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連載「ゲーム・ネット依存と家族のガイド」第1回(全9回)

はじめに

夕食の時間になってもゲームをやめない。「あと1回だけ」が何度も続く。注意すると不機嫌になる。気づけば一日の多くの時間をスマホや動画、オンラインゲームに費やしている——お子さんのこうした様子を見て、「うちの子はゲーム依存・ネット依存なのではないか」と不安になっている保護者の方は多いはずです。

実は、「使いすぎ」と医学的な「依存」は、同じものではありません。この記事では、医学が「ゲーム症」をどう扱っているか、「時間が長い=依存」とは限らない理由、そして家族ができる現実的な関わり方と相談先の探し方を、児童精神科の専門書の内容をもとに整理します。

子どもはどのくらいゲームやネットを使っているのか

生まれたときからスマホやタブレットが手元にある世代にとって、ネットは特別なものではなく、生活に溶け込んだ道具です。小学生の年代でもかなりの割合の子どもが日常的にインターネットを使い、年齢が上がるにつれて利用時間は長くなっていきます。使う目的も変わっていきます。小学生の年代では動画やオンラインゲームが中心になりやすいのに対し、中学生・高校生になるとボイスチャットやSNSなど友だちとのやりとりの比重が増え、ネットは「遊び」だけでなく「人とつながる場所」へと役割を広げていきます。

つまり、長い時間使っていること自体は、いまの子どもにとってごくありふれた現象で、それだけで病気とはいえません。だからこそ、「健全な使用」と「依存」をていねいに見分ける視点が大切になります。

「依存」とは何か ― ゲーム症をめぐる医学の考え方

「依存」という言葉には、もともと「ないと困ってしまう」というニュアンスがあります。お酒や薬物のように、やめると体に症状が出たり、欲求を抑えられなくなったりする状態が、典型的な依存です。近年は、ギャンブルや買い物のように物質をともなわない行動についても似たしくみが起こりうると考えられ、これを「行動嗜癖(こうどうしへき/アディクション)」と呼びます。ゲームやネットの問題も、この行動嗜癖の一つとして研究が進められてきました。

こうした流れのなかで、WHO(世界保健機関)がまとめる国際的な診断分類ICD-11に、「ゲーム症(ゲーム障害)」という病名が採用されました。その目安として挙げられているのは、おおむね次のような点です。

  • ゲームを始める・終える・どれくらいやるかを、自分でコントロールできない
  • ほかの関心事や日常の活動よりも、ゲームを優先してしまう
  • 生活に問題が起きているのに、それでもゲームを続けてしまう
  • そうした状態が、学業・仕事・人間関係などに明らかな支障を起こすほど重く、ある程度の期間(目安として12か月)続いている

ここで大切なのは、診断の目安が「時間の長さ」そのものではないことです。中心にあるのは、自分でコントロールできるか、生活が大きく崩れていないか、という視点です。診断は、ご家庭で当てはめて決めるものではなく、お子さんを実際に診た医師が行います。

専門家の間でも意見が割れている

ゲーム症を「病気」として扱うことについては、専門家の間でも賛否が分かれ、いまも議論が続いています。賛成する立場は、深刻な問題を抱える子どもが現実にいることや、社会全体で取り組むべき課題だという点を重視します。慎重な立場は、十分な科学的根拠がまだそろっていないこと、当てはまる子どもは比較的少ないと考えられること、そして安易に病気とみなすことで、健康にゲームを楽しんでいる多くの子どもにまで偏見(スティグマ)が向けられかねないことを心配しています。

つまり、「ゲーム依存」は、まだ答えの定まった分かりやすい病気ではありません。「長くやっている」というだけで決めつけないことが大切です。

当てはまる子どもは一部で、しかも「固定的」ではない

診断基準に当てはまるほどの状態は、ゲームをしている子ども全体から見ればごく一部だと考えられています。各国の調査では報告のばらつきが大きいものの、多くの子どもは嗜癖と呼べるような使い方をしておらず、健康に楽しんでいます。

さらに、追跡調査からは、一時的に依存的な状態になっても、時間の経過とともにそこから抜け出す子どもが多いことも分かってきています。ただし、ごく一部に長く続く深刻な状態の子どもがいることも確かで、そうした場合には専門機関の支援が必要になります。

長時間プレイは「原因」ではなく「結果」のことが多い

保護者の不安の多くは、「これだけ長い時間やっているから依存に違いない」という考えから生まれます。けれど、子どものゲーム時間に一律の目安を設けたり、深夜帯のアクセスを禁止したりする取り組みが各地で行われてきましたが、長く続く嗜癖をはっきり減らせたとはいいきれない結果も報告されています。そこで専門家のなかには、「ゲーム時間が長いから依存になる」のではなく、「依存的な状態の結果として、生活のなかでゲームが長時間を占めるようになる」と考えたほうが実態に近いのではないか、という見方があります。順番が逆かもしれない、ということです。

実際、長く使ってしまう背景には、不安や落ち込み、発達の特性、日々のフラストレーション、家庭の状況など、さまざまな要因が関わっていると考えられています。「意志が弱いから」「だらしないから」やめられないのだ、という単純な話ではありません。時間の数字だけを見て不安を募らせるよりも、その背景に何があるのかへ目を向けることが大切になります。

背景に「別の困りごと」が隠れていることが多い

児童精神科の専門書では、ネットやゲームの使いすぎの背景として、次のようなものがしばしば挙げられています。

  • 発達の特性:自閉スペクトラム症(ASD)の「切り替えの苦手さ」や、ADHDの「好きなことへの過集中」は、ゲームの「おしまい」を難しくしやすい特性です。一方で、ネットの世界がコミュニケーションの苦手さを補う居場所や、興味を深める入り口になっている面もあり、単純に「悪いもの」とはいえません。
  • 不安や落ち込み:人付き合いへの強い不安から現実の交流を避けてネット越しの関わりを選んでいたり、気分の落ち込みでほかの活動ができなくなった結果、ゲームや動画だけが残っていたりすることがあります。こうした場合、実はゲーム自体から強い喜びを得ていないことも少なくありません。
  • 不登校・いじめ・人間関係のつまずき:「ゲームにはまったから学校に行かなくなった」ように見えて、実際には「学校に行きたくない・行けない事情があり、家にいる間ほかにやることがないからネットやゲームで時間をつぶしている」という順番の子どもが少なくない、と指摘されています。

このように見てくると、ゲームやネットは子どもの問題の「主役」のように見えて、実は「目立つ脇役」であることが多いといえます。子どもが勉強しない、学校に行かない、元気がない——そんなとき、大人はつい「ゲームのせいだ」と考えたくなりますが、ゲームやネットだけを問題視すると、その奥にある本当の困りごとから、かえって目をそらしてしまうことがあります。問題が目立つときほど、「この子はいま何に困っているのだろう」と一緒に考えていくことが、支援の糸口になります。発達特性とゲームの関係については、ASD・ADHDのある子どもとゲームの記事でくわしく取り上げています。

取り上げ・禁止が逆効果になりやすい理由

心配が強まると、「スマホを取り上げる」「Wi-Fiを切る」といった強い手段を考えたくなります。けれども、力ずくの取り上げには難しさと危うさがあります。

理由の一つは、ゲームやネットが、子どもにとって単なる遊びではなく、達成感・仲間・居場所といった「本人がそこで得ているもの」の入れ物になっていることです。つらさから一時的に避難できるいちばん身近な場所になっていることもあります。そこを突然奪われれば、子どもは力ずくでそれを守ろうとし、はげしい反発や対立、ときには暴力や家出につながってしまうことがあります。

もう一つの理由は、依存(嗜癖)が「孤立の病」とも呼ばれ、その反対側にあるのが「つながり」だと考えられていることです。取り上げによって親子の対立が深まると、子どもはますます孤立し、かえって依存的な状態から抜け出しにくくなります。ネットやゲームと距離を取っていくなら、話し合いと本人の納得に基づいて進めることが基本です。

だからこそ、まず大人にできるのは「知ること」です。子どもがどんなゲームの、何に惹かれているのか。達成感なのか、仲間との協力なのか、コレクションなのか。関心を持って尋ね、できれば少し一緒に遊んでみる。好きなゲームの「よいところ」を三つ考えてみる、という方法を勧める児童精神科医もいます。遠回りに見えても、それが子どもとの距離を縮める入り口になります。

家族ができる現実的な関わり

そのうえで、日々の関わりとして勧められている考え方をいくつか紹介します。

  • 「約束は子どもだけでは守れない」を前提にする:ネットやゲームはあまりにも魅力的なので、約束を自分の力だけで守れる子どもは多くありません。守れないのは本人の意志の弱さではなく、大人の手伝いが必要なのだと考えると、叱らずにすむ場面が増えます。
  • 約束は一方的に決めず、一緒に作る:親が一方的に作ったルールは、無視や嘘、反抗につながりやすいものです。なぜ制限が必要なのかを一緒に考え、子どもが納得できる形で決めたほうが、結局は守られやすくなります。
  • 「厳しい制限から、ゆるやかな制限へ」:小さいうちは大人がしっかり関わり、成長に合わせて子どもが自分で管理する範囲を広げていくのが原則です。進学などの節目ごとに、約束を見直す話し合いの機会を持てるとよいでしょう。
  • 課金・お金のルールは先に決めておく:課金の仕組みは複雑で、トラブルになりやすい領域です。使ってよい金額や決済の方法について、問題が起こる前に取り決めておきます。
  • 生活の土台(睡眠・食事)を守る:成長期には質のよい睡眠がとても大切です。「ゲームを減らす」よりも「睡眠を確保する」ことを目標に、就寝前は画面から離れる時間を作るなど生活を整えるほうが、話し合いもしやすくなります。
  • ゲーム以外の楽しみを一緒に増やす:目指すのは「ゲームの時間を減らす」ことより「ゲームをしていない時間の中身を増やす」ことです。料理や釣り、買い物など、家族と一緒にできる活動が増えてくると、ネットやゲームの時間は自然に減っていくことが多いといわれます。

家庭でのルール作りの具体的な工夫は、家庭でのゲームルール作りの記事でも取り上げています。

目標は「時間を短くすること」より「自律的にやめる力」

睡眠や食事、学校生活が大きく崩れているなら、生活を整えることは欠かせません。けれど、本当に育てたいのは、「やめたいときに自分でやめられる力」(自律的にコントロールする力)です。これは、外から一律に時間を決めて守らせるだけでは育ちにくく、大人が年齢に応じて一緒に関わりながら、小さな約束を一つずつ積み重ねていくなかで、少しずつ身についていくものと考えられています。

「ゲームをやめさせること」がゴールなのではなく、「自分とゲーム・ネットの付き合い方を、子ども自身が学んでいくこと」がゴールだと考えると、関わり方の力点も少し変わってくるはずです。

相談のタイミングと相談先の探し方

次に当てはまるときは、家族だけで抱え込まず、外部への相談を考えてみてください。

  • 睡眠時間が大きく削られている、昼夜が逆転している
  • 学校に行けない、食事をとらないなど、生活の基盤が崩れてきている
  • やめたいと思っても自分でやめられず、本人も困っている様子がある
  • ゲームやネット以外の楽しみや、人とのつながりへの関心が薄れてきた
  • 強い気分の落ち込みや不安、イライラが続いている
  • ゲームを制限しようとすると、はげしい対立や暴言・暴力につながってしまう

相談先は、困りごとの中身によって少し変わります。

  • 不登校が関わっているとき:まず学校に相談してみてください。担任やスクールカウンセラーのほか、自治体の教育センターでも相談を受けています。
  • 発達の特性や、不安・落ち込みが心配なとき:発達障害に詳しい小児科医や、児童・思春期を診ている精神科(児童精神科)が候補になります。
  • お金の持ち出しや暴力などが繰り返されるとき:児童相談所や警察の少年相談窓口も候補になります。

本人が行きたがらないときも、最初は家族だけの相談から受け付けている相談先があります。事前に電話などで確認してみてください。解決に時間がかかることも多い分野ですが、相談先を転々とするより、一つの相談先に根気よく通い続けるほうが近道になることが多いといわれています。なお、当院は18歳以上の方を対象とした大人の精神科のため、お子さんの診療や、ご家族のみの相談はお受けしていません。この記事は情報提供としてお役立てください。

気分の落ち込みが強い、眠れない、「消えてしまいたい」という言葉が出るときは、ゲームの問題とは切り離して、できるだけ早く児童・思春期を診ている医療機関(すでに通院先がある場合は主治医)に相談してください。命に関わる差し迫った危険があるときは、ためらわず救急(119)に連絡してください。

まとめ

子どものゲーム・ネットの「使いすぎ」と、医学的な「依存(ゲーム症)」は、同じものではありません。診断の中心は「時間の長さ」ではなく、「自分でコントロールできるか」「生活が大きく崩れていないか」にあります。目指したいのは、時間を短くすることよりも、子どもが「自分でやめる力」を少しずつ育てていくことです。ゲームやネットは多くの場合「目立つ脇役」です。取り上げて対立を深めるよりも、子どもが得ているものに関心を寄せ、つながりを保ちながら、その奥にある本当の困りごとに一緒に目を向けていく——心配なときは一人で抱え込まず、学校や児童・思春期を診ている医療機関などの相談先を頼ってください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち(吉川徹/合同出版)
  • 児童青年期の精神疾患に関する専門書(診断の考え方の整理に参照)

よくある質問

長い時間ゲームをしていたら、それだけで依存といえますか?

時間が長いことと、医学的な依存(ゲーム症)は同じではありません。多くの子どもは長時間遊んでいても健康に楽しんでいます。大切なのは「やめたいときに自分でやめられるか」「ほかの生活が大きく崩れていないか」です。長時間プレイは依存の原因というより、結果としてそうなっていることも多いと考えられています。

「ゲーム症」はもう正式な病気なのですか?

WHO(世界保健機関)の国際的な診断分類ICD-11では、ゲーム症が病名として採用されています。ただし、これを病気として扱うことには専門家の間でも賛否があり、議論が続いている分野です。当てはまる子どもは比較的少ないと考えられています。診断は医師が行います。

子どものゲーム時間を短くすれば、問題は解決しますか?

時間を短くすること自体が目標になるとは限りません。大事なのは「自分でやめる力(自律的にやめる力)」を、小さなことの積み重ねを通して育てていくことです。無理に取り上げると、かえって親子の対立が深まることもあります。心配なときは一人で抱えず、学校の先生やスクールカウンセラー、児童・思春期を診ている医療機関などに相談してみてください。

どこに相談すればよいですか。家族だけで相談に行ってもよいのでしょうか。

困りごとの中身によって相談先は変わります。不登校が絡むときは学校の先生・スクールカウンセラー・教育委員会の教育相談窓口、発達の特性や不安・落ち込みが心配なときは児童精神科や発達に詳しい小児科が候補になります。相談先によっては、最初は家族だけの相談を受け付けているところもありますので、事前に電話などで確認してみてください。なお当院は18歳以上の方を対象としており、お子さんの診療や、ご家族のみの相談はお受けしていません。

ゲームを取り上げれば、勉強するようになりますか?

取り上げれば勉強するようになる、とはいいきれません。ゲームやネットは問題の「主役」ではなく「目立つ脇役」であることが多く、勉強や登校がうまくいかない背景には、別の困りごとが隠れていることがあります。取り上げることで親子の対立が深まると、かえって状況がこじれてしまうこともあります。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。