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はじめに

「双極性障害と言われたけれど、I型とII型があるらしい。自分はどちらで、何が違うのだろう」——そんな疑問を抱えて、この記事にたどり着いた方も多いのではないでしょうか。同じ病名なのに型が分かれていると、「II型のほうが軽いということ?」「自分は重いほうなのか」と、よけいに不安になってしまうこともあると思います。

そう感じているのは、あなただけではありません。I型とII型の違いは患者さんにとって分かりにくく、医師でさえ見分けに慎重さを求められる部分です。決して、あなたの理解力の問題ではありません。

この記事では、I型とII型を並べて見比べながら、両者を分ける一番のポイントである「躁(そう)」と「軽躁(けいそう)」というエネルギーのレベルの差を中心に解説します。見逃されやすさの違いや、受診のときに医師へ伝えるとよいことまで整理します。読み終えたとき、ご自身の状態を医師と話し合う手がかりが少しでも増えれば幸いです。なお、最終的な診断は経過を含めて医師が行います。

一番の違いは「気分が高まる時期の強さ」です

双極性障害は、気分や活動のエネルギーが下がる「抑うつ」の時期と、反対に高まる時期とを行き来する病気です。I型とII型を分ける最大のポイントは、この「高まる時期」がどれくらい強いか、という点にあります。

  • I型:「躁(そう)」と呼ばれる、はっきりと強い高まりが現れることがあります。気分が高揚し、活動量や活力が普段とは明らかに違うレベルまで上がり、ときに入院が必要になったり、仕事やお金、人間関係で大きなトラブルにつながったりすることがあります。
  • II型:「軽躁(けいそう)」と呼ばれる、I型ほど激しくない高まりにとどまります。普段より元気で調子がよく、頭が冴(さ)えて仕事がはかどる——本人はむしろ「絶好調」「いい時期だった」と感じやすいのが特徴です。

ここで大切なのは、II型の軽躁は本人にとって「快適な時期」に感じられやすいということです。そのため、これが治療の必要な症状だとは思わず、医療機関でも語られないまま過ぎてしまうことが少なくありません。

診断の決まり方をひとつだけ補足します。少なくとも一度でも強い躁の時期があればI型と診断されます。一方、軽躁の時期と抑うつの時期がそろってみられる場合にII型と診断されます。いずれの判断も医師が行います。

躁と軽躁の「定義の差」を知っておくと分かりやすい

なぜ同じ「気分が高まる時期」なのに型が分かれるのか。背景には、診断基準のうえでの「躁病エピソード」と「軽躁病エピソード」の定義の差があります。エピソードとは、症状がまとまって続く一時期のことです。

国際的に使われる診断基準では、両者はおおむね次のように区別されます。

  • 続く期間:軽躁のほうが短い期間で当てはまり、躁のほうはより長く続くことが目安とされています。
  • 重症度・生活への影響:躁では、社会生活や仕事に著しい支障が出る、あるいは入院が必要になるほど強い状態にまで至ります。軽躁は、周囲が「いつもと違う」と気づく程度の変化はあっても、入院が必要なレベルまでは至りません。

つまり、症状の種類そのものが違うというより、「どこまで強く出るか」「生活をどこまで揺るがすか」というレベルの違いで線が引かれている、と考えると整理しやすくなります。激しさが一定のラインを越えると躁(I型)、越えなければ軽躁(II型)、というイメージです。この区別は専門的な判断を要するため、ご自身で当てはめる必要はありません。

II型は「うつの時期」をきっかけに受診しやすい

I型とII型のもうひとつの大きな違いは、抑うつで過ごす期間の長さと、受診のきっかけです。双極性障害では、経過を長く追うと、気分が高まる時期よりも抑うつの時期のほうが長く占めることが知られています。とくにII型では、その傾向がさらに強いと報告されています。気分が高まる時期は短く穏やかで、抑うつの時期のほうが目立ちやすいのです。

このため、II型の方の多くは、軽躁ではなく「うつのつらさ」をきっかけに医療機関を受診します。診察室では落ち込みが話題の中心になり、過去の軽躁の時期は「ただ調子がよかった頃」として語られないままになりがちです。その結果、軽躁が見逃され、うつ病として治療が続けられているケースも少なくありません。

ここに、I型との見つかりやすさの差が生まれます。I型の躁は入院に至るほど目立つことがあるため、本人や家族から情報が得られやすく、見過ごされにくい傾向があります。一方、II型の軽躁は穏やかで本人も好調と感じるため、医師が意識して尋ねないと表に出てきにくいのです。

「軽い型」ではありません——つらさやリスクは同じように重い

ここまで読むと、「II型は高まり方が穏やかなのだから、軽い病気なのでは」と感じるかもしれません。けれども、ここはとくに誤解されやすいところです。

報告によれば、自殺のリスクの高さ、ほかの心の不調を併せ持ちやすさ、生活のしづらさといった点では、II型はI型に劣らず重いとされています。気分が高まる時期が穏やかであることと、病気全体のつらさや負担とは、別の話なのです。

ですから、「II型だから安心」「I型だから深刻」という単純な順位づけはあてはまりません。どちらの型でも適切な治療とサポートが大切である点は変わりません。つらいときに「自分は軽いほうだから」と我慢しすぎる必要はないのです。

年齢とともに現れ方が変わることもあります

型は一度決まったら一生変わらない、というものでもありません。たとえば、若い頃に強い躁がみられてI型と診断された方でも、高齢になるにつれて激しい躁は目立たなくなり、軽躁や抑うつが中心の、II型に近い経過をたどりやすくなることが報告されています。実際に、高齢の年代では若い年代に比べてII型の割合が高くなるという調査もあります。

これは、これまでの診断が間違っていたという意味ではありません。年齢とともに症状の出方が移り変わっていくのは自然なことです。だからこそ、長く付き合っていくうえでは、その時々の状態を医師と一緒に確認し続けることが大切になります。

受診のときに伝えたい「一番元気だった時期」のこと

型によって、薬の選び方や治療で気をつける点は変わってきます。そして、その型を見極める大きな手がかりになるのが、過去に「一番元気で活動的だった時期」がどんな様子だったかという情報です。うつのつらさで受診すると今の落ち込みが話の中心になりがちですが、医師は過去の高まりの時期を知ることで治療の方向性をより的確に判断できます。次のような点を思い出して、伝えてみてください。

  • これまでで一番、調子がよく活動的だった時期はいつ頃で、どれくらい続いたか
  • その時期、睡眠が短くても平気だったり、いつも以上に仕事や予定をこなせたりしたか
  • 周りの人から「いつもと違う」「元気すぎる」と言われたことはなかったか

ご本人は好調な時期を「ふつう」と感じていることが多いため、ご家族など身近な方の視点が役立つこともあります。可能であれば、一緒に振り返ってもらえると、より正確に伝わります。診断は、こうした情報をもとに医師が総合的に行います。

受診の目安

以下に当てはまる方は、一度ご相談いただくことをおすすめします。

  • うつの治療を続けているが、なかなか良くならない、または良くなったり崩れたりを繰り返している
  • 過去に、いつもより極端に元気で活動的だった時期があった
  • 短い睡眠でも平気で動けたり、次々とアイデアが浮かんだりした時期があったと、自分や家族が感じている
  • 周囲から「あの頃は人が変わったようだった」と言われたことがある
  • 気分の波で生活や仕事、人間関係に支障が出ている、または将来が不安になっている

これらは双極性障害かどうかを自分で決めるためのものではなく、医師と話し合うきっかけとしてお使いください。診断は医師が行います。

まとめ

I型とII型を分ける一番のポイントは、気分が高まる時期が、入院に至りうる激しい躁(I型)か、本人が好調と感じやすい軽躁(II型)か、というレベルの差です。II型は軽躁が見逃されやすく、うつのつらさをきっかけに受診することが多いという特徴があります。けれども、つらさや自殺のリスクといった点では両者に大きな差はなく、「軽い型」という見方はあてはまりません。型を見極める鍵は「一番元気だった時期」の情報です。気になることがあれば、ひとりで抱え込まず、医師と一緒に整理していきましょう。適切に向き合えば、波とうまく付き合いながら生活を続けていくことは十分に可能です。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 双極性障害診療を極める2021(精神科治療学)
  • 気分症群

よくある質問

双極性障害のI型とII型は、どこが一番違うのですか?

気分が高まる時期の「強さ」が大きな違いです。I型は入院や社会的なトラブルにつながりうるほど激しい躁(そう)が現れることがあり、II型はそこまで至らない軽躁(けいそう)にとどまります。診断は経過を含めて医師が行います。

II型はI型より軽い病気なのでしょうか?

「軽い病気」とは言いきれません。気分が高まる時期は穏やかでも、II型は抑うつで過ごす期間が長くなりやすく、つらさや生活への影響、自殺のリスクはI型と同じように高いと考えられています。型の違いは重さの順位ではありません。

自分はI型かII型か、どうすれば分かりますか?

ご自身で判断する必要はありません。これまでで一番元気で活動的だった時期の様子を、できれば家族にも確認しながら医師に伝えてください。その情報をもとに医師が総合的に診断します。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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