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連載「お薬はどう選ばれているか」第3回(全3回) 第1回から読む →

「もっと弱い薬に変えてほしい」。抗不安薬について、そう思うことがあるかもしれません。ところがこの薬は、弱いものに替えれば楽になるとはかぎらない、という少し変わった性格をしています。この記事は、抗不安薬が実際に何をしてくれる薬なのかを、患者さん・ご家族に向けて書いたものです。

この記事が主に扱うのは、ベンゾジアゼピン系と呼ばれる系統の抗不安薬です。効果の天井と依存についての話は、この系統に限った話で、まったく別の仕組みで働くセディール(タンドスピロン)には当てはまりません。それ以外の注意――お酒、飲んだあとの記憶、運転――は、セディールを飲んでいる方にも当てはまります。

お薬そのものの説明をお探しの方は、デパス、ワイパックス、ソラナックス、メイラックス、リーゼ、セディールの各ページをご覧ください。

実際にどのお薬を使うかは、その方の状態、体の病気、ほかに飲んでいるお薬によって変わります。ここに書かれていることが、そのままご自身に当てはまるとはかぎりません。服用中の方は、この記事を読んで自己判断でお薬を変えたり中止したりせず、必ず主治医にご相談ください。ベンゾジアゼピン系の薬は、急にやめると不安や不眠がかえって強く出ることが知られており、自己判断の中断はとくに避けたい行動です。

「不安を消す薬」ではなく、「不安の高さを下げる薬」

抗不安薬というと、飲めば不安がなくなる薬、という印象を持たれることが多いように思います。この薬に与えられている役割は、少し違うところにあります。

この薬の大きな利点は、締めつけられるような不安や体のつらさがいったん緩み、気持ちに余白が生まれることにあります。その余白があってはじめて、暮らしの立て直しや、時間のかかる心理的な取り組みに手がつけられます。病気の根を治す薬ではなく、対症療法として位置づけられています。

つまり効果の本体は、不安をゼロにすることではありません。不安の高さを、対処できるところまで下げる。そして下がっているあいだに、生活の立て直しや、不安との付き合い方の練習といった、時間のかかる作業を進める。抗不安薬は、そのための土台づくりの薬です。

頓服を渡すときには、こんな説明の仕方が勧められています――今はとてもつらいから、少し楽になるだけでも大きな変化に感じられるはずです。ただ治療が進むにつれて、この頓服は飲んでも飲まなくても変わらないくらいの位置に下がっていきます。

よく効く薬であるがゆえに、難しさがある

抗不安薬には、飲んでしばらくすると楽になるのが自分でも分かるタイプのものがあります。とくに、発作のように突然襲ってくる強い不安に対して、こうした薬は本当に助けになります。ところがこの長所は、そのまま短所の裏返しでもあります。効いた実感が得られる薬は、その実感を求めてまた飲みたくなり、飲む回数がじりじり増えていく。効いている時間が短ければ、切れたつらさを埋めるためにまた飲むことになります。この道筋の詳しい話は抗不安薬と依存にあります。

ここで押さえておきたいのは、「効いた感じがはっきりする薬」と「よい薬」はイコールではないということです。飲んですぐ効くほうが優れた薬だ、と感じられやすいところがありますが、抗不安薬に関してはその直感が裏目に出ることがあります。

もうひとつ、あまり知られていない性質があります。短い時間で切れるタイプの薬は、減らしているときだけでなく、指示どおりに飲み続けている最中でも、効果が切れる時間帯に不安が強まることがあるとされています。「薬が切れると不安になるので、もっと必要だと思う」という感じ方は、決して気のせいではありません。ただし、そこで量を増やすと、効いている時間と切れている時間の落差がかえって大きくなることがあります。この訴えは、増やすべきサインというより、飲む時刻や薬のタイプを見直すきっかけです。切れ目のつらさが強いときは、より長く効くタイプに置き換えてから減らしていくのが理屈のうえでは適切だとされています。

「もっと弱い薬に変えてほしい」が、思ったとおりにならない理由

依存が心配だから、眠気がつらいから、という理由で「もっと弱い薬に変えてほしい」というご希望をいただくことがあります。もっともなご希望ですし、伝えていただくのは大事なことです。ただ、実際にはご期待どおりにならない場合があり、その理由はいくつかに分かれます。

ひとつは、強さの目盛りが一直線ではないことです。抗不安薬には「効き味がシャープなタイプ」と「穏やかなタイプ」という違いと、「短く効くタイプ」と「長く効き続けるタイプ」という違いが、別々の軸として存在します。穏やかなタイプに変えれば、当然ながら効いた実感は薄くなります。すると「効かないからもう1回」となりやすく、かえって飲む回数が増えてしまうことがあります。

もうひとつは、錠剤に書かれた数字の大小が、強さの順番を表していないことです。同じ「抗不安薬」でも、1錠に含まれる量は薬によってまったく違います。むしろ一般には、1錠あたりの量が少ない薬ほど効き味がシャープです。錠剤の数字が小さいから弱い薬、大きいから強い薬、という読み方は成り立ちません。

三つめは、増やしても効果には天井があることです。この種類の薬は、ある量を超えると不安を抑える力はそれ以上伸びず、眠気やふらつきといった副作用だけが増えていきます。これは薬の仕組みそのものから説明できることです。ですから「弱い薬をたくさん」という組み立ても、期待どおりにはなりにくいのです。

「依存の心配が少ない薬に変えたい」というご希望についても、同じ注意が当てはまります。実際、依存性がないとされる抗不安薬(セディールなど)もあります。ただしその薬は、飲んだその日に効くタイプではなく、効き目も穏やかだとされています。しかも、薬の公式な説明書には症状が強い方や、長く症状が続いている方、これまでの抗不安薬で効果が不十分だった方には効きにくいという趣旨の注意まで書かれています。つまり「今までの薬が合わなかったから、依存しない薬へ」という切り替えは、その薬がもっとも力を出しにくい状況と重なりやすいのです。それでも選ぶ価値がある場面はありますが、効き方が違うことを先に知っておくかどうかで、結果の受け取り方はかなり変わります。

もうひとつ、種類は多くても、実際に選ばれる薬はごく一部という事情があります。日本で使える抗不安薬の一覧はかなり長いのですが、自分が使うのは数種類だけだと書いている専門書の著者がいます。使い慣れた薬のほうが、効き方も副作用の出方も予測しやすいからです。一覧が長いことと、選択肢が多いことは、同じではありません。

「抗不安薬」と「睡眠薬」は、はっきり分かれていない

もうひとつ、誤解されやすい点があります。抗不安薬と睡眠薬は、まったく別の薬だと思われがちですが、薬の仕組みから見ると、その境目はかなりあいまいです。

抗不安薬・鎮静薬・睡眠薬のあいだに、はっきりした線は引かれていません。日中に飲むものをそう呼び分けている、というだけのことです。この系統の薬はどれも「不安をやわらげる」「眠気をもたらす」「筋肉の緊張をゆるめる」「けいれんを抑える」という作用を併せ持っていて、そのうち不安をやわらげる働きが相対的に強いものを抗不安薬と呼んでいるにすぎません。

実際、デパス(エチゾラム)のように、抗不安薬の表にも睡眠薬の表にも載っている薬があります。「抗不安薬と睡眠薬の両方が出ている」という状況が、必ずしも二種類の別の治療をしていることを意味しない、というのはここから来ています。睡眠薬側の話は睡眠薬はどう選ばれているのかで扱っています。

同じ理由から、同じ系統の薬を何種類も重ねても、効果が足し算になるわけではないことも知られています。同じ場所に働く薬を並べても、効き目の上限は上がらず、眠気やふらつきだけが増えていく。だからこの系統の薬については、種類を絞って使うのが基本です。「もう一種類足してほしい」というご希望に医師が慎重になるのは、出し惜しみではなく、この仕組みが理由です。

不安の原因が体の側にあることもある

不安や動悸が続いているとき、その原因が心の側だけにあるとはかぎりません。不安症の治療を始める前に確かめておくべき体の病気が、いくつもあります。

とくに繰り返し挙げられるのが甲状腺のはたらきすぎです。患者さんの数が多いこと、症状が重くなりうること、心の病気と間違えられやすいこと、そして多くの場合は治療がよく効くこと――この4点から、メンタルヘルスの臨床でとりわけ重要な病気の一つに挙げられています。不安・イライラ・焦り・落ち着かなさ・動悸といった形で現れるため、血液検査で確かめておく価値があります。

このほか、不整脈をはじめとする心臓の病気、喘息などの呼吸器の病気、まれではありますが血圧に関わるホルモンの病気なども、突然の不安発作とよく似た症状を起こすことがあります。カフェインやお酒、ニコチン、ほかの科から出ているお薬の影響も同じリストに並びます。「発作が場所や状況と関係なく起きる」「前ぶれの不安がない」といった、いつもと形が違う出方をするときは、体の側の検査が先になることがあります。精神症状の陰に体の病気が隠れている場合については精神症状の陰に隠れる「体の病気」に、不安が体の症状として出る仕組みそのものについては動悸・息苦しさ・手の震えに書いています。

なお、いま飲んでいる抗不安薬そのものが不安の原因になっている、という可能性も同じリストに挙がっています。だからこそ、症状が続くときに薬を足す前に、まず今の処方を見直すという順番になることがあります。

飲んでいるあいだに知っておきたいこと

抗不安薬を使うあいだ、いくつか押さえておきたい点があります。いずれも、知っておけば避けられるものです。

まず、お酒と一緒に飲まないこと。この薬とお酒は働きが似ているため、重ねると効きすぎたり、判断や行動のブレーキが効かなくなったりすることがあります。詳しくは精神科の薬とお酒をご覧ください。

次に、飲んだあとの出来事の記憶が残らないことがあるという点です。飲んだあとにかかってきた電話の中身が、あとで思い出せない、といったことが起こりえます。あらかじめ知っておくこと、お酒と一緒にしないこと、眠るために飲んだのならすぐ横になること。この3つで避けやすくなります。

そして、いちばん誤解されやすいのが、眠気を感じていなくても注意力は落ちているという点です。本人に眠気の自覚がなくても、集中力や反応の速さは低下していることがあります。今回扱う薬はいずれも、薬の公式な説明書で自動車の運転などを避けるよう求められています。依存しにくいとされる薬でも、この点の扱いは同じです。精神科の薬と車の運転と薬で日中眠い・だるいもあわせてご覧ください。

最後に、ふらつきと転倒です。とくに年齢を重ねた方では、同じ量でも効きすぎたり、翌日まで残ったりしやすくなります。夜中にお手洗いに立つときは明かりをつける、といった工夫が役に立ちます。転びやすさは薬だけの問題ではないので、薬をやめること以外にもできることがあります。

治療の目標は、不安がゼロになることではない

最後に、この記事全体を通じていちばん大事な点に触れておきます。

不安の治療で繰り返し言われるのは、不安がなくなった状態をゴールに置かない、ということです。大切なのは、不安があってもやりたいことができたかどうか。「不安があってもできた」という実感を積み重ねていく、という考え方です。不安を消そうと身構えるほど不安のほうが強くなるので、正面から相手にしないという構え方もあります。

この視点は、薬の使い方にも直接はねかえってきます。抗不安薬が「この薬がないと外に出られない」という形の支えになってしまうと、かえって不安から抜けにくくなることがあります。最初の節で挙げた「治療が進むにつれて、この頓服は飲んでも飲まなくても変わらないくらいの位置に下がっていく」という説明は、この構えから出てきています。

一方で、持っているだけで安心できること、そのものに意味があるという見方もあります。「いざとなればこれがある」と思えるおかげで外出できた、という経験は、それ自体が治療の一部です。安心の支えになっている状態と、飲まないといられない状態は地続きなので、いま自分がどのあたりにいるかを主治医と確認しながら使っていくことになります。

つまり、うまくいっているときほど、この薬の存在感は薄くなっていきます。それが自然な経過です。頓服との付き合い方については頓服薬の上手な使い方、依存への不安については抗不安薬と依存でも扱っていますので、あわせてご覧ください。

このことは、いつ減らすかを飲み始めの時点で話しておくことの意味にもつながります。何のために出すのかと、いつ止めるのかを先に決めてから処方する。始めた薬は、やめきるところまで面倒を見る。専門書が繰り返し書いているのは、この姿勢です。減量の話を切り出すのは、調子が悪くなったからでも、通院をやめてほしいからでもありません。最初からその予定だった、という状態にしておくほうが、あとがずっと楽になるからです。逆に、症状が落ち着いた後も抗不安薬だけが残ってしまうと、そこから減らすほうが難しくなることが知られています。減らし方そのものについては、睡眠薬をやめたい――急にやめないをご参照ください。

なお、体の具合が急に悪くなった、意識がはっきりしないといった緊急性の高い状態のときは、迷わず救急(119)を利用してください。通院中の方は、まず主治医にご相談ください。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。医療者向けに用量やエビデンスまで踏み込んだ内容は、連載「精神科医の処方ノート」の抗不安薬の実際――ベンゾジアゼピンに何ができて、何ができないかにあります。

  • ジェネラリストのための 向精神薬の使い方(宮内倫也/日本医事新報社)
  • こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩(宮内倫也/中外医学社)
  • 本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩(稲田健 編/羊土社)
  • 研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義(功刀浩 編/金剛出版)
  • 精神科臨床Q&A for ビギナーズ(宮内倫也/医学書院)
  • 対話で学ぶ精神症状の診かた(宮内倫也・樫尾明彦/南山堂)
  • 精神診療プラチナマニュアル(松崎朝樹/メディカル・サイエンス・インターナショナル)
  • 器質か心因か(尾久守侑/中外医学社)
  • 精神症状から身体疾患を見抜く(尾久守侑/金芳堂)
  • 精神症状に潜む身体疾患66 モリソン先生のルールアウト(J. モリソン/松崎朝樹 監訳/メディカル・サイエンス・インターナショナル)

よくある質問

もっと弱い抗不安薬に変えてもらうことはできますか。

ご希望は遠慮なくお伝えください。ただ「弱い薬」に変えれば楽になる、とはかぎらないところが抗不安薬の難しさです。効き味が穏やかな薬は、そのぶん効いた実感も出にくく、かえって飲む回数が増えてしまうことがあります。錠剤に書かれた数字の大小は、薬の強さの順番とは別のものさしなので、そこも誤解が生まれやすい点です。何がつらくて変えたいのか――眠気なのか、切れたときのつらさなのか、依存への不安なのか――を具体的に伝えていただくと、方向を決めやすくなります。

不安がなくなるまで飲み続けたほうがいいのでしょうか。

治療の目標は「不安がゼロになること」ではなく、「不安があっても、したいことができる状態に戻ること」です。抗不安薬は不安の原因を治す薬ではなく、身動きが取れない時期を乗り切るための薬なので、効いているあいだに何に取り組むかを決めておくことが大切になります。逆に、症状が落ち着いてきたのに薬だけが残ってしまうと、あとから減らすほうが難しくなります。減らす時期についても、早めに主治医と話し合っておかれることをおすすめします。

頓服の抗不安薬は、週に何回までなら大丈夫ですか。

上限の目安は専門書によって幅があり、一律には決まっていません。大事なのは、あらかじめ回数の目安を主治医と決めて共有しておくことです。何回飲んだかは治療の手がかりになりますので、多く使った週があっても、そのまま正直にお伝えください。責められることではありません。頓服との付き合い方は「頓服薬の上手な使い方」にも書いています。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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