はじめに
「夜はちゃんと眠っているはずなのに、昼間どうしても眠くてたまらない」。授業中や仕事中、大事な場面でもうとうとしてしまう——そんな悩みを抱えていませんか。
たとえば、こんな毎日です。朝はなかなか起きられず、家族に何度も起こされてようやく布団から出る。午前中からまぶたが重くなり、気がつくと机に突っ伏して眠ってしまっている。本人は一生懸命起きていようとしているのに、まわりからは「夜更かししているだけ」「やる気がない」「怠けている」と見られてしまう。
こうした「いくら寝ても日中眠い」状態の裏には、過眠症という病気が隠れていることがあります。なかでもナルコレプシーや特発性過眠症と呼ばれるタイプは、10代の若いうちに始まることが多く、「ただの寝坊・怠け」と誤解されたまま見逃されやすいことが知られています。けれども、これは気合いや性格の問題ではなく、検査で確かめられる医療の対象です。そして、同じように困っている人は決して少なくありません。
この記事では、過眠症とはどんな状態なのか、なぜ見逃されやすいのか、まず除外したい別の病気、そして診断のために行う検査の流れについて、やさしく解説します。読み終えるころには、「どこに相談し、どんな検査で確かめられるのか」のイメージがつかめるはずです。
夜眠れているのに日中眠い—「過眠症」という病気
夜の睡眠時間は足りているのに、日中に耐えがたい眠気が続く。そんなとき考えられるのが「過眠症」です。
過眠症にはいくつかの原因があります。よく知られているのは後で触れる睡眠時無呼吸症候群ですが、ほかにも、単純に睡眠時間が足りていない睡眠不足症候群や、お薬の影響による眠気などがあります。そして、こうした原因が見当たらないのに強い眠気が続く場合に疑われるのが、脳の側で睡眠への欲求が強まってしまう「中枢性過眠症」です。ナルコレプシーや特発性過眠症は、この中枢性過眠症に含まれます。
中枢性過眠症の特徴は、ただ「眠い」だけでなく、自分の意思では抑えきれない強い眠気が、繰り返し日中をおそってくることです。気がついたら眠ってしまっていた、という「寝落ち」が一日に何度も起こることもあります。夜の睡眠をしっかりとっていても日中の眠気がおさまらない、というのが、寝不足による眠気との大きな違いです。
「怠けているだけ」と誤解されやすい—10代に多い
中枢性過眠症は、10代という若い時期に始まることが多いとされています。ところが、本人も周囲も「病気かもしれない」とはなかなか気づきません。
学校の授業中に居眠りをすれば、「夜ふかししている」「気がゆるんでいる」「やる気がない」と受け取られがちです。小さいころから「よく寝る子だな」と思われていただけで済まされ、適切な検査や相談につながらないまま大人になってしまうことも少なくありません。そして社会人になってから、仕事中の眠気で困ってようやく受診にたどり着く、というケースもあります。
ここで知っておいていただきたいのは、これは本人の努力不足ではない、ということです。むしろ本人は「起きていなければ」と必死にこらえていることが多く、それでも眠ってしまうところに、この病気のつらさがあります。子どものころからの眠りの様子は、ご本人より保護者のほうがよく覚えていることが多いため、ご家族からの情報も診断の大切な手がかりになります。「昔から朝が極端に弱い」「休日は昼過ぎまで眠っている」といった様子が続くなら、一度専門の医療機関に相談してみる価値があります。
ナルコレプシーと特発性過眠症の違い
中枢性過眠症の代表が、ナルコレプシーと特発性過眠症です。どちらも日中の強い眠気が中心ですが、いくつか違いがあるとされています。
ひとつの手がかりが、居眠りのあとの感覚です。ナルコレプシーでは、比較的短い居眠りのあとに一時的にすっきりする感覚があることが多いとされます。一方、特発性過眠症では居眠りが長くなりやすく、眠ったあともすっきりしにくいことが典型的とされています。
また、ナルコレプシーでは、笑ったり驚いたりといった強い感情がきっかけで体の力が抜けてしまう「情動脱力発作」や、寝入りばな・目覚めの際に体が動かせなくなる金縛り(睡眠麻痺)、現実と区別しにくいほどリアルな夢や幻覚(入眠時幻覚)といった症状がみられることがあります。ただし、これらの症状はナルコレプシーの方すべてに現れるわけではありません。逆に言えば、こうした症状がはっきりしないからといってナルコレプシーが否定されるわけでもなく、症状だけで両者の境目を引くのは難しいのが実情です。
そのため、ナルコレプシーと特発性過眠症を最終的に見分けるには、症状の聞き取りだけでなく、後で述べる専門的な検査が必要になります。どちらにあたるか、あるいは別の原因なのかを見極めるのは、検査をふまえた医師の役割です。
まず確かめたい—睡眠時無呼吸症候群
中枢性過眠症を考える前に、まず確かめておきたいのが睡眠時無呼吸症候群です。
これは、眠っている間に呼吸が弱くなったり止まったりを繰り返す状態です。そのたびに眠りが浅くなり、睡眠時間は足りているように見えても、深く安定した眠りがとれず、結果として日中に強い眠気が出てきます。お子さんの場合は、扁桃(のどの奥にあるリンパ組織)が大きいことなどが、空気の通り道を狭くする原因になることがあります。
そのため、いびきが大きい、眠っている間に呼吸が止まっているように見える、扁桃が大きい、鼻づまりが強い、といったサインがある場合は、まず夜間の呼吸の状態を調べることが優先されます。日中の眠気の原因が睡眠時無呼吸症候群にあるとわかれば、対応の方向もはっきりします。ナルコレプシーや特発性過眠症を疑うのは、こうした別の原因が見当たらないことを確かめてからになります。
日中の眠気を測る—エプワース眠気尺度
「自分の眠気が、ふつうの範囲なのか、それとも病的に強いのか」を客観的に見るために使われるのが、エプワース眠気尺度という質問票です。
これは、本を読んでいるとき、車に乗っているときなど、日常のいくつかの場面で「どれくらい眠ってしまいやすいか」を点数でたずねるものです。点数が高いほど、日中の眠気が強い状態を示します。一般的には、ある程度以上の点数になると「病的な眠気」が疑われる目安とされています。
この質問票は、診察の前に書いておくと、その後の相談がスムーズに進みやすくなります。ただし、点数だけで病名が決まるわけではありません。あくまで眠気の強さを把握し、さらに詳しく調べるべきかどうかを判断するための、入り口の道具と考えてください。
診断に使う検査の流れ—睡眠日誌・PSG・MSLT
過眠症が疑われた場合、いきなり診断がつくわけではなく、いくつかの段階を踏んで原因を確かめていきます。検査と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、これらは「眠気の正体を一緒に見極めるための安心材料」です。
まず行うことが多いのが、睡眠日誌です。毎日の就寝・起床の時刻や、昼間の居眠りの時間を記録していくもので、活動量を測る小型の機器を併用することもあります。これにより、夜と昼を合わせて実際にどれくらい眠っているのかを正確に把握できます。
次に行われることがあるのが、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)です。これは、眠っている間の脳波や呼吸の状態などを一晩かけて記録する検査で、夜の睡眠の質や、睡眠時無呼吸症候群のような眠気の原因となる病気がないかを確認します。
そして、PSGで夜の睡眠に大きな問題が見つからない場合に行われるのが、反復睡眠潜時検査(MSLT)です。これは日中に行う検査で、一定の間隔をあけて短い時間横になり、寝つくまでの時間や眠りの入り方を繰り返し調べます。中枢性過眠症の方は寝つくまでが極端に短いことが多く、この検査の結果が、ナルコレプシーと特発性過眠症を見分ける重要な決め手になります。
これらの検査は、誰もが全部を受けるわけではなく、お一人おひとりの状況に合わせて必要なものを選びます。どの検査が必要かを判断し、結果から診断を行うのは医師です。
専門医療機関への相談が必要なケース
過眠症の確定診断に使うPSGやMSLTは、専門的な設備を備えた医療機関で受ける検査です。問診の段階で「中枢性過眠症の可能性が高い」と考えられる場合には、こうした検査を受けられる地域の専門医療機関と連携して進めていくことになります。
まずは身近な精神科・心療内科や睡眠を扱う外来で相談し、必要に応じて検査ができる施設につないでもらう、という流れが一般的です。「どこに行けばいいかわからない」という段階でも大丈夫です。困っている状況をお話しいただければ、そこから一緒に道筋を考えていけます。
受診の目安
以下に当てはまるものがあれば、一度ご相談ください。
- 夜の睡眠時間は足りているはずなのに、日中に強い眠気が続く
- 授業中や仕事中など、大事な場面でも気づいたら眠ってしまう「寝落ち」がある
- 朝が極端に弱く、何度起こしてもなかなか起きられない
- 「怠けている」「やる気がない」と誤解され、つらい思いをしている
- 大きないびきがある、眠っている間に呼吸が止まっていると言われたことがある
- お子さんが昔から「よく寝る子」で、学校での居眠りが続いている
これらは「すぐに重い病気」という意味ではありません。早めに相談することで、眠気の原因を見極め、つらさを和らげる手がかりが見つかりやすくなります。
まとめ
夜しっかり眠っているのに日中の眠気が続く場合、その裏には過眠症という病気が隠れていることがあります。なかでもナルコレプシーや特発性過眠症は10代で始まることが多く、「ただの怠け」と誤解されたまま見逃されやすいことが知られています。けれども、これは気合いや性格の問題ではなく、検査で確かめられる医療の対象です。
まずは睡眠時無呼吸症候群など他の原因がないかを確かめ、エプワース眠気尺度で眠気の強さを把握し、睡眠日誌・PSG・MSLTといった検査で原因を見極めていきます。一つひとつの検査は、眠気の正体を一緒に確かめるための安心材料です。「いくら寝ても日中眠い」とお感じなら、どうか一人で抱え込まず、気軽にご相談ください。原因に合った向き合い方を、一緒に探していきましょう。
参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 精神科臨床ライブ 精神科治療学 増刊号
- 精神症状の把握と理解
よくある質問
夜ちゃんと眠っているのに日中眠いのは、ただの寝不足ではないのですか?
十分な睡眠時間をとっているのに昼間に強い眠気が続く場合は、過眠症という病気が隠れていることがあります。寝不足や夜更かし、スマホの使い過ぎなどがないかをまず確認し、それでも眠気が続くようなら一度ご相談ください。診断は検査をふまえて医師が行います。
ナルコレプシーと特発性過眠症はどう違うのですか?
どちらも日中に強い眠気が出る中枢性過眠症ですが、ナルコレプシーは短い居眠りのあと一時的にすっきりすることが多いのに対し、特発性過眠症は居眠りが長く、眠ったあともすっきりしにくいとされます。ただし症状だけでは区別が難しいことも多く、最終的には専門的な検査で診断します。
過眠症を調べるには、どんな検査をするのですか?
まず睡眠日誌や質問票で生活と眠気の状況を把握し、必要に応じて夜間の睡眠を調べる終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)や、日中の眠気を測る反復睡眠潜時検査(MSLT)を行います。これらは専門の医療機関で受けられる検査で、原因を見極めるための安心材料になります。
子どもが学校でよく寝ています。受診したほうがよいですか?
夜にしっかり眠っているはずなのに授業中の居眠りが続く、朝が極端に弱い、休日は昼過ぎまで眠っている、といった様子が長く続く場合は、相談する価値があります。「怠けている」と決めつけず、まず専門の医療機関で背景に病気がないかを確認すると安心です。
いびきが大きいのですが、過眠症と関係ありますか?
大きないびきや、眠っている間に呼吸が止まっているように見える場合は、睡眠時無呼吸症候群が日中の眠気の原因になっていることがあります。この場合はまず夜間の呼吸の状態を調べることが優先されます。原因がはっきりすれば、対応の方向も見えてきます。