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はじめに

「やめなさいと言っても、ゲームを手放さない」「時間を決めたのに、いつの間にか守られていない」「とうとう取り上げたら、家じゅう大騒ぎになってしまった」――お子さんとゲームやネットの時間をめぐって、毎日のように衝突しているご家庭は少なくありません。よかれと思って時間を制限したり、機器を取り上げたりするほど、かえって関係がぎくしゃくしてしまい、どうすればいいのか分からなくなることもあります。

まず知っていただきたいのは、こうした悩みはあなただけのものではない、ということです。ネットやゲームはとても魅力的につくられていて、約束を守り続けるのは大人でも簡単ではありません。だからこそ、「取り上げる」「時間を減らす」という力ずくの方法ではなく、対立を深めない現実的なルール運用が大切になります。

この記事では、機器を取り上げてもうまくいきにくい理由から始めて、子どもと一緒に「守れる約束」をつくるコツ、ペアレンタルコントロールの活用、そしてネットやゲーム以外に夢中になれることを増やす支援まで、今日から試せる家庭の工夫を10のポイントとしてご紹介します。なお、診断や治療方針は医師が行います。気になる点は主治医にご相談ください。

機器を取り上げるのは、たいてい逆効果です

ゲームばかりしている我が子を見ると、つい「取り上げてしまえば勉強するのでは」と考えたくなります。けれども、この領域で発言や執筆を続けている専門家のほとんどが、機器を取り上げることの無意味さと危険さを強調しています。

スマホやゲーム機を急に取り上げたり、家のWi-Fiやネット接続を突然遮断したりして状況がよくなることは、ごくまれです。それどころか、対立を深め、ときに暴力や家出につながってしまうリスクは無視できません。ゲームやネットは、つらさを一時的にしのぐ「包帯」のような役割を果たしていることがあり、その大元の苦しさを和らげないまま包帯だけをはがすと、大きな苦痛をもたらすことがあるからです。

「ゲームを取り上げれば勉強する」「ネットを取り上げれば学校に行く」というほど、この問題は単純ではありません。ネットやゲームと距離を取っていくのであれば、それは話し合いと本人の同意にもとづくものでなければ、なかなかうまくいかないのです。そして多くの場合、その話し合いが成り立つだけの関係を取り戻すことが、当面の目標になります。

「約束は子どもには守れない」から出発する

ルールづくりを考えるとき、ぜひ出発点にしてほしい前提があります。それは「ネットやゲームについての約束は、子どもには守れない」ということです。

これは子どもを信用しない、という意味ではありません。ネットやゲームはあまりにも魅力的なので、それについての約束は、そもそもほとんどの子どもには一人の力では守りきれない、という現実的な見方です。実際、大人でも締め切りを過ぎた仕事があってもゲームをやめられない、ということは珍しくありません。

ですから、ネットやゲームの約束は「子どもが守るもの」ではなく、「大人が守らせる(守る手助けをする)もの」と考えると、関わり方が変わってきます。少なくともネットやゲームに出会った初めのうちは、子どもは約束を守れないという前提で関わるほうが現実的です。そう考えておかないと、叱るべきでないところで叱ってしまったり、子どもに腹が立ってしまったりしがちです。約束が守れないのは、子どもの怠けではなく、手助けの工夫が足りなかっただけ、と捉え直してみてください。

コツ1〜3:子どもと一緒に約束をつくる

ここからは、守られやすい約束をつくるための具体的なコツを見ていきます。

コツ1 一方的に決めず、一緒に考える。 親が一方的につくった約束は、無視・嘘・反抗につながりやすいものです。時間と根気はかかりますが、子どもと一緒に約束の内容を相談したほうが、先々、約束を守ってもらうことが楽になります。年齢が低いうちは「説明して同意してもらう」形でかまいませんが、成長に合わせて相談や交渉の形に変えていけるとよいでしょう。

コツ2 なぜ制限が必要かを一緒に考える。 使える時間やアプリ、相手をなぜ制限するのか、その理由を一緒に考え、調べ、話し合うこと自体が約束づくりの入り口になります。子どもがすぐに納得できるとは限りませんが、大人がなぜ必要だと考えているかを伝えておくことには意味があります。

コツ3 「相談しがいのある大人」だと思ってもらう。 一緒に約束をつくるもう一つの目的は、「うちの親は相談にのってくれる」と感じてもらうことです。大人がネットやゲームを頭から否定していると感じると、子どもは困ったときに相談を持ちかけてこなくなります。子どもの好きなゲームのよいところを一緒に見つけてみる、ときには一緒に遊んでみる――そうした関わりが、いざというときに早めに知らせてくれる関係につながります。

コツ4〜7:守れる仕組みをつくる

約束は、決めただけでは守られません。守れる「仕組み」をあらかじめ用意しておくことが大切です。ある児童精神科医が公開している「わが家のルール」の工夫が、よい参考になります。

コツ4 所有権は大人に置いておく。 機器が誰のものかは、ルールづくりに大きく関わります。低年齢のうちは、機器やアカウントの所有権を大人が持ち、いつでも設定を確認できる状態にしておくと、約束を支えやすくなります。

コツ5 上手な「おしまい」を身につける。 目標は「時間を短くすること」そのものではなく、時間を自分でコントロールできるようになること、つまり「おしまいにする力」を育てることです。たとえば「1時間やったら1時間休む」と決めておくと、休んでもまた遊べるので、わりと機嫌よくおしまいにできます。タイマーを自分でセットさせるのも、自律に向けた練習になります。

コツ6 守りやすくする小さな工夫を重ねる。 前述の「わが家のルール」では、タイマーを巻き戻す裏技に気づいた子どものために、開始時間をメモに書いて冷蔵庫に貼るルールを足し、さらにメモを消されないようボールペンで書く、といった工夫が積み重ねられていきました。完璧な約束を一度で決めるのではなく、つまずくたびに少しずつ直していく、という姿勢が現実的です。

コツ7 食事や家族の時間を最優先にする。 「食事や家族での行動は常に優先」と決めておくと、線引きが分かりやすくなります。ゲーム中でも食事が始まれば切りのよいところでおしまい、家族の外出をゲームのために断るのはなし、といったかたちです。

コツ8:ペアレンタルコントロールを味方にする

「守らせる」と聞くと大変そうですが、今は便利な仕組みがあります。

iPhoneやiPadには「スクリーンタイム」という機能が標準で備わっており、使える時間やアプリ、課金などを細かく設定できます。最大の特徴は、親のスマホから子どもの使用状況をいつでも確認でき、設定の変更や使用時間の集計もできることです。常に見張っていなくても、少ない労力で見守れます。Android系のスマホにも、無料のものを含めさまざまなペアレンタルコントロールのアプリが用意されています。

ゲーム機の場合も、Nintendo Switchには「みまもりSwitch」という機能があり、使用時間を制限したり、親のスマホから使用状況を確認したりできます。

大切なのは、こうした道具を「監視」のためではなく、約束を守る手助けのために使うことです。ときには子どもと一緒に設定しながら使うと、押しつけにならずにすみます。

コツ9:「守られていないルール」を放置しない

意外に思われるかもしれませんが、「守られていないルールは、ルールがないよりも悪い状態」だと言われます。

子どもがルールを守っていないことを大人が知っていながら、守らせる働きかけをしていない、あるいは働きかけても守らせられていない――そんな状況が続くと、「大人との約束って、その程度のものだよね」と子どもが感じてしまい、その思いはほかの約束にも広がっていきます。

ですから、守れない約束をそのまま放置するくらいなら、いったん後退・廃止したうえで、ある程度守れる状態を取り戻すほうがよい、とされています。ルールは多ければよいわけではありません。「いま実際に守れているか」を時々見直し、無理のない範囲に調整していきましょう。なお、約束にはご家族の時間と気力を要するという副作用もあります。衝突や嘘が増えて、かえって関係が悪くなるようなら、それも見直しのサインです。

コツ10:ゲーム以外に夢中になれることを増やす

最後に、何よりも大事なことをお伝えします。それは、ネットやゲームの「ほかにも」楽しいこと・やりがいのあることが、この世の中にはたくさんある、と子どもが実感できることです。

大人になったときに、ネットやゲーム以外の活動を自分から選べること――これは「レジャースキル」と呼ばれ、嗜癖(やめられなくなる状態)を防ぐうえでとても大切だと考えられています。これは仕事や育児に追われる大人にとっても、心の支えになるスキルです。

このために必要なのは、現実の世界で好きなものを増やしていくことを、大人が応援し続けることです。サッカーに誘ってみる、釣りや料理をさせてみる、いろいろな活動に触れる機会を用意してみる。100人に1人くらいの子が、そのうちの何かを大好きになるかもしれません。すべての子が夢中になる必要はなく、たくさん試すなかで一つでも二つでも続けられる趣味が見つかれば十分です。「将来役に立つから」と、子どもがつまらないと感じる活動ばかりさせるよりも、本人が「楽しかった」と思える経験を重ねていくことのほうが、長い目で見て支えになります。

受診の目安

以下のようなことがあれば、一人で抱え込まず、医療機関にご相談ください。

  • ゲームやネットをめぐる衝突が続き、家庭内での会話が減ってしまっている
  • 機器の取り合いや制限をめぐって、暴力や激しい言い合いが起きている
  • 昼夜が逆転している、睡眠時間が極端に短いなど、生活リズムが大きく崩れている
  • 不登校やひきこもりがあり、ネットやゲーム以外の活動や人とのつながりが乏しくなっている
  • 気分の落ち込みや強い不安など、ネットやゲーム以外の悩みが背景にありそうだと感じる

なお、診断は医師が行います。本人が受診を迷っている場合でも、まずご家族だけで当院にご相談いただくことができます。気になることがあれば主治医または当院にご相談ください。けがや命に関わる緊急の事態のときは、ためらわず救急(119)をご利用ください。

まとめ

子どものゲームやネットの問題は、機器を取り上げることでは解決しにくく、むしろ対立を深めてしまいがちです。出発点は「約束は子どもには守れない」という現実的な前提に立ち、子どもと一緒に守れる約束をつくること。所有権は大人に置き、上手な「おしまい」の力を育て、スクリーンタイムやみまもりSwitchなどの仕組みを味方につけると、少ない労力で約束を支えられます。そして何より、ネットやゲーム以外に夢中になれることを増やしていく応援が、長い目で見た支えになります。焦らず、対立ではなく協力できる関係を少しずつ育てていきましょう。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち(吉川徹)

よくある質問

ゲーム機を取り上げれば、勉強や学校に行くようになりますか?

取り上げてうまくいくことはまれだとされています。むしろ対立や暴力、家出につながる危険があり、専門家の多くが「取り上げるのはたいてい無意味」と指摘しています。距離を取るとしても、話し合いと本人の同意が前提になります。

約束を決めても子どもが守りません。約束は意味がないのでしょうか?

意味がないわけではありませんが、「約束は子どもには守れない」という前提から出発するのが現実的です。約束は子どもだけに守らせるものではなく、大人が守る手助けをするもの、と考えると関わり方が変わります。

ペアレンタルコントロールはどんなときに役立ちますか?

スクリーンタイムやみまもりSwitchなどを使うと、離れていても使用状況を確認でき、約束を守る手助けを少ない労力で行えます。常に見張らなくてもよくなるため、衝突を減らす助けになります。

ルールはたくさん決めたほうがよいですか?

数の多さよりも、「いま実際に守れているか」が大切です。守られていないルールはないより悪い状態とされるため、無理のない範囲に絞り、時々見直すことをおすすめします。

何歳からルールをつくればよいですか?

文章が読めて、時間の概念が分かるようになると約束を進めやすくなります。年齢が低いうちは厳しめの制限から始め、成長に合わせて少しずつ緩めていくのが原則です。ご家庭ごとに事情は異なるので、迷うときは相談しながら進めてください。

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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