福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

はじめに

「心理療法をすすめられたけれど、そもそも自分に効くのだろうか」「通うとしたら、いったいどのくらいの期間がかかるのだろう」。受診を考えるとき、多くの方がこうした疑問を抱きます。仕事や家事、子育ての合間に通うことを思うと、ゴールの見えない通院にためらいを感じるのは自然なことです。

そう感じているのは、あなただけではありません。むしろ「自分に効くのか」「どれくらい通えばいいのか」は、心理療法を始める前に誰もが気になる、いちばん現実的な不安だといえます。

この記事では、心理療法がどんな悩みやどんな人に向きやすいのか、効果が出るまでの期間にはどのような目安があるのか、そして回復を支えているのは何なのかを、来院前の方に向けてやさしく整理します。読み終えるころには、「まず始めてみよう」と一歩を踏み出すための見通しが、少し持てるようになるはずです。なお、向き不向きや治療方針は最終的に医師が診察のうえで判断しますので、この記事はそのための予備知識としてお読みください。

心理療法はどんな悩みに使われている?

心理療法と聞くと、特別な人のための治療というイメージを持つ方もいますが、実際には幅広い悩みに用いられています。代表的なものとして、うつや気分の落ち込み、不安が強くなるタイプの悩み、食べることをめぐる問題(摂食の悩み)、つらい出来事のあとに続く不調などがあります。

これらに共通するのは、「気持ちのつらさ」と「日々の人との関わり」が、たがいに影響し合っているという点です。たとえば、大切な人を失った悲しみ、夫婦や家族との行き違い、進学・就職・引っ越し・出産といった生活の変化、人とのつながりが乏しくなっている状況——こうした人間関係の出来事が、こころの不調と結びついていることは少なくありません。

心理療法には数多くの種類がありますが、なかでも対人関係に焦点を当てる方法(対人関係療法)は、こうした「いまの人との関わり」と「症状」とのつながりに目を向けながら進めていきます。どの方法が合うかは悩みの内容によって変わりますので、まずは「自分のつらさが、人との関わりとどう結びついているか」という視点を持っておくと、診察での相談がスムーズになります。

こんな人には心理療法が向きやすい

それでは、どんな人に向きやすいのでしょうか。いくつかの目安を挙げます。

人との関わりに困りごとがある人

身近な人との行き違いがつらい、孤独を感じている、役割の変化にうまく適応できないなど、人間関係の悩みが不調の背景にある方は、心理療法と相性がよいとされています。考え方のクセそのものを扱うより、「人とどう関わるか」を一緒に整理したいという方に向きやすい方法です。

薬を避けたい時期のうつがある人

妊娠中や授乳期のように、薬の使用を慎重にしたい時期にうつの不調が起きることがあります。こうした場合には、心理療法が選ばれやすいとされています。実際、産前・産後のうつでは、薬を使いにくい事情もあり、心理療法が第一に検討されることがあると報告されています。この時期に起こりやすい生活や役割の変化は、心理療法で扱うテーマと重なりやすい点も理由の一つです。ただし薬が必要な状況もありますので、最終的な判断は必ず医師が行います。

まずは「取り組みを始める」ことから、という人もいる

一方で、人とのつながりがもともと乏しく、関係を築くこと自体に長く悩んできた方の場合は、短い期間ではっきりした解決まで届きにくいこともあります。こうしたときは、無理に「問題を解決する」ことをゴールにせず、まずは取り組みを「始める」ことを当面の目標にする、という考え方がとられることがあります。控えめな目標に見えるかもしれませんが、「何が問題かが分かり、向き合い方の糸口が見える」こと自体が、本人にとって大きな前進になります。向き不向きは決めつけず、診察のなかで一緒に探していくものだと考えてください。

効果が出るまでの期間の目安

「どのくらい通えばいいのか」は、もっとも気になるところでしょう。ここでは、よく知られている目安を紹介します。

うつ病では12〜16回が一つの目安

うつ病に対する対人関係療法は、これまでの研究で12回から16回ほど行われ、効果が確かめられてきたと報告されています。そのため、この回数が一つの目安として紹介されることがあります。もちろん、症状の重さや生活の状況によって適切な回数は変わりますので、これはあくまで「だいたいの見当」です。実際の回数や頻度は、診察で医師と相談しながら決めていきます。

大切なのは「期間を区切る」こと

回数そのもの以上に重視されるのが、あらかじめ「いつまで」と期間を区切って取り組むことです。期限を意識することで治療への集中が高まり、限られた期間のなかで得たことを自分のスキルとして振り返り、定着させやすくなると考えられています。終わりが見えていることは、ゴールのない不安をやわらげるという意味でも、安心につながります。

再発を防ぐための「維持治療」という形もある

いったん回復したあと、その状態を保ち、ぶり返しを防ぐことを目的とした「維持治療」という続け方もあります。たとえば、うつをくり返しやすい方に対して、月に1回ほどの間隔で続ける形が報告されており、ある研究では多くの方が一定期間、回復した状態を保てたとされています。維持治療の場合も「1年」「2年」と期間を区切って取り組む点は同じです。続けるかどうかは、そのつど状態を見ながら相談して決めていきます。

回復の主役は、あなた自身です

ここで、ぜひ知っておいてほしい大切な視点があります。それは、治療がうまくいくかどうかを支えている大きな部分は、治療者の腕前だけではなく、患者さん本人の力と、その方を取り巻く生活環境だ、ということです。

心理療法の研究を見渡すと、回復に寄与する要素のなかで、本人の持つ強みや支え、ふだんの生活環境といった「治療の場の外側にあるもの」が、もっとも大きな割合を占めているという指摘があります。言いかえれば、変化の本当の主役は、治療者ではなく、あなた自身だということです。これまで「弱い立場で助けられる側」として語られがちだった患者さんこそが、実は回復のいちばんの担い手なのです。

これは、決して「すべて自分でなんとかしなさい」という意味ではありません。むしろ希望のある知らせです。あなたがすでに持っている人とのつながり、これまで乗り越えてきた経験、日々の暮らしのなかにある支え——そうしたものが、回復を後押しする確かな力になります。治療は、その力を引き出し、使いやすい形にしていく手助けをするものだと考えてください。

なお、心理療法のなかには、症状をやわらげることだけでなく、その人の生活や人との関わり全体がより良くなっていくことまでを見すえる立場もあります。期間を区切る方法も、じっくり時間をかける方法も、どちらも「あなたの暮らしが楽になること」を目指している点では同じです。

受診の目安

以下のようなことに心当たりがあれば、一度ご相談ください。

  • 気分の落ち込みや不安が続き、日常生活に支障が出ている
  • 人との関わりや役割の変化(出産、転職、別れなど)をきっかけに、つらさが強くなった
  • 薬を使いにくい事情があり、別の方法も知りたい
  • 自分に心理療法が向いているのか、どのくらい通えばよいのか相談したい
  • 何から手をつければよいか分からず、まず一歩を踏み出したい

診断や治療方針は医師が診察のうえで判断します。迷っている段階でのご相談でかまいません。

まとめ

心理療法は、うつや不安、摂食の問題など幅広い悩みに使われ、とくに人との関わりに困りごとがある方に向きやすいとされています。うつ病では12〜16回が一つの目安とされますが、回数そのものより「期間を区切って取り組む」ことが大切です。そして回復を支える大きな力は、あなた自身が持つ強みと生活環境にあります。短期で解決しにくいタイプもありますが、その場合はまず「始める」ことから。完璧を目指さず、できそうな一歩から一緒に進めていきましょう。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 対人関係療法入門ガイド
  • 心理療法・その基礎なるもの
  • ケースの見方・考え方 精神分析的ケースフォーミュレーション

よくある質問

心理療法は、どんな悩みの人に向いていますか?

うつや不安、摂食の問題、つらい出来事のあとの不調など、幅広い悩みで使われています。とくに人との関わりに困りごとがある方や、考え方そのものより人間関係を扱いたい方に向きやすいとされます。向き不向きは医師が診察のうえで一緒に判断します。

効果が出るまで、どのくらい通えばよいですか?

うつ病に対する対人関係療法では、12〜16回程度を一つの目安とする報告があります。ただし回数より、あらかじめ期間を区切って集中して取り組むことが大切とされます。実際の回数や頻度は症状や生活に合わせて医師と相談して決めます。

薬を使いたくないのですが、心理療法だけでも大丈夫ですか?

妊娠中や授乳期など薬を避けたい時期のうつでは、心理療法が選ばれやすいとされています。一方で薬が役立つ場合もあります。どの方法が合うかは状態によって異なるため、自己判断せず医師にご相談ください。

なかなか効果が感じられないときは、どうすればよいですか?

効果の現れ方には個人差があり、ゆっくり良くなっていくこともあります。まずは取り組みを「始める」こと自体を目標にする場合もあります。気がかりなことは遠慮なく担当の医師に伝えてください。方法を見直すこともできます。

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約