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はじめに

「布団に入っても、同じことをぐるぐると考えてしまって眠れない」「夜中に何度も目が覚める」「朝起きるのが、ただただだるい」。そんな夜と朝が、しばらく続いていませんか。

眠れないと、次の日は頭がぼんやりして、気持ちまで沈みがちになります。気分が落ち込むと、今度はそのことが気になってまた眠れなくなる。眠れない自分を責めて、「自分は心が弱いのだろうか」と感じてしまう方も少なくありません。

けれど、眠れないことは心の弱さではありません。不眠は、気分や不安の状態と深くつながっていて、たがいに影響し合うものです。眠れないからうつや不安が強まることもあれば、うつや不安があるから眠れなくなることもあります。そして、「眠れない」という訴えを入口に、その奥にあった心の不調が見つかることもあります。

この記事では、不眠とうつ・不安がどのようにつながっているのか、よく聞かれる具体的な姿を交えながら、やさしく解説します。

眠れない→気分が落ちる→さらに眠れない、という悪循環

眠れない夜が続くと、日中は疲れが抜けず、集中力も落ちます。気持ちに余裕がなくなり、気分が沈みやすくなります。そうして気分が落ち込むと、夜になっても頭が休まらず、「今日も眠れないのではないか」という心配がふくらんで、ますます寝つけなくなる——。

このように、不眠と気分の落ち込みは、片方がもう片方を悪くする形でつながり、ぐるぐると回り続けてしまうことがあります。一度この循環に入ると、「眠れないから気分が悪いのか、気分が悪いから眠れないのか」が自分でもわからなくなってきます。

大切なのは、どちらが先かを突き止めることよりも、この循環そのものに気づくことです。循環のどこかに手を入れて流れをゆるめていくと、眠りと気分の両方が少しずつ楽になっていく可能性があります。

「心配で頭がぐるぐるして眠れない」—全般不安症のとき

「眠れない」の背景に、不安が隠れていることがあります。その代表的なものが、全般不安症(GAD:generalized anxiety disorder)と呼ばれる状態です。これは、特定の対象がはっきりしないまま、さまざまな心配が慢性的に続くタイプの不安です。

たとえば、こんな語りがあります。「いろいろなことを考えてしまって、最近眠れないんです。同じことをぐるぐる考えて、寝られないから、朝起きるのもだるくて」。「家の中でも落ち着かなくて、うろうろしてしまう。新聞を読んでも頭に入らないんです」。心配の中身は、家族のこと、自分の健康のこと、これから先のこと——と次々に移り変わり、考えても答えが出ないのに、考えるのを止められません。

こうした「心配で頭がぐるぐるして眠れない」状態は、全般不安症でよくみられる姿のひとつです。心配によって十分な睡眠がとれなくなり、日中の集中力も落ちていく。ご本人は「自分は心配性なだけ」と思いがちですが、その背景に不安の不調が隠れていることがあるのです。この場合、眠りを助けるだけでは十分でなく、不安そのものをていねいに聴き、心配があってもなお「できていること」に目を向けていくことが、土台として大切にされます。

早朝に目が覚める・朝がだるい—うつ病のとき

不安だけでなく、うつ病もまた、眠りと深くかかわっています。うつ病でよくみられる訴えのひとつに、「早朝覚醒」があります。朝早く、まだ起きたくない時間に目が覚めてしまい、そのあと眠れない。そして、朝がいちばんつらく、起き上がるのがだるい——こうした朝の重さは、うつ病の特徴として知られているものです。気分の落ち込みが朝に強く、夕方にかけて少し楽になる、という日内の波を感じる方もいます。

こうした「朝起きられない」「朝がだるい」という状態は、見ようによっては単なる睡眠の問題に見えます。だからこそ、「眠れない」「朝がだるい」という訴えの奥に、気分の不調がないかをていねいに確かめていくことが大切になります。

なお、早朝覚醒や朝のだるさは、うつ病に「よくみられる」というだけで、これがあれば必ずうつ病、という意味ではありません。最終的な診断は、医師が全体像をみて行います。

ニュースやSNSの見すぎが、不安と不眠を強めることも

眠れない夜を強める要因として、見落とされやすいのが「情報の過多」です。

スマートフォンを開けば、ニュースやSNSを通して、さまざまな情報がいつでも手に入ります。役立つ正確な情報もある一方で、不確かな情報や不安をあおる情報も少なくありません。気になることを次々と調べ、終日その情報にさらされていると、かえって不安が強くなってしまうことがあります。夜、布団のなかで画面を見続けると、頭が休まらず、心配ごとがいっそう頭から離れなくなります。

すべての情報を断つ必要はありませんが、信頼できる情報をいくつかに絞り、夜遅い時間は強い光と情報から少し距離を置くことが、不安と不眠の両方をやわらげる助けになります。これは、心の不調があるなしにかかわらず、多くの方に役立つ工夫です。

睡眠リズムの乱れが目立つとき—双極性障害という手がかり

眠りの問題は、うつ病だけでなく、双極性障害ともかかわることがあります。双極性障害は、気分が落ち込む時期と、反対に気分が高ぶる時期とをくり返す状態です。

睡眠との関係でひとつの手がかりになるのが、睡眠リズムそのものの乱れです。眠る時間と起きる時間が後ろにずれていく「睡眠リズムの後退」は、うつ病よりも双極性障害の方に多くみられ、両者を見分ける一因になると報告されています。若くしてうつの症状が出ている方などでは、睡眠リズムの乱れが目立つことが、背景を考える手がかりになることがあります。

ただし、これはあくまで「鑑別のヒントのひとつ」です。睡眠リズムが乱れているからといって、双極性障害だと決まるわけではありません。ご自身で判断して不安をふくらませる必要はなく、気になる点があれば診察のなかで一緒に整理していけば十分です。診断は、経過や全体像をふまえて医師が慎重に行います。

睡眠薬だけでなく、不安・気分への治療が必要なこともある

「眠れない」と聞くと、つい「眠れる薬を出してもらえば解決する」と考えがちです。眠りを助ける薬が役立つ場面はたしかにあります。けれど、それだけでは十分でないことがあります。

これまで見てきたように、不眠の背景には、不安や気分の不調が隠れていることが少なくありません。背景に全般不安症があれば不安への治療が、うつ病があれば気分への治療が必要になることがあります。背景の不調をそのままにして眠りだけを薬で抑えようとすると、根っこの問題が残ったままになってしまうこともあるのです。

また、睡眠の問題が生活リズムのずれから来ている場合には、薬よりも、朝に光を浴びる・夜は強い光を避けるといった生活の工夫のほうが中心になることもあります。

つまり、「不眠」と一口に言っても、その人にとって何が必要かは一人ひとり異なります。だからこそ、眠りの状態だけでなく、気分や不安、生活の様子まで含めて一緒に見ていくことが大切なのです。どのような対応をとるかは、お一人おひとりの状態に合わせて医師が判断していきます。

「眠れない」を入口に、相談してよい

ここまで読んで、「自分の不眠の奥にも、何かあるのかもしれない」と感じた方がいるかもしれません。そう感じたとき、「眠れない」を入口に相談していただいて、まったくかまいません。

心の不調というと、相談のハードルが高く感じられることがあります。でも、「最近眠れなくて」という入口なら、話を切り出しやすいのではないでしょうか。実際、不眠をきっかけに受診し、話を整理していくなかで、その奥にあった不安や気分の不調に気づける、ということはよくあります。

くり返しになりますが、眠れないことは心の弱さではありません。眠れない夜が続いてつらいとき、それはあなたの努力が足りないからではなく、整えていける状態だととらえてみてください。

受診の目安

以下に当てはまるものがあれば、一度ご相談ください。

  • 寝つけない、夜中や早朝に目が覚める、といった状態が数週間以上続いている
  • 心配ごとで頭がぐるぐるして、同じことを考えて眠れない夜が続く
  • 朝起きるのがつらく、だるさや気分の落ち込みが続いている
  • 眠れないことで、日中の集中力や気力が落ちてきた
  • 夜にニュースやSNSを見すぎて、不安と寝つきの悪さが強まっている
  • 睡眠薬を使っても、つらさの根っこが残っている感じがする

これらは「すぐに重大な病気」という意味ではありません。早めに相談することで、眠りと気分の両方を整える手がかりが見つかりやすくなります。

まとめ

不眠とうつ・不安は、深くつながっています。眠れないと気分が落ち込み、気分が落ち込むとさらに眠れなくなる——この悪循環の背景には、全般不安症の「心配で頭がぐるぐるする」状態や、うつ病の早朝覚醒・朝のだるさが隠れていることがあります。ニュースやSNSの見すぎが不安と不眠を強めることもあり、睡眠リズムの乱れが双極性障害を考える手がかりになる場合もあります。

だからこそ、眠れないときには、眠りだけを薬で抑えるのではなく、不安や気分まで含めて一緒に見ていくことが大切です。そして何より、眠れないことは心の弱さではありません。「眠れない」を入口に、どうぞ気軽にご相談ください。眠りと心のつながりを一緒にほどいていくことで、楽になっていける道が見つかるはずです。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 精神科臨床ライブ 精神科治療学 増刊号
  • 精神症候学(第2版)

よくある質問

眠れないだけで受診してもよいのでしょうか?

はい、「眠れない」を入口に相談していただいてかまいません。不眠の背景に気分や不安の不調が隠れていることもあり、早めに整理することがつらさを和らげる手がかりになります。

眠れないのは心が弱いからでしょうか?

いいえ。不眠は気分や不安の状態、生活リズム、体の要因などが重なって生じるもので、気の持ちようや弱さの問題ではありません。医療の対象になる状態です。

睡眠薬を飲めば解決しますか?

眠りを助ける薬が役立つこともありますが、背景にうつや不安がある場合は、そちらへの治療が必要になることもあります。どう対応するかは状態に合わせて医師が判断します。

朝早く目が覚めて、そのあと眠れません。これは何かのサインですか?

早朝に目が覚める「早朝覚醒」や、朝のだるさは、うつ病でよくみられる訴えのひとつです。ただし、これがあれば必ずうつ病という意味ではありません。気になる場合は一度ご相談ください。診断は、全体像をふまえて医師が行います。

夜にスマホでニュースやSNSを見すぎると、眠れなくなる気がします。

その実感は理にかなっています。情報の見すぎは不安を強め、夜の強い光は頭を冴えさせて、不安と不眠の両方を悪くすることがあります。信頼できる情報に絞り、夜遅い時間は画面から少し距離を置くことが、多くの方に役立つ工夫です。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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