はじめに
「気分が落ち込んでつらいのに、それと同時に、いつも何かにそわそわして落ち着かない」。「将来のことを考えると不安でたまらず、夜も眠れない。でも自分はうつ病なのか、不安の病気なのか、よくわからない」。こうした感覚を抱えて、この記事にたどり着いた方もいるかもしれません。
落ち込みと不安が同時に押し寄せてくると、自分の状態がうまくつかめず、よけいに心細くなるものです。けれども、これはあなただけに起きている特別なことではありません。うつ病と不安は、実はとても近い間柄にあり、一緒に現れることはまったく珍しくないのです。
この記事では、なぜうつと不安が一緒に来るのか、両者が重なるとどんな症状になるのか、そして「全般不安症」という不安の病気とどう見分けるのかを、患者さん向けにやさしく整理します。あわせて、「不安が強いうつ病は治りにくいことがある」という臨床的な事実にも、できるだけ落ち着いてふれていきます。なお、診断は医師が行うものであり、この記事は自己診断のためのものではありません。
うつと不安は、もともと「近い親せき」
うつ病というと、気分の落ち込みが中心の病気というイメージが強いかもしれません。たしかに現代のうつ病の考え方も、落ち込んだ気分を中心に組み立てられています。
ただ、実際に気分が落ち込んでいる方を診察すると、不安をあわせ持っていることがとても多いことが知られています。専門的にも、うつ病と「全般不安症」と呼ばれる不安の病気は、近い関係にある(近縁である)と考えられています。歴史をさかのぼると、かつては「原因のはっきりしない恐れと悲しみ」がひとまとめにして語られていた時代もありました。落ち込みと不安は、もともと一本の根からのびた枝のような関係だと考えると、イメージしやすいかもしれません。
ですから、「うつ病と不安症が両方ある」と言われても、めずらしく運の悪いことが重なったと受け取る必要はありません。近い場所から生まれやすい症状が、いっしょに顔を出している、というほうが実情に近いのです。
軽めのうつでも、落ち込みと不安は混ざり合う
不安をあわせ持つのは、重いうつ病のときだけではありません。
クリニックの外来でよくみられる、比較的軽めのうつ状態でも、「抑うつ(気分の落ち込み)」と「不安」が混ざり合って現れるのは、ごくありふれたことだとされています。たとえば、気分が沈んでやる気が出ないのと同時に、ささいなことが気になって落ち着かない、先のことを考えると胸がざわつく、といった状態です。
このように、落ち込みと不安はきれいに切り分けられるものではなく、地続きにつながっていることが多いのです。「自分はうつなのか、不安なのか、はっきりしないからおかしいのではないか」と感じる必要はありません。混ざり合っているのが、むしろ自然な姿だといえます。
うつ病と全般不安症、似ているところと違うところ
「全般不安症」とは、特定のことだけでなく、仕事・家庭・健康・お金など、生活のいろいろな場面について、過剰な心配が続いてしまう不安の病気です。このうつ病と全般不安症は、見た目がよく似ているため、見分けが難しいことがあります。
共通しているところ
うつ病と全般不安症には、次のような共通点があります。
- 集中しづらく、考えがまとまりにくい
- 眠りが浅い、寝つけない、途中で目が覚めるなどの睡眠の問題
- 物事を悲観的に、悪い方向に考えてしまう
これらはどちらの病気でも起こりうるため、症状だけを並べても区別がつきにくいのです。
見分けのポイント
一方で、「どこに気持ちの中心があるか」に目を向けると、違いが見えてきます。
- うつ病で中心になりやすいもの:自分には価値がないと感じる気持ち(無価値感)、もうどうにもならないという絶望感、これまで楽しめていたことが楽しめなくなる喜びの喪失。食欲の変化なども伴いやすいとされます。
- 全般不安症で中心になりやすいもの:無価値感や絶望感というより、「これから悪いことが起きるのではないか」という、将来の出来事への不安。生活のあちこちの場面に向かって、心配が広がっていきます。
つまり、気分の落ち込みや興味の薄れが中心にあるならうつ病らしく、悪い出来事への不安が中心にあるなら全般不安症らしい、という見方ができます。とはいえ、両方の特徴をあわせ持つ方も多く、自己判断で線を引くのは簡単ではありません。最終的な診断は、症状の全体像や経過をふまえて医師が行います。
不安が強いうつ病と、治りにくさの関係
ここで、少し慎重に受け止めていただきたい話があります。それは、「不安が強いうつ病は、治りにくさ(難治性)と関係することがある」という点です。
研究の積み重ねから、不安症をあわせ持っているうつ病は、そうでない場合に比べて、回復までに時間がかかりやすいことが示唆されています。これは、落ち込みに加えて不安という負荷も重なるぶん、ていねいな治療と、ある程度の時間が必要になりやすい、という意味合いです。
ただし、ここで誤解しないでいただきたいのは、「治りにくい」イコール「治らない」ではない、ということです。あくまで、ほかの場合より経過に時間がかかることがある、という目安にすぎません。不安が強いからといって、回復をあきらめる必要はまったくありません。むしろ、「時間がかかることがあるのだな」と前もって知っておくことで、途中で焦らずに治療を続けやすくなります。
合併していても、両方やわらぐ見込みがあります
「うつと不安、両方あるなんて、二重につらい」と感じるかもしれません。けれども、ここに希望もあります。
うつ病と不安症は近い関係にあるからこそ、適切な治療によって、落ち込みと不安の両方が一緒にやわらいでいくことが期待できます。どちらか一方だけを別々に治さなければならない、というわけではありません。治療の中で全体を整えていくことで、重なっていたつらさが少しずつほどけていくことは、十分に見込めます。
大切なのは、つらさを一人で抱え込まず、「落ち込みもあるし、不安も強い」と、ありのまま医師に伝えることです。どんな症状がどんなふうに重なっているかを共有できるほど、その方に合った治療を一緒に考えやすくなります。
受診の目安
以下のようなことに当てはまる場合は、一度ご相談ください。
- 気分の落ち込みと強い不安が同時に続き、つらさが2週間以上抜けない
- 不安で眠れない日が続き、日中の集中力や仕事・家事に支障が出ている
- 物事を悪い方向にばかり考えてしまい、自分を責める気持ちが消えない
- これまで楽しめていたことが、楽しめなくなってきた
- うつ病の治療を続けているのに、不安がなかなかやわらがないと感じる
これらは、専門家に相談する目安です。当てはまるからといって、必ず特定の病気だと決まるわけではありません。診断は医師が行いますので、気になることがあれば、抱え込まずにご相談ください。
まとめ
うつ病と不安は、別々の病気のように見えて、実はとても近い関係にあり、合併することは珍しくありません。軽めのうつでも、落ち込みと不安が混ざり合うのはありふれたことです。うつ病と全般不安症は集中困難や睡眠の問題など似た点が多い一方、うつ病では無価値感や喜びの喪失が、不安症では悪い出来事への不安が中心になりやすい、という違いがあります。
不安が強いうつ病は回復に時間がかかることがありますが、それは治らないという意味ではありません。適切な治療を続けることで、落ち込みと不安の両方がやわらいでいくことは十分に期待できます。一人で抱え込まず、感じているつらさをそのまま医師に伝えることが、回復への第一歩になります。
参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 気分症群(神庭重信 編/中山書店)
よくある質問
うつ病と不安は、どうして一緒に起こりやすいのですか
うつ病と不安は、もともととても近い関係にあると考えられているためです。気分が落ち込んでいる方を診察すると、不安をあわせ持っていることが多く、軽めのうつ状態では落ち込みと不安が混ざり合って現れるのが一般的とされています。別々の病気が偶然重なるというより、近い場所から生まれる症状と考えるとわかりやすいかもしれません。
うつ病と全般不安症は、自分で見分けられますか
自己判断で見分けるのは難しいとされています。どちらも集中しにくい、眠れない、悪い方向に考えてしまうといった共通点があるためです。気分の落ち込みや、楽しめていたことへの興味の薄れが中心にあるのか、それとも将来の出来事への不安が中心にあるのかなどを、医師が全体像から評価します。診断は医師が行います。
不安が強いうつ病は治りにくいと聞いて心配です
不安をあわせ持つうつ病は、回復までに時間がかかりやすいことが知られています。ただし、これは治らないという意味ではありません。経過に時間がかかることがある、という目安です。適切な治療を続けることで、落ち込みと不安の両方がやわらいでいくことは十分に期待できます。気になることは主治医に伝えてください。
落ち込みより不安のほうが強いのですが、心療内科・精神科に行ってよいですか
問題ありません。落ち込みと不安は地続きにつながっていることが多く、どちらが強くても相談していただける症状です。「不安のほうが目立つ」ということ自体が、診断や治療を考えるうえで役立つ情報になります。受診の際は、感じているままを伝えてください。