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はじめに

「統合失調症」という病名を聞くと、不安や戸惑いを感じる方が多いかもしれません。他の人には聞こえない声が聞こえる、誰かに見張られている気がする——そうした体験は、本人にとってはまぎれもない現実であり、とてもつらいものです。一方で、ご家族から見ると「様子が変わってしまった」「話が通じにくくなった」と感じられ、どう関わればよいか悩まれることも少なくありません。

統合失調症は決してめずらしい病気ではなく、治療法の研究が進んでいる病気です。日本では専門学会が科学的な根拠に基づく治療ガイドラインを作成しており、患者さんと支援者向けの解説版も公開されています。この記事では、それらの資料をもとに、統合失調症の症状・診断・経過・治療の基礎知識をわかりやすくまとめます。なお、診断や治療方針の判断は医師が行います。ここでの内容は、相談の前に知っておくと役立つ「目安」とお考えください。

どんな症状が起こるのか

統合失調症の症状は、大きく分けて「陽性症状」「陰性症状」「認知機能の症状」として整理されます。

幻覚・妄想などの「陽性症状」

幻覚とは、外からの刺激がないのに起こる知覚の体験で、統合失調症では「声が聞こえる」幻聴が代表的です。妄想とは、反対の証拠があっても変わらない固い確信のことで、「悪口を言われている」「後をつけられている」といった被害的な内容がよくみられます。

大切なのは、周りからすれば「症状」であっても、本人にとってそれを体験していることは事実だという点です。悪意のある噂が聞こえてくる、心ない言葉を浴びせられる——そうしたつらい体験だからこそ、本人には「病気の症状」だと自覚しにくいことが少なくありません。本人が病気を認めないように見えるのは、性格の問題ではなく、症状の性質によるものなのです。

意欲や感情に関わる「陰性症状」

一方で、表情や声の抑揚が乏しくなる、感情が表に出にくくなる、自分から何かをしようという意欲がわかず、長い時間じっとしていたり、仕事や人づきあいへの関心を示さなくなったりする症状もあります。これらは「陰性症状」と呼ばれます。派手さがないぶん、周囲からは「怠けている」と誤解されやすい症状ですが、これも病気の一部です。

考える力に関わる症状

このほか、話のまとまりがつきにくくなる、注意力や記憶力、段取りを立てる力が落ちるといった認知機能の症状がみられることもあります。こうした症状は日常生活や仕事に影響しやすく、治療と支援の大切なテーマとされています。

診断はどのように行われるか

統合失調症には、これがあれば確定という検査所見はまだ見つかっていません。そのため診断は、本人やご家族からの問診を中心に、どのような症状が・いつから・どのように経過し・生活にどの程度支障が出ているかを丁寧に確かめて行われます。

もうひとつ重要なのが、他の病気との見分け(鑑別)です。甲状腺の病気、脳炎や脳腫瘍、てんかんなどの身体の病気や、薬物・アルコールの影響でも、統合失調症に似た症状が現れることがあります。そのため、必要に応じて血液検査や心電図、脳波、CT・MRIなどの検査を行い、これらを除外することが求められています。診断が違えば治療も変わりますから、困っている症状をできるだけ具体的に伝えていただくことが、適切な診断への近道になります。本人が受診をためらう場合、ご家族など周囲の方からの情報もとても大切です。

治療の基本——薬と、薬以外の支援

抗精神病薬による治療

統合失調症の薬物治療の基本は「抗精神病薬」です。ガイドラインでは、幻覚や妄想が強く不安定な時期には、抗精神病薬を1種類(単剤)で使う治療が強く勧められています。抗精神病薬には、幻覚や妄想を軽くするだけでなく、意欲や感情に関わる症状の改善、再発の予防といった効果が示されています。

複数の抗精神病薬を同時に飲んでも効果が上がるとはいえず、副作用が出やすくなるため、多剤併用ではなく1種類でしっかり治療することが勧められています。効果が不十分なときは、量の調整や別の薬への変更を主治医と相談しながら進めます。

副作用として、眠気、手のふるえや体のこわばり、じっとしていられない感じ、体重増加、便秘、月経の乱れなどが起こることがあります。個人差が大きく、すべての人に起こるわけではありません。困った症状があれば我慢せず、診察で伝えてください。薬の調整や変更で対処できることが多くあります。

良くなってからも薬を続ける理由

症状が落ち着くと「もう薬はやめてよいのでは」と思うのは自然なことです。しかしガイドラインでは、安定したあとに薬を中止したり減らしたり、調子の悪いときだけ飲むといった飲み方をすると、再発や再入院が増えることが示されており、症状が安定したあとも同じ量で飲み続けることが勧められています。飲み忘れが心配な方には、2〜12週間に1回の注射で効果が続く「持効性注射剤」という選択肢もあります。

薬だけではない、包括的な治療

統合失調症の治療は薬だけで行うものではありません。心理教育や認知行動療法、社会生活スキルトレーニング(SST)などの心理的治療、生活リズムを整えること、作業療法やデイケア、就労支援や訪問看護といった幅広い支援を組み合わせる包括的な治療が大切とされています。

現在の治療の目標は「リカバリー(回復)」——症状を抑えるだけでなく、その人らしい満足した生活を取り戻していくことです。治療の主役は患者さん自身であり、主治医や支援者はそのサポート役です。疑問や希望を診察で伝え、一緒に方針を決めていく姿勢が、ガイドラインでも重視されています。

受診の目安

以下に当てはまるときは、早めの相談をおすすめします。

  • 他の人には聞こえない声が聞こえる、悪口や噂が聞こえてくる気がする
  • 見張られている、後をつけられているなどの感覚が続いている
  • 考えがまとまらず、話が通じにくくなったと言われる
  • 表情が乏しくなり、部屋に閉じこもりがちで、何もする気が起きない状態が続いている
  • ご家族から見て、以前と人柄や生活ぶりが明らかに変わってきた

統合失調症は思春期から青年期に発症することが多い病気です。ご本人が受診をためらう場合は、まずご家族だけでのご相談も可能です。また、すでに治療中の方で、高熱が出て体がこわばり会話もできないといった状態があるときは命に関わる副作用の可能性があるため、すぐにかかりつけの医療機関へ連絡し、つながらない緊急時は救急(119)を利用してください。

まとめ

統合失調症は、幻覚や妄想などの陽性症状、意欲や感情に関わる陰性症状、考える力に関わる症状が現れる病気で、本人には症状と自覚しにくいという特徴があります。診断は問診を中心に、身体の病気などを除外しながら医師が行います。

治療の基本は抗精神病薬を1種類でしっかり使うことで、症状が安定したあとも継続することが再発予防のために勧められています。そして薬だけでなく、心理的な治療やリハビリテーション、福祉サービスを組み合わせて、その人らしい生活の回復(リカバリー)を目指していきます。

不安なことや薬への疑問は、遠慮なく診察で聞いてください。治療の主役はあなた自身です。一人で、あるいは家族だけで抱え込まず、まずは相談することから始めていきましょう。


参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 統合失調症薬物治療ガイドライン2022(日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会)
  • 患者と支援者のための統合失調症薬物治療ガイド2022(同学会)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

統合失調症は、幻聴や妄想があれば診断されるのですか?

いいえ。幻覚や妄想は他の病気でも起こりえます。甲状腺の病気や脳炎、てんかんなどの身体の病気、薬物やアルコールの影響でも似た症状が生じるため、診断ではこれらを除外することが求められます。症状の内容だけでなく、いつから始まりどう経過したか、生活にどの程度支障があるかを総合して、医師が判断します。

薬は一生飲み続けないといけないのでしょうか?

ガイドラインでは、症状が安定したあとも抗精神病薬を中止せず継続することが強く勧められています。自己判断でやめたり減らしたりすると再発や再入院が増えることが示されているためです。ただし治療は一人ひとりの状態に合わせて行われるものなので、薬についての希望や不安は、そのまま主治医に伝えて一緒に方針を決めていくことが大切です。

薬以外の治療はありますか?

あります。統合失調症の治療は薬物治療だけで行うものではなく、心理教育や認知行動療法、社会生活スキルトレーニングなどの心理的な治療、デイケアや就労支援などのリハビリテーション・福祉サービスを組み合わせた包括的な支援が大切とされています。どの支援を使うかは、状態や生活の目標に応じて相談しながら決めていきます。

家族が病気を認めず、受診を嫌がります。どうすればよいですか?

統合失調症では、幻聴や妄想を本人が「病気の症状」と自覚しにくいことが少なくありません。これは本人が強情なのではなく、症状の性質によるものです。診断や治療では家族など周囲の方からの情報もとても大切ですので、まずはご家族だけでも受診してご相談いただくことができます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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