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夜勤を終えて帰宅する朝のことです。体はくたくたなのに、布団に入ると目がさえてしまいます。うとうとしてもすぐに目が覚めて、外の明るさが気になって、もう一度寝つくのに時間がかかります。そんな経験はないでしょうか。

「疲れているのだから、横になれば眠れるはず」と思うのは自然なことです。けれども実際には、疲労の強さと寝つきのよさはイコールではありません。ここには、気合いでも寝つきの上手下手でもない、体のしくみが関わっています。

「眠れない」の正体は体内時計のずれ

私たちの体には、およそ24時間の周期で動く体内時計があります。深部体温、メラトニンやコルチゾールといったホルモン、眠気の波などのリズムが「夜に眠くなり、朝に目が覚める」パターンをつくっています。

夜勤明けの朝に布団に入っても眠れないのは、この体内時計がまだ「いまは昼、起きている時間だ」と信号を送り続けているからです。体の表面は疲れ果てていても、時計のほうは昼モードのまま。深部体温やホルモンといった体内時計のリズムが、眠ろうとしている時間帯とずれている状態です。

寝つけたとしても、体内のリズムが「起きなさい」と働きかけるので、眠りが浅くなったり途中で何度も目が覚めたりします。起きたあとに「寝た気がしない」と感じるのも、このずれが関係しています。眠って休めた感じ(睡眠休養感)が得られにくいのは、睡眠の長さだけの問題ではないのです。

体内時計は1日では合わせきれない

「それなら体内時計を夜勤に合わせればいい」と思うかもしれません。たしかに、光の浴び方をコントロールして体内時計をずらす試みは研究されています。朝の光は時計を「早寝早起き」の方向に進め、夕方以降の光は「遅寝遅起き」の方向にずらします。

ただし、実際の生活のなかで1日に動かせる体内時計の幅は、数分から数時間程度にとどまります。夜勤と日勤が入れ替わるたびに時計を完全に合わせ直すのは、体の設計上かなり無理があります。無理に合わせようとすると、翌日以降の生活リズムがかえって崩れてしまうこともあります。

交替制勤務に就いている方は、日本の労働者の1〜2割弱にのぼります。体内時計に逆らって働く勤務ですから、夜勤明けに眠りにくいのは個人の弱さではなく、体の自然な反応です。

勤務の型で「合う工夫」が変わる

世の中の睡眠アドバイスには「毎朝同じ時刻に起きましょう」「朝日を浴びましょう」といったものが多いですが、夜勤のある生活にはそのまま当てはまらないことがあります。一般的な睡眠衛生の工夫は大切な土台ですが、交替勤務では「自分のシフトがどういう型か」によって、工夫の方向そのものが変わってきます。

ここでは交替制勤務における夜勤の入り方による違いを取り上げます。大きく分かれるのが、夜勤がたまに入る型と、夜勤が多い・まとまって続く型です。

夜勤がたまに入る型(週に1〜2回程度)

この型では、体内時計を日勤の日に合わせたまま過ごすという選択肢があります。夜勤明けの朝にすぐ長く眠るのではなく、できれば午前中に日光を浴び、夕方以降に普段よりやや長めに眠って、翌朝は日勤の日と同じ時刻に起きるようにします。体内時計を夜勤側にずらさないことで、日勤の日のリズムへ早く戻れるようにする考え方です。

この方法をとるなら、夜勤中にできるだけ職場の強い照明を避けることも助けになります。強い光を夜間に浴びると、体内時計が「遅寝遅起き」の方向にずれて、日勤の日のリズムに戻りにくくなるからです。

ただし、これは夜勤明けの日に眠気を抱えたまま夕方まで過ごすことになります。通勤中の居眠りや帰宅後の事故には十分気をつけてください。

夜勤が多い・まとまって続く型

夜勤がもっと頻繁に入る勤務では、「夜勤明けに眠らず夜まで起きている」方法をとると睡眠不足がより深刻になることがあります。この型では、夜勤明けにしっかり遮光して眠る時間を確保するほうが現実的です。

カーテンや遮光グッズで日中の光を十分にさえぎると、日中の睡眠の質が改善しやすくなります。「遮光なんて気休めでしょう」と思う方もいるかもしれませんが、光は体内時計に直接働きかける刺激ですから、寝室の明るさを減らすことには生理的な意味があります。

また、三交代勤務の場合、日勤→準夜勤→深夜勤という「後ろにずらす順番」でシフトを組むと体のリズムを合わせやすいことが知られています。これはご自身だけでは変えられないことですが、職場でシフトの組み方について話し合う機会があれば、相談の材料にはなるかもしれません。

固定夜勤の方へ

ここまで交替制勤務における夜勤の入り方の違いを見てきましたが、夜間だけを担当する固定夜勤(夜勤専従)の方もいるでしょう。固定夜勤は、勤務のたびに時間帯が変わる交替制勤務とは別の働き方です。それでも、昼間に眠ることへの体の抵抗はゼロにはなりません。遮光や仮眠といった工夫は、固定夜勤の方にとっても選択肢になります。

仮眠・カフェイン・遮光の使い分け

仮眠は「いつ・どのくらい」を意識する

夜勤中の仮眠は眠気を和らげ、作業の効率を保つのに役立ちます。夜勤中に仮眠をとったからといって、夜勤後の睡眠が妨げられることはほとんどないとされています。

気をつけたいのは仮眠の長さです。長くとりすぎると眠りが深くなり、起きたあとに強いぼんやり感(睡眠慣性と呼ばれます)が残ることがあります。職場で仮眠がとれる環境であれば、短めにとどめるほうが、起きたあとの切り替えはスムーズです。

夜勤の前にあらかじめ仮眠をとっておくことが夜勤中の眠気を軽くするという報告や、夜勤の後の仮眠が睡眠不足を補って非番の日の調子を上げる可能性も示されています。仮眠は「夜勤中だけのもの」ではなく、勤務の前後も含めて柔軟に使える道具です。職場に仮眠できる場所や時間があるかどうかも、大きな違いを生みます。

カフェインは「ここまで」を決めておく

夜勤中の眠気にカフェインが助けになることはあります。ただし、とりすぎるとその後の睡眠に影響が出ます。夜勤の後半にコーヒーを何杯も飲んで、帰宅しても頭が冴えて眠れない……という経験がある方もいるでしょう。「夜勤中のどこかで最後の一杯にする」と自分で線を引いておくと、帰宅後の寝つきを守りやすくなります。カフェインと睡眠の関係について詳しくは「カフェインと不安・不眠」の記事もあわせてどうぞ。

光と遮光による体内時計へのはたらきかけ

ここまで触れてきたように、光は体内時計を動かすいちばん強い刺激です。朝の光は時計を前に進め、夕方以降の光は後ろにずらします。

この性質を利用して、遮光や光の浴び方で体内時計を勤務に合わせる試みもあります。ただし先に述べたとおり、1日に動かせる幅は限られていますし、ずらしたあとに次のシフトや休みの日の生活に影響が出ることもあります。「完全に合わせられる」ものではない、ということは覚えておいてください。

夜勤がたまに入る型では、午前中の日光を利用して日勤のリズムに戻す選択肢があります。一方、夜勤が多い・続く型では、日中に眠る部屋をしっかり暗くする遮光の工夫が役に立ちます。光の扱い方も勤務の型に合わせて考えてみてください。

「眠れない」がつらいときの受診

夜勤明けに眠れないこと自体は、体内時計のしくみから考えれば起こりうることです。けれども、それが続いて生活に支障が出ているなら、ひとりで抱え続ける必要はありません。

こんな状態が続いていませんか。寝つけない日が重なったり、眠っても何度も目が覚めて休めた感じがほとんどなかったり、夜勤中の眠気や集中しにくさがひどくて仕事に影響が出ていたり、休みの日にも疲れがとれなかったりする状態です。こうした状態が長く続いているなら、医療機関で一度相談してみてください。勤務のスケジュールに伴う睡眠の問題には「交代勤務睡眠障害」という名前がついていて、医療として対応できる領域です。

勤務と無関係にいつも強い眠気がある場合は、過眠症など別の原因が隠れていることもあります。

当院でも、夜勤のある方の眠りや体調についてご相談いただけます。受診の際は、ご自身の勤務表やシフトのパターンがわかるものをお持ちいただくと、状況を把握しやすくなります。初診はWEB予約(デジスマ)で受け付けており、事前にWEB問診にご回答いただいています。


参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」就業形態(交替制勤務)と睡眠の課題について
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「交代勤務睡眠障害」
  • National Heart, Lung, and Blood Institute "Circadian Rhythm Disorders: Types"

よくある質問

夜勤明けは何時間眠ればいいですか?

「何時間なら正解」という万人共通の数字はありません。夜勤の入り方や睡眠不足の度合いによっても事情は変わりますし、起きたあとに休めた感じがあるかどうかも大切な手がかりです。ご自身の勤務の型とあわせて考えてみてください。

夜勤明けに眠れないとき、睡眠薬を使ってもいいですか?

睡眠薬や市販の睡眠補助薬を自己判断で使うことはおすすめしません。夜勤の頻度やシフトの回り方を医師に伝えたうえで、相談してください。

夜勤明けは寝ずに夜まで起きていたほうがいいですか?

夜勤が週に1〜2回程度しか入らない型であれば、夜勤明けにすぐ長くは眠らず、夕方以降にまとめて眠り、翌朝は日勤の日と同じ時刻に合わせるという方法が選択肢になります。ただし夜勤がもっと頻繁に入る方がこれをやると、睡眠不足がさらに深まることがあります。ご自身の勤務表と照らし合わせて考えてみてください。

夜勤中の仮眠は、夜勤明けの睡眠に悪影響がありますか?

夜勤中の仮眠が、夜勤後の睡眠を妨げることはほとんどないとされています。むしろ夜勤中の眠気や作業効率の改善に役立ちます。ただし長すぎる仮眠は眠りが深くなり、起きたあとに強いぼんやり感が出やすいので、職場でとれる範囲で短めにとどめるほうがよいでしょう。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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