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連載「AIと一緒にできる認知行動療法セルフケア」第6回(全4回) 第1回から読む →

はじめに

「頼まれたら、引き受けなければ」「弱音を吐いてはいけない」「中途半端にやるくらいなら、最初からやらないほうがいい」——ふり返ると、自分がずっと従ってきた決まりのような言葉に、心当たりはないでしょうか。誰かに教わったわけでも、どこかに書いてあるわけでもないのに、暮らしのあちこちで効いている。この記事は、その「自分のルール」の話です(連載「AIと一緒にできる認知行動療法セルフケア」の第6回)。

場面ごとに浮かぶ考えには、出どころがあります

嫌な場面で瞬間的に頭をよぎる考えやイメージ——認知行動療法で「自動思考」と呼ばれるもの——の捉え方は連載の第2回で扱い、書き出し方はコラム法の記事で詳しく紹介しています。実際に書き出してみると、あることに気づきます。浮かぶ考えは場面ごとに違うのに、向きがいつも同じなのです。

職場で急な仕事を頼まれたときも、気の進まない誘いを受けたときも、家族に用事を任されたときも、浮かぶのは「断れない」「引き受けるしかない」。場面はばらばらなのに、結論だけが揃っている。

この揃い方には理由があります。場面ごとの考えの一段手前に、場面をまたいで働いている層があるからです。この記事が下敷きにしている認知行動療法の教科書(ジュディス・S・ベック『認知行動療法実践ガイド』)は、この中間の層を「媒介信念」と呼びます。いちばん奥には、自分や他人や世界をどう見るかという土台の考え方の層があり(ここは次の記事で扱います)、いちばん表には、場面ごとに浮かんでは消える自動思考がある。そのあいだに挟まって、目の前の状況をどう受け止めるかの向きを決めているのが、この記事でいう「自分のルール」の層です。

「〜すべき」は三つの形で現れます

この中間の層は、おおまかに三つの形をとって現れます。

  • 構え —— 何を望ましいと感じ、何を恐ろしいと感じるかという、評価の向き。「人をがっかりさせるのは、ひどいことだ」
  • ルール —— 自分に課している要求や禁止。「頼まれたことは、引き受けなければならない」
  • 思い込み —— 「もし〜したら、こうなる」という形の予測。「もし断ったら、嫌われる。引き受けてさえいれば、嫌われずにすむ」

三つの区分は、それほどはっきり引けるものではありません。この層の考えに共通するのは、特定の場面に貼りついていないことです。「会議では」「家では」という限定がなく、どこにでもついてくる。だから、ばらばらの場面で同じ向きの考えが浮かぶのです。

そのうえで、取り上げる値打ちがあるのは、いつも効いていると感じるもののほうです。たまにしか顔を出さないもの、自分でもそれほど本気で信じてはいないものは、いま扱わなくて構いません。

もう一つの特徴は、本人にとってルールに見えないことです。「頼まれたら引き受けるものだ」を、自分に課している決まりごととして意識したことのある人は、まずいません。言葉にして目の前に置き、眺めたことが一度もないまま、働き続けているのです。

生まれつきの性格とはかぎりません

こうしたルールは、生まれつきの性格のように感じられますが、教科書の整理では、その少なくとも一部は、育ってくる過程で身についてきたものと考えられています。長い年月をかけて覚えてきたものだから、時間はかかっても、別の理解を学び直す余地がある——ここが、この枠組みのいちばん希望のある部分です。

そして、同じ頼まれごとを前にしても、別のルールを身につけてきた人には、別の考えが浮かびます。覚えてきたものが違えば、浮かぶ考えも違うのです。

ルールには、支えてきた面があります

「頼まれたことは引き受けるべきだ」に長く従ってきた人は、おそらく周囲から頼りにされてきたはずです。「弱音を吐くべきではない」が、責任を果たす力になってきた人もいます。高い基準を自分に課すことが、仕事の質を支えてきた面もあるでしょう。ルールは、あなたを困らせるために居座っているのではありません。長く手放されずにきた背景には、役に立ってきた面もあったのかもしれません。

困りごとになるのは、ルールが選択肢ではなく唯一の道になっているときです。疲れきっていても、手一杯でも、「断る」が最初から消えている。休むことが必要な時期なのに、「きちんとやる」構えがそのまま働いて、休めない。役に立つ場面で使い、合わない場面では別のやり方も選べる——その切り替えがきかなくなったとき、支えだったものが負担に変わります。

だから、このルールとの付き合い方は「間違いだと認めて捨てる」ではありません。支えてくれた面と、いま払っている代償を、両方書き出して眺めるところから始まります。やってみると、支えの側は思っていたほど大きくないと感じることが多いのですが、それは並べてみて初めて分かることです。

「もし、そうしなかったら?」と続けてみる

眺めるための工夫を、教科書から一つ紹介します。「〜すべき」「〜してはいけない」という命令の形のままだと、そこに無理があることは認めにくいものです。ところが「もし〜したら、こうなる」という予測の形に置き換えると、行き過ぎているところが見えやすくなる。そこで、後ろに問いを一つ足します。「もし、そうしなかったら、どうなると思っているのだろう?」

「頼まれたことは引き受けるべきだ。……もし断ったら?」——「嫌われる」「役に立たない人だと思われる」。出てきた答えが、その決まりごとが避けようとしていた結末です。命令に見えていたものが、ここで予測の形に変わります。予測なら、命令と違って、実際のところどうなのかを眺める余地が生まれます。

この先——出てきた予測をどう検討し、ルールをどう緩めていくか——は対話のなかで進める作業で、この記事では扱いません。今日は、自分のルールを言葉にして目の前に置き、そのうちの一つにだけ「もし、そうしなかったら?」を続けてみるところまでを、AIと一緒にやってみます。

ただし、暴力や、相手からの強い支配のある関係のなかで身についた「逆らってはいけない」は、ここでいう自分のルールではなく身を守るための対処です。この記事の見方は当てはめず、先に安全が脅かされているときをご覧ください。

AIと一緒に、自分のルールを一覧にする

使い方は第1回と同じです。AIを使うときの約束事(調子が大きく崩れているときは使わない、個人情報を入れない、など)も第1回にまとめてあるので、初めての方は先に一度ご覧ください。スマホのAIアプリを開き、下のプロンプトをコピーして貼り付け、送信。あとはマイクのボタンを押して話すだけです(文字入力でも同じように使えます)。最近の暮らしのなかで気が重かった場面、無理をしたと感じた場面を、二つほど話してください。まとまっていなくて構いません。

🎤 音声で話すだけ
今から、最近の暮らしのなかで気が重かった場面や、無理をしたと感じた場面を、二つほど話します。とりとめがなくても、そのまま聞いてください。話し終わったら、場面ごとに一度ずつ「そのとき、自分に何をしなければならない、あるいは何をしてはいけないと感じていましたか」と私に聞いてください。私の答えに出てきた「〜すべき」「〜しなければ」「〜してはいけない」という形の、私が自分に課しているらしい決まりごとを、私が実際に使った言葉のまま仮の一覧にして見せて、「この一覧で合っていますか」と私に確認してください。私が直しを入れて一覧が決まったら、そのなかから気になる項目を一つ選んでもらい、選んだ一つについてだけ「もし、そうしなかったら、どうなると思いますか」と聞いてください。最後に、決まりごとの一覧に、その一つだけ私の答えた予測を添えて、私の言葉のまま見せて終えてください。
守ってほしいこと: 一覧は私が実際に使った言葉のままにして、話していない言葉を推測で足さないでください。決まりごとや予測の良し悪しの判定、助言、「あなたは〜という信念を持っています」といった名前づけ、生い立ちや原因の推測はしないでください。質問は1回に1つ、全部で5つまでにして、10分ほどで終えてください。私はいつでも途中でやめて構いません。私がやめたいと言ったら、その時点で作業を終えてください。氏名・住所・勤務先や学校の名前などが出たら「上司A」「会社X」のように置き換えてください。消えてしまいたい気持ちや、自分や誰かを傷つけたくなるような深刻な内容が出てきたときは、深掘りせず、主治医に相談するよう私に勧めて、この作業を終えてください。

やりとりのイメージは、こんな形です。まず、あなたが話します。「先週、金曜の夕方に急ぎの仕事を頼まれて、予定があったのに引き受けてしまって……あと、熱っぽかった日も、家族に頼まれた買い物を断れなくて」——この程度のまとまりで構いません。AIが場面ごとに聞いてきます。「仕事を頼まれたとき、何をしなければならないと感じていましたか?」「……頼まれたら、断っちゃだめだなって」。買い物の場面には「体調が悪くても、自分の都合で人に迷惑をかけちゃいけない、って感じでした」。この答えだけから、AIが仮の一覧を返します。

  • 「頼まれたら、断っちゃだめ」
  • 「自分の都合で人に迷惑をかけちゃいけない」

「この一覧で合っていますか」と確認が来るので、違う項目があれば直しを入れる。そのうえで一つめを選ぶと、AIが聞いてきます。「もし、断ったら、どうなると思いますか?」「……頼りにならない人だと思われて、次から声がかからなくなる気がします」。最後に残るのは、こんな一覧です。

  • 「頼まれたら、断っちゃだめ」——断ったら、頼りにならない人だと思われる気がする
  • 「自分の都合で人に迷惑をかけちゃいけない」

大事なのは、一覧があなたの言葉のままであることです。AIが気を利かせて立派な用語に置き換えた一覧は、眺めても手応えがありません。実感と違う項目があれば「それは言っていない」と消してもらい、足りなければ話し足してください。

ルールと、その奥の予測が一つ並んだら、今日はそこまでで十分です。予測が当たっているかを確かめようとしたり、書き換えようとしたりしなくて構いません。数日おいてもう一度眺めると、「これはたしかに、いつも効いている」というものと、「これはそうでもない」というものの濃淡が見えてきます。その濃淡も、次の診察で伝える材料になります。

当院での実際

当院には心理士がおらず、認知行動療法などの専門的な心理療法プログラムは提供していません。必要に応じて紹介状(診療情報提供書)を作成します。当院の診療対象は18歳以上の方です。

この記事のプロンプトで作った一覧は、次の診察でスマホの画面のまま見せていただいて構いません。「このルールがいつも効いている気がする」という一言からで十分です。どうするかを決めかねている段階のままでも、そのままご相談ください。

消えてしまいたい気持ちが続いているときの行き先は、AIではありません。緊急なら救急(119番)、それ以外は主治医・当院にご連絡ください。

まとめ

場面ごとに浮かぶ考えの一段手前には、場面をまたいで効いている「自分のルール」の層があります。生まれつきの性格のように感じられても、その少なくとも一部は、育ってくる過程で身についてきたものと考えられています。支えてきた面もあったのかもしれず、間違いとして捨てる必要はありません。まずは、自分の言葉のまま一覧にして目の前に置き、一つだけ「もし、そうしなかったら?」と続けてみる。今日できるのはそこまでで、そこまでで十分な一歩です。

では、そうしたルールはなぜ、こんなにも手放しがたいのでしょうか。ルールの根っこにある、もっと短くて深い言葉——「自分はダメだ」のような——については、次回の「自分はダメだ」が消えないのはなぜかで扱います。連載の全体像と各回の一覧は、第1回にあります。


参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • ジュディス・S・ベック『認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版』(伊藤絵美・神村栄一・藤澤大介訳、星和書店、2015年)第3章・第13章

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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