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はじめに

ご家族が統合失調症と診断されたとき、「自分に何ができるのだろう」と戸惑う方は少なくありません。薬を飲みたがらない本人にどう声をかければいいのか、症状が落ち着いてきたら薬はやめられるのか、副作用が出ていないか——心配は次々と湧いてくるものです。

実は、統合失調症の治療において、ご家族は「サポート役」としてとても大きな役割を担っています。日本の専門学会がまとめた患者・支援者向けの治療ガイドでも、支援者(家族など)は患者・主治医とともに治療をつくる一員として位置づけられています。統合失調症では、本人が幻覚(実際にはない声が聞こえるなどの体験)や妄想(事実と異なることを事実だと確信してしまう症状)を「病気の症状」と自覚しにくいことがあるため、ご家族からの情報が診断や治療の判断を支える場面が多いのです。

この記事では、統合失調症のご家族からよく寄せられる疑問に、Q&A形式でお答えします。なお、診断や治療方針の判断は医師が行います。ここでご紹介するのは、診察の場で相談するときの手がかりとお考えください。

Q1. 本人が薬を飲みたがりません。どうすればよいですか?

統合失調症の症状が不安定なときには、抗精神病薬(統合失調症を治療する薬)を1種類飲むことが強く勧められています。幻覚や妄想が軽くなるだけでなく、やる気が出ない・感情が出にくいといった症状の改善や、自分らしい生活を送ることにもつながるとされます。

とはいえ、「本人が飲もうとしない」というのは、ご家族から最も多く聞かれる悩みのひとつです。統合失調症では、自分が病気であるという自覚(病識といいます)を持ちにくいことがあり、それが服薬をためらう一因になります。ただし、飲みたくない理由は病識の問題だけではありません。副作用がつらい、効果が感じられない——理由は人それぞれです。

まず「なぜ飲みたくないのか」を聞いてみる

ガイドで勧められているのは、無理に飲ませようとするのではなく、まず飲みたくない理由を聞いて、その気持ちを受け止めることです。病気とは認めていなくても「飲むと眠れる」「落ち着く」という理由で続けている方や、「家族が心配して飲んでほしいと言うから」という理由で飲んでいる方も実際に多くいらっしゃいます。

また、本人が「副作用」と感じているものが実は病気の症状であったり、本人の実感以上に薬を飲む前より良くなっていたりする場合もあり、その説明で納得につながることもあります。ご家族だけで抱え込まず、飲みたくない理由を主治医に伝えて、一緒に対応を考えていきましょう。

Q2. 落ち着いてきたら、薬は減らせますか?やめられますか?

「もう幻聴も妄想もないのだから、薬はやめてもいいのでは」と考えるのは自然なことです。しかし、症状が安定したあとに抗精神病薬をやめると、再発や再入院が増え、精神症状が悪化しやすくなることがわかっています。減らした場合も再発が増えるとされ、「飲む日と飲まない日をつくる」「調子が悪いときだけ飲む」といった飲み方も、再発・再入院を増やすため勧められていません。

せっかく症状が安定して普段の生活に戻れるというときに再発してしまうと、その生活を続けることが難しくなってしまいます。そのため、ガイドラインでは、安定したあとも薬を中止せず、そのままの量で飲み続けることが強く勧められています。

それでも減らしたい事情があるとき

副作用がつらいなど、減らしたい事情がある場合は、自己判断で調整するのではなく、まず飲んでいる薬全体を主治医と確認することが勧められています。抗精神病薬以外の薬を整理できないか、抗精神病薬が2種類以上あれば1種類にまとめられないか、という順で相談していきます。効果のない薬を重ねるより、1種類の抗精神病薬で治療することが望ましいとされているためです。

また、飲み薬を規則的に続けることが難しい場合には、長く効果が続く注射薬(持効性注射剤)という選択肢もあります。本人が希望する場合も含め、主治医と相談できる方法のひとつです。

Q3. 副作用が心配です。家族は何に気をつければよいですか?

抗精神病薬には、眠気、手のふるえ、体のこわばり、じっとしていられない感じ(アカシジア)、体重増加、便秘などの副作用が出ることがあります。個人差があり、すべての人に起こるわけではありませんが、本人が言い出しにくいことも多いため、ご家族が変化に気づいて診察の場で伝えることが役立ちます。話しづらい内容は、あらかじめメモに書いて主治医に渡す方法も勧められています。

いくつか、知っておきたいポイントがあります。

  • 緊急性の高いサイン:高熱やひどい汗が出て、体がこわばり会話もできない——このようなときは「悪性症候群」という命に関わる副作用の可能性があります。早急にかかりつけの医療機関に連絡してください。
  • じっとしていられない落ち着かなさ:アカシジアが強くなると、焦りや不安から「死にたい気持ち」につながることがあり、緊急性が高い状態とされます。すぐに主治医に相談してください。
  • 体重増加:体重測定や食事・運動など生活習慣の見直しが勧められています。体重を減らす目的で薬を自己判断で減らすことは勧められていません。
  • 年1回の心電図検査:抗精神病薬には心電図に影響する副作用の可能性があるため、年に1回程度の心電図検査が大切とされています。

副作用かどうかの判断や薬の調整は医師が行います。「困っていること」をそのまま伝えていただくことが、いちばんの協力になります。

Q4. 家族は治療にどこまで関わってよいのでしょうか?

「口を出しすぎではないか」とためらうご家族もいらっしゃいますが、ガイドでは、家族など周囲の人からの情報は病気の状態を判断するうえでとても大切だと明記されています。本人の話を尊重するのは当然として、主治医は家庭での様子もあわせて総合的に治療を考えていくためです。

診察にガイドや資料を持参して「ここにこう書いてあるが、先生はどう思うか」と尋ねたり、「この本を読んで、こうしてみたいと思った」と支援者から意見を出したりすることも、むしろ歓迎されるとされています。治療の主役はあくまで本人ですが、本人・家族・主治医が協力し合うことが、より良い治療につながると考えられています。

そして、ご家族自身が一人で悩みを抱え込まないことも大切です。対応に迷ったときは、診察の場で率直にご相談ください。

受診・相談の目安

次のようなときは、早めに主治医へ相談することをおすすめします。

  • 薬を飲まなくなった、または自己判断で減らしている様子がある
  • 幻聴や妄想と思われる言動が再び目立ってきた、眠れない日が続いている
  • 手のふるえ、じっとしていられない、体重増加、便秘など、副作用と思われる変化が続いている
  • 高熱と汗が出て体がこわばり、会話もできない(この場合は早急にかかりつけの医療機関へ。夜間などで連絡がつかず生命の危険を感じるときは救急(119)を利用してください)
  • 死にたい気持ちを口にする、ご家族が対応に行き詰まって疲れ果てている

まとめ

統合失調症の治療では、症状が不安定なときは抗精神病薬を1種類飲むこと、安定したあとも減らさずに続けることが勧められています。薬を飲みたがらないときは、無理強いではなく理由を聞いて受け止めること。副作用に気づいたら診察の場で伝えること。そして、家庭での様子という「家族にしか見えない情報」を主治医と共有すること——これらはどれも、ご家族だからこそできる治療への協力です。

治療の主役は本人で、ご家族と主治医はそのサポート役です。一人で抱え込まず、迷ったことはそのつど診察の場でご相談ください。


参考にした資料(内容の要約・再構成であり、原文の転載ではありません):

  • 患者と支援者のための統合失調症薬物治療ガイド2022(日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

家族が薬を飲みたがらないとき、無理にでも飲ませるべきですか?

無理強いよりも、まず「なぜ飲みたくないのか」を聞いて、その気持ちを受け止めることが勧められています。副作用がつらい、効果を感じないなど理由はさまざまで、理由によって対応も変わります。ご家族だけで抱え込まず、その理由を主治医に伝えて一緒に相談してください。

症状が落ち着いてきたら、薬は減らしたりやめたりできますか?

症状が安定したあとに薬をやめると再発や再入院が増えることが知られており、ガイドラインでは安定後もそのまま飲み続けることが強く勧められています。減らしたい事情があるときは自己判断で調整せず、必ず主治医に相談してください。判断は医師が行います。

副作用が心配です。家族は何に気をつければよいですか?

手のふるえ、じっとしていられない、体重増加、便秘などは副作用の可能性があり、気づいたことを診察の場で伝えることが役立ちます。特に高熱と汗が出て体がこわばり会話もできないときは、命に関わる副作用の可能性があるため、早急にかかりつけの医療機関へ連絡してください。

家族が診察に同席したり、情報を伝えたりしてもよいのでしょうか?

はい。統合失調症では本人が症状を自覚しにくいことがあり、家族など周囲からの情報は診断や治療の判断のうえでとても大切だとされています。本人の意思を尊重しながら、家庭での様子や困りごとを主治医に伝えていただくことは、治療の助けになります。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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