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躁うつ病(双極性障害)のイメージ画像

躁うつ病(双極性障害)は、気分が高ぶって活動的になりすぎる「躁状態」「軽躁状態」と、気分が沈み込む「うつ状態」という、2つの極の間を行き来する病気です。名前に「うつ」と付きますが、うつ病とは区別される別の病気で、使う薬も治療の進め方も異なります。最近は「双極症」と呼ばれることもあります。

決してまれな病気ではなく、はっきりした躁状態を伴うⅠ型はおよそ100人に1人弱、軽躁状態にとどまるⅡ型まで含めるとさらに多い(数%に上るという報告もあります)とされています。10代から20代で始まることが多い一方、うつ状態のときにだけ受診するため最初は「うつ病」と診断され、双極性障害と分かるまでに数年かかる方も少なくありません。

気分の波そのものを完全になくすことは難しくても、気分安定薬を中心とした治療と生活リズムの工夫によって波を小さく保ち、仕事や家庭生活を続けていくことは十分期待できます。このページでは、症状のサインから診断・治療・再発予防、利用できる制度までの全体像を整理します。

こんなサイン・症状はありませんか

気分が「上がる」時期には、次のようなサインがみられます。

  • 眠らなくても平気で、睡眠時間が極端に短くなる
  • いつもより多弁になり、話し続けたくなる
  • アイデアが次々に浮かび、自信に満ちあふれる
  • 買い物や契約、投資などにお金を使いすぎる
  • ささいなことで怒りっぽくなる

気分が「下がる」時期には、次のようなサインがみられます。

  • 気分が沈み、何をしても楽しめない
  • 朝起きられない、または眠りすぎてしまう
  • 自分を責める気持ちが強くなる
  • 集中できず、仕事や家事が進まない
  • 消えてしまいたいと感じることがある

こうした「上がる時期」と「下がる時期」が、数日から数か月の単位で入れ替わりながら繰り返されるのが特徴です。あてはまる項目があるからといって、直ちに双極性障害と診断されるわけではありません。気になるサインが続くときに受診を考える目安として参考にしてください。

症状の詳しい説明

躁状態 ― 生活に大きな支障が出る高まり

躁状態では、気分の高揚や開放的な気分(ときに易怒性)に加えて、活動量やエネルギーの高まりがほぼ毎日、1日の大半にわたって続きます。自尊心が肥大して誇大的になる、睡眠欲求が減る、考えが次々に飛ぶ(観念奔逸)、注意がそれやすい、浪費やリスクの高い行動に熱中する、といった症状が代表的です。

浪費や対人トラブルなど、仕事や人間関係に深刻な影響が残ることがあり、症状が強い場合には入院による治療が必要になることもあります。本人は「調子がよい」と感じているため、渦中では病気と気づきにくいのがこの病気の難しさです。

軽躁状態 ― 「絶好調」に見えて気づかれにくい

軽躁状態は、躁状態と同じ種類の変化がより軽い形で、4日以上続く状態です。入院が必要になるほどの支障はなく、むしろ仕事がはかどる時期に見えることもあります。本人にとっては「本来の自分」「最高の状態」と感じられるため、あとから振り返っても病気の一部とは認識しにくく、ご家族でさえ気づかないことが珍しくありません。軽躁が見過ごされやすい理由は、「ただ元気なだけ」かもしれない軽躁で詳しく解説しています。

うつ状態 ― 受診のきっかけになりやすい

抑うつ気分、興味や喜びの喪失、不眠または過眠、疲れやすさ、自分を責める気持ち、集中力の低下、動きが遅くなる、死にたい気持ち(希死念慮)などが現れます。双極性障害では経過の中でうつ状態の期間が長く、特にⅡ型では経過のおよそ半分をうつ状態で過ごしていたという長期研究の報告もあります。つらい気持ちが差し迫っているときは我慢せず、通院中の方は主治医に連絡し、命に関わる緊急時は救急(119)を利用してください。

混合状態と急速交代型

うつと躁の症状が同時に混ざり合う「混合状態」では、気持ちは沈んでいるのに焦りや衝動性が高まるため、特に注意深い診療が必要です。また、1年間に4回以上気分エピソードを繰り返す状態は「急速交代型(ラピッドサイクラー)」と呼ばれ、抗うつ薬の使用が悪化の一因になることがあるとされています。

原因・メカニズム

双極性障害の原因は、まだ完全には解明されていません。脳内の情報伝達の調節や体質的(遺伝的)な要因が関わると考えられており、家族内にみられやすい傾向はあるものの、単一の遺伝子で決まる病気ではありません。性格の弱さや育て方が原因になるものでもありません。

一方、体質という「素因」に、睡眠不足・生活リズムの乱れ・転職や引っ越しなどの環境変化・強いストレスといった「引き金(誘因)」が重なって波が生じやすくなる、という考え方が治療の場では広く使われています。これはあくまで説明のための仮説的な枠組みですが、素因と引き金を分けて考えることは、再発予防の手がかりとして役立ちます。

診断と、似た状態との違い

Ⅰ型とⅡ型の違い

DSM-5(米国精神医学会の診断基準)では、1週間以上続く躁状態(または入院を要する躁状態)が一度でもあれば「双極Ⅰ型障害」、4日以上続く軽躁状態とうつ状態の両方があれば「双極Ⅱ型障害」と診断されます。

Ⅱ型は「軽い双極性障害」ではありません。気分の高まりは穏やかでも、うつ状態で過ごす期間が長く、生活への影響や自殺のリスクはⅠ型に劣らないと考えられています。両者の違いは双極性障害I型とII型はどう違う?で詳しく整理しています。

うつ病との違い ― 最も重要な鑑別

うつ状態だけを見ると、双極性障害とうつ病は区別がつきません。鍵になるのは、過去に躁状態や軽躁状態の時期がなかったかという「これまでの経過」です。軽躁は本人が「好調な時期」としか感じないため、「ハイになったことは?」と聞かれても思い当たらないことが多く、「いつもより活動的で、眠らなくても平気だった時期はありませんか」といった具体的な聞き方や、ご家族からの情報が診断の助けになります。

この区別が重要なのは、治療が異なるからです。双極性障害のうつ状態に抗うつ薬だけで対応すると、改善しにくいばかりか、躁転(気分が上がりすぎること)や気分の不安定化を招くことがあります。「うつ病の治療を続けているのに波が収まらない」という方は、双極性障害2型とうつ病の違いもご覧ください。うつ病そのものについてはうつ病のページで解説しています。

そのほかに区別が必要な状態

  • ADHD(注意欠如・多動症): 多弁・注意散漫など共通点が多い状態です。ADHDの特性は幼少期から続くのに対し、双極性障害の症状は「エピソード」として現れて元に戻る点が手がかりになります。併存することも少なくありません(ADHD(注意欠如・多動症))。
  • 体の病気や薬の影響: 甲状腺機能の異常、ステロイドなどの薬剤で気分の高まりが生じることがあり、血液検査などで確認します。
  • 統合失調症: 幻覚や妄想を伴う激しい躁状態では区別が必要になります(統合失調症)。
  • パーソナリティの特性: 気分の変動が数時間単位で対人関係のきっかけで揺れる場合は、数日以上続く気分エピソードとは区別して考えます。

双極性障害は、正しい診断までに発症から5年以上かかった方が約3分の1に上るという報告もある、診断の難しい病気です。当院では、現在の症状だけでなく、これまでの気分の波の経過を時間をかけてうかがいます。

治療

治療の柱は、薬物療法と、病気とのつきあい方を学ぶ心理教育・生活の工夫です。

薬物療法 ― 気分安定薬が中心

中心になるのは「気分安定薬」です。代表的なリチウム(炭酸リチウム)は最も研究の歴史が長く、再発予防効果のエビデンスが豊富で、自殺予防効果も報告されています。効果と安全の幅が狭い薬のため、定期的な血液検査で血中濃度を確認しながら使い、脱水や一部の鎮痛薬(NSAIDs)との飲み合わせに注意が必要です。詳しくはリチウムを飲むときに知っておきたいことをご覧ください。

そのほか、バルプロ酸やカルバマゼピン、うつ状態の予防を得意としⅡ型でよく使われるラモトリギンなどの気分安定薬、躁状態への効果が早い非定型抗精神病薬(オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピンなど)を、状態と経過に合わせて使い分けます。躁状態が強い場合は気分安定薬と抗精神病薬の併用が基本になります。

抗うつ薬は、双極性障害では単独で使わないのが原則です。使う場合も気分安定薬と併用したうえで短期間にとどめることが望ましいとされています。

精神療法・心理教育

病気の性質・薬の役割・再発のサインを本人とご家族が学ぶ「心理教育」には、再発予防効果が示されています。特に大切なのは、「眠らなくても平気になってきた」「口数が増えた」など、自分に現れやすい再発の早期サインをあらかじめリスト化し、対処法をご家族や主治医と共有しておくことです。心理教育で学ぶ内容は双極性障害の「心理教育」とはで紹介しています。

生活・セルフケア

睡眠・覚醒リズムの乱れは気分の波の引き金になりやすいため、起きる時間と寝る時間をなるべく毎日そろえることが基本です。気分・睡眠・活動量を簡単に記録する「ライフチャート」をつけると、自分では気づきにくい波の前ぶれが見えやすくなり、診察での大切な資料にもなります。始め方は気分の波を記録しようにまとめています。飲酒は気分を不安定にしやすいため控えめが安心です。楽しみをすべて我慢する必要はありません。生活の工夫は、無理せず主治医と相談しながら取り入れていきましょう。

経過と再発予防

双極性障害は再発しやすい病気です。治療を続けていても、1年で4割程度、5年で7割程度の方が何らかの再発を経験したという海外の研究報告もあり、「症状が消えたら終わり」ではなく、波を予防し続ける維持療法が治療の中心になります。

調子がよくなると「もう薬はいらないのでは」と感じるのは自然なことですが、自己判断での減薬・中止は再発の最も大きな要因のひとつです。治療が進むと、軽いうつ寄りの状態で安定することもあり、もの足りなさを感じるかもしれません。その気持ちも含めて主治医に相談しながら、続けられる治療の形を一緒に探していくことが大切です。症状が落ち着いても薬を続ける理由は、双極性障害の維持療法と再発予防で詳しく説明しています。

再発を完全にゼロにできなくても、早期サインの共有と生活リズムの安定によって、波を小さく・短くしていくことは十分期待できます。

仕事・生活への影響と使える制度

うつ状態で仕事を続けるのが難しいときは、無理を重ねる前に休職も選択肢になります。手続きや過ごし方は休職についてを、休職中の収入を支える制度は傷病手当金についてをご覧ください。通院や薬の自己負担を軽くする自立支援医療制度については、双極性障害のように治療を続ける病気で特に役立ちます。

一方、軽躁の時期には、退職・起業・高額な契約といった大きな決断をしたくなることがあります。あとから後悔につながりやすいため、重要な決断は気分が安定している時期まで先延ばしにするのが安全です。働き方との両立については双極性障害2型と仕事・休職で整理しています。

ご家族には、責めたり説得したりするよりも、睡眠や活動の変化に気づいたことを穏やかに伝え、記録や受診を支えていただくことが大きな助けになります。

受診の目安と当院での診かた

次のようなときは、一度ご相談ください。

  • 気分の落ち込みが2週間以上続いている
  • 眠らなくても平気なほど活動的な時期と、動けない時期を繰り返している
  • うつ病の治療を続けているのに、気分の波が収まらない
  • ご家族から「別人のように元気すぎる時期がある」と言われたことがある

当院では、現在の症状に加えて、これまでの気分の波の経過・睡眠の変化・ご家族から見た様子などを丁寧にうかがい、Ⅰ型・Ⅱ型・うつ病などの見極めを大切にしながら診療します。気分や睡眠のメモがあればぜひお持ちください。ご本人の同意のもとで、ご家族に同席いただくことも歓迎しています。受診の流れは初めての方へをご覧ください。

なお、死にたい気持ちが差し迫っているなど緊急のときは、通院中の方は主治医(医療機関)に連絡し、命に関わる状況では救急(119)を利用してください。

参考文献

よくある質問

躁うつ病(双極性障害)は治りますか?

気分の波を完全になくすことは難しい場合もありますが、薬物療法と生活の工夫で波を小さく保ち、仕事や家庭生活を続けている方は多くいらっしゃいます。再発しやすい病気のため、症状が落ち着いてからも治療を続けることが安定への近道と考えられています。

うつ病とはどう違うのですか?

うつ状態だけが現れるのがうつ病で、うつ状態に加えて躁状態や軽躁状態の時期があるのが双極性障害です。使う薬が異なり、双極性障害に抗うつ薬だけで対応すると気分がかえって不安定になることがあるため、両者の区別はとても重要です。

調子がよくなったら薬をやめてもいいですか?

自己判断で中止すると再発の危険が高くなることが知られています。減らせるかどうかは経過によって異なりますので、やめたい気持ちがあることも含めて主治医にご相談ください。

軽躁状態かどうか、自分で気づけますか?

本人には調子がよい時期と感じられるため、自分では気づきにくいのが特徴です。睡眠時間が短くても平気だった時期がなかったかを振り返り、ご家族など周囲の気づきや日々の記録を手がかりにすると、診察で伝えやすくなります。

家族が双極性障害かもしれないとき、どう接すればよいですか?

責めたり議論したりするよりも、睡眠や活動の変化に気づいたことを落ち着いて伝え、受診や通院を支えていただくことが役立ちます。ご本人の同意があれば診察に同席し、普段の様子を教えていただくことも診断の助けになります。

この病気で使われることのあるお薬

治療で使われることのある代表的なお薬です。実際にどのお薬を使うか(使わない場合も含めて)は、診察のうえで医師が一人ひとりに合わせて判断します。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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