はじめに
「やっと調子が戻ってきたけれど、またあの状態に戻ってしまうのではないか」「いつまで薬を飲み続ければいいのだろう」——うつ病の治療がひと段落したころ、こうした不安を口にされる方はとても多いです。せっかく回復したのに、先の見通しが立たないことで、かえって落ち着かない気持ちになることもあるでしょう。
そう感じているのは、あなただけではありません。うつ病は、良くなったあとに再び症状が現れることがある病気です。これは決して「治療がうまくいかなかった」からではなく、うつ病という病気の性質のひとつです。だからこそ、回復したあとの過ごし方や、再発を防ぐ工夫があらかじめ分かっていると、安心して日々を送りやすくなります。
この記事では、うつ病の経過が人によってどう違うのか、なぜ再発という考え方が大切なのか、そして「うつ病だと思っていたら双極性障害だった」という可能性まで含めて、長い目で見た付き合い方を整理していきます。読み終えたとき、これからの見通しが少しでも持てるようになれば幸いです。
うつ病の経過は、人によってさまざまです
まず知っておいていただきたいのは、うつ病の経過は一人ひとり違うということです。同じ「うつ病」という診断でも、たどり方は大きく分かれます。
おおまかには、次のようなパターンがあるとされています。
- 一度の発症でその後は落ち着く方:きちんと回復し、その後は長く安定した状態を保てる方
- エピソードを繰り返す方:症状のない時期が何年も続いたあとに、また調子を崩す時期がやってくる方
- 症状が長く続きやすい方:はっきりした回復に至りにくく、慢性的に経過する方
ここで大切なのは、どのパターンになるかは「本人の頑張り方」で決まるものではない、ということです。性格や努力の問題ではなく、もともとの病気の現れ方の違いとして整理されています。
多くの方が、回復に向かいます
不安をあおる話に聞こえてしまったかもしれませんが、見通しには明るい面もあります。一般に、うつ病で症状が現れた方のうち、かなりの割合の方が比較的早い時期に回復に向かうと報告されています。一方で、一部の方は症状が長引きやすく、慢性的な経過をたどることもあります。
つまり、「多くの方は良くなっていく。ただし、人によっては時間がかかったり、波を繰り返したりすることもある」というのが実際のところです。だからこそ、回復したあとも安心して過ごせるよう、再発を防ぐ視点を持っておくことが役に立ちます。
「再発予防」という考え方が大切な理由
うつ病の治療では、症状が和らいだあとも「再発を防ぐ」という視点がとても大切にされています。これにはいくつか理由があります。
ひとつは、先ほど触れたように、うつ病は生涯のうちに何度かエピソードを繰り返すことが少なくない病気だからです。一度良くなったからといって油断するのではなく、調子の良い時期をできるだけ長く保つことが目標になります。
もうひとつは、回復したように見えても、部分的な症状が残っていることがあるからです。たとえば「気分の落ち込みはなくなったけれど、なんとなく意欲が湧かない」「眠りが浅い感じが続いている」といった具合です。こうした“くすぶり”が残っていると、再び症状がぶり返しやすいとも考えられています。完全にすっきりした状態を目指して治療を続けることには、こうした意味があります。
良くなっても、しばらく治療を続ける意味
「もう元気になったのに、どうして治療を続けるの?」と疑問に思われるかもしれません。これは、症状が落ち着いたあとも一定期間治療を続けること(維持療法と呼ばれます)が、再発の予防につながると考えられているためです。
風邪のように「症状が消えたら終わり」ではなく、調子が戻ったあともしばらく土台を整えておく、というイメージに近いかもしれません。ただし、どのくらいの期間続けるか、いつ減らしたり終えたりするかは、その方の経過によって異なります。自己判断で急にやめてしまうと再発につながることもあるため、減らす時期や方法は必ず主治医と相談しながら決めていきましょう。
再発のしやすさに関わる背景
「自分は再発しやすいタイプなのだろうか」と気になる方もいるでしょう。再発や慢性化のしやすさには、いくつかの背景因子が関わると言われています。代表的なものを挙げると、次のようなものです。
- 若い年齢での発症:比較的早い年代で発症した場合
- 幼少期のつらい体験:子どものころに大きな逆境やストレスを経験している場合
- もともとの心配しやすさ・敏感さ:ストレスに反応して気分が揺れやすい傾向(神経症的傾向と呼ばれることがあります)がある場合
- 家族にうつ病の方がいる:体質的に関わることがあるとされています
誤解しないでいただきたいのですが、これらに当てはまるからといって「必ず再発する」わけではありません。あくまで傾向の話であり、当てはまる方でも安定して過ごしている方はたくさんいます。むしろ、こうした背景を知っておくことで、無理をしすぎないよう生活を整えたり、早めに相談したりするきっかけになります。診断や見通しの判断は医師が行いますので、気になる点はひとりで抱え込まず、診察の場で共有してください。
「うつ病だと思っていたら双極性障害だった」というケース
経過を考えるうえで、もうひとつ知っておいていただきたいことがあります。それは、最初はうつ病に見えた方の一部が、あとから双極性障害(双極症)だと分かることがある、という点です。
双極性障害は、気分が落ち込む「うつ状態」だけでなく、気分が高まる「躁状態」や「軽躁状態」も現れる病気です。そして、双極性障害の多くは、最初にうつ状態から始まります。そのため、はじめてうつ状態で受診した時点では、うつ病と双極性障害を見分けるのが難しいことがあるのです。これは診断の誤りというより、時間が経たないと分からない部分があるためです。
見直しのきっかけになりやすいサイン
次のような特徴がある場合、経過のなかで双極性障害の可能性も含めて見直されることがあります。
- 家族に双極性障害や、お酒・薬などの使用に関する問題を抱えた方がいる
- ADHD(注意欠如多動症)を併せ持っている
- 比較的若い年齢でうつ状態が始まった
- うつ状態の始まりが急で、期間が短く、何度も繰り返している
- うつのときに、よく眠りすぎる・食べすぎるといった傾向がある
- 強い思い込みなど、いつもとは違う症状を伴うことがある
これらはあくまで「見直しのきっかけになりやすい特徴」であり、当てはまったからといって双極性障害だと決まるわけではありません。なぜこの話が大切かというと、うつ病と双極性障害では治療の進め方が異なる場合があるからです。「思っていた診断と変わるかもしれない」と身構える必要はなく、経過を一緒に見ていくなかで、その時々に合った治療を選び直していけると考えていただければ大丈夫です。
受診の目安
以下のような状態に当てはまる場合は、ひとりで様子を見すぎず、早めに相談することをおすすめします。
- 一度良くなったうつ症状が、また戻ってきている気がする
- 気分の落ち込みは和らいだものの、意欲のなさや眠りの浅さが続いている
- 自己判断で治療をやめてよいか迷っている
- 気分が普段より高まりすぎる時期があり、これまでの診断と合っているか気になる
- 家族に気分の病気の方がいて、自分の経過が心配になっている
- これからの見通しが立たず、不安で落ち着かない
まとめ
うつ病の経過は人によってさまざまで、一度で落ち着く方もいれば、波を繰り返す方、症状が長引きやすい方もいます。多くの方は回復に向かいますが、再び症状が現れることもあるため、回復したあとも「再発を防ぐ」という視点が大切にされています。良くなったあともしばらく治療を続けることには、こうした意味があります。また、最初はうつ病に見えても、経過のなかで双極性障害と分かることもあり、その都度ふさわしい治療へと見直していけます。長い経過のなかでも、見通しを持ちながら一歩ずつ付き合っていくことは十分に可能です。気がかりなことがあれば、どうか一人で抱え込まず、診察の場でお話しください。
参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 気分症群(精神医学テキスト)
よくある質問
うつ病は一度治っても再発しますか?
再発することがあります。一度の発症で終わる方もいますが、生涯のうちに何度かエピソードを繰り返す方も少なくありません。だからこそ、回復後も再発を防ぐ視点が大切になります。
症状が良くなったら薬はすぐにやめてよいですか?
自己判断での中止はおすすめできません。調子が良くなった後も一定期間治療を続けることで、再発の予防につながると考えられています。やめる時期は必ず主治医と相談してください。
うつ病だと思っていたのに双極性障害と言われることがあるのはなぜですか?
双極性障害の多くはうつ状態から始まるため、初期にはうつ病と見分けがつきにくいことがあります。経過を診ていくなかで気分の高まりが現れ、診断が見直されることがあります。