福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

はじめに

「ゲームばかりして部屋から出てこない」「声をかけても返事がない」「学校にも行かず、家族とまともに話さなくなった」。お子さんやご家族のそんな様子を前に、どう接していいかわからず、途方に暮れていらっしゃるかもしれません。ゲームを取り上げようとして激しくぶつかり、関係がさらにこじれてしまった、という経験をされた方も多いと思います。

そして、いちばんつらいのは「この先どうなるのか」という見通しが立たないことではないでしょうか。回復するのか、いつまでこの状態が続くのか。先が見えないと、焦りや不安ばかりが大きくなっていきます。

同じように悩んでいるご家族は、決して少なくありません。あなただけが直面している問題ではありません。そして大切なのは、回復には道筋があるということです。

この記事では、ゲーム依存やひきこもりからの回復を「ゲーム時間を減らすこと」ではなく「つながりを取り戻すこと」としてとらえ直し、家族との接点を一歩ずつ回復していく具体的なステップと、治療の選択肢、そして焦らないための心がまえをお伝えします。なお、診断や治療方針は、ご本人の状態を診た医師が判断します。気になる場合は専門の窓口にご相談ください。

回復の核は「孤立」から抜け出すこと

ゲームへののめり込みは、しばしば「孤立」と深くつながっています。

学校に行きづらくなり、欠席が続くようになると、やがて外出も減っていきます。同級生や知人に会うのを避けるうちに、人との接点がどんどん細くなっていく。さらに進むと、自分の部屋にこもり、家族が寝ている時間や留守の時だけ出てくる、といった状態になることもあります。こうなると、家庭の中ですら人とのつながりが失われていきます。

精神科医の斎藤環氏は、こうして本人・家族・社会の三者が接点を失い、ばらばらに離れていく状態を「ひきこもりシステム」と呼びました。接点が失われた状態では、まわりからの働きかけがかえってストレスとなり、いっそう距離が広がってしまう、という悪循環が起きやすくなります。

ここで大切なのは、ゲームへの依存は「孤立という名の状態」と背中合わせだということです。だからこそ回復の核は、失われた接点を一つずつ取り戻し、孤立から抜け出していくことにあります。ゲームを無理に取り上げることではなく、人とのつながりをていねいに編み直していくこと。それが、遠回りに見えて確かな道筋になります。

「使っていない時間」を増やすという発想

回復を考えるとき、多くのご家族がまず思い浮かべるのは「ゲームの時間をどう減らすか」だと思います。けれども、ここで発想を少し切り替えてみることをおすすめします。

家にこもりがちな状態でのゲームへの依存において、目標はゲームの時間そのものを削ることではありません。目指したいのは、ゲームやネットを「使っていない時間」を増やすことです。

この二つは似ているようで、まったく違います。時間を「減らそう」とすると、どうしても取り上げる・禁止するという方向になり、対立を生みやすくなります。一方で「使っていない時間を増やそう」と考えると、ゲーム以外の楽しみや活動を育てる、という前向きな取り組みになります。

ゲーム以外に楽しいこと、心地よい時間が増えてくれば、ゲームの時間は自然と少しずつ減っていきます。たとえば家族と一緒にできる活動があれば、なお望ましいでしょう。お母さんと釣りに行く、お父さんと一緒に料理をする、きょうだいと卓球をする。こうしたリアルな人との関わりを楽しめるようになることが、回復を後押しします。ちょっとした手伝いを頼めたり、家事の一部を分担してもらえたりするようになると、本人が家の中で過ごすことへの不安もやわらいでいきます。

接点を一歩ずつ取り戻すステップ

では、失われた家族との接点は、どのように取り戻していけばよいのでしょうか。ここで大切なのは、一足飛びに進めようとしないことです。順を追って、無理のない範囲から少しずつ距離を縮めていきます。

あいさつから始める

まずは、あいさつができるかどうかです。声をかけても怒り出したり、物に当たったりしないなら、それはよい兆しです。あいさつを返してくれるようになれば、大きな前進と考えてよいでしょう。

夕食の話、天気やスポーツの話

次の一歩は、たとえば夕食の献立の話です。「今日の晩ごはん、カレーとハヤシライス、どっちがいい?」——こうした問いかけは、本人にとってメリットがあり、答えやすいものです。天気の話、スポーツの話など、当たり障りのない話題も入り口になります。

趣味の話、そして一緒に楽しむ

少し進んで、趣味の話ができるとさらによいでしょう。このとき、本人の最大の関心ごとがゲームやネットであれば、むしろそれを話題にできると効果的です。同じゲームをやってみて攻略法を聞く、進み具合を教えてもらう、最近ネットで話題になっていることを尋ねる——そんな会話から距離が縮まることがあります。一緒にゲームをプレイできるようになれば、接点はかなり戻ってきたと言えます。

ニュース、そして進路の話へ

ニュースを一緒に見たり、気軽に話題にできたりするようになれば、学校のことや将来の進路についても、少しずつ相談できるようになるかもしれません。

このように、接点の回復は一つの「プロセス」です。いきなり負荷の大きな関わり方をすると、かえって状況が後退するリスクがあります。一歩ずつ、傷を広げないように距離を縮めていくことが何より大切です。

家庭の中にしっかりとした居場所ができてきたら、買い物や映画など、ハードルの低い社会との接点に少しずつ広げていくことも考えられます。

治療の選択肢と、その現状

家庭での関わりと並行して、専門的な支援や治療を活用できる場合があります。代表的なものをいくつか紹介します。

認知行動療法は、考え方や行動のクセに気づき、それを変えていく心理療法です。ゲーム障害の治療として最も研究が進んでいる方法で、大人では症状や不安・抑うつの改善を示す報告があります。ただし、実際にゲーム時間が減るかどうかははっきりしておらず、青年期の子どもでは大人より効果が小さいことも知られています。現状では研究段階の部分が多く、これに特化した治療を受けられる施設は日本にはまだ多くありません。

自助グループ・ピアサポートは、同じ悩みを持つ当事者や家族が集まり、支え合う場です。アルコールや薬物の領域で長く行われてきた取り組みで、一部の専門機関では当事者や家族のグループ活動が始まっています。専門家への相談とはまた違う、同じ立場だからこその支えが得られることがあります。

治療キャンプ・暮らす場所を変える方法もあります。短期間だけ家を離れ、ふだんの活動と距離を取る方法で、一部の医療機関ではグループ療法を兼ねた治療キャンプが行われています。ただし、こうした方法でいちばん大切なのは、本人に「挑戦してみたい」という気持ちがあるかどうかです。まわりが強制したり、報酬で釣ったりして場所を変えるのは、対立を深めるおそれがあり、おすすめできません。

どの方法を選ぶにしても、回復の方向は変わりません。孤立から抜け出して人とのつながりを取り戻すこと、ゲーム以外に楽しめる活動を増やしていくこと。これが土台です。どの治療が合うかは、ご本人の状態を診た医師が一緒に考えていきます。

「自立」より「充実した人生」を

回復を考えるとき、ご家族がつい目標にしてしまいがちなのが「早く就労してほしい」「自立してほしい」という思いです。心配からくる自然な願いですが、ここには注意したい落とし穴があります。

ひきこもりやゲーム依存の状態にあるとき、本人やまわりの大人が就労を「目標」にしてしまうと、かえって事態がこじれやすくなる傾向があります。不安や焦り、義務感から急いで就労に結びつけようとすると、本人の状態やまわりとの関係を悪くしてしまうことがあるのです。

就労や自立は、それ自体がゴールというより、あくまで「手段」と考えておくほうが、結果的にうまくいきやすいようです。では本当の目標は何かといえば、それはおそらく**「充実した人生」**です。「仕事はしてもしなくてもいいけれど、すると人生をもっと楽しめるかもね」——そのくらいの立ち位置のほうが、本人とのつながりをよい状態に保てることがあります。

焦りは禁物です。負荷をかけて急がせると後退しやすい、というのは、回復のどの段階にも共通する大事な注意点です。遠回りに見えても、つながりを取り戻し、楽しめる時間を増やしていくこと。その積み重ねの先に、本人らしい暮らし方が少しずつ見えてきます。

受診の目安

以下に当てはまる場合は、専門の窓口や医療機関への相談をご検討ください。診断は医師が行います。

  • ゲームやネットのために、学校・仕事・生活に支障が続いている
  • 部屋にこもりがちで、家族との会話や接点がほとんどなくなっている
  • ゲームをめぐって家庭内の対立や衝突が繰り返されている
  • 昼夜逆転、食事や睡眠の乱れが続いている
  • 気分の落ち込み、不安、イライラなど、心の不調が見られる
  • 本人やご家族が「どうしたらいいかわからない」と行き詰まりを感じている

まとめ

ゲーム依存やひきこもりからの回復は、「ゲーム時間を減らすこと」ではなく「つながりを取り戻すこと」が核になります。回復の目標は、ゲームを使っていない時間を増やし、孤立から人とのつながりへと戻っていくことです。あいさつから夕食の話、趣味の話へと、接点は一歩ずつ取り戻していけます。就労や自立を急ぐより、充実した人生を目標に置き、焦らず進めることが後退を防ぎます。先が見えないように感じても、回復には確かな道筋があります。一人で抱え込まず、まずは相談できる窓口を持つことから始めてみてください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 吉川徹『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』

よくある質問

ゲーム依存の回復では、まず何を目標にすればいいですか?

ゲームの時間を無理に減らすことよりも、家族との会話や接点を少しずつ取り戻し、ゲーム以外の楽しみを増やしていくことが回復の土台になります。診断や治療方針は医師がご本人の状態を見て一緒に考えます。

ゲーム時間を取り上げれば回復するのでしょうか?

取り上げるだけでは、かえって対立が深まり孤立が強まることがあります。回復の核は、孤立から人とのつながりを取り戻すことです。焦って負荷をかけると後退しやすい点に注意が必要です。

どんな治療や支援がありますか?

認知行動療法、当事者や家族の自助グループ、治療キャンプなどが選択肢になります。日本ではまだ研究段階の部分も多く、受けられる施設は限られます。まずは相談できる窓口を持つことが第一歩です。

接点を取り戻すには、どのくらい時間がかかりますか?

期間には個人差が大きく、一概には言えません。大切なのは、あいさつ、夕食の話、趣味の話……と段階を踏み、後退を恐れず少しずつ進めることです。うまくいかない時期があっても、それは失敗ではなくプロセスの一部です。

家族だけで抱え込まないほうがいいですか?

はい。ご家族だけで対応を続けると、負担が大きくなりがちです。同じ立場の家族同士の交流や、専門の相談窓口を利用することで、気持ちが軽くなり、対応の選択肢も広がります。一人で抱え込まないでください。

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約