司から受診を勧められ、「うつ病」の診断を受けた。
うつ病の症状と診断基準(DSM-5)
- 抑うつ気分 - 悲しみや落ち込みが目立つ。
- 興味の減退 - 前に楽しめたことが楽しめない、活動したくないなど。
- 食欲・体重の減少 - 食欲が減り、続くと体重も減少。過食や体重増加が目立つ場合も。
- 不眠もしくは過眠 - 寝付けない、途中で目が覚める。過眠の方もいます。
- 精神運動制止もしくは焦燥 - 動きが遅くなり、表情が乏しくなる。焦りが目立つ方も。
- 気力の減退・疲労感 - 何も意欲が出ず、疲れやすい状態。
- 無価値感・罪悪感 - 自分が価値がないと思い、自分を責めることが多い。
- 集中力、思考力の減退 - 集中困難、忘れやすさ、ミスが増える。
- 希死念慮 - 繰り返し死を考える。重度になると具体的な計画を考えることも。
上記9つのうち5つ以上(抑うつ気分または興味の減退を含む)が2週間以上続き、社会生活に大きな影響がある場合にうつ病と診断されます。
うつ病のメカニズム
うつ病の原因は完全には解明されていませんが、セロトニン仮説が有名です。
ストレスが続くと脳内のセロトニンが減少し、脳が不調になり、うつ症状が出るとされています。
抗うつ薬はこのモデルに基づき、脳のセロトニンを増やして症状を改善します。
うつ病の治療
うつ病の治療は、休養、薬物療法、精神療法の3本柱です。
休養
ストレスを減らし、なるべく休むことが基本です。
薬物療法
抗うつ薬(SSRI)が主流で、脳のセロトニンを増やします。
精神療法
外来の面接を通じて状態や環境を把握し、必要に応じて助言を行います。
薬物療法
休養のみでも回復することがありますが、回復速度や再燃リスクの面で弱点があります。
薬物療法はこれを補います。主要な薬物は次の通りです。
抗うつ薬
脳内のセロトニンなどの伝達物質の不足を調整し、脳の不調を改善します。
効果の実感までに2-4週間かかります。
抗不安薬
不安を減らし、リラックスを促します。
即効性があり、使用初期の副作用が少ないですが、長期使用では依存や耐性の問題があります。
睡眠薬
睡眠を助ける薬で、抗不安薬と類似しています。
依存の問題がありますが、最近は依存のないタイプもあります。
薬物療法は、短期的には抗不安薬が効果を実感しやすいですが、長期的な回復と再燃予防には抗うつ薬が望ましいことが多いです。
不眠や不安が強い場合は、睡眠薬や抗不安薬の併用を検討します。
うつ病の病期
- 急性期(1-2カ月):落ち込み、不安など各種のうつ症状が目立つ時期。何よりも休養が大事です。
- 回復期(2-6カ月):うつ症状は改善するが、意欲低下が残ることが多い。服薬とリハビリを続けます。
- 再発予防期(1-2年):症状がない「寛解」の状態ですが、再発リスクが残ります。抗うつ薬を続け、慎重に減薬を検討します。
休職から復職までの流れ
うつ病の治療には休職が必要な場合があります。
休職は主に3段階に分けられます。
- 前期(休養期):何よりも休養して頭を休ませることが大事です。過眠は問題ありませんが、考え過ぎや不安はよくないです。
- 中期(リハビリ期):頭を休ませることを土台に、徐々に活動を増やしていきます。「疲れるけど、次の日は休めば大丈夫」といった負荷が目安です。
- 後期(復帰準備期):徐々に仕事に近いことを慣らしつつ、振り返りやストレス対策、会社との相談を行います。「1日8時間、週5日動ける」が復帰の基準です。
サポート制度
傷病手当金
病気で働けない間、収入の約3分の2が保障される制度です。
自立支援医療制度
医療費が3割から1割になる制度です。
就労移行支援
長期間仕事から離れた場合に最大2年間通所し、仕事に備えます。就職相談や就職後のフォローもあります。
参考文献
執筆・監修
精神保健指定医 野口晋宏