はじめに
「昨日は7時間寝たのに、朝から体が重い」「時間は足りているはずなのに、疲れがとれた気がしない」――そんな経験はありませんか。
私たちは睡眠について、つい「何時間眠れたか」という時間の長さばかりを気にしがちです。しかし近年、それと同じくらい大切なものさしとして注目されているのが「睡眠休養感(すいみんきゅうようかん)」です。これは、朝目覚めたときに「眠って休養がとれた」と感じられる感覚のことで、厚生労働省が令和6年に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、睡眠時間の確保と並ぶ大きな柱として位置づけられました。
この記事では、この睡眠ガイド2023の内容をもとに、睡眠休養感とはどんな指標なのか、なぜ大切なのか、そしてどうすれば高めていけるのかを、患者さん向けにやさしく整理します。なお、睡眠の状態には個人差が大きく、診断や治療方針の判断は医師が一人ひとりの状態をみて行いますので、あくまで全体像として読んでいただければと思います。
睡眠休養感とは ―睡眠の「質」を映すものさし
睡眠時間が睡眠の「量」を反映する指標だとすれば、睡眠休養感は睡眠の「質」を反映する指標です。特別な機械で測るものではなく、朝目覚めたときの「眠って休めた」という自分自身の感覚が、そのまま良い睡眠の目安になる、という考え方です。
なぜ感覚が指標になるのでしょうか。実は、必要な睡眠時間には大きな個人差があります。ガイドによれば、成人ではおおよそ6〜8時間が適正な睡眠時間の目安とされますが、6時間未満で足りる人もいれば、8時間以上を必要とする人もいます。さらに、夜に実際に眠ることができる時間は加齢とともに自然に短くなっていくことも知られています。つまり「万人共通の正解の時間」はないのです。そこで、自分にとって睡眠が足りているかどうかを知る手がかりとして、朝の睡眠休養感が役に立ちます。
もうひとつ大切なのは、自分で感じている睡眠時間はあまり正確ではないかもしれない、という点です。自覚的な睡眠時間は「寝床にいた時間」を反映しやすく、実際に眠っていた時間とはずれることがあると指摘されています。「何時間寝たか」の記憶よりも、「休めた感じがあるか」のほうが、体の状態を素直に映してくれることがあるのです。
なぜ大切か ―睡眠休養感と心身の健康
睡眠休養感の低下は、体とこころの両方の健康と関わることがわかってきています。
体の面では、日本での追跡調査で、睡眠休養感の高さが心筋梗塞・狭心症・心不全といった心血管疾患の発症率の低下と関連することが示されています。また、睡眠休養感の低下は肥満や糖尿病、脂質異常症などの代謝の問題や、高血圧の発症とも関連することが報告されています。
こころの面でも同様です。米国の調査では、精神疾患に併存する睡眠の訴えとして最も多かったのは「睡眠による休養感の欠如」でした。さらに、睡眠休養感の低下は、寝つきの悪さや夜中に何度も目が覚めるといった不眠症状とは別に、それ自体がうつ病の発症と関連することが示されています。日本の研究でも、睡眠休養感が低い人ほど抑うつの度合いが強いという結果が報告されています。
特に興味深いのは、働く世代を対象とした米国の調査です。40〜64歳では、睡眠時間が短いと死亡リスクが増加しますが、睡眠休養感が確保されていればそのリスク増加はみられなかったと報告されています。「時間」と「休めた感覚」の両方がそろってこそ、良い睡眠といえるわけです。
一方で現状をみると、国民健康・栄養調査では、睡眠で休養がとれている人の割合は成人でおおよそ7割程度にとどまり、年々減る傾向にあるとされています。睡眠休養感の低下は、決してめずらしいことではないのです。
睡眠休養感を下げるもの ―時間・生活習慣・かくれた病気
では、何が睡眠休養感を下げるのでしょうか。ガイドでは、大きく分けて次のような要因が挙げられています。
睡眠不足と「寝だめ」
まず土台になるのは、やはり睡眠時間の不足です。平日の睡眠不足を休日の「寝だめ」で取り戻そうとする方は多いのですが、休日に長く眠りたくなること自体が、平日の睡眠時間が足りていないサインとされます。休日に起床時刻が大きく遅れると体内時計が乱れ、「社会的時差ボケ」と呼ばれる状態になり、かえって健康を損なう心配もあります。
逆に、必要以上に長く寝床で過ごすのも考えものです。体が必要とする以上に眠ろうとして寝床に長くいると、寝つきが悪くなる、途中で目が覚める、熟眠感が減るなど、眠りの質が下がることが知られています。
日中のストレスや生活習慣
仕事などによる日中のストレス、就寝直前の夕食や夜食・朝食抜きといった食習慣の乱れ、運動不足なども、睡眠休養感を下げる要因として報告されています。寝る前のリラックスの仕方や寝室の快適さ、カフェイン・お酒・たばこといった嗜好品のとり方も影響します。
かくれた病気の影響
見逃せないのが、病気の影響です。閉塞性睡眠時無呼吸(眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりする病気)や周期性四肢運動障害(眠っている間に足などが勝手に動く病気)は、日中の眠気や睡眠休養感の低下以外に自覚症状が乏しいことがあり、50歳代以降で増えるため注意が必要とされています。こうした睡眠障害がかくれていると、環境や生活習慣をいくら整えても、睡眠休養感が十分に得られないことがあります。
また、うつ病などの精神疾患では、不眠や眠りすぎの症状をともないやすく、睡眠休養感が慢性的に得られにくいことがあります。更年期の女性では4〜6割が睡眠の悩みを抱えるという報告もあります。
睡眠休養感を高めるためにできること
ガイドの成人版では、次の3つが推奨事項として挙げられています。
- 適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する
- 食生活や運動などの生活習慣、寝室の睡眠環境などを見直して、睡眠休養感を高める
- 睡眠の不調や睡眠休養感の低下がある場合は生活習慣の改善を図りつつ、病気がかくれている可能性にも気を配る
日々の工夫としては、まず平日から睡眠時間を確保することが出発点です。労働時間が長いほど睡眠時間は短くなる傾向が報告されており、仕事や家事の分担を含めて「眠る時間をどう確保するか」を生活全体で考えることが勧められています。そのうえで、食事や運動のリズム、寝室の環境、嗜好品とのつきあい方を、できる範囲で整えていきます。
大切なのは、完璧を目指さないことです。ガイド自身も、健康状態や生活環境には個人差があるため「可能なものから取り組む」ことをすすめています。朝目覚めたときの休めた感覚を自分なりの目安にしながら、少しずつ調整していく――それが睡眠休養感というものさしの使い方です。
受診の目安
次のような場合は、生活の工夫だけで抱え込まず、医療機関への相談をご検討ください。
- 睡眠時間を十分確保しているはずなのに、休めた感じがしない状態が続く
- 生活習慣や寝室の環境を見直しても、睡眠の不調や睡眠休養感の低下が改善しない
- 日中の強い眠気や居眠りが続く(睡眠時無呼吸などの検査が勧められることがあります)
- 気分の落ち込みや意欲の低下など、こころの不調をともなっている
ガイドでも、推奨されている工夫を試しても睡眠の改善が十分に得られない場合は、医師に相談することが勧められています。睡眠休養感の低下の背景に何があるのか、治療が必要かどうかの判断は、医師が診察のうえで行います。なお、死にたい気持ちが強くなるなど緊急性が高いと感じたときは、ためらわず救急(119)や主治医にご連絡ください。
まとめ
- 睡眠休養感とは、朝目覚めたときの「眠って休養がとれた」という感覚で、睡眠の「質」を映す指標です
- 必要な睡眠時間には個人差があり、時間の長さだけでは睡眠の良し悪しは測れません
- 睡眠休養感の低下は、心血管疾患や代謝の問題、うつ病など、体とこころの健康リスクと関連することが報告されています
- 睡眠不足、寝だめ、日中のストレス、食事や運動の習慣、嗜好品、そして睡眠時無呼吸などのかくれた病気が、睡眠休養感を下げる要因になります
- 工夫をしても休めた感じがしない状態が続くときは、医療機関にご相談ください
参考にした資料
- 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(厚生労働省、令和6年2月)
本記事は上記資料の内容を要約・再構成したものであり、原文の転載ではありません。
執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏
よくある質問
睡眠休養感とは何ですか。
朝目覚めたときに「眠って休養がとれた」と感じられる感覚のことです。睡眠時間が睡眠の「量」の指標だとすれば、睡眠休養感は睡眠の「質」を反映する指標とされ、厚生労働省の睡眠ガイド2023でも、睡眠時間の確保と並んで重視されています。
睡眠時間は足りているはずなのに、朝すっきりしません。なぜでしょうか。
睡眠休養感は、睡眠時間だけでなく、寝室の環境、生活習慣、カフェインやお酒などの嗜好品、睡眠時無呼吸などの睡眠障害、うつ病などの病気の影響も受けます。時間を確保しても休めた感じがしない状態が続く場合は、背景に原因がかくれていることがあるため、医療機関にご相談ください。
長く寝れば睡眠休養感は上がりますか。
必要以上に長く寝床で過ごすと、寝つきが悪くなったり夜中に目が覚めやすくなったりして、かえって眠りの質が下がることが知られています。休日の「寝だめ」も睡眠不足の根本的な解消にはなりにくいとされます。長さより、平日から必要な睡眠時間を規則的に確保することが大切です。
睡眠休養感が低いと、こころの健康にも影響しますか。
関連が報告されています。米国の調査では、睡眠休養感の低下が不眠症状とは独立してうつ病の発症と関連し、日本の研究でも睡眠休養感が低い人ほど抑うつの度合いが強いことが示されています。つらさが続くときは早めにご相談ください。