全般性不安障害(GAD:generalized anxiety disorder。全般不安症とも呼ばれます)は、仕事・家族・健康・お金・将来など、日常のさまざまな出来事に対する心配や不安が、自分の意思では止められなくなる疾患です。「これが怖い」という特定の対象があるわけではなく、ひとつの心配が落ち着くと次の心配が浮かんでくる——そんな状態が何か月も続きます。
生涯のうちにこの疾患を経験する人は日本ではおよそ3%とされ、決してまれな病気ではありません。男性より女性に多く、男女比はおよそ1:2と報告されています。心配の内容そのものは「現実にありそうなこと」であるために、本人も周囲も「心配性な性格」と受け止めてしまい、治療につながりにくいのがこの疾患の特徴です。
一方で、全般性不安障害は薬物療法と精神療法によって症状の軽減が期待できる疾患です。長く続いた不安がすぐにゼロになるわけではありませんが、治療を続けるなかで「心配にとらわれる時間」が減り、生活を立て直していける方が多くいらっしゃいます。このページでは、症状・原因・診断・治療・受診の目安を順に解説します。
こんなサイン・症状はありませんか
次のような状態に心あたりはないでしょうか。
- 仕事・家族・健康・お金など、心配ごとが次から次へと浮かんで止められない
- 「考えても仕方がない」と頭ではわかっているのに、考えるのをやめられない
- いつも緊張していて、リラックスできない
- ささいなことでイライラしやすくなった
- 疲れやすく、集中力が続かない
- 頭痛や肩こりが慢性的に続いている
- 寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、眠りが浅い
- 動悸や息苦しさがあるのに、内科の検査では異常が見つからない
これらにあてはまるからといって、直ちに全般性不安障害と診断されるわけではありません。ただ、複数の項目が半年近く、あるいはそれ以上続いていて、生活に支障が出はじめているなら、一度専門機関に相談してよいサインです。
症状の詳しい説明
心の症状:止められない心配
全般性不安障害の中心にあるのは、「過剰な心配・不安が続くこと」と「その心配を自分でコントロールできないこと」の2つです。
心配の対象は特定のものに限定されず、仕事のミス、家族の安全、自分の健康、お金のこと、災害のことなど、次々と移り変わっていきます。ひとつひとつは現実にありうる心配であるため、周囲から「心配して当然」「考えすぎなだけ」と受け止められやすく、本人のつらさが伝わりにくい面があります。
対象がはっきりしないまま漂うように続くこのタイプの不安は、専門的には「浮動性不安」と呼ばれます。詳しくは全般性不安症(GAD)とは?「あれこれ心配が止まらない」不安の正体でも解説しています。
体の症状:緊張・疲れ・不眠
不安は心だけでなく、体にもあらわれます。代表的なのは次のような症状です。
- 落ち着きのなさ、そわそわした感じ、緊張感
- 疲れやすさ(気疲れで頭がぐったりする)
- 集中困難
- 易怒性(イライラして怒りっぽくなること)
- 筋肉の緊張による頭痛・肩こり・体のこわばり
- 睡眠障害(寝つけない、途中で目が覚める、眠りが浅い)
さらに、動悸・息苦しさ・発汗・手の震えなど、自律神経(心臓や呼吸などを無意識に調整している神経)の過敏な反応を伴うこともよくあります。体の症状が前面に出ると「心臓や体の病気では」と心配になり、内科を繰り返し受診される方も少なくありません。不安が体の症状としてあらわれるしくみについては、動悸・息苦しさ・手の震え ― 不安が『体の症状』に出るのはなぜ?で詳しく説明しています。
原因・メカニズム
全般性不安障害の原因はひとつに特定されておらず、いくつかの要因が重なって発症すると考えられています。いずれも仮説を含みますが、主に次の3つが挙げられます。
- 素因・気質: もともと緊張しやすい、心配しやすい性質を持っていること。
- 経験・環境: 幼少期や成人後に、強い緊張やストレスを長く強いられる経験をしたこと。発症や悪化のきっかけとして、生活上のストレスが関わることが多いとされます。
- 脳内の神経伝達物質のはたらき: セロトニンなどの神経伝達物質のはたらきの乱れが関与すると考えられています。うつ病とメカニズムが一部共通するとされ、実際に治療薬も類似しています。
「性格が弱いから」「気の持ちようの問題」ではなく、脳と体の反応が関わる医療の対象となる状態です。ご自身を責める必要はありません。
診断と、似た状態との違い
診断基準(DSM-5)の平易な説明
診断には、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)が広く用いられています。要点をやさしく言いかえると、次のとおりです。
- 仕事や学業など日常のさまざまな出来事について、過剰な不安と心配が続いている(不安のある日のほうがない日より多い状態が6か月以上)
- その心配を自分でコントロールすることが難しい
- 落ち着きのなさ・疲れやすさ・集中困難・易怒性・筋肉の緊張・睡眠障害のうち3つ以上を伴う
- そのために強い苦痛を感じているか、仕事や生活に支障が出ている
実際の診断では、症状の経過やほかの疾患の可能性をふまえて医師が総合的に判断します。チェックリストにあてはまることと診断とは別ですので、自己判断で決めつけず、気になる場合はご相談ください。
似た状態との見分け
正常な心配・心配性な性格との違い: 誰でも心配することはありますが、全般性不安障害では心配が過剰で止められず、体の症状を伴い、生活に支障が出る点が異なります。性格と病気の境目については「ただの心配性」と不安症はどう違う?性格と病気の境目で詳しく扱っています。
パニック障害: 突然の激しい発作(動悸・息苦しさ・強い恐怖)が数分単位で高まる「点」の不安が中心です。全般性不安障害は、慢性的な心配が「線」のように続く点で異なります。発作が目立つ場合でも、背景に持続的な心配が隠れていることがあります。
社交不安障害: 不安の対象が「人前・注目される場面」にはっきり限定されている点が異なります。
うつ病: 気分の落ち込みや興味・喜びの喪失が中心の疾患ですが、全般性不安障害と併発することが多く、区別が難しい場合もあります。
体の病気・その他の原因: 甲状腺機能の異常など体の病気や、カフェインの過剰摂取でも不安・動悸が起こることがあります。診察では、こうした要因の可能性も確認します。
治療
治療の柱は「薬物療法」と「精神療法」で、これに生活面の工夫を組み合わせます。認知行動療法などの精神療法は、薬物療法と同等かそれ以上の効果が期待できるとする報告もあり、お薬を使うかどうかを含めて、状態に合わせて医師と相談しながら決めていきます。
薬物療法
- 抗うつ薬(SSRI): 第一選択として用いられることが多いお薬です。効果を感じられるまでに2〜8週間ほどかかることが多く、飲みはじめに吐き気などの副作用が出ることがあります。また、自己判断で急にやめると離脱症状(体の不調)が出ることがあるため、量の調整は必ず医師と相談しながら行います。
- 抗不安薬: 不安が強いときに頓服として使うことがあります。即効性が期待できる一方、長期に漫然と使うと依存のリスクがあるため、慎重に使用します。
- 漢方薬: 効果は穏やかですが安全性が高く、体質や希望に応じて選択肢になります。
精神療法
- 認知再構成(認知行動療法の技法のひとつ): 「最悪の事態が起きるに違いない」といった不安に結びつきやすい考え方の癖に気づき、別の視点がないかを一緒に検討していきます。
- リラックス法: 息をゆっくり長く吐く呼吸法や、今この瞬間の体の感覚に注意を向けるマインドフルネスなど、緊張をゆるめる方法を練習します。
- 段階的な曝露(脱感作法): 心配のために避けてきた行動に、負担の小さいものから少しずつ取り組み、慣らしていく方法です。自己流で一気に進めると挫折しやすいため、無理せず主治医と相談しながら進めます。考え方の基本は避けるほどつらくなる?不安に『少しずつ慣れていく』という考え方で紹介しています。
生活・セルフケア
- カフェインやアルコールの摂りすぎは不安や不眠を悪化させることがあるため、控えめにします。
- 睡眠のリズムを整え、疲れをためすぎない生活を心がけます。
- 不安をかき立てるニュースやSNSを見続けてしまう場合は、見る時間を決めるなど情報との距離の取り方を工夫します。
- 呼吸法など自分なりに落ち着ける方法を、調子のよいときから練習しておくと役立ちます。具体的な手順は不安なときの呼吸の整え方 ― 息が苦しくなりやすい人へをご覧ください。
セルフケアはあくまで治療の補助です。うまくいかなくても自分を責めず、無理せず主治医と相談しながら取り入れてください。
経過と再発予防
全般性不安障害は、症状がよくなったり悪くなったりを繰り返しながら、慢性的に経過することが多い疾患です。特にストレスがかかる時期に悪化しやすいことが知られています。また、ほかの不安症やうつ病を併発することが少なくないため、経過のなかで気分の落ち込みが強くなってきた場合は、早めに主治医に伝えてください。
再発予防のポイントは次のとおりです。
- 症状が軽くなっても、自己判断でお薬を中断しない(再発や離脱症状につながることがあります。減らす時期は主治医と相談して決めます)
- 自分の不安が強まる「予兆」や「引き金」を知っておき、早めに対処する
- 睡眠・休養・リラックス法など、調子を保つ習慣を続ける
- 「心配だから」と行動を避ける範囲が再び広がりはじめたら、早めに受診する
時間はかかっても、こうした積み重ねによって、不安に振り回されにくい生活を取り戻していくことが期待できます。
仕事・生活への影響と使える制度
心配が止まらない状態が続くと、集中力の低下やミスの増加、会議や電話への強い緊張など、仕事に影響が出ることがあります。疲れ果ててしまう前に、業務量の調整や配置の相談など、環境を整えることも治療の一部です。
症状が重く、働きながらの回復が難しい場合には、診断書をもとに休職して治療に専念する選択肢もあります。休職の流れや過ごし方は休職についてをご覧ください。休職中の収入については、健康保険の傷病手当金を利用できる場合があります。
また、通院治療が一定期間続く場合には、医療費の自己負担を軽減する自立支援医療制度を利用できることがあります。制度の利用について迷うときは、診察の際にお気軽にご相談ください。
受診の目安と当院での診かた
次のような状態が続いているなら、受診を検討する目安になります。
- 心配や不安が止まらない状態が数週間〜数か月続いている
- 不眠・疲れ・頭痛・肩こり・動悸などの体の症状がつらい
- 内科で検査をしても異常がないのに、体の不調が続いている
- 心配のせいで、仕事・家事・外出など生活に支障が出てきた
当院では、まずお困りの症状と経過をていねいにうかがい、体の病気やほかの精神疾患の可能性もふまえて診断を整理します。そのうえで、お薬を使うかどうかを含めた治療方針を、生活の事情やご希望と照らし合わせながら一緒に決めていきます。診察では、不安を頭ごなしに否定せず、「できていること」にも目を向けながら、焦らず進めていくことを大切にしています。
初めての受診は緊張されるかもしれませんが、「こんなことで受診していいのか」と迷う段階でかまいません。受診の流れや持ち物は初めての方へにまとめています。なお、死にたい気持ちが強くなるなど心配な状態のときは、早めに主治医(通院中の医療機関)に連絡してください。意識の異常やけがなど緊急の場合は、救急(119)を利用してください。
参考文献
よくある質問
ただの心配性と全般性不安障害はどう違いますか
性格としての心配性は、心配しながらも生活はおおむね回せている状態です。一方、全般性不安障害では心配を自分の意思で止められず、不眠や疲れ、集中力の低下を伴って、仕事や家事など日常生活に支障が出てきます。半年以上そうした状態が続いている場合は、一度ご相談ください。
全般性不安障害は治りますか。治療にはどれくらいかかりますか
適切な治療によって症状が和らぎ、生活を立て直せる方が多い疾患です。お薬の効果が感じられるまでに2〜8週間ほどかかることが多く、その後も再発予防のために一定期間治療を続けることが一般的です。経過には個人差があるため、焦らず主治医と相談しながら進めていきます。
薬を使わずに治療することはできますか
認知行動療法などの精神療法は、薬物療法と同等の効果が期待できるとされており、お薬を使わない選択肢もあります。症状の強さや生活への影響をふまえて、お薬を使うかどうかは医師と相談しながら決めていけますので、薬への不安があればそのままお伝えください。
動悸や息苦しさで内科を受診しましたが異常なしと言われました。精神科に行くべきですか
体の検査で異常が見つからないのに動悸・息苦しさ・頭痛・肩こりなどが続く場合、背景に不安が関わっていることがあります。体の病気が否定されているなら、精神科・心療内科に相談する意味は十分にあります。つらい症状を我慢し続ける必要はありません。
家族が心配ばかりしていて疲れてしまいます。どう接すればよいですか
心配を頭ごなしに否定したり「考えすぎ」と突き放したりすると、ご本人はかえって孤立してしまいます。話を聴いたうえで、できていることに目を向ける声かけが助けになります。ご家族だけで抱え込まず、受診に付き添うなどして治療につなげることをおすすめします。