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はじめに

夕食の時間になってもゲームをやめない。「あと1回だけ」が何度も続く。注意すると不機嫌になる。気づけば一日の多くの時間をスマホや動画、オンラインゲームに費やしている——。お子さんのこうした様子を見て、「うちの子はゲーム依存・ネット依存なのではないか」と不安になり、この記事にたどり着いた方は多いのではないでしょうか。

「これだけ長くやっていたら、もう依存だ」「早く病院に連れて行ったほうがいいのでは」。そう感じて心配されるのは、お子さんを大切に思うからこそです。同じように悩み、相談に来られる保護者の方はとても多く、あなただけが特別なわけではありません。

そして実は、「使いすぎ」と医学的な「依存」は、同じものではありません。この記事では、子どものゲーム・ネット利用の実態、医学が「ゲーム症」をどう扱っているか、そして「時間が長い=依存」とは限らない理由を、児童精神科の知見をもとにやさしく整理します。あわせて、本当に心配なときに保護者がまず確認したいポイントもお伝えします。なお、診断は医師が行います。ここで紹介するのは、受診の前に知っておくと役立つ「考え方の地図」とお考えください。

子どもはどのくらいゲームやネットを使っているのか

まず、いまの子どもにとってネットやゲームがどれほど身近なものかを整理しておきましょう。生まれたときからスマホやタブレットが手元にある世代にとって、ネットは特別なものではなく、生活に溶け込んだ道具です。各種の調査を見ても、小学生の年代でもかなりの割合の子どもが日常的にインターネットを使い、年齢が上がるにつれて利用時間は長くなっていく傾向があります。

注目したいのは、年齢によって「使う目的」が変わることです。小学生の年代では、動画の視聴やオンラインゲームが利用の中心になりやすいのに対し、中学生・高校生になると、友だちとのやりとり(ボイスチャットやSNS)の比重が大きくなっていきます。つまり、年齢が上がるほどネットは「遊び」だけでなく「人とつながる場所」へと役割を広げていくのです。

ここで大切なのは、長い時間使っていること自体は、ごく多くの子どもに当てはまるありふれた現象だということです。長く使っている=病気、とすぐに結びつける必要はありません。むしろ、利用が当たり前になった今だからこそ、「健全な使用」と「依存」をていねいに見分ける視点が大切になります。

「依存」とは何か ― ゲーム症をめぐる医学の考え方

「依存」という言葉には、もともと「ないと困ってしまう」というニュアンスがあります。お酒や薬物のように、やめると体に症状が出たり、欲求を抑えられなくなったりする状態が、典型的な依存です。近年は、ギャンブルや買い物のように物質をともなわない行動についても、似たしくみが起こりうると考えられ、これを「行動嗜癖(こうどうしへき/アディクション)」と呼びます。ゲームやネットの問題も、この行動嗜癖の一つとして研究が進められてきました。

こうした流れのなかで、WHO(世界保健機関)がまとめる国際的な診断分類ICD-11に、「ゲーム症(ゲーム障害)」という病名が採用されました。その目安として挙げられているのは、おおむね次のような点です。

  • ゲームを始める・終える・どれくらいやるかを、自分でコントロールできない
  • ほかの関心事や日常の活動よりも、ゲームを優先してしまう
  • 生活に問題が起きているのに、それでもゲームを続けてしまう
  • そうした状態が、学業・仕事・人間関係などに明らかな支障を起こすほど重く、ある程度の期間(目安として12か月)続いている

ここで気づいていただきたいのは、診断の目安が「時間の長さ」そのものではない、という点です。中心にあるのは、自分でコントロールできるか、生活が大きく崩れていないか、という視点なのです。

専門家の間でも意見が割れている

注意しておきたいのは、ゲーム症を「病気」として扱うことについては、専門家の間でも賛否が分かれ、いまも議論が続いているということです。

病気として扱うことに賛成する立場は、深刻な問題を抱える子どもが現実にいることや、社会全体で取り組むべき課題だという点を重視します。一方で慎重な立場は、十分な科学的根拠がまだそろっていないこと、当てはまる子どもは比較的少ないと考えられること、そして安易に病気とみなすことで、健康にゲームを楽しんでいる多くの子どもにまで偏見(スティグマ)が向けられかねないことを心配しています。

つまり、「ゲーム依存」は、すでに答えの定まった分かりやすい病気ではありません。だからこそ、「長くやっている」というだけで決めつけず、落ち着いて見ていくことが大切なのです。

長時間プレイは「原因」ではなく「結果」のことが多い

保護者の不安の多くは、「これだけ長い時間やっているから依存に違いない」という考えから生まれます。けれど、ここには見直したい思い込みがあります。

各国で行われた制限の試みが、その手がかりになります。たとえば、子どものゲーム時間に一律の目安を設けたり、深夜帯のアクセスを禁止したりする取り組みが各地で行われてきましたが、長く続く嗜癖をはっきり減らせたとはいいきれない結果も報告されています。回避する方法があったり、時間がたつと元に戻ったりすることも指摘されています。

こうしたことから、専門家のなかには、「ゲーム時間が長いから依存になる」のではなく、「依存的な状態の結果として、生活のなかでゲームが長時間を占めるようになる」と考えたほうが実態に近いのではないか、という見方があります。順番が逆かもしれない、ということです。

実際、長く使ってしまう背景はとても複雑です。不安や落ち込み、発達の特性、日々のフラストレーション、家庭の状況など、さまざまな要因が関わっていると考えられています。「意志が弱いから」「だらしないから」やめられないのだ、という単純な話ではありません。だからこそ、時間の数字だけを見て不安を募らせるよりも、その背景に何があるのかへ目を向けることが大切になります。

目標は「時間を短くすること」より「自律的にやめる力」

では、保護者は何を目指せばよいのでしょうか。ここで大切にしたいのが、目標を「時間を短くすること」だけに置かない、という発想です。

もちろん、睡眠や食事、学校生活が大きく崩れているなら、生活を整えることは欠かせません。けれど、本当に育てたいのは、「やめたいときに自分でやめられる力(自律的にコントロールする力)」です。これは、外から一律に時間を決めて守らせるだけでは育ちにくく、小さな約束を一つずつ積み重ねていくなかで、少しずつ身についていくものと考えられています。

そのために役立つとされるのが、年齢に応じて大人が一緒に関わることです。小さいうちは大人が手伝いながら時間を区切る経験を重ね、成長にあわせて、少しずつ自分で管理する範囲を広げていく——この「厳しい制限から、ゆるやかな制限へ」という流れが、自律する力を育てる土台になります。逆に、力ずくで取り上げたり、急に厳しくしたりすると、かえって反発が強まり、親子の対立が深まってしまうこともあります。

「ゲームをやめさせること」がゴールなのではなく、「自分とゲーム・ネットの付き合い方を、子ども自身が学んでいくこと」がゴールだと考えると、関わり方の力点も少し変わってくるはずです。

ゲームやネットは「主役」ではなく「目立つ脇役」のことが多い

もう一つ、心に留めておきたい視点があります。それは、ゲームやネットは子どもの問題の「主役」のように見えて、実は「目立つ脇役」であることが多い、ということです。

子どもが勉強しない、学校に行かない、元気がない——そんなとき、大人はつい「ゲームのせいだ」「ゲーム依存という病気のせいだ」と考えたくなります。その病気さえ治ればすべて解決する、と思いたくなるのも自然なことです。けれど、多くの場合それはうまくいきません。ゲームやネットだけを問題視してしまうと、その奥にある本当の困りごと——たとえば学校での不安、人間関係のつまずき、気分の落ち込み、発達の特性などから、かえって目をそらしてしまうことがあるのです。

ゲームやネットは、しばしば「つらさから一時的に避難できる、いちばん身近な居場所」になっています。そこを力ずくで取り上げても、もとのつらさが消えるわけではありません。「ゲームをどうにかする」ことより、「この子はいま何に困っているのだろう」と一緒に考えていくことが、遠回りに見えて確かな道になります。

受診の目安

以下に当てはまるときは、一度相談してみることをおすすめします。

  • 睡眠時間が大きく削られている、昼夜が逆転している
  • 学校に行けない、食事をとらないなど、生活の基盤が崩れてきている
  • やめたいと思っても自分でやめられず、本人も困っている様子がある
  • ゲームやネット以外の楽しみや、人とのつながりへの関心が薄れてきた
  • 強い気分の落ち込みや不安、イライラが続いている
  • ゲームを制限しようとすると、はげしい対立や暴言・暴力につながってしまう

特に、気分の落ち込みが強い、眠れない、「消えてしまいたい」という言葉が出るときは、ゲームの問題とは切り離して、できるだけ早く主治医や当院にご相談ください。命に関わる差し迫った危険があるときは、ためらわず救急(119)に連絡してください。

まとめ

子どものゲーム・ネットの「使いすぎ」と、医学的な「依存(ゲーム症)」は、同じものではありません。長く使っていること自体は、いまの子どもにとってありふれたことで、それだけで病気とはいえません。

ゲーム症はWHOの分類で病名として採用されましたが、病気として扱うことには専門家の間でも議論があり、診断の中心は「時間の長さ」ではなく「自分でコントロールできるか」「生活が大きく崩れていないか」にあります。長時間プレイは、依存の原因というより結果のことも多いと考えられています。

目指したいのは、時間を短くすることそのものよりも、子どもが「自分でやめる力」を少しずつ育てていくことです。ゲームやネットは多くの場合「目立つ脇役」であり、その奥にある本当の困りごとに一緒に目を向けていくことが、何より大切です。一人で抱え込まず、不安なときはいつでもご相談ください。お子さんに合った関わり方を、一緒に考えていきましょう。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち(吉川徹/合同出版)

よくある質問

長い時間ゲームをしていたら、それだけで依存といえますか?

時間が長いことと、医学的な依存(ゲーム症)は同じではありません。多くの子どもは長時間遊んでいても健康に楽しんでいます。大切なのは「やめたいときに自分でやめられるか」「ほかの生活が大きく崩れていないか」です。長時間プレイは依存の原因というより、結果としてそうなっていることも多いと考えられています。

「ゲーム症」はもう正式な病気なのですか?

WHO(世界保健機関)の国際的な診断分類ICD-11では、ゲーム症が病名として採用されています。ただし、これを病気として扱うことには専門家の間でも賛否があり、議論が続いている分野です。当てはまる子どもは比較的少ないと考えられています。診断は医師が行います。

子どものゲーム時間を短くすれば、問題は解決しますか?

時間を短くすること自体が目標になるとは限りません。大事なのは「自分でやめる力(自律的にやめる力)」を、小さなことの積み重ねを通して育てていくことです。無理に取り上げると、かえって親子の対立が深まることもあります。心配なときは一人で抱えず、ご相談ください。

ゲームを取り上げれば、勉強するようになりますか?

取り上げれば勉強するようになる、とはいいきれません。ゲームやネットは問題の「主役」ではなく「目立つ脇役」であることが多く、勉強や登校がうまくいかない背景には、別の困りごとが隠れていることがあります。取り上げることで親子の対立が深まると、かえって状況がこじれてしまうこともあります。

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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