福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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はじめに

「トイレや外出のあと、手を洗うのがやけに長い」「鍵やかばんの中を何度も確かめないと出かけられない」「教科書の同じ行を読み返してばかりで、勉強が前に進まない」「寝る前の決まった手順が崩れると、最初からやり直す」。お子さんのこうした様子に気づいて、これは性格なのか、しつけの問題なのか、それとも何かの病気なのかと、判断に迷っている保護者の方は少なくありません。

叱ってやめさせようとすると、かえって不機嫌になったり激しく抵抗したりする。「大丈夫?」と何度も聞かれて、つい答えてしまう。そんな毎日のなかで、自分の関わり方が悪かったのではと、ご自分を責めてしまう方もいます。けれども、悩んでいるのはあなただけではありません。強迫症は、子どもや思春期にも起こる、決してまれではない不調です。そして、育て方が原因で起こる病気ではないことが分かっています。

この記事では、子ども・思春期の強迫症が気づかれにくい理由、代表的な症状、家族を巻き込みやすいという特徴、そして叱らずに味方として支える関わり方や、受診を考える目安を、できるだけやさしくまとめました。なお、強迫症かどうかの診断は必ず医師が行います。この記事は「気づくきっかけ」と「向き合うヒント」としてお役立てください。

子どもの強迫症は、なぜ気づかれにくいのか

強迫症は、頭から離れない考え(強迫観念)と、その不安をやわらげるために繰り返してしまう行為(強迫行為)からなります。たとえば「手が汚れているのではないか」という考えが浮かんで不安になり、その不安を打ち消そうと手を洗う、といった形です。

子どもの場合、これが大人以上に気づかれにくい事情があります。理由のひとつは、強迫行為の多くが、手洗いや確認、片づけといった「日常生活の動作の延長線上」にあることです。手を洗うこと自体は、むしろ望ましい習慣ですし、戸締まりを確かめるのも当たり前のことです。どこまでが普通で、どこからが病気なのかを、はっきり線引きできるものではありません。そのため、「きれい好きな子」「慎重な子」「几帳面な子」と受けとめられ、不調のサインとは気づかれないまま時間が過ぎてしまうことがあります。

加えて、子どもはもともと変化を嫌ったり、決まった手順にこだわったりすることがあり、それ自体は発達のなかでよくみられる姿でもあります。だからこそ、「年齢的なもの」「そういう性格」と片づけられやすいのです。

ひとつの目安になるのは、本人が苦しんでいるか、生活に支障が出ているかどうかです。本人もやめたいと思っているのにやめられず、時間を取られて困っている。そうしたときは、性格の範囲を超えて、相談を考えてよい段階かもしれません。

こんな様子に気づいたら ― 代表的な症状

子どもや思春期の強迫症では、次のような様子がみられることがあります。

  • 手洗い・洗浄:汚れやばい菌が気になり、手を洗う時間が長い、回数が多い。お風呂が極端に長くなることもあります。
  • 確認:鍵や持ち物、宿題などを何度も確かめないと気がすまない。「ちゃんとできているか」を繰り返したずねることもあります。
  • 儀式的なやり直し:決まった順番や手順にこだわり、その通りにできないと最初からやり直す。物の位置や左右の対称が気になることもあります。
  • 読み返し・書き直し:本や教科書を「1行も漏らさず読めているか」が気になって先に進めず、同じところを何度も読み返してしまう。その結果、勉強がなかなか進まないことがあります。

最後の「読み返し」は、勉強の支障として表に出やすいサインです。本人としては怠けているわけでも、わざと遅らせているわけでもなく、「きちんと読めた」という感覚が得られるまで先に進めない、という苦しさを抱えています。

似た困りごとの仲間 ― 強迫に関連する状態

強迫症と関連が深い困りごととして、見た目の一部が過度に気になる醜形恐怖、物を捨てられずにためこんでしまうためこみ、髪の毛を抜いてしまう抜毛、皮膚をむしってしまう皮膚むしりなども知られています。こうした状態が、子どもや思春期にみられることもあります。「これも関係があるのかもしれない」と頭の片隅に置いておくと、気づきの手がかりになります。気になるときは、まとめて相談してかまいません。

家族を巻き込みやすい ― 「巻き込み」という特徴

子どもの強迫症で、保護者が特に悩みやすいのが「巻き込み」と呼ばれる状態です。

お子さんが不安をやわらげるために、家族を自分の行為に付き合わせることがあります。「大丈夫?」「汚れてない?」と何度も確認させる、安心の言葉を繰り返し求める、決まった手順や儀式に一緒に付き合うよう求める、といった形です。心配しているわが子に安心を与えたいと思うのは、保護者として自然な気持ちです。

けれども、保証を求める確認にその都度しっかり答えたり、儀式に毎回付き合ったりしていると、その場は落ち着いても、次はもっと確認しないと安心できなくなり、求めることが少しずつ増えていきやすいことが知られています。気づくと家族全体が、お子さんの不安に振り回されるような状態になってしまうこともあります。これは家族が悪いのではなく、強迫症という不調がもつ仕組みによるものです。だからこそ、どう対応するかを、ご家庭だけで抱え込まず、専門家と一緒に考えていくことが助けになります。

叱らずに、味方として支えるために

お子さんの強迫行為を見ていると、「いいかげんにしなさい」「もうやめなさい」と、つい強く止めたくなることがあると思います。けれども、叱ったり無理にやめさせようとしたりすると、かえって悪化しやすいことが知られています。

その理由は、強迫症の仕組みにあります。強迫行為は、不安をやわらげるためにどうしてもしてしまう行為です。本人も「おかしいかもしれない」と感じながら、不安に押されてやめられずにいることが多いのです。そこを頭ごなしに責められると、自分を否定されたように感じ、不安が強まり、症状が増えることがあります。叱られるのが怖くて、症状を隠すようになってしまうこともあります。

支えるうえで大切なのは、お子さんを責めるのではなく、お子さんと「症状」とを分けて考えることです。困っているのは本人であり、敵は症状のほうだ、という姿勢です。「つらいよね」「困っているのは分かっているよ」と気持ちに寄り添いながら、症状そのものには一緒に立ち向かう仲間でいる。その関係づくりが、回復への土台になります。

不安は必ず下がる ― 家庭でのスモールステップ

強迫症の治療では、不安なことにあえて少しずつ向き合い、不安をやわらげるための強迫行為をあえてしない、という練習を、無理のない段階を踏んで進めていく方法が中心になります。

ここで支えになるのが、「不安は、何もしなくても時間がたてば必ず下がっていく」という体験です。最初は不安が高まっても、その状態を続けていると、不安はやがて自然に下がっていきます。これは、確認や手洗いをしなくても大丈夫だった、という小さな成功体験になります。

ご家庭では、こうした取り組みを、ごく小さな一歩から、本人のペースで支えるのがよいでしょう。一度にすべてをなくそうとせず、「これならできそう」というところから始め、できたことを一緒に喜ぶ。うまくいかない日があっても責めない。こうした関わりが、回復を後押しします。ただし、どこから、どのくらいの段階で取り組むかは、お子さんの状態によって大きく変わります。自己流で急に進めると負担になることもあるため、進め方は医師や専門家と相談しながら決めていくと安心です。

受診の目安

以下のような様子が続くときは、医療機関への相談を考えてみてください。

  • 手洗いや確認、やり直しなどに時間を取られ、朝の支度や登校、就寝が滞っている。
  • 本やノートの読み返し・書き直しが止まらず、勉強がなかなか進まない。
  • 学校に遅れる、行きしぶる、提出物が出せないなど、学校生活に支障が出てきた。
  • 「大丈夫?」と何度も確認させる、儀式に付き合わせるなど、家族の巻き込みが増えている。
  • 本人がやめたいのにやめられず、苦しんでいる様子がある。
  • 叱ったり止めさせたりすると、強く抵抗したり不安が強まったりする。

これらに当てはまるからといって、すぐに重い病気だと決まるわけではありません。迷う段階でも、保護者の方だけで先に相談していただいてかまいません。

まとめ

子どもや思春期の強迫症は、手洗いや確認といった日常動作の延長に見えるため、性格やしつけと受けとめられ、気づかれにくいのが特徴です。家族を巻き込みやすく、叱って無理にやめさせようとすると悪化しやすい一方で、お子さんを責めず「症状」と分けて味方として支える関わりは、回復の大きな土台になります。不安は時間がたてば必ず下がっていく、という体験を、家庭で小さな一歩から支えていくことができます。育て方が原因の病気ではありません。学校生活や勉強に支障が出てきたとき、判断に迷うときは、保護者の方だけでもどうぞお気軽にご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 飯倉康郎『強迫性障害の治療ガイド』(二瓶社)
  • 「精神科治療学」編集委員会 編『児童・青年期の精神疾患治療ハンドブック』(星和書店)/『精神科臨床ライブ』(精神科治療学 増刊号)

よくある質問

子どもが何度も手を洗ったり確認したりします。性格やしつけの問題でしょうか。

几帳面さや慎重さといった性格と、強迫症の症状は地続きで、はっきりした境目がないため見分けが難しいものです。ただ、本人がやめたいのにやめられず苦しんでいる、生活や勉強に支障が出ているといったときは、性格やしつけの問題ではなく、相談したほうがよいサインと考えられます。育て方が原因で起こる病気ではありませんので、ご自分を責めないでください。診断は医師が行います。

「大丈夫?」と何度も確認してきます。その都度答えてあげたほうがよいですか。

不安なお子さんに安心を与えたい気持ちは自然なものですが、保証を求める確認に毎回しっかり答えると、その場は落ち着いても、次はもっと確認しないと安心できなくなりやすいことが知られています。これは「巻き込み」と呼ばれる状態です。どう対応するかはお子さんの状態によって変わりますので、一人で抱え込まず、対応の仕方も含めて医療機関に相談してみてください。

本人が受診をいやがります。親だけで相談に行ってもよいですか。

はい、保護者の方だけで先に相談に来ていただいてかまいません。お子さんが受診をいやがる段階でも、ご家庭での接し方や巻き込みへの対応、受診につなげるタイミングなどを一緒に考えることができます。まずは保護者の方が情報を持ち、味方として支える準備をすることが、お子さんにとっても助けになります。

強迫症は治るのでしょうか。

強迫症は、治療法が研究されている不調です。不安にあえて向き合い、強迫行為をあえてしない練習を中心とした治療や、必要に応じた薬による治療など、取り組める方法があります。良くなるまでの早さや程度には個人差がありますが、根気よく続けることで、症状に振り回されにくい生活を取り戻していけるものです。希望を持って、まずは相談から始めてください。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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