強迫性障害
強迫性障害
世間では「綺麗好き」や「潔癖症」という話がよく出てきますが、それだけでは説明できないほどの強すぎる確認行為などが出てくるのが、精神医学でいう強迫性障害です。
強迫性障害を考える場面の例として、感染症予防のニュースが流れる中で、「手を洗わないと人にうつしてしまう」という考えが強まり、手洗いの回数が増えることがあります。
例えば、関係ない時や手洗い中も「手を洗わないといけない」という考えが浮かび、時にはそれが馬鹿げていると分かっていても手洗いの時間がどんどん長くなっていきます。
結果として、1回の手洗いが1時間ほどにもなり、仕事に遅刻したり、肌が荒れてしまうことがあります。
それでも手洗いをやめられないといった方が強迫性障害です。
強迫性障害とは、2つの強迫症状が生活を脅かす疾患です。
1つ目が「強迫観念」、もう1つが「強迫行為(確認行為)」です。
強迫観念
意図せず急に入ってくる考えで、衝動やイメージであることもあります。
本人は意識していないが、馬鹿げていると分かっていても入ってくることが特徴です。
- 確認強迫:鍵を閉め忘れていないか
- 不潔恐怖:手を洗わないと人に移してしまう
- 加害恐怖:人を傷つけたかもしれない
強迫行為(確認行為)
これは強迫観念を打ち消すための行動ですが、しばしばやりすぎてしまうのが特徴です。
- 確認強迫:ドアを繰り返し確認
- 不潔恐怖:手洗いの反復
- 加害恐怖:気になる現場に行き確認
確認行為の悪循環
確認することで一時的には落ち着くが、長期的には悪化します。
強迫観念があり、それを打ち消すために確認をすると、一旦は楽になるが、また不安になり、再度確認するという悪循環が続きます。
生活への影響
- 生活の質の低下:手洗いに1時間かかると、自分の時間がどんどん減る。
- 体への影響:手を洗いすぎて手が荒れる。
- 巻き込み:他の人にも影響を与える。
強迫性障害の疫学
- 多くの方は「ばかげている」と分かっている(病識がある)。
- 約3割の方にチック症状が合併する。
- 発症率は約1%、平均年齢は20歳ほど、10代でなることが多い。
強迫性障害の診断基準
アメリカの診断基準DSM-5に基づきます。
A. 強迫観念と強迫行為のどちらか、または両方があること。
強迫観念
- 繰り返される持続的な考えや衝動、イメージで、不安や苦痛の原因となる。
- 無視や抑えようとしても抑えられず、強迫行為で中和しようとする。
強迫行為
- 繰り返される行動や心の中の行為(祈るなど)で、強迫観念を中和しようとする。
- 不安や苦痛の緩和を目的としているが、過剰で現実的な解決にはならない。
B. 社会生活に影響がある。
C. 他の物質や内科的な病気の原因ではない。
D. 他の精神疾患では説明できない。
強迫性障害のメカニズム
まだ不明な点が多いですが、以下の要素が想定されます。
- 素因とストレス:なりやすさが人によって異なる。ストレスが引き金になることが多い。
- 脳の不調:うつ病と同様のセロトニン不足が示唆されている。
- 確認依存:依存症同様の報酬系の不調が指摘されることがある。
強迫性障害の鑑別疾患(似ている病気)
潔癖症
1.潔癖症
- 強迫性障害:嫌だけど確認、特定の分野に限られる。
- 潔癖症:好きでやっている、全般的。
2.強迫性パーソナリティ障害
- 強迫性障害:侵入思考からの強迫行為。
- 強迫性パーソナリティ障害:完璧主義やこだわり由来。
3.ASD(自閉症スペクトラム障害)
- 強迫性障害:侵入思考からの強迫行為。
- ASD:こだわりや変化への不安からの強迫行為(合併することもある)。
強迫性障害の治療
治療は大きく2つです。
薬物療法
抗うつ薬(SSRI)が第一選択。
効果が出るまでに2から8週かかり、初期の副作用や中止時の離脱症状に注意が必要です。
他の不安障害やうつ病と比べて多くの量が必要で、症状が完全には消えないことが多いです。
曝露反応妨害法
「あえて確認をしない」ことで不安に慣れる脱感作法の一種です。
不安が出ても確認せずに慣れることで、徐々に確認行為が減ります。
治療の流れ
強迫観念があっても確認をしないことで、不安が減り、次の強迫観念も減るという好循環になります。
治療の3段階
- 前期:抗うつ薬を使い、不安を減らす。準備段階としてリラックス法や目標設定を行う。
- 中期:曝露反応妨害法を実施し、確認行為を減らし生活の自由を取り戻す。
- 後期:生活の自由が取り戻せた段階で、薬を慎重に減らす。
まとめ
強迫性障害は、強迫観念と強迫行為が特徴で、生活に大きな影響を与える精神疾患です。
治療は抗うつ薬と曝露反応妨害法が基本で、「不安と共に動く」ことが重要です。
参考文献
執筆・監修
精神保健指定医 野口晋宏