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はじめに

「お酒の量がどうしても減らせない」「気づくとスマホのゲームや課金が止まらない」「ネット通販でつい買いすぎてしまい、後で困る」。こうした行動を、自分でも「いけない」とわかっているのに繰り返してしまう。そして、そんな自分を「だらしない」「意志が弱い」と責めてしまう。大人になってADHD(注意欠如・多動症)の傾向に気づいた方の中には、こうした悩みを抱えている方が少なくありません。

実は、ADHDの特性と、アルコールやゲーム、買い物などの「依存(嗜癖)」には、重なりやすい関係があることが知られています。これはあなたの人格の問題ではなく、脳の働き方の特性が関わっている部分があります。同じように苦しんでいる方はたくさんいて、あなただけではありません。

この記事では、なぜADHDと依存が結びつきやすいのか、その理由を衝動性や「報酬の求め方」という特性からやさしく解説します。あわせて、気づきにくいサインや、本人を責めずに相談へつなげる視点もお伝えします。

ADHDと依存(嗜癖)は重なりやすい

まず「嗜癖(しへき)」という言葉について説明します。嗜癖とは、悪い結果を招くとわかっていても、その行動をやめられず強迫的に続けてしまう状態のことです。英語ではアディクションと呼ばれ、アルコールや薬物のような「物質」への依存だけでなく、ギャンブルやゲームのような「行動」への依存も含まれます。

ADHDのある方には、こうした依存・嗜癖の問題が重なりやすいことが、専門家のあいだで指摘されています。たとえば成人のADHDでは、不安や気分の落ち込み、衝動のコントロールの問題などと並んで、アルコールや薬物といった物質使用の問題が併存しているケースが報告されています。

ここで大切なのは、「ADHDだから必ず依存になる」という意味ではない、ということです。あくまで重なりやすい傾向があるというだけで、特性をどう理解し、どう支えていくかによって経過は大きく変わります。

衝動性と「刺激の求めやすさ」が依存と結びつく

では、なぜ重なりやすいのでしょうか。背景には、ADHDの代表的な特性である「衝動性」と、「報酬(うれしさ・快感)の求め方」の特性があります。

「いま欲しい」が強く出やすい

ADHDの特性の一つに、衝動性があります。これは「思いついたことを、よく考える前に行動に移してしまいやすい」傾向です。お酒やゲーム、買い物のように、その場ですぐ快感が得られる行動は、衝動性が高いと手を出すハードルが下がりやすくなります。また、ストレスがかかった場面で「これは後で困るかもしれない」と立ち止まって判断する働きが利きにくいことも、依存的な行動につながりやすい要因と考えられています。

報酬の感じ方の特性

もう一つが、脳の「報酬系」と呼ばれる仕組みです。報酬系は、うれしいことがあったときに快感を生み出す脳の働きで、ドパミンという物質が関わっています。研究では、ADHDのある方ではこの報酬系の働きに特性があり、ちょっとした出来事では満足を得にくく、より強い刺激でないと快感が得られにくい場合があることが示されています。

その結果、「将来の大きな得」よりも「いますぐの小さな快感」を選びやすい傾向につながると説明されています。お酒、ゲームの達成感や課金、買い物の高揚感は、まさに「いますぐ手に入る強い刺激」です。アルコールや薬物だけでなくギャンブルやゲームも依存の対象になるのは、これらが脳の報酬系を似たように刺激するためと考えられています。

つまり、依存しやすいのは「だらしないから」ではなく、刺激や快感の感じ方という特性が関わっている部分があるのです。

「自己治療」として依存に向かうこともある

依存というと「快楽を求めた結果」と思われがちですが、専門家のあいだには別の見方もあります。「自己治療仮説」と呼ばれる考え方で、依存の本質は快楽の追求ではなく、「つらさをやわらげようとした結果」だととらえるものです。

ADHDの特性があると、仕事や対人関係でうまくいかず、注意される経験を重ねたり、孤立感や自己否定を抱えたりしやすくなります。そうした心理的なつらさを、お酒やゲーム、買い物で一時的にまぎらわせているうちに、いつのまにかやめられなくなっている。こうした道すじをたどる方は珍しくありません。

この視点に立つと、依存は「弱さ」ではなく、本人なりに苦しさをしのごうとしてきた歴史として理解できます。だからこそ、行動だけを叱るのではなく、その奥にあるつらさに目を向けることが大切になります。

依存が前面に出て、ADHDが見落とされる

注意したいのは、依存の問題が目立っていると、その背景にあるADHDの特性が見落とされやすいという点です。

お酒や買い物のトラブルが大きくなると、まずはその問題への対応が中心になります。本人も周囲も、そのさらに奥にADHDの特性があることに気づいていないことが多いのです。ADHDかどうかを見極めるには、いまの状態だけでなく子どもの頃からの様子を知ることが必要ですが、依存の問題を抱えている場合、ご家族と疎遠になっていたり、過去の情報がうまく集められなかったりして、特性が見えにくくなることもあります。

それでも、子どもの頃の困りごとを丁寧に振り返ることで、「忘れ物や不注意が多かった」「じっとしているのが苦手だった」といった特性が浮かび上がり、いまの困りごととのつながりが見えてくる場合があります。依存とADHDの両方を視野に入れて見ていくことが、理解の助けになります。なお、診断は医師が総合的に判断して行います。

生活への影響に気づくサイン

依存は、本人も気づかないうちに生活へ少しずつ影響を広げていきます。次のようなことが続いていれば、一度立ち止まって相談を考える目安になります。

  • お酒・ゲーム・買い物などを「減らそう」と思ってもうまくいかない
  • 課金や買い物で出費が重なり、借金やお金のやりくりに困っている
  • やめようとすると落ち着かず、つい再び手を出してしまう
  • 仕事や家事、約束に支障が出はじめている
  • 家族との言い争いが増え、隠れて続けるようになっている
  • それをしていないと、強い物足りなさやイライラを感じる

これらは責められるべきサインではなく、「支えが必要かもしれない」というお知らせです。

受診の目安

以下に当てはまることがあれば、相談を検討してみてください。

  • お酒・ゲーム・買い物などを自分の意志でやめられない、減らせない
  • 借金やお金のやりくり、仕事や家庭への影響が出はじめている
  • 子どもの頃から不注意・衝動性・落ち着きのなさで困ってきた
  • 「だらしない自分」を責め続けて、つらさが続いている
  • やめようとしても、また手を出してしまう状態を繰り返している

「これくらいで相談していいのか」と迷うときこそ、早めに専門家に話してみることをおすすめします。

まとめ

大人のADHDと、アルコール・ゲーム・買い物などの依存(嗜癖)には、重なりやすい関係があります。その背景には、衝動性や「報酬の求め方」という脳の特性、そしてつらさをまぎらわそうとする「自己治療」のような側面があり、けっして意志の弱さだけの問題ではありません。

依存が目立っていると、その奥にあるADHDの特性は見落とされがちです。だからこそ、本人を責めず、特性として理解したうえで、依存とADHDの両方を視野に入れて相談していくことが大切です。一人で抱え込まず、安心して話せる場につながることが、回復への第一歩になります。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • ADHDクロストーク
  • 大人の発達障害 成人精神疾患の背景に潜む神経発達症 ASD ADHD 精神科治療学

よくある質問

ADHDがあると、お酒やゲームの依存になりやすいのですか?

ADHDの方に、アルコールやゲーム、買い物などの依存(嗜癖)が重なりやすい傾向は指摘されています。ただし全員がそうなるわけではなく、特性をどう支えるかで経過は変わります。心配なときは早めにご相談ください。

依存があると、ADHDは見つかりにくいのですか?

依存の問題が前面に出ると、その背景にあるADHDの特性が見落とされやすくなります。子どもの頃からの困りごとを振り返ることで、特性に気づける場合があります。診断は医師が行います。

本人に『やめなさい』と言うのは逆効果でしょうか?

責めたり意志の弱さのせいにしたりすると、本人がさらに孤立しやすくなります。特性として理解し、安心して話せる関係をつくることが回復の支えになります。

ADHDの治療をすれば、依存も自然になくなりますか?

一概には言えません。依存とADHDはそれぞれにケアが必要で、両方を視野に入れて取り組むことが大切です。背景にあるつらさへの手当てを含めて、医師と相談しながら進めていきます。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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