福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

はじめに

「ゲームをやめなさいと言っても、まったく聞いてくれない」「負けると大声で怒って、物に当たることもある」「うちの子は、人一倍ゲームやネットにのめり込んでいる気がする」。発達特性のあるお子さんを育てるなかで、こんな心配を抱えている保護者の方は少なくありません。

何度注意しても変わらない様子に、「私の関わり方が悪いのだろうか」「本人の意志が弱いのだろうか」と、ご自分やお子さんを責めてしまうこともあるかもしれません。でも、それはあなただけが直面している悩みではありませんし、本人の「怠け」や「意志の弱さ」だけで説明できるほど単純な話でもありません。

自閉スペクトラム症(ASD。対人関係やこだわりなどに特性があらわれる生まれつきの脳の特性)や、ADHD(注意欠如・多動症。不注意や多動・衝動性が目立つ発達特性)のあるお子さんには、特性ゆえにゲームやネットとの距離が近くなりやすい面があると指摘されています。

この記事では、発達特性のあるお子さんの保護者の方に向けて、

  • なぜ特性があるとはまりやすいと言われるのか
  • 「おしまい」の苦手さや、負けへの弱さとの付き合い方
  • ゲームがその子にとって持っているプラスの面
  • うつや不安が関わるときの見方

を整理してお伝えします。お子さんを責めずに、環境を少し整える方向へ進むためのヒントとしてお読みください。なお、診断は医師が行うものです。

特性と「はまりやすさ」のつながり

ゲームやネットへの過剰な使用(専門的には「嗜癖(しへき)」と呼ばれます。あるものを有害な形で過剰に使ってしまう状態のこと)は、なぜ起こるのでしょうか。背景はとても複雑で、一つの原因では説明できません。

研究では、社交不安やうつ、自閉スペクトラム症、ADHDといった特性や状態が、ゲームへのはまりやすさと関連していると指摘されています。日常生活でフラストレーション(思うようにいかないモヤモヤ)を抱えていると、ゲームをやめにくくなり、時間が延びやすいとも言われます。

つまり、「現実の世界で生きづらさやストレスを抱えやすい子ほど、ゲームやネットが心地よい逃げ場になりやすい」という側面があるのです。ここで大切なのは、これは本人の弱さではなく、特性とその子の置かれた状況がつくり出すものだということです。

ADHDと、特定のジャンルの相性

ゲームの種類によっても、はまりやすさは変わると考えられています。出典の研究では、ADHDのあるお子さんが、FPS・TPS(銃などで戦う一人称・三人称視点のアクションゲーム)や、サンドボックス(自由に世界をつくって遊ぶタイプのゲーム)をプレイしていると、ネット依存度を測るテストの結果が高くなる傾向が見出されたと報告されています。これらは子どもたちの間で特に人気のあるジャンルでもあります。

興味深いことに、同じ関係はASDのお子さんには見られなかったとされています。つまり「発達障害」とひとくくりにせず、お子さん一人ひとりが何に惹かれているのかを見ていくことが大切だとわかります。なお、これはあくまで一部の研究で見出された傾向で、「このジャンルが好きだから危ない」と決めつける必要はありません。

「おしまい」が人一倍苦手という特性

発達特性のあるお子さんの保護者から、とりわけよく聞かれるのが「切り上げられない」という悩みです。

ゲームは、開発する側が「またやりたい」と感じてもらえるよう、さまざまな工夫を凝らしています。続きが気になる仕掛けや、達成感が得られる演出があり、誰にとってもやめにくいものです。そこに、もともと気持ちの切り替えが苦手だったり、一つのことに強く集中したりしやすい特性が加わると、「おしまいにする」のが人一倍むずかしくなります。

ここで知っておきたいのは、対応のゴールは必ずしも「時間を短くすること」そのものではない、という視点です。本当の目標は、自分で時間をコントロールし、自分の力で区切りをつけられるようになること、つまり「おしまいにする力」を少しずつ育てることだと考えられています。

そのためには、頭ごなしの禁止よりも、小さい頃から大人と一緒に約束を積み重ねていくことが手堅い方法だと言われています。ただし大切な前提として、「ネットやゲームの約束は子どもだけの力では守りにくい」ものです。約束は丸投げせず、大人が守る手助けをしていく姿勢が支えになります。

負けや失敗に弱いとき

「負けると激しく怒る」「思いどおりにいかないと物に当たる」。こうした行動に、毎日のように頭を悩ませている方もいるでしょう。

勝ち負けや失敗に強い悔しさを感じやすいお子さんは少なくありません。気持ちの切り替えが苦手だと、その悔しさが行動に出やすくなることもあります。結果として現れた行動だけを見て頭ごなしに叱ってしまうと、お互いに苦しくなりがちです。

また、大人が強引にゲームを減らそうとしたり取り上げようとしたりすると、ゲームを大切にしている子どもは「力ずくでも守りたい」という気持ちになり、かえって対立が激しくなることがあります。暴力的な反応を誘発するような関わり方は、できるだけ避けたいところです。

おすすめしたいのは、まず気持ちを受け止めることです。「悔しかったね」と言葉にして共有するだけでも、本人が落ち着く助けになります。そのうえで、可能なら一緒に遊んでみましょう。その子の遊び方や興味が見えてきますし、「思ったより根気がある」「発想が面白い」など、隠れていたよさに気づけることもあります。

ゲームが「居場所」や「得意」になっていることも

ここまで困りごとを中心に見てきましたが、ゲームやネットには、お子さんにとってプラスの面もあることを忘れずにいたいものです。

ゲームは、同じ趣味を持つ仲間とつながる場になっていることがあります。学校に行きづらいお子さんでも、オンラインで友達と一緒に遊び、つながりを保てている場合があります。完全に孤立せず、誰かとつながっていられることは、子どもにとって大きな支えになります。

また、得意を発揮できる場にもなります。腕を磨いたり工夫を凝らしたりするなかで、自信や達成感を得ているお子さんもいます。ある研究では、ゲームを長時間プレイしていても、それだけでメンタルヘルスの問題が増えるわけではなく、むしろ友達関係の問題は減ったとする報告もあります。

ですから、ゲームやネットを「悪いもの」と頭から否定するのは、もったいない面があります。大人がよいところも知ったうえで関わると、お子さんも「この人には相談していい」と感じやすくなります。

うつや不安が関わるとき

ゲームの使い過ぎと、うつや不安といった心の状態との関連も、気になるところでしょう。

研究では、ゲームへの嗜癖が見られる場合、うつや不安との関連は確かに強いと報告されています。また、ADHDが併存していることが多いこともわかっています。一方で、うつや不安がゲームへのはまり過ぎの「原因」なのか、それとも長く使った「結果」なのかは、実はとても難しい問題で、はっきり確かめるだけの研究はまだ十分ではありません。

たとえば、人付き合いへの不安が強い子が、対面のやりとりを避けるためにネット越しの交流を選ぶこともあります。気分が落ち込んでいて他の活動ができず、結果的にゲームの時間だけが残っている、ということもあります。この場合、ゲームそのものに強く惹かれているわけではないことも多いのです。

だからこそ、「ゲームを取り上げれば元気になる」とは限りません。ゲームは目立つ存在ですが、必ずしも問題の主役ではなく、背景にある困りごとの「目立つ脇役」であることも多いのです。お子さんの暮らし全体を、少し引いた視点から見ていくことが大切になります。

受診の目安

以下のようなことが続くときは、一人で抱え込まずに相談を検討してみてください。

  • ゲームやネットのために、睡眠・食事・登校など生活の大切な部分が大きく崩れている
  • やめさせようとすると激しい暴力や暴言が出て、家族がけがをしたり物が壊れたりする
  • 気分の落ち込み、強い不安、イライラが続いている
  • 学校に行きづらい、外に出られないなどの状態が長く続いている
  • 家庭内の対立が深まり、家族だけでは対応がむずかしいと感じる

これらは「ゲームだけ」の問題とは限りません。背景にある特性や困りごとを一緒に整理することが、解決の糸口になります。なお、けがや命に関わるような差し迫った危険があるときは、ためらわず救急(119)に連絡してください。

まとめ

発達特性のあるお子さんがゲームやネットにはまりやすいのは、本人の意志が弱いからでも、怠けているからでもありません。「おしまい」の苦手さや、現実のストレスといった特性・状況が背景にあります。負けに弱い行動には、叱責よりもまず気持ちを受け止め、一緒に遊ぶ関わりが支えになります。ゲームが居場所や得意になっているプラスの面も大切に見ていきましょう。うつや不安との関係は単純ではなく、取り上げれば解決するとは限りません。お子さんを責めず、環境を少しずつ整えながら、必要なときは専門家とつながっていけば大丈夫です。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち(吉川徹)

よくある質問

発達障害があると、ゲームやネットに必ずはまってしまうのでしょうか。

必ずではありません。ASDやADHDなどの特性は、はまりやすさと関連が指摘されていますが、多くの子どもは健康的に楽しんでいます。「特性があるから危ない」と決めつけず、その子にとってゲームがどんな存在かを見ていくことが大切です。診断は医師が行います。

負けると物に当たって怒ります。どう対応すればよいですか。

勝ち負けや失敗に強い悔しさを感じやすい子がいます。頭ごなしに叱るより、まず気持ちを言葉にして受け止め、落ち着ける環境を整えることが先決です。一緒に遊んで「悔しいね」と共有することも支えになります。繰り返し困る場合は専門家にご相談ください。

ゲームばかりで不安やイライラもあります。原因はゲームでしょうか。

うつや不安とゲームの使い過ぎは関連が報告されていますが、どちらが原因でどちらが結果かは単純ではありません。ゲームを取り上げれば解決するとは限らないため、背景にある困りごとを含めて全体を見ていくことが大切です。気になるときはご相談ください。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約