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はじめに

「布団に入ってもなかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「まだ暗いうちに目が覚めて、それきり眠れない」——ひとくちに「眠れない」と言っても、その困り方は人によってずいぶん違います。けれど多くの方は、それをまとめて「不眠」とだけとらえ、「とにかく眠れる薬がほしい」と思いがちです。

眠れない夜が続くのはつらいものです。そして、そう感じているのはあなただけではありません。不眠は多くの人が経験する、ありふれた悩みです。大切なのは、「眠れない」とひとくくりにせず、どんなふうに眠れないのかを少していねいに見ていくことです。眠り方の「型」がわかると、背景にある原因の手がかりになり、対処の方向も見えやすくなります。

この記事では、不眠を「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」という3つのタイプに分けて整理し、それぞれの特徴と、背景に何が考えられるか、受診を考える目安をお伝えします。なお、ここで紹介するのは「考えるための手がかり」であり、最終的な診断は医師が行います。

不眠の3つのタイプ

不眠は、眠りのどの段階でつまずくかによって、大きく3つのタイプに分けて考えると整理しやすくなります。

入眠困難(寝つけない)

布団に入ってから眠りにつくまでに、時間がかかってしまうタイプです。「30分や1時間たっても寝つけない」「あれこれ考えてしまって目がさえる」といった状態です。緊張や不安が強いとき、心配ごとがあるときにも起こりやすく、不眠のなかでもよく経験される型です。

中途覚醒(夜中に目が覚める)

いったん眠りについても、夜中に目が覚めてしまい、その後また眠るのに苦労するタイプです。「睡眠維持障害」とも呼ばれます。一晩に何度も目が覚める方もいれば、一度起きるとなかなか寝つけない方もいます。

早朝覚醒(朝早く目が覚める)

自分が起きたい時刻よりもずっと早く目が覚めてしまい、その後は二度寝ができないタイプです。「まだ眠っていたいのに、明け方に目が覚めてしまう」という状態です。

これらは、どれか一つだけとは限らず、いくつかが重なって現れることもあります。それでも「自分はどのタイプが一番つらいか」を意識してみると、背景を考えるうえで役に立ちます。

タイプによって背景が違う

不眠の型が大切なのは、それぞれ背景に考えられることが少しずつ違うからです。ここでいくつか、知っておくと役立つつながりを紹介します。ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、当てはまるからといって特定の病気だと決まるわけではありません。

寝つきが悪く、朝も起きられないとき

「夜なかなか寝つけない」のと同時に「朝どうしても起きられない」が一緒にあるときは、体内時計(概日リズム)のズレが関係していることがあります。体内時計は本来、太陽の周期と同調して働く仕組みで、これが後ろにずれると、夜は眠くならず朝は起きられない、という状態になりがちです。夜遅くまで明るい光やスマートフォンの画面を見ていると、このズレが起こりやすくなります。

この場合、「眠る薬」を増やすよりも、生活リズムや光の浴び方を整えることが中心になります。朝に外の光を浴びる、夜は強い光を避ける、といった地道な工夫が手がかりです。

夜中に目が覚める、日中の眠気が強いとき

中途覚醒が目立ち、さらに日中に強い眠気がある場合は、眠っている間に呼吸が浅くなったり止まったりして、深く安定した睡眠がとれていない可能性も考えられます。いびきを指摘されたことがある、十分寝たはずなのに昼間眠くてたまらない、といったときは、その手がかりになります。

このタイプは、睡眠薬だけでは根本の対処になりにくいことがあります。気になる場合は、眠っている間の様子もあわせて医師に相談してみてください。

早朝覚醒と気分の落ち込み

3つのタイプのなかでも、朝早く目が覚めて二度寝できない「早朝覚醒」は、気分の落ち込みとあわせて気をつけたいサインのひとつです。

気分が大きく沈んでいるときには、早朝に目が覚めてしまうことや、一日のなかで朝がもっともつらく、夕方にかけて少し楽になるといった日内変動がみられることが知られています。ですから、早朝覚醒に加えて、「気持ちが晴れない」「これまで楽しめていたことに興味がわかない」「朝が特につらい」といった変化が一緒にあるときは、不眠だけの問題としてではなく、こころの面からも考えてみる価値があります。

もちろん、早朝に目が覚めるからといって、必ずしも気分の不調があるわけではありません。年齢を重ねると、自然に早寝早起きになり、睡眠時間が短くなっていくこともあります。大切なのは、眠りの変化と気分の変化をあわせて見ていくことです。気になるときは、抱え込まずにご相談ください。

診察で伝えると役立つこと

不眠の相談では、「どんなふうに眠れないか」を具体的に伝えていただけると、背景を一緒に考えやすくなります。受診の前に、次のような点を思い出しておくと役立ちます。

  • 何時ごろ布団に入り、何時ごろ眠りにつくか(入眠困難があるか)
  • 夜中に目が覚めることがあるか、あるなら何回くらいか(中途覚醒があるか)
  • 朝は何時ごろ目が覚めるか、その後また眠れるか(早朝覚醒があるか)
  • 朝、実際にベッドから出るのは何時か
  • 日中に眠気やだるさがあり、仕事・家事・勉強などに支障が出ていないか
  • いびきを指摘されたことや、気分の落ち込みがないか

数日でも睡眠の記録(簡単なメモで構いません)をつけておくと、ご自身の眠りのリズムが見えやすくなり、診察でも伝えやすくなります。

「8時間眠らないと」を手放してみる

「8時間は眠らないと体に悪い」と思い込み、必要以上に長く布団のなかで過ごそうとして、かえって不眠を気にしすぎてしまう方は少なくありません。けれど、必要な睡眠時間は人それぞれで、年齢とともに自然に短くなっていくものでもあります。日中の生活に大きな支障が出ていなければ、時間の長さそのものを過度に気にしすぎなくても大丈夫なことが多いのです。「眠らなければ」という焦りが、かえって眠りを遠ざけてしまうこともあります。

受診の目安

以下に当てはまるときは、ご相談を検討してみてください。

  • 寝つけない・夜中に目が覚める・朝早く目が覚める、といった状態が数週間以上続いている
  • 日中の眠気やだるさで、仕事・家事・勉強などに支障が出ている
  • いびきを指摘される、または十分眠ったはずなのに昼間の眠気が強い
  • 朝早く目が覚めることに加えて、気分の落ち込みや興味のわかなさがある
  • 市販の睡眠改善薬を使っても改善しない、または使い続けることに不安がある
  • 「眠れないこと」自体が大きな不安やストレスになっている

まとめ

不眠は「眠れない」とひとくくりにせず、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒という3つのタイプで整理すると、背景にある原因が見えやすくなります。寝つきの悪さと朝の起きづらさが重なるときは体内時計のズレを、中途覚醒と日中の強い眠気が目立つときは眠っている間の呼吸の問題を、早朝覚醒と気分の落ち込みが重なるときはこころの面を、それぞれ手がかりとして考えることができます。

「8時間眠らないと」という思い込みを少し手放し、自分の眠り方を観察してみることが、改善への第一歩です。原因に合った対処をすれば、眠りは整えていけます。ひとりで抱え込まず、気になるときはお気軽にご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 精神科臨床ライブ 精神科治療学 増刊号
  • 精神症候学
  • 精神症状の把握と理解

よくある質問

不眠にはどんなタイプがありますか?

大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。寝つくまでに時間がかかる『入眠困難』、いったん眠っても夜中に目が覚めてしまう『中途覚醒(睡眠維持障害)』、朝早く目が覚めてその後眠れない『早朝覚醒』です。複数が重なることもあり、どのタイプが目立つかは背景を考える手がかりになります。

朝早く目が覚めてしまうのは、こころの不調と関係がありますか?

関係していることがあります。朝早く目が覚めて二度寝できない状態(早朝覚醒)は、気分の落ち込みが背景にあるときにみられることが知られています。気分の沈みや興味のわかなさ、朝のつらさなどが一緒にあるときは、早めにご相談ください。診断は医師が行います。

市販の睡眠改善薬を試してから受診しても大丈夫ですか?

眠れない日が続いていて、日中の生活に支障が出ているときは、自己判断で薬を続ける前に一度ご相談いただくことをおすすめします。不眠の背景はタイプによって異なり、別の病気が隠れていることもあります。原因に合った対処を一緒に考えるほうが安心です。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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