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はじめに

「いくつも薬を試したのに、なかなか良くならない」「主治医から電気けいれん療法という言葉が出て、正直こわくなってしまった」——重いうつ病の治療が長くなってくると、こうした思いを抱える方は少なくありません。ご家族が「これ以上どうしてあげればいいのか」と立ち尽くしてしまうこともあるでしょう。そう感じているのは、あなただけではありません。

そして大切にお伝えしたいのは、薬がなかなか効かないからといって、それは「打つ手がなくなった」という意味ではない、ということです。薬とは違う仕組みではたらく治療がいくつもあり、医療の現場ではそうした選択肢も含めて考えられます。

この記事では、薬とは異なる「ニューロモデュレーション」と呼ばれる治療のうち、代表的な修正型電気けいれん療法(ECT)とrTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)について、昔のイメージとの違いや位置づけをやさしく整理していきます。海外の新しい選択肢にも触れます。読み終えたとき、「次の一手はまだある」と感じていただけたら幸いです。

薬とは違う仕組みではたらく治療があります

うつ病の治療は、日本でも長らくお薬を中心に行われてきました。ただ、お薬だけではなかなか改善しない方がいることも以前から知られており、いくつかの治療を十分に試しても改善しにくいうつ病は「治療抵抗性うつ病」と呼ばれることがあります。

このような場合に検討されるのが、お薬とは異なる仕組みを持つ治療です。脳のはたらきに電気や磁気で直接はたらきかけて調整しようとするアプローチは、まとめて「ニューロモデュレーション」と呼ばれます。代表的なものが、修正型電気けいれん療法(ECT)とrTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)です。これらは「薬の代わり」でも「薬の上位互換」でもなく、別の引き出しから出てくる選択肢です。薬で十分に良くならないときに違う角度からアプローチできる道がある、と考えていただくとよいでしょう。

修正型電気けいれん療法(ECT)とは|昔のイメージとの違い

「電気けいれん療法」と聞くと、映画などで見た、患者さんが激しく体を動かす場面を思い浮かべて不安になる方が多いと思います。まず、その不安をやわらげるところから始めましょう。

電気けいれん療法そのものは歴史の長い治療ですが、今、医療機関で行われているもののほとんどは、麻酔薬と筋肉をゆるめる薬(筋弛緩薬)を使う「修正型」(mECTとも呼ばれます)です。患者さんは麻酔で眠っている間に治療を受け、薬のはたらきで体が大きく動くこともありません。麻酔科の医師などが全身の状態を慎重に見守るなかで行われ、昔のイメージとは前提が大きく異なります。

効果の面では、ECTはうつ症状に対して比較的すみやかに効果が期待できる治療のひとつとされています。一方で、麻酔を使う医療行為であり、治療後に一時的な物忘れ(記憶への影響)やぼんやりした状態などが起こりうることも知られているため、設備や体制の整った環境で行われます。受けるかどうかは主治医と相談して判断します。

ECTはどんなときに検討されるのか

あくまで一般的な考え方ですが、ECTは次のような状況で検討されることがあります。

  • すみやかな改善が望まれる、切迫した状況のとき(食事がとれず体力の消耗が心配な場合など)
  • 複数のお薬を十分に試しても効果が乏しい、あるいは副作用でお薬が続けにくいとき
  • 症状が重く、確実な効果を早めに得たいと考えられるとき

ECTは「軽いうつ病にいきなり行う治療」ではなく、症状の重さや治療経過をふまえて検討されます。

rTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)とはどんな治療か

もうひとつの代表的なニューロモデュレーションが、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)です。rTMSは、頭の表面から磁気を使って、脳の一部(気分の調整に関わるとされる前頭前野という部位)をやさしく刺激する治療です。手術や電極の埋め込みを伴わず、頭の外側からはたらきかける、体への負担の比較的少ない治療です。ECTとの大きな違いは、麻酔を使わないことです。患者さんは目が覚めたまま治療を受け、1回あたりの治療時間は短く、外来でも通いやすいのが一般的です。

国内では、2017年に治療用のrTMS装置が初めて承認されました。その対象は、抗うつ薬による十分な薬物療法を行っても効果が得られない、中等症以上の成人のうつ病とされています(精神病症状を伴うものなどは含まれません)。誰でもすぐに受けられるわけではなく、適応の条件があります。副作用としては刺激中の頭皮の痛みや頭痛などが比較的多いとされますが、治療を重ねるうちに和らいでいくことが多く、けいれん発作の誘発はごくまれです。

二つを大まかに整理すると、ECTは効果が比較的早くあらわれやすいため重症や切迫した状況で、rTMSは外来で負担を抑えて取り組みたい場面で力を発揮しやすい治療です。どちらが優れているという単純な話ではなく、症状や状況をふまえて、その方に合う方法が一緒に考えられます。

海外で使われる新しい選択肢|ケタミンなど

薬とは違う仕組みの治療として、もうひとつ話題になっているのが「ケタミン」という、もともと麻酔薬として使われてきた薬です。海外、特に米国などでは、なかなか良くならないうつ病や強い自殺念慮があるうつ病に対して使われるようになっており、効果が比較的早くあらわれるとされます。一時的なめまいや頭痛、現実感がうすれるような感覚(解離症状)などの副作用が報告されていますが、うつ病に使われる量では多くは一過性とされています。

ただし、期待される面がある一方で、もともと乱用が社会問題になった経緯のある薬でもあり、効果の持続や長期的な影響についてはまだ分かっていないことも残されています。国によって承認や使われ方の状況も異なるため、過度に期待しすぎず、期待とリスクの両面から理解しておくのが安全です。

『最後の手段』ではなく、選択肢のひとつとして

ECTやrTMS、そしてケタミンのような治療は、しばしば「もう他に手がないときの最後の手段」というイメージで語られがちです。けれども実際には、薬とは違う仕組みを持つ「別の引き出し」として、治療の流れのなかに位置づけられているものです。選択肢が複数あるということは、むしろ「まだ試せる道が残っている」という希望でもあります。どの治療が向いているかは一人ひとり異なります。診断や治療方針の判断は医師が行いますので、気になることがあれば、ぜひ主治医に率直に相談してみてください。

受診の目安

以下に当てはまる場合は、一度あらためて主治医に相談してみることをおすすめします。

  • いくつかの薬を試しても、うつの症状が十分に良くならないと感じている
  • 重いうつの状態が続き、日常生活や食事に支障が出ている
  • 「電気けいれん療法」と聞いて不安になり、よく知らないまま受けるか迷っている
  • 薬以外の選択肢があるのか知りたい、説明を聞いてみたい
  • ご家族として、ご本人にどんな治療の道があるのか一緒に考えたい

どの治療が適しているかの判断は医師が行います。気になることはそのままにせず、遠慮なくおたずねください。

まとめ

薬がなかなか効かない重いうつ病でも、薬とは違う仕組みではたらく治療の選択肢があります。修正型電気けいれん療法(ECT)は麻酔を使い眠っている間に行う、昔のイメージとは大きく異なる治療で、rTMSは麻酔を使わず外来で受けやすい治療です。海外のケタミンなどは、期待とともにリスク面も理解しておきたい選択肢です。これらは「最後の手段」ではなく、まだ残されている道のひとつ。次の一手を、主治医と一緒に探していきましょう。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 治療抵抗性うつ病への挑戦 適応障害との鑑別(精神科治療学)
  • 気分症群

よくある質問

電気けいれん療法(ECT)は昔のような怖い治療なのでしょうか?

今行われているのは、麻酔薬と筋肉をゆるめる薬を使う「修正型」と呼ばれる方法が主流です。眠っている間に治療が行われ、体が大きく動くこともありません。昔のイメージとは大きく異なる、全身管理のもとで行う医療行為です。

rTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)は痛い治療ですか?

麻酔は使わず、目が覚めたまま受けられる治療です。頭の表面に磁気の刺激を当てるもので、刺激中に頭皮の痛みや頭痛を感じる方はいますが、多くは治療を重ねるうちに和らいでいくとされています。

これらは『最後の手段』なのでしょうか?

「もう打つ手がない」ときの最終手段というより、薬とは違う仕組みを持つ選択肢のひとつと考えるほうが実際に近いです。どの治療が合うかは、症状や状況をふまえ主治医とよく相談して決めます。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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