適応障害
適応障害
適応障害は「ストレスに強く反応して起こるうつ状態」を指します。
強いストレスを受ける中で、一度だけ症状が現れる方もいれば、環境が変わっても繰り返す方もおり、対策は異なります。
しかし、共通する対策は「いかにストレスをあふれさせないか」という点です。
適応障害の事例
1. 環境との相性
これまで健康だった方が、異動後に上司から理不尽な要求を繰り返し受けることで、会社を考えると落ち込みを感じるようになり、ある日会社に行こうとすると強い吐き気で出社できなくなりました。
受診した結果「適応障害」と診断され、診断書をもとに異動後、症状が改善し安定しました。
2. 繰り返す場合
幼少期から孤立気味であった方が、就職後1ヶ月で落ち込み、適応障害と診断されました。その後転職しても不調が続き、医師と相談した結果、発達障害が背景にあることが判明しました。
現在は「就労移行支援」に通っています。
適応障害の症状(うつ病とほぼ共通しています)
- 抑うつ気分: 落ち込みやイライラなど。
- 興味の減退: 以前楽しめたことが楽しめなくなる。
- 食欲の減少: ストレス時に食欲が減る。
- 不眠と過眠: ストレスと連動して不眠や過眠が現れる。
- 精神運動制止または焦燥: 制止や焦燥感が目立つ。
- 気力の減退・疲労感: 気力がなくなり、倦怠感が増す。
- 無価値感: ストレス時に自責の念が強まる。
- 集中力・思考力の減退: ミスが増え、判断力が鈍る。
- 希死念慮: ストレス時に強くなり、注意が必要。
適応障害の症状の出方
適応障害の症状は個人差がありますが、以下の3つに分類されます。
- 心の症状: 落ち込み、意欲低下など。
- 体の症状: 吐き気など自律神経症状。
- 行動の変化: イライラやミスの増加など。
適応障害の診断基準(DSM-5)
- ストレスの原因から3か月以内に症状が発生する。
- ストレスに対して「不釣り合いなほど強く出る」か、「社会生活に大きな影響が出るほど出る」。
- 他の原因や死別反応ではない。
- ストレスから離れると6カ月以内に症状が治まる。
注意点
ストレスの要素が強くても、基準を満たせばうつ病と診断されることもあります。
ストレスから離れることが困難な場合もあります。
うつ病との共通点と違い
共通点
症状、ストレスや疲れで悪化し、休養すると良くなる。
大きな違い
うつ病は脳の不調(セロトニン不足)に起因し、適応障害はストレス反応によるものです。
うつ病は休職しても改善が遅く、適応障害はストレスがなくなるとすぐに改善します。
特殊な適応障害
子育てうつ
子育てのストレスに伴う適応障害。サポート不足が背景にあり、関係機関への相談が有効です。
介護うつ
介護のストレスに伴う適応障害。制度利用やケアマネージャーへの相談を活用しましょう。
カサンドラ症候群
ASD配偶者との間のストレスでの適応障害。受け入れが困難なら別居も一案です。
不登校
学校生活への適応障害。環境や本人特性を見極めて対策を講じましょう。
子供の不登校
子供の不登校関連のストレスでの適応障害。現状を受け入れ、できる相談を行いましょう。
適応障害の治療
一番大きいのが「ストレス対策」であり、補助的に「休養」や「薬物療法」が検討されます。
ストレス対策
ストレスは外側の環境とその人の間の相互作用で決まります。
いかにストレスを減らすかがポイントです。
2つのアプローチ
- 環境調整: 環境を変えて外的なストレスを減らす。
- ストレスマネジメント: 外からのストレスを防ぎつつ発散を増やす。
各種のストレスマネジメント
- 考え方・認知の対策: 物事の捉え方を調整し、自分を責めない。
- 行動の対策: 発散法を増やし、疲れを取る対策を行う。
- 対人面の対策: アサーション(自分も相手も大事にして、主張はしっかり行うものの、相手は傷つけない、絶妙なコミュニケーション方法)、関わる相手を選ぶ。
休養
ストレスから離れることが大切です。
ただし、ストレス因に近づいた際に再燃することが予想されるため、他の方法と併用します。
薬物療法
睡眠薬や抗不安薬などを補助的に使用することがあります。
休職をする場合
前期(休養期)
休養に専念します。
中期(リハビリ期)
読書などのある程度好きなことで負担に感じすぎない範囲で徐々に活動を増やします。
後期(復帰準備期)
仕事をする時間に外出して作業を行うなど試しても体調が崩れないことを確認します。
確認後に職場との復帰調整を行います。
異動等の対応が可能か会社によって異なるため相談します。
対応に納得できない場合は転職も検討します。
適応障害を繰り返す時
環境を変えても適応障害を繰り返す場合、内側の背景を探り、対策を講じることが重要です。
業務との相性
ご自身の特性と就職したい業種のミスマッチがある場合、不調を繰り返す可能性があります。
適した業務を見極めましょう。
考え方の癖
自分を責める癖などがストレスを溜める原因となる場合、考え方や行動を見直すことが必要です。
自己肯定感の低さ
自己肯定感が低い状態ではストレスがたまりやすくなります。
小さい成功体験を積み重ね、自己肯定感を改善していきましょう。
発達障害(ADHD/ASD)
発達障害が原因で適応障害を繰り返す場合、特性を理解し対策を講じることが必要です。
ADHDには特性改善の薬もあります。
パーソナリティ障害
持続する認知の歪みが原因で適応障害を繰り返す場合、必要に応じて特性に直面し調整を行うことが対策となります。
まとめ
今回は適応障害について全般的に見てきました。
適応障害はストレスでうつ症状が出る「ストレス反応」であり、脳の不調がないという点でうつ病と異なります。
対策としては休養、環境調整、ストレスマネジメントを行うことが重要です。
参考文献
執筆・監修
精神保健指定医 野口晋宏