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連載「大人のADHDガイド」第3回(全9回) 第1回から読む →

はじめに

「片づけが苦手で、いつも探し物をしている」「予定や約束をうっかり忘れてしまう」「人に合わせて頑張っているのに、家に帰るとどっと疲れる」——こうした困りごとを、長いあいだ「自分の努力が足りないだけ」「性格の問題」と思い込んできた女性は少なくありません。

そして大人になり、家事や育児、仕事が重なってきたあたりで、「どうしてこんなにうまく回らないのだろう」と感じ始める方もいます。

もしあなたが今そんなふうに感じていても、それはあなただけが抱えている悩みではありません。実は、ADHD(注意欠如・多動症。注意の持続や段取りが苦手になりやすい特性)を持つ女性は、子どもの頃から大人になるまで気づかれにくいことが、専門家のあいだでも指摘されているのです。

この記事では、

  • 女性のADHDにはどんな特徴があり、どんな場面で表面化しやすいのか
  • なぜ大人になるまで見逃されやすいのか
  • うつや不安として受診したときに見落とされやすいパターン
  • 受診を迷っている方が相談しやすくなる準備

について、できるだけわかりやすくお伝えします。なお、ADHDかどうかの診断は医師が行うものです。この記事は「気づきのきっかけ」としてお読みください。

女性のADHDによくみられる特徴

まず、女性のADHDが毎日の生活のなかでどんな形をとりやすいかを、ひとまとめにしておきます。

  • 忘れ物や約束のうっかりが多く、いつも探し物をしている
  • 片づけが苦手で、机の上や部屋がすぐ散らかる
  • 段取りを立てて物事を進めるのが難しく、複数のことを同時に進める場面で行き詰まる
  • 気が散りやすく、ひとつのことに集中し続けにくい
  • 走り回るような多動は目立たず、頭の中で考えがぐるぐる回る・おしゃべりが多い・そわそわ落ち着かない、といった外からは見えにくい落ち着かなさとして現れる
  • 周囲に合わせて努力でカバーしているぶん、家に帰るとどっと疲れる
  • 仕事・家事・育児が重なった時期に、急に物事が回らなくなる

また、こうした特徴そのものより先に、気分の落ち込みや不安のほうが前面に出て、背景に特性が隠れていることがあります。特徴の一覧には収まりませんが、女性ではこうした形で受診に至ることもあります。

ひとつひとつを見ると、どれも「だらしないだけ」「性格の問題」と受け止められやすい形をしています。だからこそ、特性として気づかれないまま大人になる方が少なくないのです。ここからは、なぜそうなるのかを順にみていきます。

女性は「多動」が目立たず「不注意」が中心になりやすい

ADHDというと、「じっとしていられない」「席を立ち歩く」といった活発に動き回るイメージ(多動)を思い浮かべる方が多いかもしれません。実際、子どもの頃にそうした多動が目立つと、周囲も「落ち着きがない子」として早めに気づきやすくなります。

ところが女性の場合、この多動が外に向かって激しく現れるよりも、内側にこもる形になりやすいと言われています。たとえば、頭の中でいつも考えがぐるぐる回っている、おしゃべりが多くなる、そわそわと落ち着かない、といった目立ちにくい形です。

代わって中心になりやすいのが「不注意」です。冒頭の一覧で挙げた、忘れ物や約束のうっかり、片づけや段取りの苦手さ、気の散りやすさは、いずれもこの不注意の現れです。

不注意の困りごとは、走り回る多動と違って、見た瞬間に「特性かもしれない」とは思われません。表に残るのは、散らかった机や間に合わなかった約束といった結果だけで、その裏にある注意の続きにくさは外から見えないからです。

発達の過程をみると、子どもの頃に目立った多動が、成長とともに不注意のほうへ移っていく傾向も指摘されています。女性ではもともと多動が目立ちにくいぶん、年齢を重ねるほど「不注意中心」の姿になり、ますます気づかれにくくなることがあります。

周囲に合わせる「適応」で、困りごとが表に出にくい

女性が見逃されやすいもうひとつの大きな理由が、周囲に合わせようとする努力です。専門的には「カモフラージュ」や「過剰適応」と呼ばれることがあります。

これは、自分の苦手さやとまどいを表に出さないよう、周りに溶け込もうと一生懸命にふるまうことを指します。たとえば、友だちのしぐさや話し方をよく観察してまねをし、その場に合わせていく。こうした適応が上手だと、対人関係でつまずいている様子が表面化しにくくなります。

周りから見れば「ちゃんとやれている人」に見えるため、困りごとが拾われないまま時間が過ぎていきます。けれど本人の内側では、

  • 常に周囲を気にして気を張り続けている
  • 「変だと思われないように」と必死に合わせている
  • 家に帰るとぐったり疲れ果ててしまう

といった負担が積み重なっていることが少なくありません。表面上はうまくやれているように見えても、本人は人一倍エネルギーを使って何とか乗り切っている、というわけです。

この「頑張ってカバーできてしまう」ことが、かえって特性に気づくきっかけを遠ざけてしまう面があります。

診断のものさしが「男性基準」に寄りやすい問題

ADHDや発達の特性を評価するときには、いくつかの質問票やチェック項目が使われます。こうしたものさし(評価尺度)は、これまで主に男性の特徴をもとに作られてきた経緯があると指摘されています。

そのため、

  • 多動が外に出やすい男性の姿には当てはまりやすい
  • 一方で、多動が目立たず不注意が中心の女性は、当てはまりにくい

という偏りが生まれやすくなります。専門家のあいだでも、「女性には女性に合った見方や基準が必要なのではないか」という議論があります。

また、先にふれたように、女性は周囲に合わせる適応が上手で社会的な困りごとが表に出にくいため、短い面接や一時点だけの様子では拾われにくいことも知られています。子どもの頃からの育ちの経過をていねいにたどることが大切だと考えられているのは、こうした背景があるからです。

つまり、「これまで指摘されてこなかった」ことは、「特性がない」ことを必ずしも意味しません。見るためのものさしや見方のほうに、女性を拾いきれない面があった可能性もあるのです。

実際の診断がどのように進むのか(問診で聞かれること、子どもの頃からの経過の聞き取り、心理検査の位置づけ)は、大人のADHDの診断の流れの記事で解説しています。

大人になって負荷が増えると表面化しやすい

子どもの頃や若いうちは、周囲のサポートや限られた役割のなかで、なんとかやり過ごせていた方もいます。ところが大人になると、こなすべきことが一気に増えます。

  • 仕事の段取りや締め切りの管理
  • 家事と、その日その日のやりくり
  • 子育てや家族のスケジュール調整
  • 複数のことを同時に進める場面

このように求められる役割が重なり、負荷が大きくなると、それまで努力で補えていた苦手さをカバーしきれなくなり、困りごととして表面化しやすくなります。「昔はなんとかなっていたのに、今はうまく回らない」と感じる背景には、こうした事情があることもあります。

言いかえれば、環境が暮らしにくくなったことで、もともとあった特性が見えやすくなったのです。決して「能力が落ちた」わけではありません。

うつ・不安として受診し、背景の特性が見落とされやすい

もうひとつ知っておきたいのが、受診のきっかけと診断のずれです。

困りごとが積み重なると、気分の落ち込みや不安、眠れない、職場や家庭にうまく適応できないといった形でつらさが現れてきます。そのため、最初の受診はうつや不安、適応障害(環境にうまくなじめずに心身の不調が出る状態)として始まることが多くあります。

このとき、目の前のうつや不安への対応が中心になり、その背景にもともとの特性が隠れていると気づかれにくいことがあります。専門家のあいだでも、こうした「背景に隠れた特性」を見落とさないことの大切さが指摘されています。

長いあいだ「治りにくいうつ」「繰り返す不安」として通院していた方が、子どもの頃からの様子を改めてたどることで、背景にあった特性に目が向くようになる、ということもあります。気分の不調そのものへのケアはもちろん大切にしながら、「もしかすると背景に別の理由があるかもしれない」という視点を持っておくと、整理が進みやすくなります。

なお、うつや不安があるからといってADHDがあるとは限りませんし、その逆も同じです。これらを見分け、診断するのは医師の役割です。

ADHDにうつや不安が重なりやすい仕組み(二次障害)や、両方あるときの治療の考え方は、ADHDに重なりやすいうつ・不安と二次障害の記事で詳しく解説しています。

受診の目安

以下のようなことが続いていて、生活のしづらさを感じている場合は、一度相談を検討してみてください。

  • 冒頭の一覧に挙げた困りごとに、いくつも心当たりがある
  • うつや不安で通院しているが、なかなかすっきりしない
  • 「自分の努力不足では」と長く責め続けてしまっている

これらに当てはまるからといって、必ずADHDというわけではありません。何が起きているのかを一緒に整理するために、医療機関を利用していただけたらと思います。

受診を迷っているときの、相談の準備

受診を迷っているとき、何から話せばよいか見当がつかないこと自体が、足を重くしている場合があります。しかも、この記事で見てきたような方は、診察の場でもつい「ちゃんとやれている人」としてふるまってしまい、いちばんつらい部分が伝わらないまま終わることがあります。

だからこそ、診察は飾らずに話してよい場所だと考えてください。この記事の内容でいえば、伝える価値があるのは、たとえば次のようなことです。

  • 人に合わせるためにどれだけ気を張っているか、家に帰ったあとにどうなるか
  • 「昔はなんとかなっていたのに、今はうまく回らない」と感じ始めた時期と、そのころ増えた役割
  • うつや不安ですでに通院している場合は、「背景に特性があるのでは」と気になっていること、それ自体

子どもの頃については、目立ったエピソードを思い出せなくてもかまいません。「指摘されたことはないけれど、内心はずっと大変だった」という記憶も、ここまで見てきたとおり大切な手がかりになります。メモや記録類など、受診前の準備の一般的な内容は、大人のADHDの診断の流れの記事にまとめています。

まとめ

女性のADHDは、走り回るような多動が目立ちにくく、忘れ物・片づけ・段取りの苦手さといった不注意が中心になりやすいのが特徴です。そのうえ、周囲に合わせる適応が上手で困りごとが表に出にくいこと、評価のものさしが男性の特徴に寄りやすかったことなどから、大人になるまで気づかれにくいと考えられています。

そして大人になり役割や負荷が増えたときに表面化しやすく、うつや不安として受診して背景の特性が見落とされることもあります。受診を迷うときは、整った説明を用意するより、気を張っている内側の実情をそのまま伝えることが手がかりになります。

大切なのは、それが「努力不足」や「性格の問題」だけではないかもしれない、と知ることです。気づくことは、自分を責める材料ではなく、これからを楽にしていくための入り口になります。気になることがあれば、どうぞ気軽にご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 大人の発達障害 成人精神疾患の背景に潜む神経発達症 ASD・ADHD(精神科治療学)
  • ADHDクロストーク
  • 大人の発達障害ってそういうことだったのか

よくある質問

女性のADHDにはどんな特徴がありますか?

忘れ物や約束のうっかり、片づけや段取りの苦手さといった不注意が中心になりやすく、走り回るような多動は目立ちにくいとされています。周囲に合わせて努力でカバーする方が多く、家に帰るとどっと疲れる、仕事や家事・育児が重なった時期に急に物事が回らなくなる、といった形で表面化することもあります。

女性のADHDはなぜ大人になるまで気づかれにくいのですか?

評価のものさしが、これまで主に男性の特徴をもとに作られてきた経緯があると指摘されており、多動が目立たない女性は当てはまりにくくなります。また、困りごとが表に出にくいぶん、短い面接や一時点の様子だけでは拾われにくいことも理由と考えられています。

うつや不安で受診したのに、ADHDが関係していることはありますか?

あります。気分の落ち込みや不安として受診し、その背景にもともとの特性が隠れていることは珍しくありません。気になる場合は、子どもの頃からの様子も含めて医師に相談すると整理しやすくなります。診断は医師が行います。

子どもの頃に指摘されなかったのですが、可能性はありますか?

可能性がなくなるわけではありません。女性は子どもの頃から見逃されやすく、評価のものさし自体が男性の特徴に寄りやすかったとも指摘されています。当時の様子を振り返りながら相談してみるとよいでしょう。

準備が何もできていなくても、受診してよいですか?

かまいません。メモや通知表などの資料は、診察での整理を進めやすくするためのもので、受診の条件ではありません。うまく説明できなくても、診察では医師が質問しながら一緒に整理していきますし、子どもの頃の様子は思い出せないことのほうが多くて当然です。いま何にいちばん困っているかが伝われば、それが十分な出発点になります。

ADHDだとわかったら、生活は変わっていきますか?

特性を理解することで、自分に合った工夫や周囲の助けを取り入れやすくなります。「努力不足」ではなかったと気づけること自体が、気持ちの負担を軽くすることもあります。対応の方針は医師と一緒に考えていきます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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