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はじめに

職場の異動や人間関係、家庭の出来事など、つらい出来事をきっかけに気持ちが落ち込み、「自分はうつ病なのだろうか」「それともよく聞く適応障害なのだろうか」と不安になることはありませんか。インターネットで調べるほど、どちらに当てはまるのか分からなくなってしまう方も少なくありません。

落ち込みの原因がはっきりしているとき、その状態が「適応障害」なのか「うつ病」なのかは、実は専門家でも見分けに迷うことがあるテーマです。ですから、自分で判断がつかなくても、それはごく自然なことです。あなただけが特別に分かりにくいわけではありません。

この記事では、うつ病と適応障害のちがいを、ストレスとの時間的な関係や、「2週間以上つづくか」「平日はつらくても休日は楽しめるか」といった、ふだんの生活で気づきやすい目安を交えてわかりやすく整理します。ご自身やご家族の状態を理解し、相談のきっかけにしていただければと思います。なお、最終的な診断は医師が行いますので、ここでの内容はあくまで考え方の手がかりとしてお読みください。

適応障害とはどんな状態か

適応障害は、ある特定のストレスのもと(ストレス因)に対する心と体の反応として、つらい気分や不安、生活のしづらさがあらわれる状態です。「適応反応症」と呼ばれることもあります。

特徴は、ストレスのもととの時間的なつながりがはっきりしている点です。診断の国際的な目安(DSM-5)では、ストレスのもとが始まってから比較的すみやかに症状があらわれ、そのストレスのもとがなくなれば、やはり比較的すみやかに落ち着いていくとされています。つまり「原因が始まると調子をくずし、原因が去ると回復に向かう」という流れが、適応障害をうかがわせる一つの手がかりになります。

たとえば、職場の配置換えや慣れない業務が始まってから気持ちがふさぎ込み、その状況が落ち着くと気分も戻ってくる、というような経過です。ストレスの場面と症状がセットで動いているイメージを持っていただくとよいでしょう。

ただし、原因がはっきりしているからといって、「軽い状態だ」と決めつけることはできません。原因がわかることと、状態が軽いことは別の問題だからです。この点はあとの章でもう一度ふれます。

うつ病とのいちばん大きなちがい

ここで多くの方が誤解しやすいポイントがあります。それは「ストレスがきっかけだから適応障害だ」とは限らない、ということです。

診断の考え方では、たとえストレスがきっかけであっても、うつ病の診断の条件を満たしている場合には、適応障害ではなくうつ病ととらえます。言いかえると、原因の有無で線を引くのではなく、まず「うつ病といえる状態かどうか」を確かめ、それに当てはまらない場合に適応障害を考える、という順序になります。

では、その「うつ病といえる状態かどうか」は何で見分けるのでしょうか。鍵になるのが、症状の持続性です。具体的には、

  • 落ち込みや興味のなさなどが「2週間以上」つづいている
  • それが「ほとんど毎日」みられる
  • しかも「ほとんど一日中」つづいている

といった、強さだけでなく「どれくらい長く、どれくらいの頻度で」つづいているかが手がかりになります。一日のうち一時的につらくなるのか、それとも朝から晩までほぼずっと重い状態がつづくのか。この持続のしかたが、両者を見分けるうえでとても大切になります。

なお、適応障害でも気分の落ち込みなどはあらわれますが、症状の数や重さは、うつ病(抑うつエピソード)の条件を満たすほどではない、と整理されることが多いとされています。

生活のなかで気づける目安「平日と休日」

専門的な基準だけではイメージしにくいかもしれません。そこでよく挙げられる、わかりやすい目安をご紹介します。それが「平日と休日のちがい」です。

仕事のある平日はつらくて気分が沈むけれど、休日になると気持ちが安定し、趣味や好きなことをそれなりに楽しめている。このようなパターンがある場合は、うつ病というよりも適応障害をより疑う一つの目安になるといわれています。ストレスのもと(この場合は仕事の場面)から離れると調子が戻る、という反応が見てとれるからです。

反対に、休日であってもほとんど一日中気分が重く、以前は楽しめていたことにも興味がわかない、何をしても楽しめない、という状態がつづくのであれば、うつ病の可能性をより考える必要があります。

この「休日は楽しめるか」という視点は、ご自身でも振り返りやすい目安です。ただし、あくまで目安の一つにすぎません。休日も予定が詰まっていて休めない方や、もともと趣味の少ない方では当てはめにくいこともあります。これだけで自己診断はせず、気になるときは生活の様子をふくめて医師にお話しいただくのが安全です。

「軽い」と決めつけない、見守りも大切

最後に、見落とされやすい大切な点をお伝えします。それは、ストレスがきっかけだからといって安易に「適応障害(軽いもの)」と決めつけない、という注意です。

日本の診療では、はっきりしたストレスのもとがあると、ていねいに見立てる前に「適応障害(適応反応症)」と判断されてしまいやすい傾向が指摘されています。しかし、その中には本来うつ病として治療を考えたほうがよい状態が含まれていることもあり、見立てを誤ると回復への道のりが遠回りになりかねません。だからこそ、原因がはっきりしていても、症状の持続性や重さをきちんと確かめることが大切なのです。

また、適応障害と考えられた場合でも、その後の経過に注意を払う必要があります。海外の追跡調査では、はじめは適応障害とされた方の一部が、時間の経過とともにうつ病や不安の状態など、別の病態へ移っていったことが報告されています。このことから、適応障害は「次の段階への入り口になりうる状態」として軽視すべきではないと考えられています。

ですから、「適応障害だから大丈夫」と安心しきってしまうのではなく、調子の変化を見守り、つらさが長引いたり強まったりするときには改めて相談する、という姿勢が安心につながります。

受診の目安

以下のような状態に当てはまる場合は、早めの相談をおすすめします。

  • 気分の落ち込みや興味のなさが2週間以上、ほとんど毎日つづいている
  • 休日や、ストレスから離れている時間帯でも気分が晴れない
  • 眠れない、食欲がない、何をしても楽しめない状態がつづく
  • 仕事や家事、学業など、日常生活に支障が出てきている
  • 適応障害と言われたあとも、つらさが長引いている、または強くなってきた
  • 「消えてしまいたい」といった気持ちが頭をよぎる

最後の項目に当てはまるときは、とくに早めにご相談ください。

まとめ

うつ病と適応障害は、どちらもつらい出来事をきっかけに起こることがありますが、見分けの鍵は「ストレスとの時間的な関係」と「症状の持続性」にあります。原因がはっきりしていても、症状が2週間以上ほとんど一日中つづくなら、うつ病の可能性を考えます。「平日はつらいが休日は楽しめる」なら適応障害をより疑う一つの目安になります。

大切なのは、原因があるからと「軽い」と決めつけず、経過を見守ることです。どちらの状態でも、適切に対応すれば回復に向かうことは十分に期待できます。一人で抱え込まず、気になるときは早めにご相談ください。あなたの状態に合った道筋を、一緒に考えていきます。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 精神科治療学「治療抵抗性うつ病への挑戦」(適応障害との鑑別に関する記述)
  • 気分症群

よくある質問

ストレスがきっかけなら、必ず適応障害なのですか?

いいえ。ストレスがきっかけであっても、うつ病の診断を満たす場合はうつ病と考えます。きっかけの有無だけで決まるわけではなく、症状の重さや持続のしかたを合わせて医師が判断します。

平日はつらいのに休日は楽しめます。これはどう考えればよいですか?

平日はつらく、休日には趣味などを楽しめるという場合は、うつ病よりも適応障害をより疑う一つの目安になります。ただしこれだけで確定はできないため、経過を含めて医師にご相談ください。

適応障害だと言われましたが、後でうつ病になることはありますか?

適応障害の一部は、その後にうつ病など別の状態へ移行することが報告されています。だからこそ軽く見ず、経過を見守ることが大切です。気になる変化があれば早めにご相談ください。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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