メニュー

PMS/PMDD

PMS/月経前不快気分障害 (PMDD)

PMSとPMDDの違い

月経前症候群(PMS)は、多くの女性が月経前に感じる身体的な不快感や気分の変動を指しますが、日常生活に影響を及ぼすほど重い場合を指します。約5〜8%の女性が、この重いPMSの症状を経験しています。この中でも特に症状が強い方は、月経前不快気分障害(PMDD)という診断基準に該当することが多いです。

PMDDは、過去には研究用の診断基準として扱われていましたが、現在では正式に「抑うつ障害」の一種として認識されています。特にPMDDでは、抑うつ症状だけでなく、気分が急に変わりやすくなる「情緒不安定」が大きな特徴です。

PMDDの典型的な症例

30代前半の女性

相談内容

 生理前のだるさやイライラ

生活歴

大学を卒業後、会社員として働いていました。20代後半で結婚し、その後も働いていましたが、6年前に女の子を出産してからは専業主婦になりました。夫と娘の3人暮らしです。

現病歴

大学生の頃から生理前になるとイライラすることを感じていましたが、その時は生活に支障が出るほどではありませんでした。しかし、出産後、特に6ヵ月経った頃から、生理前のイライラが以前よりも悪化していることに気づきました。月経前になると、イライラがどんどん強くなり、さらに身体がだるく感じるようになっていました。昼間でも眠くなり、家事や育児が億劫になり、寝てしまうことも多くなってきました。

月経前の1週間は特に感情が高ぶりやすく、怒りっぽくなり、小さなことで夫と口論したり、娘に対して感情的になってしまうことが増えました。これらの症状は、生理の約10日前から始まり、だんだんとひどくなり、生理前日が一番辛い状態でした。しかし、生理が始まると驚くほど症状が和らぎ、生理3日目には何事もなかったかのように元気に戻るのです。

このような状態が5年以上も続いていましたが、どこに相談すればよいのか分からず、医療機関を受診することができませんでした。そんな時、たまたま読んだ雑誌でPMDDという症状に関する記事を見つけ、その内容が自分にぴったりだと感じて、ようやく受診を決意しました。

症状と診断基準

PMDDの主な症状には以下が含まれます

  • 情緒不安定(例:突然の悲しみ、涙もろさ、過敏性)
  • 怒りやイライラ
  • 抑うつ感または絶望感
  • 不安や緊張
  • 集中力の低下
  • 食欲の変化(過食または食欲減退)
  • 睡眠の問題(不眠または過眠)
  • 身体症状(乳房の痛み、頭痛、関節や筋肉の痛み、体重増加、膨満感)

これらの症状は、月経開始の数日前に発生し、月経開始後数日以内に改善することが特徴です。DSM-5では、これらの症状のうち少なくとも5つが存在し、日常生活に重大な影響を与える場合にPMDDと診断されます。

治療の考え方

PMSやPMDDの原因の一つとして、月経周期の影響で神経伝達物質である「GABA(ガンマ-アミノ酪酸)」の働きが弱まることが考えられています。これにより、気分の変動や神経過敏が生じるため、治療の目標は、この神経の働きを安定させることです。PMDDは、主に脳内の神経の不調が原因とされ、精神科の薬物療法が効果を発揮することが期待されています。

治療方法と薬の選択

PMDDの治療において、まず最初に選ばれる薬は「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)」です。SSRIsは、脳内のセロトニンの働きを高めるだけでなく、GABAの働きを改善し、PMDDの症状を和らげる効果が期待できます。

1.SSRIsの治療効果 

PMDDに対するSSRIsの効果が出る人は約60%と言われており、うつ病に使われる量よりも少ない量で、月経前に使い始めても1〜2日で症状が改善することが多いです。ただし、連続して使用した方が効果が高く、約85〜90%の人で症状が改善します。したがって、特に妊娠を希望していない場合は、連続投与が推奨されます。2回の月経周期で効果が見られなければ、治療を中止することも検討されます。

2.月経時の片頭痛対策

PMSやPMDDに悩む女性の中には、月経に関連した片頭痛も一緒に感じる方がいます。これを「月経片頭痛」と言い、月経が始まる前後に起こることが多いです。片頭痛の予防として、マグネシウムやビタミンB6の摂取が効果的とされています。具体的には、酸化マグネシウム200mgとビタミンB6 50mgの併用が、PMSの症状改善にも役立つことが示されています。

参考文献

精神科治療学 Vol.39 No.3 2024年3月号〈特集〉実地臨床における月経前不快気分障害(PMDD)

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME