福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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はじめに

「カウンセリングって、いったい何回くらい通うのだろう」「毎回、面接室で何を話せばいいのだろう」。心理療法を受けてみようかと考えるとき、こうした疑問や不安を感じる方は少なくありません。先が見えないものに足を踏み入れるのは、誰にとっても勇気がいることです。

実は、心理療法には「始まり・中間・終わり」というおおまかな流れがあります。やみくもに話し続けるのではなく、一定の道すじに沿って進んでいくものです。その流れを先に知っておくだけで、心の準備はずっとしやすくなります。

この記事では、心理療法の一つである「対人関係療法(IPT)」を例に、初回から終わりまでがどのように進むのかをご紹介します。対人関係療法とは、症状を本人だけの問題として見るのではなく、その症状に影響している身近な人との関係にも目を向けていく治療法です。各段階で何をするのか、よく聞かれる「宿題」とはどういうものなのか、そして治療の終わり方まで、できるだけ具体的にお伝えします。なお、どの治療が合うかの判断や診断は医師が行いますので、ここでは「全体像のイメージをつかむ」ことを目的としてお読みください。

心理療法には「始まり・中間・終わり」がある

対人関係療法は、あらかじめおおよその期間を区切って取り組む「期間限定」のスタイルをとることが多い治療法です。だらだらと続けるのではなく、「この期間でここを目指す」と決めて進めていきます。

その流れは、大きく次の三つの時期に分かれます。

  • 初期:困りごとを整理し、どこに取り組むか(焦点)と目標を一緒に決める時期
  • 中期:実際にその焦点に取り組み、気持ちを聞く・どうするか考える・練習する、をくり返す時期
  • 終結期:得られたものを振り返り、これからのことを話し合って治療を終えていく時期

最初に「終わり」を見すえておくことには意味があります。期限があると、治療する側もされる側も自然と集中しやすくなり、限られた回数の中で得たものを「自分のスキル」として定着させていきやすくなる、と考えられています。回数そのものよりも、「いつか終わる、自分の力で歩いていく」という見通しを最初から持てることが大切にされているのです。

初期:何に取り組むかを一緒に決める

初期は、いわば地図を広げる時期です。

まず、今どんなことに困っているのか、どんな経過でつらくなってきたのかを、ていねいに聞き取っていきます。あわせて、身近な人との関係でどんなことが起きているかにも目を向けます。困りごとは一つとは限らず、いくつも絡まり合っていることも多いものです。それを少しずつほどいて整理していきます。

そのうえで、「今回はここに取り組みましょう」という焦点と、「こうなれたらいいですね」という目標を、本人と一緒に決めます。ここで大切なのは、治療する側が一方的に「正解」を決めてしまわないことです。方向性は押しつけられるものではなく、本人が納得できる形で合意して進めていきます。困りごとの背景や診断は医師が見立てますが、何を目標にするかは、あくまで本人の気持ちを尊重しながら決めていくものです。

この「最初の合意」が、その後の治療全体の土台になります。

中期:「気持ちを聞く→どうしたいか考える→練習する」のくり返し

治療の中心となるのが中期です。ここでは、毎回おおよそ同じ流れがくり返されていきます。

出来事と気持ちをくわしく聞く

まずは、前回の面接から今日までにあった出来事を振り返ります。とくに、気持ちが大きく動いた出来事については、そのときの状況、相手の言葉、自分がどう感じたかを、できるだけくわしく聞いていきます。なぜくわしく聞くのかというと、状況がはっきり見えてこないと、次の一手を考えられないからです。

どうしたいか、どうできるかを検討する

出来事と気持ちが見えてきたら、「本当はどうしたかったのか」「ほかにどんな選択肢があったか」を一緒に考えます。うまくいかなかったことについても同じです。ここで責められることはありません。「本当はこう伝えたかったのですよね」「そのためには、ほかにどんな言い方ができたでしょうね」と、あたたかく振り返っていきます。

練習してみる

「こうしてみよう」という方向が決まったら、実際にやってみる自信がつくように、その場で言い方を練習することもあります。たとえば、相手に伝えたいことを声に出して言ってみる、といった練習です。そのうえで、その日に話し合ったことをまとめ、次の面接までに考えてきてほしいことを確認します。

この「気持ちをよく聞く → どうしたいか・どうできるかをよく検討する → 試せるだけの自信がつくよう練習する」という流れが、中期の基本のリズムです。

面接室は「作戦を立てる場所」、本番は実生活

心理療法を理解するうえで、ぜひ覚えておいていただきたい考え方があります。それは、面接室はあくまでも「作戦を立てる場所」であり、実際に試してみるのは面接室の外、つまり日常生活だ、ということです。

面接室の中で気持ちを整理し、言い方を練習するのは、本番に向けた準備です。本当の舞台は、家庭であり職場であり、ふだんの人づきあいの中にあります。だからこそ、面接で話し合ったことを実生活に持ち帰って試すこと自体が、治療の大事な一部になります。

ここで出てくるのが、いわゆる「宿題」です。

「宿題」は責められるものではない

対人関係療法では、毎日きっちりこなす課題のような正式な宿題は出さないのが基本です。あえてたとえるなら、毎日提出する宿題ではなく、「夏休みの宿題」のようなイメージです。最初に大きな課題を受け取り、面接を重ねる中で、その時々のペースで自然に取り組んでいきます。手をつける気になれない日もあれば、ぐっと進む日もある。それで構わない、という考え方です。

実際に出される課題も、「次回までにこの一言を言ってみる」「気になっている人に電話を一本かけてみる」といった、その日の話し合いから生まれた小さな「実験」がほとんどです。

そして大切なのは、宿題ができなくても責められないということです。できなかったときは、その理由を次回持ち帰っていただければ十分です。「できなかったのは失敗」ではなく、「無理のある計画を一緒に立ててしまったのかもしれない」と考えます。できなかった理由を一緒に見直し、期待を調整していくこと自体が、治療で行っている作業の一つなのです。「うまくできなかったから受診しづらい」と感じる必要はまったくありません。

うまくいったときは「なぜうまくいったか」を確かめる

逆に、うまくいった体験が語られることもあります。そんなときは、ほめて終わりにするのではなく、「どうしてうまくいったのでしょうね」と一緒に確かめます。なぜなら、「なぜうまくいったか」がわかれば、それは次にも再現できる自分のスキルになるからです。たまたまうまくいったことでも、理由を言葉にしておくことで、「次もこうすればいい」という手応えに変わっていきます。

終結期:振り返り、これからに備える

ある程度の回数を重ねると、治療は終結期に入ります。ここで急に放り出されるわけではありません。終わりに向けて、いくつかのことをていねいに話し合っていきます。

まず、治療を始めたころと比べて、症状や人づきあいがどう変わったかを振り返ります。そして、「気持ちが楽になったのは、どんなスキルが身についたからか」を、できるだけ具体的に言葉にしていきます。これは、治療が終わったあとも自分の力でやっていくための、大切な確認作業です。

あわせて、これから先につまずきそうな場面や、調子をくずす兆候についても話し合います。「こういうサインが出てきたら、こうする」「困ったときは早めに相談する」といった備えを、あらかじめ一緒に考えておくのです。治療の終わりは、寂しさを感じる時期でもあります。その気持ちも自然なものとして受けとめながら、「ここで学んだことは自分の力だ」と思える形で送り出すことを目指します。

なお、症状の改善が十分でない場合には、治療を続けるかどうか、別の方法を検討するかどうかを話し合うこともあります。これも医師と相談しながら、その人に合った形を一緒に考えていきます。

受診の目安

以下に当てはまる場合は、一度ご相談いただくことをおすすめします。

  • 気分の落ち込みや不安が続き、日常生活や仕事・家事に支障が出ている
  • 身近な人との関係のつらさが、心や体の不調と結びついていると感じる
  • 「カウンセリングを受けてみたいが、流れがわからず不安」で一歩を踏み出せない
  • 自分一人で考え続けても、気持ちの整理がつかない状態が続いている
  • 眠れない、食欲がない、といった不調が二週間以上続いている

まとめ

心理療法には「始まり・中間・終わり」という流れがあり、対人関係療法では初期に焦点と目標を決め、中期で「聞く・考える・練習する」をくり返し、終結期に振り返って備えます。面接室は作戦を立てる場所で、本番は実生活です。「宿題」はできなくても責められるものではなく、できなかった理由を持ち帰ればそれでよい、という安心できる枠組みで進みます。先の流れが見えれば、不安はきっと少し軽くなるはずです。気になることがあれば、どうぞ気軽にご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 水島広子『対人関係療法入門ガイド』(創元社)

よくある質問

カウンセリングは何回くらい通うのですか?

治療法や状態によりますが、対人関係療法では最初に回数の目安を決めて取り組むことが多い方法です。期間を区切ること自体が治療への集中を高めると考えられています。具体的な回数や進め方は、医師や担当者とご相談のうえで決めていきます。

毎回、面接では何を話すのですか?

対人関係療法の中期では、最近の出来事と気持ちを詳しく聞く、これからどうしたいかを一緒に考える、必要なら言い方を練習する、という流れをくり返します。面接室は『作戦を立てる場所』で、実際に試すのは日常生活、という位置づけです。

『宿題』ができなかったら叱られますか?

いいえ。対人関係療法では宿題はあくまで実験のようなものとして扱い、できなくても責めません。できなかったときは、その理由を次回持ち帰っていただければ十分です。なぜできなかったかを一緒に考えること自体が、治療の大切な一部になります。

治療はどうやって終わるのですか?

終結期に、症状や人づきあいの変化を振り返り、身についたスキルを具体的に確認します。あわせて、調子をくずす兆候とそのときの対処を話し合い、『自分の力でやっていける』という見通しを持てるようにして終えていきます。

自分にこの治療が合うか、どう判断すればいいですか?

どの治療が向いているかの判断や診断は医師が行います。まずは今の困りごとを相談していただければ、状態に合わせて進め方を一緒に考えていきます。

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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