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はじめに

「カウンセリングって、結局ただ話を聞いてもらうだけじゃないの?」「お金や時間をかけて、本当に意味があるんだろうか」。受診を考えはじめたとき、そんなふうに立ち止まる方はとても多くいらっしゃいます。インターネットで調べてみても、認知行動療法、対人関係療法、精神分析…と専門用語が並び、「結局どれが自分に合うのか分からない」と、かえって不安になってしまうこともあるかもしれません。

不安に感じるのは、あなただけではありません。心理療法は種類がとても多く、それぞれが少しずつ違う言葉で語られるため、初めて触れる方が戸惑うのはごく自然なことです。

この記事では、来院をご検討中の方に向けて、心理療法(カウンセリング)とはそもそも何か、本当に効果があるのか、種類によって何が違うのかを、できるだけやさしく整理してお伝えします。そして、研究で分かってきた「どの流派かより、共通して効くものがある」という大切な考え方と、相談先の選び方の目安もご紹介します。

心理療法(カウンセリング)とは何か

心理療法は、精神療法やカウンセリングとも呼ばれます。ひとことで言えば、専門家との対話を通して、こころの困りごとや生きづらさに対処していく治療のことです。

「話すこと」が中心になりますが、ただおしゃべりをするわけではありません。安心して話せる関係のなかで、自分の気持ちや考え、人との関わり方を一緒に見つめ直し、つらさをやわらげたり、対処の幅を広げたりしていきます。

心理療法の目的は、表面に出ている症状をやわらげることだけではありません。気持ちを認めて扱えるようになること、自分を大切に思える感覚を取り戻すこと、人との関わりや日々の生活が少しずつ楽になっていくことなど、その人の全体的な調子の改善も含めて目指していく取り組みです。すぐに効果を約束できるものではありませんが、時間をかけて自分を理解していくこと自体に意味がある、と考えられています。

なお、何が困りごとの背景にあるのか、どんな治療が適しているのかという見立ては、医師が診察のうえで行います。

代表的な心理療法の種類

心理療法にはたくさんの種類(流派)があり、研究で数えられているだけでも非常に多くの方法が提案されてきました。ここでは、よく耳にする代表的なものをやさしくご紹介します。

認知行動療法

ものごとの受け取り方(認知)や行動のクセに注目し、つらさにつながりやすい考え方や行動のパターンに少しずつ働きかけていく方法です。不安や落ち込みに対して広く使われています。

対人関係療法

人との関わりのなかで生じる気持ちのつらさに焦点をあて、身近な人との関係や役割の変化を整理しながら、こころの状態を立て直していく方法です。

精神分析的療法(力動的心理療法)

いま困っていることの背景にある、自分でも気づきにくい気持ちや、これまでの関係の積み重ねに目を向け、自分への理解を深めていく方法です。比較的じっくり時間をかけて取り組むことが多いとされます。

このほかにもさまざまな方法があります。名前を見ると「まったく別物」のように感じられるかもしれませんが、実は後でお話しするように、うまくいっている心理療法どうしには驚くほど共通点が多いことが分かっています。

「どの種類か」より「共通して効くもの」がある

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

心理療法の効果については、長い年月をかけて多くの研究が積み重ねられてきました。その結果、意外なことが分かってきています。それは、「どの治療法を使うか」による効果の差は、思っていたほど大きくないということです。種類の違う心理療法どうしを比べても、おおむね同じくらい良い結果が示される、という報告が繰り返しなされてきました。

では、何が効果を支えているのでしょうか。研究者たちは、流派を超えて多くの心理療法に共通する要素こそが、変化の大部分を生み出していると考えています。よく整理されているのは、次の4つの要素です。

  • 治療の外にある力(本人の強みや生活環境):もともとその人が持っている力、まわりの支え、生活のなかでの出来事など。
  • 治療者との関係:安心して話せる、信頼できると感じられる関わり。
  • 本人が持つ希望や期待:「少し良くなるかもしれない」という前向きな気持ち。
  • 具体的な技法:それぞれの心理療法が用いる進め方や工夫。

なかでも特に大きいとされるのが、最初の2つです。

効果の大半を生むのは、あなた自身の力

研究では、心理療法で起こる良い変化のうち、もっとも大きな割合を占めるのは、治療の外にあるその人自身の力と生活環境だと考えられています。これは決して「カウンセリングに意味がない」という話ではありません。むしろ、変化の主役は治療者ではなく、相談に来たあなた自身である、という見方です。

これまでの心理療法のイメージでは、治療者が主役で、相談に来た人は助けられる側、と描かれがちでした。けれども実際には、その人が持っている強み、これまで困難を乗り越えてきた経験、周囲の支え、生活のちょっとした出来事といったものが、治療の結果を大きく左右していることが分かってきています。

治療者との信頼関係が、結果を大きく左右する

次に大きいとされるのが、治療者との関係です。安心でき、尊重され、理解してもらえていると感じられる関係のなかでこそ、心理療法はうまく働きます。

心理学者カール・ロジャースは、効果的な援助に欠かせない治療者の姿勢として、共感(相手の気持ちに寄り添うこと)・尊重(相手を一人の人として大切にすること)・誠実さを挙げました。大切なのは、治療者が「自分は共感している」と思っているかどうかではなく、相談に来た人自身が「分かってもらえている」と感じられるかだと考えられています。

ですから、「この人になら少し話してみてもいいかも」と思えるかどうかは、とても大事な手がかりなのです。

薬と心理療法は組み合わせて使うことも多い

「薬だけ」「話すだけ」と、どちらかに決めなければいけないわけではありません。状態によっては、薬による治療と心理療法を組み合わせて進めていくことがよくあります。

何が適しているかは、症状やその背景、生活の状況によって変わります。診断とそれに基づく治療方針は医師が診察のうえで判断しますので、「薬は飲みたくない」「まずは話を聞いてほしい」といったご希望も、遠慮なくお伝えいただいて大丈夫です。一方的に決めるのではなく、一緒に考えていく形が基本です。

受診の目安

次のようなことが続いている場合は、一度ご相談いただくことをおすすめします。

  • 気分の落ち込みや不安が長く続き、日常生活に支障が出ている
  • 眠れない、食欲がない、疲れが取れないといった状態が続いている
  • つらい気持ちを一人で抱え込み、誰にも相談できずにいる
  • 同じ悩みや人間関係のパターンを繰り返してしまう
  • 「カウンセリングを受けてみたいが、自分に合うか分からない」と迷っている

これらに当てはまるからといって、必ず重い状態というわけではありません。診断は医師が行いますので、まずは気軽にお話を聞かせてください。

まとめ

心理療法(カウンセリング)は、対話を通してこころの困りごとに対処していく治療です。種類はさまざまですが、研究では「どの流派か」よりも、本人自身の力や治療者との信頼関係といった共通する要素が効果を支えていることが分かってきています。つまり、変化の主役はあなた自身であり、「この人になら話してみてもいい」と思える相談先を選んでよいのです。迷いながらでも、一歩を踏み出したそのこと自体が、すでに大きな力になっています。どうぞ安心して、ご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • スコット・D・ミラー/バリー・L・ダンカン/マーク・A・ハブル『心理療法・その基礎なるもの』
  • ナンシー・マックウィリアムズ『ケースの見方・考え方 精神分析的ケースフォーミュレーション』

よくある質問

カウンセリングは本当に効果があるのですか?

多くの研究で、心理療法を受けた人は受けなかった人より良い変化を示すことが報告されています。ただし効果には個人差があり、治癒を約束できるものではありません。続けやすい相談先を見つけることが第一歩です。

認知行動療法など、どの種類を選べば一番効果が高いですか?

研究では、治療法の種類による効果の差は思ったほど大きくなく、むしろ治療者との信頼関係や本人の力といった共通の要素が結果を大きく支えるとされています。種類選びに迷いすぎる必要はありません。

薬とカウンセリング、どちらかを選ぶべきですか?

どちらか一方に限らず、状態に応じて組み合わせて使うことも多くあります。何が適しているかは医師が診察のうえで一緒に考えますので、まずはご相談ください。

自分に合う相談先は、どう選べばよいですか?

「この人になら少し話してみてもいい」と思えるかどうかは、大切な目安です。安心して話せそうか、尊重されていると感じられるかを手がかりに選んでよいものです。

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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