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連載「お薬はどう選ばれているか」第2回(全3回) 第1回から読む →

「眠れません」と伝えたのに、その場で薬が出ずに質問ばかりされた。あるいは、出してもらった薬が効いている気がしない。この記事は、睡眠薬が実際にどんな見方で選ばれているのかを、患者さん・ご家族に向けて書いたものです。

ここで扱う7剤は、働き方で3つのグループに分かれます。ご自分の薬がどれかを確かめてから読んでいただくと、話が追いやすくなります。

実際にどのお薬を使うかは、その方の状態、体の病気、ほかに飲んでいるお薬によって変わります。ここに書かれていることが、そのままご自身に当てはまるとはかぎりません。服用中の方は、この記事を読んで自己判断でお薬を変えたり中止したりせず、必ず主治医にご相談ください。長く飲んでいる睡眠薬を急にやめると、飲む前より眠れなくなることが知られています。

眠れない理由は、眠りの外にあることが多い

「眠れません」という訴えに対して、医師がその場で睡眠薬を出さずに、いくつも質問を重ねることがあります。素っ気なく感じられるかもしれませんが、これには理由があります。

薬を選ぶ前に確かめることが、いくつもあります。何時に布団に入り、何時に床から出ているか。昼寝をしているか、しているならいつ、どれくらいか。いびきや呼吸の止まりを家族から指摘されたことはないか。夜になると足がむずむずして落ち着かないことはないか。今ほかの科から飲んでいる薬はないか。コーヒーやお酒をどう飲んでいるか。

これらは前置きの世間話ではありません。どれか一つが当たっていれば、そこから先の道筋がまるごと変わります。たとえば呼吸が止まっているタイプの不眠には、眠りを深くするつもりの薬がかえって呼吸の乱れを強めることがあります。足の不快感で眠れないのであれば、必要なのは睡眠薬とは別の治療です。眠る時刻そのものがずれているのなら、眠らせる薬を足しても時計は戻りません。

寝酒についても一言。お酒は寝つきを良くするので助けになるように思われがちですが、実際には眠りを浅くし、夜中に目が覚める原因になり、続けるほど同じ量では効かなくなります。眠るためのお酒が、不眠そのものを悪くしていく。睡眠薬と一緒にとると、効きすぎたり記憶が飛びやすくなったりもします(寝酒そのものは寝酒はなぜ不眠を悪化させる?、薬との関係は精神科の薬とお酒に書いています)。

「眠れない」という言葉は同じでも、その中身は同じではない。だから薬より先に、そこを分ける作業が入ります。そして、原因の側に手を入れたほうが早い場合には、薬はそもそも出番になりません。

「眠れない」と「不眠症」の分かれ目は、夜ではなく昼にある

不眠症という診断がつくかどうかは、夜どれだけ眠れなかったかだけでは決まりません。分かれ目になるのは、日中に困りごとが出ているかどうかです。眠れないというだけでは不眠症とは呼びません。夜に眠れないと感じていても、昼間に眠気も疲れもなく、日中に響いていないのであれば、治療する段階ではないということです。

これは「気にしすぎだ」という意味ではありません。むしろ逆で、眠れた時間の長さではなく、昼間の状態を目安にしましょうという提案です。眠った時間を数えはじめると、数えること自体が眠りを遠ざけます。同じ考え方は「よく眠れた」という感覚(睡眠休養感)でも扱っています。

もうひとつ、年齢の話があります。必要な睡眠時間は年齢とともに短くなり、途中で目が覚める時間も自然に増えていきます。それでも「若い頃と同じだけ眠りたい」という思いから、必要以上に早く布団に入ってしまう。すると布団の中で眠れない時間が長くなり、「途中で目が覚める」「早く目が覚めてしまう」という訴えが生まれます。この形の不眠に薬を足しても、眠りは深くならず、翌日のだるさだけが増えていきます。高齢の方の眠りの変化については、高齢者の早朝覚醒で別に扱っています。

睡眠薬は一種類ではない

長く使われてきた薬の多く――マイスリー、ルネスタ、レンドルミン、サイレースは、脳の活動全体を静めるグループに入ります。眠りに入りやすくなる一方で、筋肉の力が抜けやすくなる、翌朝まで残る、飲んだあとの出来事を覚えていないことがある、といった性質もあわせ持っています。ここには「ベンゾジアゼピン系」と「いわゆるZ薬(非ベンゾジアゼピン系)」という2つの呼び名の薬が含まれますが、名前は分かれていても、脳の中で働きかける場所は同じです。

残る2つのグループは、眠らせにいく薬とは発想が違います。ベルソムラ・デエビゴは、起こしている側のスイッチを静かに降ろすもの。ロゼレムは、夜であることを脳に伝えるものです。

同じ「眠れるようにする」という目的でも、体のどこに、どういう向きで働いているかがまったく違います。したがって、ある薬が合わなかったからといって、次の薬も同じように合わないとはかぎりません。

「強い薬・弱い薬」という一本の物差しでは選べない

「もっと強い薬にしてほしい」と言いたくなることがあると思います。気持ちはよく分かるのですが、睡眠薬はそもそも強さの順に一列に並べられる薬ではありません。

同じグループの中でも、効果が早く出て早く切れるもの、じわりと効いて長く残るものがあります。早く切れる薬は「効いた」という手ごたえがはっきりしますが、その手ごたえのはっきりさは、そのまま手放しにくさにもつながります。長く効く薬は途中で目が覚めにくくなる一方で、翌日に残ります。良いところと困るところが、同じ性質の裏表になっているのです。

さらに言えば、飲む「量」より飲む「時刻」のほうが効き方を左右する場面があります。眠れないから早く布団に入り、眠くならないから薬を飲む、という順番になっていると、薬は眠くなる前の体に投げ込まれることになります。眠れないまま夜中に飲めば翌朝まで残り、昼にだるくなり、その日の夜がまたずれていく。薬を変える前に、飲む時刻を少し動かすだけで解決することがあります。ただし多くの睡眠薬は説明書で「就寝の直前に」と指定されているので、どう動かすかは自己判断ではなく主治医と決めてください。

そしてもう一点、あまり知られていないことがあります。眠っている時間が延びることと、眠りが深くなることは、必ずしも同じではありません。 薬の種類によっては、眠っている時間は増えても深い眠りのほうはむしろ減ることがあります。「眠れてはいるようだけれど、眠った気がしない」という訴えに薬を足していくと、かえって遠回りになる場合がある。ここも、量を増やす前に立ち止まる理由のひとつです。

効いた実感が出にくいタイプの薬がある

体内時計に働きかけるタイプの薬は、飲んですぐ「効いた」という感じが出にくいことが知られています。これは薬が働いていないという意味ではなく、この薬の効き方がそもそもそういうものだ、というだけのことです。

この点は、あらかじめ知っているかどうかで結果が変わります。一晩二晩で判断しなくてよい薬なのだと知って飲むのと、何も知らずに飲むのとでは、同じ薬でも受け取り方がまるで変わります。何も知らずに飲んで効かなければ、「やっぱりだめだった」という記憶だけが残ってしまいます。

ですから、「飲んだのによく分からない」と感じたとき、それはただちに失敗を意味しません。むしろその感想は、次の一手を決めるための情報になります。診察で伝えてください。

増やせば眠れる、という薬ばかりではない

「この量では効かないので、増やしてほしい」と感じることがあると思います。ただ、昔から使われてきたタイプの睡眠薬には、ある量から先は眠りが良くならず、翌日のだるさやふらつきだけが増えていくという性質があることが、薬の仕組みから説明できます。この種の薬は、脳の中でもともと働いている仕組みを後押しするかたちで効くため、後押しできる幅にはじめから上限があるのです。

同じ理屈から、種類を重ねることにもあまり意味がありません。似た働きの薬を2つ3つと足しても、効き目が足し算になるわけではなく、増えるのは翌日の眠さやふらつきのほうです。薬は少ない種類で組み立てるのが基本です。

もうひとつ知っておいていただきたいのは、飲みはじめによく効いたことと、何年も同じように効き続けることは別だという点です。効かなくなったから増やす、を繰り返していくと、薬だけが積み上がっていきます。効かないと感じたときこそ、量を動かす前に、飲む時刻、寝床にいる時間、生活のリズム、そしてほかに原因が隠れていないかを見直すほうが、結果として近道になることがあります。

飲んだあと、翌日にかけて気をつけること

睡眠薬について、飲む前に知っておいていただきたいことが3つあります。

ひとつめは、飲んだらすぐ横になることです。 飲んでから寝るまでのあいだに用事を片づけよう、もう少しテレビを見よう、としているうちに薬が効きはじめると、その間の出来事を覚えていない、ということが起こりえます。かかってきた電話の内容を覚えていない、といった形です。年齢が上がるとこれが目立ちやすくなりますが、若い方に起きないわけではありません。あらかじめ知っておけば、避けやすい出来事です。夜中にお手洗いに立つときは、面倒でも部屋の明かりをつけて、壁を伝って歩いてください。

ふたつめは、お酒と一緒に飲まないことです。 前の節に書いたとおり、効きすぎたり記憶が飛びやすくなったりします。

みっつめは、翌日の運転です。 「くせになりにくい薬」「新しい薬」であっても、翌朝以降に眠気や注意力の低下が及ぶことがあるため、車の運転などを避けるよう注意することが、それぞれの薬の説明書に書かれています。ここは薬の種類による差がありません。そして厄介なのは、本人が眠気を感じていなくても、注意力や反応の速さは落ちていることがあるという点です。「眠くないから大丈夫」という感覚は、この場面では当てになりません。詳しくは精神科の薬と車の運転と薬で日中眠い・だるいをご覧ください。

なお、はじめて飲む夜は、翌日に予定のない日を選ぶと安心して試せます。効きすぎて翌日の仕事に行けなかった、行ったけれどぼんやりして使いものにならなかった、という経験は、その薬そのものへの抵抗感につながってしまうからです。

薬を使わない方法も、治療のひとつです

眠れないことへの治療は、薬だけではありません。眠りについての考え方や、寝床の使い方そのものを組み替えていく方法があり、不眠症の治療の柱のひとつです。

中身はごく具体的です。眠くなるまで寝床に入らない。眠れなければいったん寝床を出る。起きる時刻だけは毎日そろえる。文字にすると当たり前のことばかりですが、不眠が続いている方の生活は、たいていその逆になっています。

先に知っておいていただきたいことがあります。この方法は、はじめのうちはかえってだるくなり、眠気が強くなり、やる気が出にくくなります。それは失敗ではなく、正しく取り組めているしるしです。ここを知らずに始めると、「やってみたけどだめだった」で終わってしまいます。日中の眠気が強く出るので、進め方は薬に頼らない不眠治療(CBT-I)を見て、自己流ではなく専門家の指導のもとで進めてください。

薬が十分に効いていない方が取り組んでも効果が出ることがあります。薬と対立するものではありません。

薬は、眠る力を肩代わりするものではない

眠れない夜が続くと、多くの方が同じループに入ります。眠れないから早く布団に入る。早く入っても早くは眠れないので焦る。焦るとますます眠れない。そして「今日は眠れるだろうか」という不安が毎晩の習慣になり、脳が眠る体制に入れなくなる。

睡眠薬は、このループを断ち切る足がかりとして役に立ちます。ただし飲んでいるうちに「この薬のおかげで眠れている」という受け止め方に変わっていくことがあり、そこから先は「これがないと眠れない」に近づいていきます。薬は眠りに手を貸すところまでで、眠る力そのものを引き受けはしません。

そして薬を始めるときに、どうやってやめるかまで一緒に考えておくと、あとが楽になります。すでに長く飲んでいる方は、睡眠薬をやめたい――急にやめないもあわせてご覧ください。

なお、体の具合が急に悪くなった、意識がはっきりしないといった緊急性の高い状態のときは、迷わず救急(119)を利用してください。通院中の方は、まず主治医にご相談ください。

ご家族へ――ご高齢の方が入院するとき、伝えておいてほしいこと

年齢を重ねた方が体の病気や手術で入院すると、夜になって急に落ち着かなくなったり、日にちや場所が分からなくなったりする「せん妄」という状態が起こることがあります。認知症とは別のもので、体の状態や薬がきっかけで起こります(入院中の家族が急に「別人のように」に詳しく書きました)。

ここで知っておいていただきたいことが3つあります。

第一に、以前そうなったことがあるかどうかが、いちばん大切な情報です。 一度起こった方は次も起こりやすいのですが、これは診療情報提供書やカルテに書かれていないことがほとんどです。ご本人が覚えていないことがあるので、ご家族の記憶が頼りになります。以前の入院や手術のあとに夜だけ様子がおかしくなったことがあれば、入院前の外来で伝えてください。

第二に、眠れないまま放っておくことも、合わない薬で眠らせることも、どちらもこの状態につながります。 眠れないことそのものが起こりやすさを高める一方で、昔からよく使われてきたタイプの睡眠薬は、それ自体が引き金になりえます。「眠れないなら睡眠薬を足せばよい」とはならないのが、この話の難しいところです。入院の予定が分かった時点で、今飲んでいる睡眠薬をどうするかを主治医と相談しておく意味があります。なお、長く飲んでいる薬を入院直前に慌ててやめるのは、かえって危険です。 急にやめること自体が、同じ状態を引き起こしうるからです。

第三に、眼鏡と補聴器を持っていってください。 見えない・聞こえない状態が続くこと自体が混乱を強めます。面会でできることは、上に挙げた記事にまとめました。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。医療者向けに用量やエビデンスまで踏み込んだ内容は、連載「精神科医の処方ノート」の睡眠薬の選び分け――7剤をどう使い分けるかにあります。

  • ジェネラリストのための 向精神薬の使い方(宮内倫也/日本医事新報社)
  • 本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩(稲田健 編/羊土社)
  • こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩(宮内倫也/中外医学社)
  • 精神科臨床Q&A for ビギナーズ(宮内倫也/医学書院)
  • 対話で学ぶ精神症状の診かた(宮内倫也・樫尾明彦/南山堂)
  • 精神診療プラチナマニュアル(松崎朝樹/メディカル・サイエンス・インターナショナル)
  • 研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義(功刀浩 編/金剛出版)
  • せん妄診療実践マニュアル(井上真一郎/羊土社)
  • 自信がもてる! せん妄診療 はじめの一歩(小川朝生/羊土社)

よくある質問

「もっと強い薬に」とお願いすれば、眠れるようになりますか。

睡眠薬は働きかける場所がまったく違う何種類かに分かれていて、一列に並べて強い順を決められる薬ではありません。寝つきなのか、途中で目が覚めることなのか、朝が早すぎることなのか――「どう眠れないか」を伝えていただくほうが、選び直しの手がかりになります。飲む時刻を動かすだけで解決することもありますが、多くの睡眠薬は「就寝の直前に」と時刻が決められているので、どう動かすかは主治医と決めてください。

「ベンゾジアゼピン系ではない睡眠薬」だと聞きました。くせになりにくいのでしょうか。

その呼び名は、薬の骨格の形が違うという意味であって、体の中で働く場所が違うという意味ではありません。この名前が「だから安心」という誤解を生みやすいことは以前から指摘されていて、依存や離脱については同じように注意すべきものとして扱われています。一方で、まったく別の仕組みで働く新しいタイプの薬もあり、そちらは位置づけが異なります。今飲んでいる薬がどちらなのかは、診察のときに確かめておくとよい点です。

飲んでも効いている感じがしません。量を増やしたほうがよいですか。

増やせば増やすほど眠れる、という作りの薬ばかりではありません。効いた実感がはっきり出ないことが最初から想定されているタイプの薬もあります。量を動かす前に、飲む時刻や寝床にいる時間、ほかに原因が隠れていないかを見直すほうが近道になることがあります。いずれも自己判断で動かすものではないので、感じたことをそのまま主治医にお伝えください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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