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「発達障害だと思います」と診察で説明され、家に帰ってから「では、明日から何を変えればよいのでしょうか」と戸惑うことがあります。名前を聞いても、朝の支度が間に合わないことや、書類の期限を過ぎてしまうことへの対処は見えてきません。

「発達障害」はどこまで説明してくれる言葉なのでしょうか。ASDやADHDと分かれば、その先は決まるのでしょうか。

「発達障害」は「感染症」に似たくくりです

「発達障害」は一つの病名ではなく性質の違うものをまとめた呼び方です。このなかにASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、知的障害、学習障害などが含まれます。

宮岡等医師と内山登紀夫医師の対談をまとめた本では、感染症や膠原病に似た言葉の組み立てだと説明されています。たとえば「感染症」と聞いただけでは、どの菌によるものか、どう治療するかまでは分かりません。「発達障害」もそれだけでは個々の状態や対応まで分からない広い呼び方です。

生まれつきの要因や、暮らしを支える仕組みを考えるときには、まとめて扱うことが役立つ場合もあります。日ごろの会話で「発達障害」という言葉から話を始めるのも自然なことです。一人ひとりへの支援を選ぶ段階では、そこからさらに詳しく確かめていきます。

ASDと分かれば対応は決まるのでしょうか

ASDとADHDでは困りやすいところも、合う対応も同じではありません。両方が重なる場合もあります。違いや重なりはADHDとASDは何が違うのかで扱っています。

対談の終わりには、診断名の必要性をめぐって、二人が意見を交わす場面があります。

宮岡医師は診断名があることで、かえって一人ひとりの違いを見なくなるのではないかと懸念しています。ASDといっても環境によって現れる特性はさまざまです。ひとまとめにすると、同じ対応でよいと思い込んでしまわないかという疑問です。

これに対して内山医師は診断名があったほうがよいと答えています。ASDという見立てがあれば、情報を見て分かるようにする、情報を整理する、環境を整える、指示を具体的にするといった大きな方向を考えられると述べています。そのうえで一人ひとりを評価して具体策を考えるという立場です。

支援の中身はASDやADHDという見立てと、実際に困っている場面の両方から考えていきます。名前だけではどの場面でどのような支援が必要かは分かりません。困りごとだけでは何から来ているのか見通しにくいこともあります。

仕事ができていたのに昇進後に行き詰まります

同じ本にはエクセルで表を作る仕事ではうまくいっていた人が、昇進して人事管理を担うと、抑うつや不安が強くなった例が出てきます。

経理や研究など自分の担当に取り組む仕事から、人を管理する仕事へ変わると、求められることも変わります。内山医師はその変化で負担が増え、昇進しなければよかったと悩むことがあると話しています。

仕事ができていたときの様子も、いま困っている様子も、その人を知るための情報です。昇進前後で仕事の中身がどう変わったかまで分かると、支援を考える手がかりが増えます。

「メモを取る」にもいくつもの作業があります

暮らしの工夫にも、同じように個別の困り方を見る場面があります。たとえば「忘れないようにメモを取る」という工夫です。

メモを取るには話を聞きながら書くことや、文字を書く力が要ります。さらに書いたものを保管し、必要なときに探して取り出すところまで含まれます。対談ではADHDのある人にとって保存や検索が難しい場合があると説明されています。せっかく書いても、ほかのメモと混ざったりなくしたりすると、見返したいときに見つかりません。

メモを書くことが苦手な人には、スマホで写真に残す方法が提案されています。手帳やスマホのカレンダー、リマインダーが役に立ち、作業を進めやすくなる人もいます。書くことが難しいのか、あとで探せないのかまで分けてみると、試したい工夫も具体的になります。

暮らしの工夫は診断名が決まる前から始められます。診断を確かめることと、今日の困りごとに対処することは並行して進められます。場面に合う工夫は大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイドに、診断後の生活の立て直しは発達障害と診断された「その後」にまとめています。

細かい名前がすぐに決まらないこともあります

ASDなのか、ADHDなのか、両方があるのかは、その場ですぐに一つの答えが出るとは限りません。対談では診断基準に並ぶ特徴は主に子どもを念頭に置いて書かれていて、大人ではどんな形で現れるかを読み替える必要があると説明されています。年齢や性別、知的な面によっても現れ方には幅があります。

検査を受ければ、それだけで名前が決まるわけでもありません。検査で分かることと分からないことは発達障害の検査でわかること・わからないことで説明しています。診断の進み方は大人のADHDの診断と大人のASDの診断も参考になります。

「いまは一つに絞れない」という段階でも、どこまで分かっていて、何をこれから確かめるのかは共有できます。その情報も、次に何をするかを考える材料になります。

また、診察で「発達障害」という大きな言葉が使われたからといって、医師が細かい見立てをしていないとは限りません。その一言だけではどこまで診断が進んでいるかは外から分かりません。

次の診察で何を尋ねればよいでしょうか

いまの通院を続けながら、主治医に「私の場合、ASDやADHDのどのあたりで考えておられますか」「これから何を確かめていきますか」と尋ねてみてください。

あわせて伝えたいのは、実際に行き詰まっている場面です。「朝の支度が間に合いません」「書類の期限をいつも越えてしまいます」「人と会った日の夜は動けません」といった伝え方です。話を整理しきれていなくても、思い出した順で構いません。言葉にしにくい場合や、話しにくい事情がある場合は、その話しにくさ自体も診察で相談できます。

まだ受診していない場合も、次のようなことが続いていれば相談の目安になります。

  • 寝つけない日が続いたり、食事の量や体重が変わってきたりしています。
  • 気分が晴れず、以前は楽しめたことに手が伸びません。
  • 段取りが立たず、やるべきことや書類がいつも間に合わなくなっています。
  • 人と会ったあとにひどく消耗し、動けなくなります。
  • 場所や職場が変わっても、いつも同じようなところで行き詰まると感じます。
  • 何と呼ばれる状態なのか分からず、相談してよいか迷っています。

初めて相談する方も、これからどうするかを決めかねている方も、診察で困っている場面から話を始められます。

当院では困っている場面を問診で伺います

当院では18歳以上の方を対象に、問診(診察での聞き取り)を中心にASD・ADHDの評価と診断を行っています。

心理検査(知能検査・心理テスト)は当院では行っていません。検査をご希望の場合、実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

うつや不安で受診された方についても、必要に応じて背景に発達特性がないかという視点を持って診察しています。


参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 宮岡等・内山登紀夫『大人の発達障害ってそういうことだったのか その後』(医学書院、2018年)第1章および第2章のうち、「発達障害」という言葉のまとめ方をめぐる対談部分。あわせて第2章「操作的診断基準」「診断の副作用」、第3章「非薬物的なアプローチ」、第5章・ケース⑤「昇進後に不適応となった会社員」、第6章「おわりに」を参照。

よくある質問

ASDとADHDの両方に当てはまることはありますか。

両方が重なる場合があります。同じ行動に見えても理由が異なることがあり、どちらか一方の名前に当てはめるだけでは整理しきれないことがあります。

発達障害のチェック項目を調べれば、自分で診断できますか。

診断基準は特徴の要点を並べたもので、項目の照合だけではその人の全体像まで分かりません。現在の困りごとや、特性がどう現れているかも含めて考える必要があります。

診断名を家族に伝えれば、理解してもらえますか。

診断名を伝えたことだけで、理解が進むとは限りません。対談では家族が診断名を理由に本人の考えや言い分を尊重しなくなる場合も指摘されています。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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