はじめに
「明らかに度を越しているのに、本人は『自分は依存なんてしていない』の一点張り」「やめるように何度言っても聞かず、最近は話しかけても避けられる」「病院に行ってほしいのに、受診の話を出しただけで激しく怒る」――アルコール、ギャンブル、ゲームやネットなど、依存が疑われるご家族と暮らしていると、こうした行き詰まりに何度もぶつかります。よかれと思って説得すればするほど関係が悪くなり、どうすればいいのか分からなくなってしまうご家族は少なくありません。
まず知っていただきたいのは、つらいのはあなただけではないということです。本人が問題を認めず、受診も拒むという状況は、依存にまつわる相談ではとてもよくあることです。そして大切なのは、「本人が変わるのを待つ」のではなく、ご家族の側が先に動けることがある、という点です。
この記事では、説得やお説教がかえって逆効果になりやすい理由、本人が自ら変化に気づいていく「動機づけ面接」という考え方、対立を減らす関わり方の基本、そしてご家族だけでも相談を始めてよいことをお伝えします。なお、診断や治療方針は医師が行います。気になる点は医療機関にご相談ください。
説得・お説教が、かえって抵抗を強めてしまう
ご家族がいちばん自然に取りたくなる対応が、「説得」と「お説教」です。これだけ困っているのだから、正しいことを根気よく伝えれば分かってくれるはず――そう思うのは当然のことです。けれども依存の問題では、この「正論で変えさせようとする」関わりが、かえって本人の抵抗を強めてしまうことがよく知られています。
人は、正面から「あなたは間違っている」「変わるべきだ」と迫られると、たとえ心の中で薄々分かっていても、つい反発したくなります。「やめろ」と言われるほど「自分は大丈夫だ」と言い返したくなり、その言葉を口にすること自体が、かえって「やめなくてよい理由」を本人の中で強めてしまうのです。
さらに問題なのは、こうしたやり取りが繰り返されると、家庭内での対立が深まり、会話そのものが減っていくことです。依存は「孤立の病」とも言われます。まわりの人とのつながりが失われ、孤立が深まるほど、依存はむしろ悪化しやすくなります。つまり、本人を変えようとして強く迫り続けることが、結果として状況を悪い方向に押し進めてしまうことがあるのです。
物を取り上げたり、無理やりやめさせたりする対応も、同じ理由でうまくいきにくいとされています。状況が好転することはまれで、逆に強い反発や対立を招くことが少なくありません。「やめさせる」より先に、まず「対立を減らす」ことが、遠回りのようでいて近道になります。
「動機づけ面接」――本人が自分で気づくのを助ける
では、説得しないとしたら、どう関わればよいのでしょうか。ここで参考になるのが、**動機づけ面接(どうきづけめんせつ)**という考え方です。これはもともとアルコールの問題などに対して開発され、多くの研究で効果が確かめられてきた関わり方で、対人援助の場で広く使われています。
動機づけ面接のいちばんの特徴は、「変わるように説得したり説教したりしない」という点にあります。代わりに、受け入れる姿勢で対話を重ねるなかで、本人が自分自身で「このままではよくないかもしれない」「少し変えてみようか」と気づき、それが実際の行動につながっていくことを目指します。変化のきっかけを外から押し込むのではなく、本人の中からそっと引き出していくイメージです。
ここで大切なのは、変わるかどうかを決めるのは最終的に本人だ、という割り切りです。一見もどかしく感じるかもしれません。けれども、本人が「自分で決めた」と思える変化は、人から無理に変えさせられた変化よりも、ずっと続きやすいのです。ご家族の役割は、命令する人ではなく、本人が安心して自分の気持ちを話せる相手になることだと考えてみてください。
なお、依存の背景には、不安や気分の落ち込み、人付き合いのつらさなど、別のつらさが隠れていることも少なくありません。依存はそのつらさをしのぐための「自己流の対処」になっている場合があるのです。本人を責める前に、「この人は今、何に困っているのだろう」という視点を持てると、関わり方の糸口が見えてくることがあります。
関わりの基本――開かれた質問・是認・聞き返し・要約
動機づけ面接の対話には、ご家族が日常の会話でも少しずつ取り入れられる、いくつかの基本があります。専門的には「開かれた質問」「是認(ぜにん)」「聞き返し」「要約」と呼ばれます。むずかしく考えず、次のようなイメージで捉えてみてください。
- 開かれた質問:「はい・いいえ」で終わらない問いかけです。「もうやめたら?」ではなく、「最近、どんなときに一番しんどい?」のように、本人が自分の言葉で話せる聞き方を心がけます。
- 是認(ぜにん):本人の努力や良いところに気づいて、言葉にして認めることです。「ちゃんと起きて仕事に行けた日もあったね」など、小さなことでかまいません。責める言葉が減るだけでも、対話の空気は変わります。
- 聞き返し:相手が言ったことを、こちらの言葉で言い直して返すことです。「つまり、本当はしんどいけど、やめると落ち着かないんだね」のように返すと、本人は「分かってもらえた」と感じやすくなります。
- 要約:話を聞いたあとで、「今日はこんな話をしたね」と短くまとめることです。本人が自分の気持ちを整理する助けになります。
これらに共通しているのは、「説得やお説教を避け、まず相手の気持ちを受け止める」という姿勢です。最初からうまくできなくて当然ですし、すべてをご家族だけで身につける必要もありません。こうした関わり方は、相談機関や専門家のもとで具体的に学んでいくことができます。
まず家族だけで、相談を始めてよい
本人が問題を認めず、受診も拒んでいると、「本人が動かないかぎり、何も始められない」と感じてしまいがちです。けれども、そうではありません。依存の問題に最初に気づくのは、たいてい本人ではなくご家族です。そして、家族だけでこの問題を抱え込むのは、とても難しいことでもあります。
だからこそ、できるだけ早い時期に、家庭の外に相談相手を見つけることが大切です。相談先によっては、最初はご家族だけで通うことができます。そして、本人がすぐに相談に行かなくても、ご家族の関わり方が変わることで状況が改善したり、時には本人が自分から動き出したりすることがあります。「本人を連れて行かなければ意味がない」と思い込まなくて大丈夫です。
相談のハードルは高く感じられるかもしれません。それでも、相談先を見つけて早めにつながり、そのつながりを保ち続けることが、解決への早道だと考えられています。当院でも、ご家族だけのご相談をお受けしています。本人が受診を迷っている段階でも、まずご家族だけでお越しいただいて構いません。
相談先を転々とせず、つながり続ける
依存の問題は、解決まで時間がかかることが少なくありません。そのため、待ちきれなくなって「ここではだめかもしれない」「別のところの方がいいのでは」と、相談先を変えたくなることがあります。その気持ちはとてもよく分かります。
ただ、相談先を次々と変えてしまうと、かえって解決から遠ざかってしまうことが少なくありません。新しい相談先では、また一から事情を説明し、関係を築き直すところからのスタートになります。多くの場合、今つながっている相談先に通い続けることが、結果的にいちばんの近道になります。もしどうしても合わないと感じるときは、すぐに移ってしまう前に、その相談先に率直に伝えてみてください。
関係する大人の足並みを「ほどほどに」そろえる
ご家族が複数で本人を支えている場合――たとえば両親や、同居するご家族がいる場合――に大切なのが、関係する大人どうしの足並みを「ほどほどに」そろえておくことです。
一方が厳しく叱り、もう一方がかばう、というように対応がバラバラだと、本人は混乱しやすく、ときに大人どうしの対立に発展してしまうこともあります。そうなると、肝心の本人の問題が後回しになってしまいます。本人に向き合う前に、ご家族のあいだで「何をいちばん大事にするか」「どこまでは見守るか」を話し合っておくと、関わりが安定します。
ここで力を抜いていただきたいのが、「完全に一致させる必要はない」という点です。価値観や人生観は人それぞれですから、ぴたりとそろえるのは難しいものです。話し合いのなかで方向性が「ほどほどに」近づいてくれば、それで十分です。完璧を目指して家族どうしが疲れ果ててしまうより、大筋でそろっている方がずっと現実的です。
なお、ご家族のあいだに深刻な対立や、暴力にかかわる問題がある場合には、依存への対応より先に、まず安全を確保することが優先されます。身の危険がある緊急時は迷わず119番に連絡してください。そうでない場合も、無理にご家族だけで抱え込まず、主治医や当院にご相談ください。
対立を減らすことが、本人の変化を後押しする
ここまでの内容に共通して流れているのは、「対立を減らすこと」が、結果として本人の変化を後押しする、という考え方です。
依存は孤立のなかで悪化し、つながりのなかで和らいでいく面があります。本人を変えようとして対立を深めると、孤立が進み、依存はかえって手ごわくなります。反対に、対立を減らし、安心して話せる関係を取り戻していくと、本人が自分の問題と向き合う余地が生まれてきます。すぐに大きな変化が見えなくても、関係が壊れていないことそのものが、次の一歩の土台になります。
「説得して変えさせる」から、「対立を避けながら、本人が自分で気づくのを支える」へ。発想を切り替えることは簡単ではありませんが、これは決して本人を甘やかすことでも、問題を見過ごすことでもありません。ご家族が長く支え続けられるための、現実的な方法なのです。
受診の目安
以下のようなことがあれば、一人で抱え込まず、主治医や当院にご相談ください。
- 本人が問題を認めず、説得しようとするたびに対立が深まっている
- 本人が受診を拒んでいて、どう声をかければよいか分からない
- 本人とのやり取りに振り回され、ご家族が疲れ切っている
- ご家族自身が眠れない、気分が落ち込むなど、心身の不調を感じている
- 借金や暴力など、生活や安全にかかわる問題が出てきている
なお、診断は医師が行います。本人が受診を迷っている場合でも、まずご家族だけで相談に来ていただくことができます。暴力などで身の危険が差し迫っているときは、ためらわず119番に連絡してください。
まとめ
本人が依存を認めないとき、説得やお説教はかえって抵抗を強め、対立を深めてしまいがちです。大切なのは、正しさを証明することより、開かれた質問や聞き返しを通じて本人の気持ちを受け止め、本人が自ら変化に気づくのを支えることです。そして、本人が動くのを待たなくても、ご家族だけで相談を始めてよいのです。相談先を転々とせずにつながり続けること、関係する大人の足並みをほどほどにそろえること、そして対立を減らすこと――その積み重ねが、結果として本人の変化を後押しします。一人で抱え込まず、専門家の力を借りながら、少しずつ進んでいきましょう。
参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち(吉川徹)
よくある質問
本人が依存を認めません。説得し続ければいつか分かってくれますか?
強い説得やお説教は、かえって反発や対立を強めてしまうことが多いとされています。正しさを証明するより、まず相手の気持ちを否定せずに聞くことが、結果的に本人が自分で考え直すきっかけになります。詳しい関わり方は記事内でご紹介しています。
本人が受診を拒んでいます。家族だけで相談に行ってもよいのでしょうか?
はい、ご家族だけで相談を始めて大丈夫です。相談先によっては、まず家族だけで通うことができ、本人がすぐに行かなくても状況が改善していくことがあります。一人で抱え込まず、早めに外の相談先につながることをおすすめします。
相談先がしっくりこないとき、別のところに変えた方がよいですか?
気持ちは分かりますが、相談先を次々と変えると、かえって解決から遠ざかってしまうことが少なくありません。多くの場合、今の相談先につながり続けることが近道です。どうしても合わないときは、移る前に一度その相談先に率直に伝えてみてください。
家族の意見がそろいません。きちんと一致させないとだめですか?
完全に一致させる必要はありません。価値観は人それぞれなので、話し合いのなかで方向性が「ほどほどに」近づいてくれば十分です。完璧を目指してご家族が疲れ果ててしまうより、大筋でそろっている方が続けやすく現実的です。