はじめに
「ゲームばかりして部屋から出てこない」「声をかけても返事がない」。お子さんやご家族のそんな様子を前に、どう接していいかわからず、途方に暮れていらっしゃるかもしれません。ゲームを取り上げようとしてぶつかり、関係がさらにこじれた経験をされた方も多いと思います。いちばんつらいのは、「この先どうなるのか」の見通しが立たないことではないでしょうか。
大切なのは、回復には道筋があるということです。この記事では、回復を「ゲーム時間を減らすこと」ではなく「つながりを取り戻すこと」としてとらえ直し、家族との接点を取り戻す具体的なステップと治療の選択肢、焦らないための心がまえをお伝えします。
回復の核は「孤立」から抜け出すこと
ゲームへののめり込みは、しばしば「孤立」と深くつながっています。学校に行きづらくなると外出も減り、人との接点がどんどん細くなっていく。さらに進むと、部屋にこもって家族が寝ている時間や留守のときだけ出てくる、という状態にもなります。精神科医の斎藤環氏は、こうして本人・家族・社会の三者が接点を失い、ばらばらに離れていく状態を「ひきこもりシステム」と呼びました。こうなると、まわりからの働きかけがかえってストレスとなり、いっそう距離が広がる悪循環が起きやすくなります。
依存症の領域では、嗜癖(アディクション)は「孤立の病」であり、その反対側にあるのはコネクション(つながり)だ、と言われることがあります。つながりが回復してくると、のめり込みが自然とゆるんでいく——アルコールや薬物で言われてきたことですが、ゲームのような行動への依存にも当てはまると考えられています。だからこそ回復の核は、失われた接点を一つずつ取り戻し、人とのつながりをていねいに編み直していくことにあります。
ゲームが担っていた「役割」に目を向ける
もう一つ欠かせないのは、ゲームがご本人にとって何の役割を果たしてきたのか、という視点です。依存には、つらさを抱えた人がその苦痛をやわらげる手段として対象にすがっているという「自己治療」の側面があります(くわしくは依存は『自己治療』かもしれないへ)。ゲームやネットも同じで、達成感、仲間との居場所、嫌なことを忘れられる時間など、ご本人なりの大切な役割を担っていることが少なくありません。
そう考えると、力ずくで取り上げることの危うさが見えてきます。傷に当てられた包帯を、手当てをしないまま剥がすようなものだからです。スマホやゲーム機の突然の取り上げや回線の遮断で状況が好転することは極めてまれで、むしろ激しい反発や対立を招くリスクが指摘されています(くわしくはゲームを取り上げるのは逆効果?家庭のルールづくりへ)。
働きかけは逆の順番になります。ゲームが担ってきた役割の「代わり」になるものを、時間をかけて一緒に育てていく。代わりが育つほど、ゲームだけに頼らなくてもすむようになっていきます。
「使っていない時間」を増やすという発想
ご家族がまず考えるのは「ゲームの時間をどう減らすか」だと思います。けれども目指したいのは、時間を削ることではなく、ゲームやネットを「使っていない時間」を増やすことです。時間を「減らそう」とすると、どうしても取り上げる・禁止するという方向になり、対立を生みやすくなります。「使っていない時間を増やそう」と考えると、ゲーム以外の楽しみを育てる前向きな取り組みになります。
ゲーム以外の楽しみや心地よい時間が増えてくれば、ゲームの時間は自然と少しずつ減っていきます。釣り、料理、卓球——家族と一緒にできる活動なら、なお望ましいでしょう。ちょっとした手伝いや家事の分担を頼めるようになると、本人が家で過ごすことへの不安もやわらぎます。
あわせて、睡眠のリズム・食事・日中に体を動かす時間という、生活の土台も整えていきます。ここが崩れたままだと「使っていない時間」を増やすのは難しくなります。昼夜逆転があるなら、まずそこから。生活の再建は地味に見えて、回復のいちばん確かな足場になります。
目標は本人と一緒に決める——「害を減らす」という発想
「やめさせるべきか、減らせばいいのか」は、ご家族がよく迷われる点です。依存症支援には、ハームリダクション(害の低減)という考え方があります。使用ゼロだけをゴールにせず、まず、そこから生じている実際の困りごと——生活の乱れ、体調の悪化、孤立、お金の問題——を減らすことに目を向ける発想です。
利点は、本人が話し合いのテーブルに着きやすくなることです。「やめろ」と迫られれば守りに入りますが、「夜中のプレイだけは減らして睡眠を守ろう」「課金の上限だけは決めよう」といった小さな目標なら、合意できることがあります。小さな合意と成功を重ねるうちに、本人の中に「変わってみようか」という気持ちが育っていきます。
大切なのは、目標を大人が一方的に決めないことです。説得やお説教で人は変わりにくく、受け止めてもらえる会話の中でこそ、本人自身が「このままではまずいかも」と気づいていきます(くわしくは依存を認めない家族への接し方へ)。
ぶり返しは「失敗」ではない
回復の道のりは、右肩上がりの一直線ではありません。しばらく落ち着いていたのに、またゲーム漬けに戻ってしまう。増えていた会話が、あるきっかけでまた途絶えてしまう。こうした「ぶり返し」は依存からの回復ではごく普通に起こることで、失敗ではなくプロセスの一部です。
ぶり返したときに本人やご自身を責めると、せっかく縮まった距離がまた開いてしまいます。「戻ってしまうだけの疲れやストレスがあったのかもしれない」と背景に目を向け、また一歩ずつ再開すればよいのです。三歩進んで二歩下がる。それでも一歩は進んでいます。
接点を一歩ずつ取り戻すステップ
失われた接点は、一足飛びには戻せません。順を追って、無理のない範囲から少しずつ距離を縮めていきます。
あいさつから始める
まずは、あいさつができるかどうかです。声をかけても怒り出したり物に当たったりしないなら、よい兆しです。あいさつを返してくれるようになれば、大きな前進と考えてよいでしょう。
夕食の話、天気やスポーツの話
次の一歩は、たとえば夕食の献立の話です。「今日の晩ごはん、カレーとハヤシライス、どっちがいい?」——本人にとってメリットがあり、答えやすい問いかけです。天気やスポーツの話も入り口になります。
趣味の話、そして一緒に楽しむ
さらに進んで、趣味の話ができるとよいでしょう。本人の最大の関心ごとがゲームやネットであれば、むしろそれを話題にできると効果的です。同じゲームをやってみて攻略法を聞く、進み具合を教えてもらう——そんな会話から距離が縮まることがあります。一緒にプレイできるようになれば、接点はかなり戻ってきたと言えます。
ニュース、そして進路の話へ
ニュースを気軽に話題にできるようになれば、学校のことや将来の進路も、少しずつ相談できるようになるかもしれません。
いきなり負荷の大きな関わり方をすると、かえって状況が後退するリスクがあります。一歩ずつ、傷を広げないように距離を縮めていくことが何より大切です。家庭の中に居場所ができてきたら、お小遣いを持っての買い物など、ハードルの低い社会との接点に広げていくことも考えられます。
背景にある不調の治療が、回復を助ける
深刻に見えるのめり込みでも、いちばんの困りごとが「ゲームの時間そのもの」であることはまれで、本当の困りごとはその周辺や背景にあることが多いのです。
- うつ: 気力が出ず、ほかの活動ができなくなった結果、手軽なゲームだけが残っている。この場合、ゲームから強い喜びが得られていないことがほとんどです
- 不安: 対人場面への強い不安から、リアルの付き合いを避けてネット越しの交流を選んでいる
- 発達特性: 自閉スペクトラム症やADHDの特性とゲームへののめり込みには強い関連が知られており、ゲームの問題をきっかけに背景の特性に気づくこともあります
- 昼夜逆転・睡眠の乱れ: 生活リズムの崩れがのめり込みを強め、のめり込みがさらにリズムを崩す悪循環
子どもの場合は、不登校が先にあって「家にいる間、ほかにやることがないからゲームをしている」というケースも少なくないと指摘されています。ゲームをやめれば学校に行くのではなく、学校に行きたくなるとゲームが減る——順番はむしろ逆のことが多いのです。
だからこそ、背景の不調への治療やケアが回復の大きな助けになります。うつや不安がやわらぎ、睡眠が整うと、ゲームとの付き合い方も変わりやすくなるからです。医療機関では、こうした背景を含めた全体像の評価から始めます。
治療の選択肢と、その現状
家庭での関わりと並行して活用できる、専門的な支援や治療もあります。
認知行動療法(考え方や行動のクセに気づいて変えていく心理療法)は、ゲーム障害の治療として最も研究が進んでいる方法で、大人では症状や不安・抑うつの改善を示す報告があります。ただし、実際にゲーム時間が減るかどうかははっきりしておらず、青年期の子どもでは大人より効果が小さいことも知られています。現状では研究段階の部分が多く、これに特化した治療を受けられる施設は日本にはまだ多くありません。
自助グループ・ピアサポートは、同じ悩みを持つ当事者や家族が集まって支え合う場で、一部の専門機関でグループ活動が始まっています。
治療キャンプのように、短期間だけ家を離れてふだんの活動と距離を取る方法もあります。いちばん大切なのは、本人に「挑戦してみたい」という気持ちがあるかどうかで、まわりが強制したり報酬で釣ったりして場所を変えるのは、対立を深めるおそれがありおすすめできません。
家族向けのプログラムでは、アルコールや薬物依存の家族支援から生まれたCRAFT(クラフト)という技法が、本人と対立せずに関わり方を変えていくことで、家族自身の負担を減らし、家族関係を改善し、本人が相談機関につながる後押しをすることを目標としています。日本ではひきこもりの家族支援への応用が研究されており、ネットやゲームの問題にも通じる考え方です。
どの方法を選んでも、つながりの回復という土台は変わりません。どの治療が合うかは、ご本人の状態を診た医師が一緒に考えていきます。
ご家族へ——対立を減らし、自分自身を休ませる
対立を減らすことを最優先に。 対立が続くと家庭の中の接点まで失われやすくなります。正しさを競うより、まず衝突を減らすこと自体が支援です。
大人の足並みを「ほどほどに」そろえる。 両親の方針が大きく食い違うと支援は進みにくくなります。完全な一致でなくても、方向性はそろえておきましょう。
小さな変化を認める。 あいさつが返る、夕食の話に答える——それも大きな前進です。戻ってきた接点を一つずつ数えてください。
早めに外の相談先を持ち、つながり続ける。 解決には時間がかかることがあります。相談先を転々とせず、まずはつながり続けることが大切です。ご家族だけで相談できる窓口もあります。
ご家族自身の休息と生活を大切に。 家族が疲れ切ると、穏やかな関わりは続きません。家族同士の交流(ピアサポート)も支えになります。ご自身の楽しみや休む時間も確保してください。
「自立」より「充実した人生」を
ご家族がつい目標にしがちなのが、「早く就労してほしい」「自立してほしい」という思いです。心配からくる自然な願いですが、就労を「目標」にして焦って急がせると、かえって本人の状態やまわりとの関係を悪くし、事態がこじれやすくなる傾向があります。就労や自立はゴールというより「手段」と考えておくほうが、結果的にうまくいきやすいようです。本当の目標はおそらく「充実した人生」です。「仕事はしてもしなくてもいいけれど、すると人生をもっと楽しめるかもね」——そのくらいの立ち位置のほうが、本人とのつながりをよい状態に保てることがあります。
「自立とは依存先を増やすこと」という言葉があります。誰にも頼らないことではなく、困ったときに頼れる人や場所をいくつも持っていることが結果として自立につながる——依存からの回復にも当てはまる考え方です。ゲームという一つの拠りどころしかない状態から、家族、趣味、仲間、相談先と、頼れる先が増えていくこと。それが回復の姿です。
受診の目安
以下に当てはまる場合は、専門の窓口や医療機関への相談をご検討ください。診断は医師が行います。
- ゲームやネットのために、学校・仕事・生活に支障が続いている
- 部屋にこもりがちで、家族との会話や接点がほとんどなくなっている
- ゲームをめぐって家庭内の対立や衝突が繰り返されている
- 昼夜逆転、食事や睡眠の乱れが続いている
- 気分の落ち込み、不安、イライラなど、心の不調が見られる
- 本人やご家族が「どうしたらいいかわからない」と行き詰まりを感じている
お子さんの場合は、学校の先生やスクールカウンセラー、児童精神科や小児科など、子どもの支援に慣れた窓口が候補になります。当院の診療対象は18歳以上です。大人の方で、ゲームへののめり込みの背景にあるうつ・不安・睡眠の乱れなどの不調についてのご相談は、当院でも承っています。なお、当院では依存症の専門治療プログラムは行っておらず、ご本人の受診が必要です。ご本人のことをご家族だけでご相談いただくことはできませんが、ご家族の方がご自身の不調を診てもらうために受診されることは、それとは別のことです。
まとめ
ゲーム依存やひきこもりからの回復は、「ゲーム時間を減らすこと」ではなく「つながりを取り戻すこと」が核になります。あいさつから夕食の話、趣味の話へと、接点は一歩ずつ取り戻していけます。ぶり返しも失敗ではなくプロセスの一部です。ご家族も一人で抱え込まず、まずは相談できる窓口を持つことから始めてみてください。
参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 吉川徹『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』
- 松本俊彦・古藤吾郎・上岡陽江 編著『ハームリダクションとは何か』
よくある質問
ゲーム依存の回復では、まず何を目標にすればいいですか?
ゲームの時間を無理に減らすことよりも、家族との会話や接点を少しずつ取り戻し、ゲーム以外の楽しみを増やしていくことが回復の土台になります。診断や治療方針は医師がご本人の状態を見て一緒に考えます。
ゲーム時間を取り上げれば回復するのでしょうか?
取り上げるだけでは、かえって対立が深まり孤立が強まることがあります。回復の核は、孤立から人とのつながりを取り戻すことです。焦って負荷をかけると後退しやすい点に注意が必要です。
どんな治療や支援がありますか?
認知行動療法、当事者や家族の自助グループ、治療キャンプなどが選択肢になります。日本ではまだ研究段階の部分も多く、受けられる施設は限られます。まずは相談できる窓口を持つことが第一歩です。
接点を取り戻すには、どのくらい時間がかかりますか?
期間には個人差が大きく、一概には言えません。大切なのは、あいさつ、夕食の話、趣味の話……と段階を踏み、後退を恐れず少しずつ進めることです。うまくいかない時期があっても、それは失敗ではなくプロセスの一部です。
家族だけで抱え込まないほうがいいですか?
はい。ご家族だけで対応を続けると、負担が大きくなりがちです。同じ立場の家族同士の交流や、専門の相談窓口を利用することで、気持ちが軽くなり、対応の選択肢も広がります。一人で抱え込まないでください。
一度よくなったのに、またゲーム漬けに戻ってしまいました。失敗でしょうか?
失敗ではありません。依存からの回復では、ぶり返し(再発)は珍しいことではなく、プロセスの一部と考えられています。戻ってしまった背景に疲れやストレスがなかったかを一緒に振り返り、また一歩ずつ進めば大丈夫です。
うつや昼夜逆転など、ほかの不調も治療したほうがいいですか?
はい。ゲームへののめり込みの背景に、うつ・不安・発達特性・睡眠リズムの乱れなどが隠れていることは少なくありません。背景の不調が治療でやわらぐと、ゲームとの付き合い方も変わりやすくなります。医療機関では背景の評価から行います。