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はじめに

「朝4時ごろに目が覚めて、そのあと眠れない」「若いころのようにぐっすり眠れなくなった」——高齢の方やそのご家族から、こうしたご相談をよくいただきます。予定よりずっと早く目が覚めてしまうことを「早朝覚醒(そうちょうかくせい)」と呼びます。

実は、年齢とともに眠りが変わること自体は、体の自然な変化です。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」も、高齢の世代については若い世代とは異なる睡眠のとらえ方を示しています。一方で、早朝覚醒の背後にうつ病などの病気が隠れていることもあり、「自然な変化」と「治療が必要な状態」の見分けが大切になります。

この記事では、同ガイドと日本睡眠学会の「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」をもとに、高齢の方の眠りの変化と早朝覚醒への向き合い方を整理します。なお、診断や治療方針の判断は医師が行います。

年齢とともに眠りはこう変わる

加齢に伴って、生理的に必要な睡眠時間そのものが短くなることがわかっています。あわせて、睡眠・覚醒のリズムを司る「体内時計」も年齢とともに変化し、昼と夜のメリハリが弱まっていきます。その結果、若いころに比べて昼間の眠気や昼寝が増え、夜間に目が覚めている時間が長くなる傾向が生じます。

また、加齢に伴って早寝・早起きの傾向、いわゆる「朝型」が強まることも知られています。夕方から眠くなり、そのぶん朝早く目が覚める——これは体内時計の自然な変化の表れで、それだけで病気というわけではありません。

ここで注意したいのが「光」との関係です。太陽の光は体内時計の調整に最も強い影響力を持ちますが、朝型が強まって困っている高齢の方が早朝に強い日光を浴びると、朝型傾向をさらに強めてしまう可能性が指摘されています。夕方の眠気と早朝覚醒に悩んでいる方は、光を浴びる時間帯にも工夫の余地があります。

「長く寝ようとする」ことがかえって逆効果になる

早く目が覚めると、「睡眠が足りていないのでは」と心配になり、もっと長く寝床にいようとしがちです。しかし、睡眠ガイド2023は、高齢の世代ではむしろ「寝床にいる時間(床上時間)の長さ」が健康リスクになりうることを強調しています。

長く寝床にいても、体が実際に眠れる時間が増えるわけではありません。かえって寝つきが悪くなり、途中や早朝に目が覚めやすくなって睡眠の効率が下がり、「休めていないからもっと寝よう」とさらに長寝をする悪循環に陥りがちです。米国の調査では、65歳以上で床上時間が8時間以上と長く、かつ「眠って休養がとれた感覚」が乏しい場合に、死亡リスクの増加が示されたと報告されています。

ガイドが勧める工夫は、次のようなものです。

  • まず1週間、「寝床にいた時間」と「実際に眠っていた時間」を区別して記録してみる
  • 床上時間の目安は「1週間の平均睡眠時間+30分程度」とし、8時間以上にならないようにする
  • 早く目が覚めて眠れないときは、寝床で考えごとをせず、いったん寝床を離れて静かで暗めの場所で過ごし、眠気が来てから戻る
  • 30分以上の長い昼寝は避ける(目覚ましをかける、家族に起こしてもらうなどの工夫が有効です)
  • 日中はできるだけ太陽の光を浴び、運動や地域活動などで活動的に過ごす

つまり、「早く目が覚めた分を寝床で取り返す」のではなく、日中を活動的に過ごして昼夜のメリハリをつけるほうが、結果として眠りの質を高めやすいのです。なお、必要な睡眠時間には個人差があり、日中忙しく過ごしている高齢の方では成人と同等の睡眠時間が必要な場合もあります。

睡眠薬との付き合い方——高齢の方ならではの注意点

工夫をしても不眠のつらさが続く場合、睡眠薬による治療が選択肢になることがあります。日本睡眠学会のガイドラインでは、高齢の方の不眠症にも睡眠薬の治療効果は確認されているとされる一方、高齢の方ならではの注意点も示されています。

年齢とともに薬を分解・排出する体の働きが弱まるため、薬が体にたまりやすく、効きすぎたり副作用が出やすくなります。特に、睡眠薬によって転倒や骨折が増加するという報告があり注意が必要です(ただし、不眠のまま夜間にトイレへ歩くことでも転倒の危険は高まるとされています)。翌日に眠気が残る、ふらつくといったときは、種類や量の調整が必要かもしれませんので、主治医にご相談ください。

また、睡眠薬は基本的に無期限に飲み続ける薬ではなく、不眠症が良くなったら適切な時期に減薬・休薬を検討するものとされています。ただし、長く服用した薬を急に自分の判断でやめると、不眠の一時的な悪化や不安感などの「離脱症状」が出ることがあります。ガイドラインでは、4分の1錠ずつ1〜2週間かけて様子を見ながら減らすなど、時間をかけた減量が勧められており、減薬は必ず主治医に相談してから行うこととされています。

受診の目安

年齢による自然な変化としての早朝覚醒と、治療を考えたほうがよい状態との線引きの目安として、次のような場合は医療機関への相談をおすすめします。

  • 早朝覚醒とともに、気分の落ち込みや意欲の低下、食欲の低下が続いている(うつ病では発症の初期から睡眠の問題が現れやすいことが知られています)
  • 睡眠時間はとれているはずなのに、休養がとれた感覚がない状態が続く
  • 日中の強い眠気やいびき、脚のむずむず感などがある(50歳代以降は睡眠時無呼吸やむずむず脚症候群などの睡眠障害が増えるとされています)
  • 眠れないつらさで生活に支障が出ている
  • 睡眠薬の減量・中止を考えている、または副作用が心配

なお、強い苦しさで緊急の対応が必要なときは、救急(119)や主治医にご相談ください。

まとめ

  • 年齢とともに必要な睡眠時間は短くなり、朝型が強まって早朝に目が覚めやすくなるのは自然な変化です
  • 「長く寝床にいる」ことはかえって眠りの質を下げます。床上時間8時間以上を避け、長い昼寝を控え、日中を活動的に過ごすことが勧められています
  • 睡眠薬は高齢の方では副作用が出やすいため、使う場合も減らす場合も、主治医と相談しながら進めることが大切です
  • 気分の落ち込みを伴う早朝覚醒や、休養感のなさが続く場合は、病気が隠れていることがあります

「年のせいだから」とあきらめる必要はありませんし、逆に「眠れないのは病気に違いない」と一人で心配し続ける必要もありません。眠りの変化が気になるときは、どうぞお気軽にご相談ください。


参考にした資料(内容の要約・再構成であり、原文の転載ではありません)

  • 健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省・健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会)
  • 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ、2013年)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

朝4時に目が覚めてしまいます。病気でしょうか?

加齢とともに体内時計が朝型に傾き、早寝・早起きの傾向が強まることは自然な変化です。ただし、気分の落ち込みを伴う場合や、日中のつらさが続く場合は、うつ病などの病気が背景にあることもあります。ご心配なときは医療機関にご相談ください。診断や治療方針の判断は医師が行います。

目が覚めてしまったあと、眠くなるまで寝床で待っていてもよいですか?

睡眠ガイド2023では、眠れないときはいったん寝床を離れ、静かで暗めの安心できる場所で過ごし、眠気が訪れてから寝床に戻ることが勧められています。高齢の方では寝床にいる時間(床上時間)が長すぎることがかえって眠りの質を下げるとされ、床上時間が8時間以上にならないことが目安とされています。

高齢だと睡眠薬の副作用が心配です。飲んでもよいのでしょうか?

年齢とともに薬を分解・排出する働きが弱まり、薬が効きすぎたり副作用が出やすくなることがあります。特に転倒・骨折のリスクには注意が必要とされ、日本のガイドラインでは不眠の重さや体の状態をふまえて処方の是非を判断することとされています。翌日に眠気やふらつきが残るときは主治医にご相談ください。

長く飲んでいる睡眠薬を自分でやめてもよいですか?

長期間服用した睡眠薬を急にやめると、不眠の一時的な悪化や不安感などの離脱症状が出ることがあります。ガイドラインでは、少量ずつ時間をかけて減らす方法が勧められており、減薬は自己判断で行わず必ず主治医に相談することとされています。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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