福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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はじめに

朝、家を出ようとして玄関の鍵を閉めます。一度閉めたはずなのに、数歩進むと「本当に閉めたかな」と不安になり、戻ってノブを回して確かめる。確かめて安心したはずなのに、駅に着く頃にはまた「やっぱり開いていたかも」と気になってくる。ガスの元栓、電気のスイッチ、財布や鍵を入れたカバンの中身。何度も指さしたり、写真を撮ったり、家族に「閉めたよね?」と聞いたり。それでも安心しきれず、外出のたびに何十分もかかってしまう。

こうした「確認がやめられない」状態に、ひとりで悩んでいる方は少なくありません。周りからは「気にしすぎ」「心配性なだけ」と軽く見られがちで、自分でも「こんなことで困るなんておかしいのかな」と感じてしまうかもしれません。けれど、確認しても確認しても安心できず、生活が回らなくなってしまうのは、意志の弱さでも性格の問題でもありません。これは「確認強迫」と呼ばれる、よく知られた不安のメカニズムによるものです。

この記事では、確認強迫がどのような状態か、なぜ確認するほどかえって安心できなくなるのか、そして「曝露反応妨害法」という対処の進め方について、患者さん向けにわかりやすく解説します。確認強迫は、適切な対処によって楽になっていくことが期待できる状態です。

確認強迫とはどんな状態か

確認強迫は、強迫性障害(強迫症)のなかでも特によく見られるタイプです。強迫性障害は、頭にこびりついて離れない不安な考え(強迫観念)と、その不安をやわらげようと繰り返してしまう行為(強迫行為)がセットになって、生活に支障をきたす状態をいいます。

確認強迫では、「鍵をかけ忘れて泥棒に入られるのではないか」「ガスを消し忘れて火事になるのではないか」といった考えが頭に浮かび、不安になります。その不安を打ち消すために、鍵・戸締まり・ガス栓・電気のスイッチなどを何度も確かめずにはいられなくなります。

確認の対象は人によってさまざまで、たとえば次のようなものがあります。

  • 戸締まり、ガスの元栓、電気器具のスイッチなどを過度に確認する
  • 忘れ物をしたのではないかと、カバンや財布を何度も開けて確かめる
  • 書類やメールで間違いをしていないかと、何度も読み返す・書き直す
  • 同じところを行ったり来たりして確かめてしまう
  • 人に危害を加えていないか、何か恐ろしいことが起きないかと心配して確認する

確認すること自体は、誰でも日常的に行うことです。問題なのは、その回数や時間が増えすぎて、確認しても安心できず、生活がうまく回らなくなってしまう点です。なお、これらに当てはまるかどうかで自己診断するのではなく、最終的な診断は医師が行います。気になる場合は受診の際に医師にお伝えください。

確認するほど「本当に大丈夫か」がわからなくなる逆説

確認強迫のつらいところは、「確認すれば安心できるはず」という当たり前の感覚が、実際には逆向きに働いてしまう点にあります。

ふつうに考えれば、しっかり確認すればするほど安心できそうなものです。ところが確認強迫では、何度も確かめるほど「さっき確かに見たはずなのに、本当に閉まっていただろうか」という確信がかえって薄れていきます。一度で済むはずの確認が二度、三度と増え、確かめた記憶そのものが信じられなくなっていく。これが確認強迫の逆説的なしくみです。

なぜこうなるのでしょうか。鍵を確かめて不安が一時的に下がると、脳は「確かめたから安心できた」と学習し、次に不安が湧くとまた確かめずにいられなくなります。一時的にほっとする体験を繰り返すうちに、「確認しないと落ち着けない」回路が強化されていくのです。確認は不安をその場でやわらげる一方で、長い目で見ると不安を手放せなくする。確認という行為が、不安を生む装置の一部になってしまうのです。

しかも、強い不安のなかで確かめた記憶は、後から「本当にそうだったか」が曖昧になりがちです。確認を重ねるほど記憶への不信が強まり、ますます確かめたくなる。この悪循環が延々と繰り返されるのが、確認強迫の典型的なパターンです。

「大丈夫だよね?」と家族に聞くのも確認行為

確認というと、自分の目で確かめる行為を思い浮かべるかもしれません。けれど、家族や身近な人に「鍵、閉めたよね?」「火事にならないよね?」「大丈夫だよね?」と繰り返し尋ねて安心しようとするのも、実は確認行為のひとつです。

家族に「大丈夫」と言ってもらえると、その場はほっとします。けれど、それを繰り返すうちに、だんだん「大丈夫」と言ってもらわないと落ち着けなくなっていきます。自分で確かめるのと同じように、人に保証を求める行為もまた、確認しないと安心できない回路を強めてしまうのです。

これは、本人にとっても家族にとってもつらい状況です。家族は同じ質問に答え続けることに疲れ、つい強く返したり、逆にていねいに答え続けて確認を手助けしてしまったりします。良かれと思って答えることが、結果的に症状を支えてしまうこともあります。ですから、確認強迫への対処では、自分で確かめる回数だけでなく、こうした「保証を求める質問」を減らしていくことも大切なテーマになります。

曝露反応妨害法:心配でも1回だけ確認して、戻らない練習

確認強迫への対処として中心になるのが、認知行動療法のなかの「曝露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)」という方法です。むずかしい名前ですが、考え方はシンプルです。

  • 曝露:不安だけれど、あえてその場面に向き合う(例:心配でも鍵を閉めて家を出る)
  • 反応妨害:不安をやわらげるための確認を、あえてしない(例:その後、引き返して確かめない)

つまり「心配でも、確認しないまま過ごしてみる」練習です。これまでは、不安になるたびに確認して不安を下げてきました。曝露反応妨害法では、確認せずに不安と一緒にいてみます。

確認を我慢した直後は、不安が一時的に高まることがあります。「やっぱり戻って確かめたい」という強い衝動も湧くでしょう。けれど、確認せずにそのまま過ごしていると、不安は時間とともに自然に下がっていきます。これは多くの研究で確かめられていることです。この「確認しなくても、不安は勝手に引いていく」という体験を重ねることで、確認に頼らなくても大丈夫だという感覚が育っていきます。

大切なのは、いきなりすべての確認をやめようとしないことです。最初から完璧を目指すと、つらすぎて続きません。確認をゼロにするのではなく、たとえば「鍵は1回だけ確かめて、あとは戻らない」というように、現実的な目標から始めます。

確認を1回に減らす段階的な進め方と、記録のつけ方

確認強迫への取り組みは、易しい場面から少しずつ進めていきます。

まず、自分が確認してしまう場面を書き出し、「これくらいなら我慢できそう」というものから「これは相当きつい」というものまで、不安の強さの順に並べてみます。そして、不安が比較的軽い場面から練習を始め、できるようになったら少しずつ難しい場面へ進みます。

たとえば確認の練習では、次のような段階が考えられます。

  • 鍵を閉めたら、確認は1回だけにして、戻らずに歩き出す
  • 家族に「大丈夫だよね?」と聞きたくなっても、1回我慢してみる
  • 読み返したい書類を、2回までと決めて先に進む

このとき、記録をつけることがとても役に立ちます。「どんな場面で確認を我慢できたか」「そのときの不安は0〜100でどのくらいだったか」「時間が経って不安はどう変化したか」を簡単にメモしておきます。すると、最初は高かった不安が時間とともに下がっていくことや、練習を重ねてだんだん楽になっていくことが、自分の目で確かめられます。これが次の一歩を踏み出す支えになります。

なお、不安が下がるまでの時間は人それぞれで、早く進む時期もあれば、なかなか進まないと感じる時期もあります。一見うまくいっていないように思えても、続けていれば変化は積み重なります。一人で抱え込まず、医師や治療者と相談しながら、自分に合ったペースで進めることが何より大切です。

受診すると何が変わるか

「これくらいで病院に行ってもいいのだろうか」とためらう方は多いのですが、確認強迫は受診によって対処の道筋が見えてくる状態です。

医療機関では、薬物療法と認知行動療法を組み合わせて治療を進めることが一般的です。薬だけ、あるいは練習だけよりも、両方を併用するほうが取り組みやすくなると考えられています。薬は不安をやわらげ、確認をやめる練習に取り組みやすくする助けになります。

また、自分一人では「どこから手をつければいいか」「どこまで我慢すればいいか」の見極めが難しいものです。医師や治療者と一緒に進めることで、無理のない目標を立て、家族の協力の仕方も含めて相談しながら取り組めます。確認強迫は、適切な対処を続けることで生活が楽になっていくことが期待できます。

受診の目安

以下に当てはまる場合は、一度ご相談ください。

  • 鍵・ガス・戸締まり・電気などの確認に時間がかかり、外出が遅れる・家を出られない
  • 確認しても安心できず、何度も確かめ直してしまう
  • 家族や周囲に「大丈夫だよね」と繰り返し尋ねてしまう
  • 確認のために遅刻が増えるなど、仕事や生活に支障が出ている
  • やめたいのにやめられず、自分を責めてつらくなっている

まとめ

確認強迫は、確認するほどかえって「本当に大丈夫か」がわからなくなるという、つらい逆説をもった状態です。これは性格や意志の弱さではなく、不安と確認が結びついて生まれる悪循環によるものです。家族に何度も保証を求めてしまうのも、同じ確認のひとつです。心配でも1回だけ確認して戻らない、保証を求める質問を減らすといった練習を、易しい場面から少しずつ重ねていくことで、確認に頼らずに過ごせる感覚は育っていきます。一人で抱え込まず、医師や治療者と一緒に、無理のないペースで取り組んでいきましょう。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 飯倉康郎『強迫性障害の治療ガイド』(二瓶社)
  • 『精神科臨床ライブ 精神科治療学 増刊号』

よくある質問

鍵を何度も確認してしまうのは、ただの心配性とは違うのですか。

確認すること自体は誰にでもありますが、確認しても安心できず生活に支障が出るほど繰り返してしまう場合は、確認強迫(強迫性障害の一つ)が関係していることがあります。診断は医師が行いますので、お困りなら一度ご相談ください。

家族に「大丈夫だよね」と何度も聞いてしまうのも症状ですか。

はい、家族や周囲に保証を求めて繰り返し尋ねることも、自分で確かめる行為と同じ「確認」のひとつと考えられています。その場は安心できても、だんだん保証がないと落ち着けなくなりやすいため、減らしていくことが対処の対象になります。

確認を我慢すると不安が爆発しそうで怖いです。

確認を控えた直後は不安が上がることがありますが、そのまま時間が経つと不安は自然に下がっていくことが知られています。最初は易しい場面から、医師や治療者と相談しながら少しずつ進めるので、いきなり全部我慢する必要はありません。

外出に何十分もかかって遅刻してしまいます。仕事に支障が出ています。

確認に時間がかかって外出できない、遅刻するというのは、確認強迫でよく見られる困りごとです。生活への支障が出ているのは、相談を考えてよいサインです。早めに対処を始めることで、外出のしやすさが変わってくることがあります。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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