「4時間寝たから十分」と言って、朝から活動しています。新しい仕事の計画が次々と出てきて、深夜にもメッセージが届きます。
本人は楽しそうです。仕事もはかどっていると言います。
家族としては元気になってうれしい反面、少し気になります。普段はこんなに活動的な人ではなかったからです。
「最近、ちょっと無理してない?」と聞いても、「全然。むしろ今が絶好調だよ」と返ってきます。
こんなとき、家族はどう考えればよいのでしょうか。
双極性障害2型の軽躁状態では、本人が自分の変化を「調子が良い」と感じていることがあります。周囲が心配していても、本人には問題があるように思えないのです。
もちろん、活動的になったからといって双極性障害2型とは限りません。気になるのは、普段のその人とは違う状態が続き、その前後にも気分や生活の変化が見られる場合です。
うつで受診した人の「元気だった時期」を聞く理由
双極性障害2型について、少し意外な研究があります。
双極性障害2型の患者86人を平均13.4年間追跡し、週ごとにどのような状態だったかを調べた研究です。
その結果、観察期間の約5割をうつ症状のある状態が占めていました。正常な気分で過ごしていた期間は5割弱で、軽躁状態や混合状態の期間はわずかでした。
これは一つの研究における集団の結果であり、すべての患者さんが同じ割合で過ごすという意味ではありません。それでも、双極性障害2型では軽躁よりもうつの時期が目立つことをよく表しています。
本人が医療機関を受診するのも、多くは落ち込んで困っているときです。
「仕事が手につかない」「何もする気になれない」と相談することはあっても、以前の「眠らなくても平気で仕事ができた時期」については、本人から話が出てこないことがあります。
軽躁状態は本人にとって心地よく感じられる場合があり、その最中に治療を求めることは少ないとされています。
双極性障害2型はうつ症状から始まることが多く、最初はうつ病と診断されることも珍しくありません。うつ病と診断された人の中から、後になって双極性の要素が見つかる例も複数の研究で報告されています。
ここで家族の記憶が役に立ちます。
「あの頃は夜中まで仕事をしていたのに、朝から元気でした」
「突然いくつも予定を入れて、そのあと長く落ち込んでいました」
本人が忘れていたり、特に問題とは思っていなかったりする時期を、家族は覚えていることがあります。
診察で知りたいのは落ち込んでいる今の様子だけではなく、これまでにどんな気分の波があったかという経過です。
うつ病と双極性障害の見分けにくさは、双極性障害2型とうつ病の違いでも説明しています。
「4時間寝れば十分」は、いつものその人ですか
軽躁状態のサインは、一つずつ見ると病気とは思えないものばかりです。
仕事がはかどることも、新しい趣味を始めることも、普段よりよく話すこともあります。
それだけで問題とはいえません。
見ておきたいのは、以前の本人と比べて明らかに違う変化が、数日以上続いているかどうかです。
睡眠が短いのに、疲れた様子がありません
例えば、次のような変化です。
- 以前より明らかに睡眠時間が短くなりました。
- 夜遅くまで活動しているのに、翌日も元気そうです。
- 「全然眠くない」「4時間も寝たから十分」と話す時期があります。
単に夜更かしをしているのとは、少し様子が違うかもしれません。
家族が気づくのは睡眠時間の短さそのものより、あまり寝ていないのに疲れていないように見えることです。
会話の勢いが変わります
以前より早口になり、話す量が増えることがあります。
一つの話が終わらないうちに次の話題へ移ったり、会話がなかなか止まらなかったりします。
深夜や早朝にメッセージが届くようになることもあります。
普段からおしゃべりな人もいます。家族だからこそ気づけるのは、その人にしては話す勢いが強いという違いです。
予定と買い物が増えます
急に新しい趣味や仕事を始めたり、いくつもの計画を同時に進めたりします。
- スケジュールが急に予定で埋まります。
- ネットショッピングや衝動的な買い物が増えます。
- 大きな買い物や契約を突然決めようとします。
- 人付き合いが急に活発になります。
新しいことに挑戦するのは、もちろん悪いことではありません。
ただ、普段なら時間をかけて考えるような決断を次々と行い、あとから困ったことになっていないかは見ておきたいところです。
自信やイライラが目立ちます
「自分なら何でもできる」と自信に満ちた発言が増えることがあります。
一方で、周囲が心配して声をかけると、些細なことで怒ったり、強く反発したりする場合もあります。
軽躁状態は必ずしも機嫌よく過ごしている状態ではありません。イライラや怒りっぽさが目立つこともあります。
そして家族にとって気になるのが、そのあとです。
あれほど活動的だった人が急に落ち込み、家にこもるようになることがあります。
「あのとき、なんであんなことをしたんだろう」と、以前の言動や買い物を後悔することもあります。
元気な時期だけを切り取ると、問題には見えないかもしれません。前後の経過を合わせて見ると、別の様子が見えてくることがあります。
落ち込んでいるのに、妙に活動的なこともあります
双極性障害2型では、落ち込んでいる時期にも家族が戸惑うような変化が見られることがあります。
例えば、数日単位で元気になったり落ち込んだりします。ときには一日のうちでも、明るい様子と落ち込みが入れ替わるように見えます。
場面による違いが目立つこともあります。
職場ではひどくつらそうなのに、帰宅後や休日には元気そうです。仕事は難しいと言いながら、趣味には熱心に取り組めます。
あるいは、落ち込んでいるはずなのに、じっとしていられず動き回っています。イライラと落ち込みが同時に見られることもあります。
こうした様子は周囲から理解されにくいものです。
「仕事は嫌なのに、遊ぶ元気はあるんだ」
「さっきまで元気だったのに、また落ち込んでいる」
そんなふうに受け取られることもあるでしょう。
しかし、場面によって元気さが違うことや、気分が短い間隔で変わることだけで、本人の気持ちや病名を決めつけることはできません。
双極性障害2型に特有の変化と断定できるものでもありませんが、経過を理解する手がかりにはなります。
すでにうつ病として治療を受けている場合も、次のような情報は主治医に伝える価値があります。
- 治療を続けているのに、短い周期で良くなったり悪くなったりしています。
- 薬を飲み始めてから、かえって落ち着かなくなったり、ハイになったように見えたりした時期があります。
- 治療が始まる前に、眠らなくても平気なほど活動的だった時期があります。
薬による変化なのか、病気の経過なのかも含め、診断や治療方針は主治医が判断します。
家族が無理に結論を出すより、「いつから、どのように変わったのか」を伝えるほうが診察に役立ちます。
出来事と気分の波を、同じ時間の流れに並べます
家族が見てきた変化を診察で伝えようとしても、いざ聞かれると時期が思い出せないものです。
「去年だったと思います」
「仕事を変えた頃だったような気がします」
そんなときは、気分の変化と生活上の出来事を一緒に書き出してみると、経過を整理しやすくなります。
専門書では、縦軸に気分の高低、横軸に時間を置いて過去の経過を図にする「ライフチャート」という方法が紹介されています。
家族のメモも、この考え方を参考にできます。
例えば、次のような情報です。
| 時期・項目 | 記録しておくこと |
|---|---|
| 睡眠 | 何時に寝て起きていたか。短い睡眠でも元気だったのはいつか |
| 話し方 | 早口、多弁、夜中の連絡などが増えた時期 |
| 行動 | 新しい計画、約束、買い物、支出が増えた時期と具体的な出来事 |
| 気分 | 自信に満ちた発言、イライラ、落ち込みが目立った時期 |
| 気分の波 | 活動的な時期と落ち込む時期が、どのくらいの間隔で現れたか |
| 生活の出来事 | 転職、転居、受験、旅行、重要な別れ、薬の変更など |
過去に転職や転居などを繰り返している場合も、その時期の睡眠や活動量、あとから落ち込む期間があったかを振り返ると参考になることがあります。
転職や旅行そのものが病気を意味するわけではありません。出来事が気分の波に影響した可能性を考えるために、前後の関係を整理します。
最初から詳しい表を作る必要はありません。
「4月頃から夜中まで起きていたのに元気でした」
「新しい仕事をいくつも始めたあと、落ち込む時期がありました」
この程度の記録でも診察の手がかりになります。
気になる変化があったときに短く残しておくと、あとから何か月分も思い出す負担が減ります。
受診前に整理したい項目は、双極性障害2型の受診前チェックリストにもまとめています。仕事や休職については双極性障害2型と仕事・休職が参考になります。
「病気じゃない?」で話が止まるなら
家族が心配しているのに、本人にはその心配が伝わらないことがあります。
本人は仕事がはかどり、気分も良いと感じています。それなのに突然「病気かもしれない」と言われたら、反発したくなることもあるでしょう。
軽躁状態では「自分は大丈夫」という確信が強くなりやすく、すぐに受診に同意してもらえない場合もあります。
そこで、最初から病名について意見を一致させようとする必要はありません。
「最近、眠れてる? ちょっと心配で」
「この3日間、ほとんど寝ていないみたいで気になってる」
「最近、予定がずいぶん増えたけど、疲れてない?」
そんなふうに、家族が実際に見たことから話してみます。
「あなたがおかしい」と評価するより、「私はこういう変化が気になっている」と伝えるほうが、話の入り口を作りやすくなります。
もう一つ、考えたいことがあります。
本人が病気という説明を受け入れにくいときには、本人がこれからどう暮らしたいのか、何を続けたいのかという話から始める方法もあります。
例えば、仕事を続けたいと考えている人なら、そのために今の生活で困っていることはないかを一緒に考えます。
大きな計画を実現したいと思っているなら、今の活動量や睡眠の状態で無理が生じていないかを話題にすることもできます。
本人にとって大切な目標を入り口にすれば、病名の理解が一致していなくても、生活上の困りごとについて話せる場合があります。
一方、次のような言い方は避けたいところです。
- 「あなたは病気だ」と決めつけます。
- 「また張り切って、どうせすぐ落ち込むんでしょ」と責めます。
- 「なんでわかってくれないの」と感情的に詰め寄ります。
- 「受診しないなら出ていけ」と脅したり、本人の意思を無視して予約を取り、強引に連れていこうとしたりします。
イライラや怒りが強いときは正面から議論せず、短く穏やかに伝え、必要なら距離を置いてください。
一度の会話で結論を出そうとせず、また話せる機会を残しておくことも大切です。
大きな買い物や契約を突然決めようとしている場合には、「少し待ってから決めない?」と穏やかに提案する方法があります。
すでに家計や生活に実害が出ている場合は、早めに医療機関へ相談し、必要に応じて法律や生活相談の専門家にも相談してください。
心配しているうちに、見張るようになっていませんか
ここまで、家族が変化に気づくことの大切さを書いてきました。
ただ、気をつけたいことが一つあります。
双極性障害について知識が増えると、今度は普通の気分の変化まで心配になることがあるのです。
今日はいつもより楽しそうだから「また上がっているのでは」。
少し元気がないと「今度は落ち込んでいるのでは」。
心配するあまり、本人の言動を一つひとつ確認したくなるかもしれません。
専門書でも、家族が必要以上に症状を警戒し、普段の行動まで病気のサインとして指摘することへの注意が述べられています。過度な管理や批判が本人の反発を招き、再発にも悪影響を及ぼしかねないとされています。
健康な人にも気分の浮き沈みはあります。双極性障害があるからといって、喜んだり落ち込んだりするたびに再発を心配する必要はありません。
では、どこまで見守ればよいのでしょうか。
一つの方法は、本人と一緒に、その人特有の「調子が変わり始めるサイン」を決めておくことです。
一般的な症状一覧より、過去の本人に実際に起きた変化を参考にします。
例えば、以前の調子が高くなった時期を振り返って、次のような順序が見つかったとします。
- 最初は睡眠時間が短くなりました。
- その後、新しい予定や計画が急に増えました。
- さらに、大きな買い物を突然決めようとしました。
これはあくまで一例です。実際の変化や順序は、その人の過去の経過から考えます。
そのうえで、どの段階で本人が生活を見直すか、家族はどんな声をかけるか、いつ主治医に相談するかを話し合っておきます。
前もって対応を決めておけば、家族がその都度「病気ではないか」と指摘する場面を減らせるかもしれません。
本人の気分、考え方、行動だけでなく、周囲の人との関係や、家族からどう見えていたかも参考になります。
大切なのは本人を家族の管理下に置くことではなく、調子が変わったときの対応を本人と共有しておくことです。
調子を安定させることは、楽しみを禁止することではありません
治療が始まってからも、家族ができることはあります。
双極性障害では睡眠不足や生活リズムの乱れが気分の波の引き金になることが知られており、睡眠と気分のリズムを記録することが重視されています。
日本うつ病学会のホームページでは「睡眠・覚醒リズム表」が無料公開されています。毎日の睡眠や覚醒の様子を記入し、診察に持参すると、気分の波を把握する参考になります。
記録するのは基本的に本人です。
家族は本人が続けやすいよう、時々「最近、記録はつけられてる?」と声をかけたり、生活リズムを一緒に整えたりできます。
就寝・起床の時間をなるべく一定に保ち、食事や休息も含めて無理の少ない生活を考えていきます。
ただ、生活リズムを守るという話が、楽しみをすべて禁止することになってしまうのも考えものです。
旅行や人と会う予定が続いたり、十分な休息を取れなかったりすることが、気分の波に影響する場合があります。
だからといって、趣味も旅行も人付き合いもやめるということではありません。
楽しみを残しながら、睡眠や休息とのバランスを考えることが大切です。
また、治療中に軽躁の波が再び見られることもあります。
睡眠が短くなり、急に活動的になったときには、以前に本人と確認したサインに当てはまるかを振り返り、「最近少しペースが速い気がするから、次の診察で先生に話してみたら」と伝える方法もあります。
双極性障害は再発しやすい病気で、症状が落ち着いたあとも再発予防のために治療を続けることが大切とされています。
調子が良くなると「もう通院しなくていいのでは」と感じることもあります。しかし、自己判断で服薬や通院を中断すると、気分の波がぶり返すことがあります。
本人が治療をやめたいと思ったときは、その気持ちも含めて、中断する前に主治医と相談することが大切です。
家族の生活も、病気だけで埋めないために
軽躁の時期には本人の活動の勢いに振り回され、落ち込む時期には心配が続きます。
家族が疲れてしまうのも無理はありません。
ただ、家族がすべてを管理し、解決しようとすると、支える側の生活も少しずつ苦しくなってしまいます。
「自分はいま、相手の勢いに圧倒されているな」と気づくだけでも、少し距離を取って考えるきっかけになります。
家族自身の睡眠や仕事、楽しみの時間も大切にしてください。心身の不調が続く場合には、家族自身が医療機関を受診することも考えてよいでしょう。
春日メンタルクリニックでは、患者さんご本人が来院し、同意されている場合にはご家族も診察に同席できます。ご本人のことをご家族だけで相談する形はお受けしていませんが、支える方がご自身の不調について受診することは別です。
本人がまだ受診できない場合は、公的な相談先や受診予定の医療機関に問い合わせる方法もあります。
家族が双極性障害2型かどうかを判断する必要はありません。それは医師が診察のなかで考えることです。
家族には、医師が知らない本人の日常が見えています。
「あの頃は本当に元気だった」
「でも、そのあと長く落ち込んでいた」
「最近、またあの頃と似た様子になってきた」
そんな記憶を本人と共有できれば、これまでの経過を理解する手がかりになります。
そして、病気のことを知ったあとも、本人が楽しそうにしている時間まで疑わずに過ごせる関係を大切にしたいものです。
参考にした資料
(要約・再構成。原文の転載ではありません)
- 北川信樹「双極性障害の心理教育のやり方・気をつけること」『精神科治療学』第36巻5号 特集「双極性障害診療を極める」、星和書店、2021年。
- 寺尾岳『双極性障害の診かたと治しかた ― 科学的根拠に基づく入門書』、星和書店、刊行年不明。
よくある質問
元気な日が数日続いたら、双極性障害2型を疑うべきですか
元気な日が数日あったというだけでは判断できません。睡眠が短いのに疲れた様子がない、普段より多弁になるなど、いつもの本人との違いや、その前後の経過を見ます。軽躁状態かどうか、双極性障害2型に当てはまるかは専門医が判断します。
うつ病と診断されている家族の、昔の元気な時期も伝えたほうがよいですか
診断前に眠らなくても平気なほど活動的だった時期や、治療を始めてから落ち着かなくなった時期は、主治医が経過を考える際の参考になります。いつ頃、睡眠や行動がどう変わったかを本人と共有し、主治医に伝えてもらうことを検討してください。うつ病との見分けにくさは「双極性障害2型とうつ病の違い」でも説明しています。
家族が変化を指摘すると、本人が怒ってしまいます。どうすればよいですか
本人が調子の良さを感じているときは、家族の心配を理解してもらえないことがあります。怒りが強いときは議論を続けず、いったん距離を置く方法もあります。落ち着いているときに、どのような変化なら声をかけてほしいかを本人と話し合っておくと、過剰な指摘を避けやすくなります。
生活リズムを守るために、旅行や趣味を控えたほうがよいですか
生活を安定させることは、楽しみをすべて禁止することではありません。旅行や予定が続く時期には、睡眠や休息の取り方、その前後の気分の変化を振り返ることが役立ちます。本人と相談しながら、楽しみと休息のバランスを考えていきます。