夜中のコンビニやファミリーレストランには行けるのに、昼間は外に出られない。
大人の発達障害について精神科医2人が語り合った本に、そんな人の話が出てきます。
「夜なら出られるのだから、本当は昼間も出られるのでは?」と思う方もいるでしょう。あるいは、人と会うのが怖いのだろうと考えるかもしれません。
実際、人づきあいがつらくて外に出られない方もいます。しかし、人と話すことよりも、外へ出たときの音やにおい、人混みなどがつらい方もいます。
同じように家から出ていなくても、何に困っているかは人によって違います。
「ひきこもり」「外出できない」という言葉だけでは、その違いは見えてきません。
お風呂に入らない理由が、水滴だった
対談には、お風呂に入らない患者さんの話が出てきます。
なぜ入浴しないのかを詳しく聞いていくと、体の上を水滴が伝っていく感触がどうしても嫌だったそうです。そのため、シャワーも湯船も避けていました。
ほかにも、服のタグをすべて取らなければ着られないといった感覚のつらさが話題になります。
入浴しないという行動だけを見れば、生活習慣や意欲の問題だと考えるかもしれません。しかし、水滴が肌を伝う感触そのものが苦痛であれば、話は変わってきます。
感覚過敏というと、音も光もにおいも、何もかも敏感に感じる状態を想像するかもしれません。
対談で語られているのは、必ずしもそういう人ばかりではないということです。特定の音だけがつらい人もいれば、ある触れ方だけが耐えがたい人もいます。
さらに意外なのが、体の内側の感覚についての話です。
体内の感覚には過敏な場合も鈍い場合もあり、空腹や喉の渇きに気づきにくい人もいると語られています。
感覚の困りごとは、単純に「人より何でも敏感」という話ではありません。
対談した医師の一人は、自身が成人を対象に調べた際には聴覚の過敏さがもっとも多いようだったと述べています。また、かつては感覚過敏が大人になると消えると教えられていたものの、実際には成人になっても続くことがあると話しています。
見た目には普通に日常生活を送っているようでも、実は相当な苦労をしている人がいるという指摘もあります。
これは外出の話にもつながります。
「家から出ていない」という結果は分かっていても、外に出ようとしたとき何がつらいのかまでは、その言葉から分かりません。
電車の音が苦手とは限りません
駅のホームで電車が入ってくるとき、耳を押さえたまましゃがみ込んでしまう人がいると対談では語られています。
大きな音がつらいのであれば、電車に乗ること自体が大きな負担になるのも想像できるかもしれません。
ところが、別の例では困っているのが音ではありません。
体に伝わる速さの変化がつらくて、停車駅の少ない列車には乗れない人もいるというのです。
どちらも「電車が苦手」と表現できますが、つらさの中身は異なります。
電車の音が苦手なのか、速度の変化がつらいのか。それとも人が多いことや、別の理由が関係しているのか。
そこを聞かずに「電車に乗れない」とだけ捉えていても、何が負担になっているのかは分かりません。
対談では、人混みやにおいが負担になっている人も挙げられています。都会を離れた場所で過ごすと、外に出られない状態が治まる人がたまにいるという話も出てきます。
場所が変わることで負担も変わるのであれば、外出できるかどうかを本人の意欲だけで説明することはできません。
同じ「外に出られない」という状態でも、何が妨げになっているのかを具体的に確かめる必要があります。
音・光・においなどのつらさについては、感覚過敏とは?音・光・においがつらいときでも詳しく扱っています。
夜中なら外に出られる人もいます
対談には、耳栓を使えば外へ出られる人や、イヤーマフ、サングラス、マスクなどを身につけて出かける人が登場します。
周囲から受ける刺激が少ない夜中なら、24時間営業のコンビニやファミリーレストランへ行ける人もいるそうです。
昼間は難しくても、夜なら出られる。
そう聞くと、「やろうと思えばできる」と受け取られてしまうかもしれません。しかし、その人にとって昼と夜で何が違うのかを尋ねると、別の話が見えてくることがあります。
たとえば人混みや音、においなどが負担になっているなら、周囲の刺激が少ない時間帯のほうが外出しやすいという説明が考えられます。
ただし、ここで一つ大事な点があります。
夜なら出られるからといって、感覚の問題だとは決まりません。
対談でも、夜中なら出かけられるという形は社交不安症(社交不安障害)でも起こるため、区別することや両方が関係している可能性を考える必要があると話されています。
人からどう見られるか、どう評価されるかが怖い場合は、社交不安症(対人恐怖・あがり症)の話につながります。
また、電車や人混みが怖い場合でも、その場からすぐに立ち去れないことや、助けを呼べないことへの不安が中心であれば、広場恐怖という別の視点があります。人とのやりとりの負担が、電話に出られない・かけられないという形で現れることもあります。
感覚の負担と人づきあいの負担が一緒にある人もいますし、うつや不安など、ほかの状態が背景にある場合もあります。
感覚がつらいというだけでASD(自閉スペクトラム症)と決められるわけでもありません。
つまり、外出できない理由を最初から「人間関係」「感覚過敏」「発達障害」のどれか一つに当てはめる必要はないのです。
診察で知りたいのは、どの言葉が当てはまるかだけではありません。
人の多い場所ではどうなるのか。電車の中では何がつらいのか。昼と夜で違いがあるのか。外に出た後はどうなるのか。
その一つひとつが、その方の困りごとを理解する手がかりになります。
20年間、部屋で漫画を描き続けた人
対談にはもう一つ、考えさせられる話が出てきます。
漫画家を目指して、20年ほど部屋で漫画を描き続けている人の話です。
漫画は売れていません。生活費は親からもらっていて、本人は今の生活に特に問題を感じていません。
最初は少し抑うつ状態になったことで病院を受診し、その後10年ほど診察を続けているそうです。医師が話をしている時点でも、本人は変わらず漫画を描き続けています。
一方、親には心配があります。
自分が亡くなった後、この子はどうやって食べていくのだろうか。
本人にとって今の生活が問題なくても、親にとっては将来の生活が大きな問題です。
この患者さんを診ている医師は、少しずつでもアルバイトを始めるように助言しています。同時に、年金などの社会資源を使えば、現在の暮らし方を続けられる可能性にも言及しています。
この話が面白いのは、「外に出て働けば解決する」とも「本人が望んでいるのだから何もしなくてよい」とも、簡単には結論づけられないところです。
本人が今困っていることと、家族が将来について心配していることは、同じではありません。
また、外に出ること、働くこと、人と交流することも、それぞれ別の話です。
外に出て仕事をしていても友人関係はほとんどない人がいます。一人で仕事をする生活が合っている人もいます。仕事をしながら人づきあいも楽しむ人もいれば、そうではない人もいます。
どんな暮らし方を目指すのかを考える際に、外出、就労、対人交流を一つの目標として扱ってよいのか。
対談はそのことを問いかけています。
外出や就職だけを、ゴールにしない
対談では、外に出られない方を全員、外へ出す必要があるのだろうかという問いも出てきます。
ご本人が今の暮らしに困っておらず、身に危険がなく、周囲との間でも問題が起きていないのであれば、今の暮らし方でよいという人もいるのではないか。
医師の一人はそのような考えを述べています。
もちろん、その人の社会生活の力や暮らしの状況によって話は変わります。外に出られないことで現に困っている人や、生活が成り立たなくなっている人まで、同じように考えてよいという意味ではありません。
対談では、支援の場で「友達を作る」「社会に適応する」「コミュニケーション能力を伸ばす」といった目標が、一律に設定されがちなことにも疑問が示されています。
そうした目標が合う人もいるでしょう。しかし、一人で安定して暮らしたり、対人交流の少ない仕事を続けたりするほうが合っている人もいます。
本人の希望や状態に合わない目標を押しつければ、かえって大きな負担になり得るという指摘です。
発達障害のある人は一見すると普通に見えるため、社会から「働かなければならない」という圧力を受けやすいのではないか、という話も出てきます。
また、外からは問題なく働いているように見えても、本人は長いあいだ無理をして周囲に合わせてきたという場合もあります。今の状態だけを見るのではなく、それまでの生活の経過も関係してきます。
そして対談では、「引き出し屋」と呼ばれるような、本人の意思に反して力ずくで外に出させるやり方が、破壊的なものとして強く批判されています。
外に出ることが目標だとしても、本人を無理やり連れ出せばよいという話にはなりません。
なお、暴力や強い支配がある関係で外出が妨げられている場合は、負担を話し合って解決するという考え方を当てはめず、身の安全を優先します。詳しくは安全が脅かされているときにまとめています。
そうした状況ではない場合、ご家族が関わり方を考えるうえでも、外に出るよう促す前に何が負担なのかを知ることが手がかりになります。
本人が何に困っているのか。本人自身はどう暮らしたいのか。そして、その生活を続けていくうえで何が問題になっているのか。
これらを分けて考えることが大切です。
ご家族の声のかけ方や待ち方、ご家族自身の疲れについては、ひきこもりが長引く家族への関わり方で扱っています。仕事や職場での配慮については、ASDと仕事も参考になります。
「出られなかった」の先にある話を聞く
当院では休養がうまくいっていない方に、「休めていますか」ではなく、「休もうとすると何が邪魔をしますか」 と尋ねています。
外出について考えるときにも、この聞き方は役立ちます。
「外へ出られませんでした」という結果だけでなく、出ようとしたとき何が起きたのかを振り返ると、困りごとの中身が少しずつ具体的になります。
玄関まで来ると体が止まってしまうのか。出かけることはできても、帰宅後に何日もぐったりしてしまうのか。
人と会うことがつらいのか。それとも誰とも話さなくても、店や乗り物の中にいるだけでつらくなるのか。
そうした違いは、診察でも手がかりになります。
次のような状態が続いているときには、相談を考えてみてください。
- 出かけようとすると体が止まる日が続いたり、外出後に何日も動けなくなったりします。
- 人に会うときだけでなく、店や乗り物の中でもつらくなり、音、におい、光などから離れたくなります。
- 入浴、着替え、歯みがきなどが億劫になったり、眠れない、食事が取れない、気分の落ち込みが続いたりします。
- 外に出られないことを自分の努力不足だと責めたり、周囲から外出を促されることが負担になったりします。
こうした状態は、必ずしも発達障害によるものとは限りません。感覚のつらさ、人づきあいの不安、うつなど、さまざまな可能性があります。
病名をつけることと、今困っていることについて相談することは別です。外出や就労を今後の目標にするかどうかも、最初から決めておく必要はありません。
春日メンタルクリニックでの相談
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科で、18歳以上の方を診療しています。
初診はWEB予約(デジスマ)で受け付けており、受診前にWEB問診へお答えいただく形です。問診には「外に出られない」とだけ書いていただいても構いません。詳しい状況は診察で伺います。
初診の所要時間はWEB問診を含めて30分程度が目安です。初診では服用中の市販薬やサプリメントについても確認しています。通院が始まった場合は基本的に2週間に一度で、再診の所要時間は5分前後です。
当院では成人のASD・ADHDの評価と診断も行っており、診察での聞き取りを中心に判断します。うつや不安で受診された方についても、必要に応じて発達特性が背景にないかという視点を持って診察しています。
心理検査は当院では行っていません。検査をご希望の場合は実施している医療機関をご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。診断について詳しく知りたい方は、大人のASDの診断もご覧ください。
話したくない事情がある場合は、その出来事を無理に話していただく必要はありません。話せないことが体調に影響しているようなら、そのこと自体を診察で扱えます。
外に出られる日があっても、出られない日があっても、その違いには何か手がかりがあるかもしれません。
夜中のコンビニには行けるのに昼間は出られない人も、電車の音が苦手な人も、シャワーの水滴がつらい人もいます。
「何ができなかったか」だけでなく、そのとき何が起きていたのか。
そこから考えると、「外に出られない」という一言では分からなかったことが見えてきます。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 宮岡等・内山登紀夫『大人の発達障害ってそういうことだったのか その後』(医学書院、2018年)第4章のうち、外に出られない状態をめぐる対談部分。あわせて同章「症状①」「リハビリテーション」「引きこもり②支援」、第5章「ケース③ 退職後に仲が悪くなる夫婦」の対談部分
よくある質問
夜なら外出できるのは、社交不安症だからですか。
そうとは限りません。夜は刺激が少ないために外出しやすい人もいますが、社交不安症でも夜なら出かけられることがあります。両方が関係している可能性もあるので、昼と夜で何が違うのかが診察の手がかりになります。
耳栓やサングラスを使えば外に出られるようになりますか。
道具を使うと外出できる人が対談で紹介されていますが、誰にでも当てはまる方法とは限りません。刺激をやわらげるために使う場合と、人からどう見られるかという不安を避けるために使う場合では、意味が異なります。後者については「社交不安症の「安全行動」がかえって不安を強くする理由」で扱っています。
以前は通勤できていたのに、今は外に出られません。発達障害でしょうか。
対談では、周囲に合わせて長いあいだ無理を続けてきた人の話が出てきます。ただし、以前働けていたことや今外出しづらいことだけで、発達障害とは決められません。いつから、どんな場面で、何が負担になったのかを生活の経過とともに考えていきます。
家族は外へ出るよう促さないほうがよいですか。
声のかけ方に一つの正解があるとは限りません。ただ、対談では本人の意思に反して力ずくで連れ出す方法を破壊的だと批判しています。外出を勧める前に、本人が何に困っているのか、どんな条件で負担が変わるのかを確かめるところから考えます。