はじめに
抗精神病薬(幻覚や妄想などの症状を改善する薬で、統合失調症の治療の中心となるお薬です)を飲みはじめてから、「体重が増えてきた」「日中眠くてたまらない」「じっと座っていられない」——そんな変化に戸惑い、「このまま飲み続けて大丈夫だろうか」「いっそやめてしまおうか」と悩んでいる方は少なくありません。
副作用のつらさは、治療を続けようという気持ちそのものを弱らせてしまうことがあります。けれど、自己判断で薬を中断すると症状のぶり返しにつながりやすいことがわかっており、一方で、副作用の多くには「相談すればできる対処」があります。
この記事では、抗精神病薬でよく相談される三つの副作用——体重増加・眠気・アカシジア——について、日本の学会が作成した統合失調症薬物治療ガイドライン2022とその患者向けガイドをもとに、対処の考え方と主治医への伝え方をお伝えします。なお、副作用かどうかの判断や治療方針の決定は医師が行います。ここでの内容は、診察で相談するための「予習」とお考えください。
体重増加——「薬を減らせば痩せる」わけではない
体重増加は、特に第二世代とよばれる比較的新しいタイプの抗精神病薬で、しばしばみられる副作用です。薬によっては体重の増え方が著しく、10kg以上増える場合もあるとされています。容姿の変化がつらくて薬を飲む気持ちが薄れてしまう——それ自体が治療上の大きな問題として、ガイドラインでも重視されています。
まずは生活習慣への取り組みから
対処の第一歩は、体重測定、食事の見直し、栄養教育、運動などを含めた生活習慣への取り組みです。ガイドラインでは、こうした生活への介入で、わずかながら体重減少の効果が確認されたことが紹介されています。病院や地域の栄養士に相談すると、専門家のアドバイスを受けられます。
ここで大切な事実がひとつあります。薬を減らしても、体重の減少にはつながらないことが研究でわかっており、体重を減らす目的での抗精神病薬の減量は勧められていません。「薬を減らせば痩せるはず」と自己判断で減らすと、体重は変わらないまま、症状がぶり返すリスクだけを負うことになりかねないのです。
体重増加のリスクが比較的少ない薬もあるため、薬の変更が検討されることもあります。ただし変更によって症状が悪化する場合もあるので、益と害を主治医と一緒に検討することになります。また、体重が増えたときは血糖値や中性脂肪、コレステロール、血圧などのチェックも大切です。治療の開始前後から定期的に体重を測っておくことが、自己管理に役立つとされています。
日中の眠気——原因は一つとは限らない
日中眠くてたまらない、寝過ぎてしまうという相談もよくあります。このとき大切なのは、眠気の原因が抗精神病薬だけとは限らないという視点です。
ガイドでは、まず他の病気の合併や、抗精神病薬以外の薬が原因でないかを確かめることが大切だとされています。特に、睡眠薬・抗不安薬として使われるベンゾジアゼピン系の薬や抗うつ薬を併用していると、眠気が強くなることが多いことが知られており、主治医と相談しながらこれらを減らす・中止することが選択肢になります。
抗精神病薬そのものが原因の場合は、減量や変更が考えられますが、それによって症状が悪化する可能性もあるため、慎重な調整が必要です。ほかにも、朝や昼に飲んでいる薬を夜にまとめるといった飲み方の工夫や、朝決まった時間に起きて日光を浴びる、日中体を動かすなど生活リズムを整えることも役立ちます。どの薬が眠気を生じやすいか、減らしても安全かは、必ず主治医と相談してください。
アカシジア——「落ち着きのなさ」は性格ではなく副作用かもしれない
アカシジアは、「足がムズムズする」「足踏みをしてしまう」「じっと座っていられない」といった、体の落ち着かなさが特徴の副作用です。傍からは「そわそわしている」「落ち着きがない」ように見えるため、性格や気持ちの問題と誤解されやすいのですが、これは薬の副作用として起こりうる症状です。
対処としては、原因となっている薬を減らす、一旦中止して別の抗精神病薬に変えるといった方法が検討されます。軽い場合には、自分でやり過ごせることもあります。ただし、原因の薬が症状によく効いている場合もあるため、減らすかどうかは主治医とよく相談して決めることになります。予防の面では、第一世代よりも第二世代の抗精神病薬のほうがアカシジアが起こりにくいとされています。
ひとつ、知っておいていただきたい重要な点があります。アカシジアの落ち着かなさに強い不安や焦る気持ちが伴い、「死にたい」「人を傷つけたくなる」といった気持ちが出てきた場合は、重症で緊急性が高い状態とされています。この場合は薬の調整だけでなく、入院を含めた環境調整が必要になることもあります。我慢せず、すぐに主治医に相談してください。
副作用かも、と思ったときの相談のしかた
三つの副作用に共通する対処の原則は、シンプルです。
- 自己判断で急にやめない:薬を突然やめると症状のぶり返しや再入院が増えることがわかっています。また、飲んでいる薬の量が急に大きく変わったり突然中断したりすると、高熱や体のこわばりを伴う悪性症候群という命に関わる副作用が起こりやすくなるとされています。
- 困っていることをそのまま伝える:副作用のように見えて実は病気の症状だった、逆に症状だと思っていたら副作用だった、ということもあります。まず「何に困っているか」を伝えることが、正しい対処への近道です。
- メモを活用する:診察で言いにくい・言い忘れてしまうときは、困りごとを書いたメモを主治医に渡す方法がガイドでも勧められています。
- メリットとデメリットを一緒に整理する:薬の副作用というデメリットと、症状を抑えている効果というメリットを主治医と天秤にかけながら、納得のいく方針を一緒に決めていきます。
高熱やひどい汗が出て体がこわばり会話もできない、といった状態は悪性症候群の可能性があり、早急にかかりつけの病院への連絡が必要です。夜間などで連絡がつかず状態が切迫しているときは、救急(119)を利用してください。
受診・相談の目安
次のようなときは、次回の診察を待たずに早めの相談をおすすめします。
- 体重の増え方が急で、血糖値や脂質の異常も指摘されている
- 眠気で仕事や生活に支障が出ている、転倒しそうになる
- じっとしていられない落ち着かなさが続き、つらい
- 落ち着かなさに強い焦りが伴い、死にたい気持ちや人を傷つけたくなる気持ちが出てきた(緊急性が高い状態です)
- 高熱や大量の汗、体のこわばりがある(救急対応が必要な場合があります)
- 副作用がつらくて、薬をやめたい・すでに自己判断で減らしている
「こんなことで相談していいのかな」と思うような小さな困りごとでも、遠慮はいりません。副作用の相談は、治療を続けるための大切な作業のひとつです。
まとめ
抗精神病薬の体重増加・眠気・アカシジアは、いずれも「よくある、対処を相談できる副作用」です。体重増加にはまず生活習慣への取り組みを(薬の減量では体重は減りません)、眠気には原因の見極めと薬の調整を、アカシジアには薬の減量・変更の検討を——それぞれ道筋があります。
共通するのは、自己判断で薬をやめず、困っていることを主治医に伝えることです。言いにくければメモでかまいません。副作用のつらさと薬の効果を一緒に整理しながら、あなたが納得して続けられる治療を、主治医とともに探していきましょう。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 患者と支援者のための統合失調症薬物治療ガイド2022(日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会)
- 統合失調症薬物治療ガイドライン2022(日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会)
執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏
よくある質問
抗精神病薬で体重が増えてきました。薬を減らせば体重は戻りますか?
薬を減らしても体重の減少にはつながらないことがわかっており、体重を減らす目的での減量は勧められていません。まずは体重測定・食事の見直し・運動などの生活習慣への取り組みが望ましいとされています。体重増加のリスクが少ない薬への変更が検討されることもありますが、症状が悪化する場合もあるため、主治医とよく相談して決めていきます。
じっと座っていられず、足がムズムズして落ち着きません。性格の問題でしょうか?
性格の問題ではなく、アカシジアという抗精神病薬の副作用の可能性があります。原因の薬を減らす、別の薬に変えるなどの対処が検討されますので、我慢せずに主治医に伝えてください。特に、強い不安や焦りから死にたい気持ちが出てきたときは緊急性が高い状態ですので、すぐに相談が必要です。
日中の眠気がつらいです。自己判断で薬をやめてもいいですか?
自己判断で急にやめることはお勧めできません。急な中断は症状のぶり返しにつながりやすく、悪性症候群という重い副作用が起こりやすくなることも知られています。眠気は併用している薬が原因のことも多く、薬の減量・変更や飲む時間の工夫などで調整できる場合がありますので、まず主治医に相談してください。
副作用のことを診察でうまく言えません。どうすればいいですか?
困っていることをメモに書いて診察時に渡す方法が、ガイドでも紹介されています。「いつから」「どんなときに」「どのくらい困るか」を短くまとめるだけでも十分です。副作用のデメリットと薬の効果のメリットを主治医と一緒に整理し、納得できる治療方針を相談していきましょう。