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はじめに

授かったいのちを、思いがけず失う。流産や死産は、言葉にできないほどの悲しみを伴う体験です。「お腹にいた時間は短かったのに、こんなに悲しんでいてよいのだろうか」「いつまでも引きずる自分は弱いのではないか」と、ご自身の気持ちを責めてしまっていませんか。あるいは、パートナーや周りの人がかけてくれた言葉に、かえって深く傷ついた経験をお持ちかもしれません。

まず知っていただきたいのは、流産・死産で深く悲しむのは、決しておおげさなことでも、あなたが弱いからでもないということです。それは、大切な存在を失ったときに生じる、ごく自然で正当な反応です。そして、同じように静かに悲しみを抱えている人は、あなたが思うよりずっと多くいます。悲しみは、語られにくいだけで、決してまれなものではありません。

この記事では、流産・死産に伴う悲しみ(グリーフ)がどのような体験なのか、自然な経過と支援が必要になる場合のちがい、周囲の人が気をつけたい声かけ、そして専門的なグリーフケアや相談先について整理します。ご本人にも、ご家族など支える立場の方にも、お読みいただける内容です。なお、ここでお伝えするのは一般的な目安であり、診断や具体的な対応は医師が個別に判断しますので、相談の前に知っておくと役立つ情報としてお読みください。

流産・死産は「正当な喪失体験」です

「グリーフ」とは、死別をはじめとする喪失を経験したときに生じる、心・体・感情・考え・行動のさまざまな反応をまとめて指す言葉です。日本語の「悲嘆」よりも広い意味を持ち、悲しみだけでなく、怒り、罪悪感、虚しさ、混乱、体調の変化なども含まれます。

流産・死産は、まさにこのグリーフを引き起こす喪失体験です。たとえまだ抱くことのできなかったいのちであっても、妊娠が分かったときから、人はその子との未来を思い描き、関係を築き始めています。だからこそ、その存在を失うことは、ひとりの大切な人を失うことと同じように、深い悲しみをもたらします。妊娠の週数や、まわりからどう見えるかによって、悲しみの重さが決まるわけではありません。

ときに、流産・死産は深い悲しみであると同時に、強い衝撃やトラウマ(心の傷)として残ることもあります。突然の出来事に心が追いつかず、その場面が繰り返し思い出されたり、似た状況を避けたくなったりすることもあります。これらは異常な反応ではなく、つらい体験に対して心が起こす自然な防御反応の一面です。

そして、この悲しみは母親だけのものではありません。パートナーや父親、きょうだい、祖父母など、家族みんながそれぞれの形で喪失を経験します。とくにパートナーは、「自分が支えなければ」と自身の悲しみを後回しにしたり、感情を表に出しにくかったりして、周囲やまわりの支援から見落とされやすいことが知られています。悲しみ方に「正しい形」はなく、人それぞれであってよいのです。

悲しみの自然な経過と、支援が必要になる場合

悲しみには、決まった順番や「正しい期間」はありません。一直線に軽くなっていくものでもなく、波のように、強まったりやわらいだりを繰り返しながら、少しずつ日常と折り合いがついていくことが多いとされています。記念日や予定日だった日、妊婦さんや赤ちゃんを見かけたときなどに、再び悲しみが強まることもあります。それも自然な経過の一部です。

つらいときに泣く、何も手につかない、食欲や眠りが乱れる、亡くなった子のことばかり考える——こうした反応は、喪失の直後にはよく見られるものです。多くの場合、時間の経過とともに、悲しみを抱えながらも生活を取り戻していけるようになります。

一方で、強い悲しみやとらわれが長く続き、生活に大きな支障が出ている場合には、支援が必要な状態のこともあります。一般的な目安として、亡くなった子への強い思慕や、死を受け入れられない感覚、深い罪悪感、自分の一部が失われたような感覚などが、半年から1年以上にわたって続き、その文化や状況から見ても明らかに重い場合は、専門的な支援を検討したいサインとされています。こうした状態は「遷延性(せんえんせい)グリーフ」などと呼ばれることがあります。

また、悲しみだけでなく、強い不安や抑うつ、出来事の場面が繰り返しよみがえる、眠れない、お酒などに頼ってしまう、といった状態が続くときも、相談の目安です。ただし、これらはあくまで考え方の目安であり、「この期間を過ぎたから異常」と機械的に当てはめる必要はありません。つらさが強いときは、期間にかかわらず相談してかまいません。支援が必要な状態かどうかの判断は、経過や生活への影響を総合して医師が行います。

周囲の声かけで気をつけたいこと

流産・死産を経験した人を、周りの人が支えたいと思うのは自然なことです。けれども、良かれと思ってかけた言葉が、かえって深く傷つけてしまうことがあります。これは支える側にもぜひ知っておいていただきたい点です。

たとえば、「次があるよ」「まだ若いから大丈夫」「早く忘れて前を向こう」「原因はこうだったのでは」といった言葉は、励ましのつもりでも、亡くなった子の存在を軽んじられたように感じさせたり、悲しんではいけないと急かされているように受け取られたりすることがあります。原因をさがす言葉は、ご本人の「自分のせいだったのでは」という自責の気持ちを強めてしまうこともあります。

支えになるのは、無理に元気づけたり解決しようとしたりすることよりも、そばにいて、気持ちに静かに耳を傾けることです。「つらいね」「悲しくて当然だよ」と、悲しんでよいことを伝える。相手が話したいときに話せるよう、ペースを尊重する。そして、亡くなった子を「いなかったこと」にせず、一人の存在として大切に扱う姿勢が、何よりの支えになります。

流産・死産は、社会の中で語られにくく、「人に言いにくいこと」として一人で抱え込まれやすいテーマでもあります。まわりが恥ずかしいことのように扱うと、ご本人はますます孤立し、必要な支援にもつながりにくくなります。「話してよいことなのだ」という空気をつくることが、孤立を防ぐ第一歩になります。

体験を語ること、次の妊娠への気持ち

つらい体験は、無理に忘れようとするより、安心できる相手や場で少しずつ言葉にしていくことが、心の整理を助けることがあります。出産やお産の経過を振り返って語る「バースレビュー(出産体験の振り返り)」のように、助産師などの専門職とともに、自分の体験を話し、受けとめてもらう取り組みもあります。何が起きたのか、どんな気持ちだったのかを語り直すことは、出来事に自分なりの意味を見いだし、悲しみと付き合っていく手がかりになることがあります。

もちろん、語ることを急ぐ必要はありません。話したくないときに無理に話す必要はなく、語れるようになるまでの時間も人それぞれです。大切なのは、語りたくなったときに、安心して受けとめてもらえる相手や場があることです。

また、流産・死産のあとに次の妊娠を考えるとき、喜びと不安、期待と恐れが入りまじった、複雑な気持ちになることは少なくありません。「また同じことが起きるのではないか」という不安から、新しく授かったいのちと向き合うことに、ためらいや罪悪感を覚える方もいます。前の妊娠の経験が、次の妊娠中の気持ちや、お腹の子との関わり方に影響することも知られています。

こうした気持ちは、決しておかしなものではありません。前の子を大切に思っているからこそ生まれる感情でもあります。複雑な気持ちを「持ってはいけない」と打ち消すのではなく、そのまま誰かに話せること、必要なときに支えを得られることが、次の一歩を支えてくれます。

グリーフケアと相談につながる選択肢

つらさを一人で抱え続ける必要はありません。流産・死産を経験した方やご家族を支える「グリーフケア」には、いくつかの選択肢があります。

ひとつは、同じ体験をした人とつながることです。流産・死産を経験した当事者による自助グループや、家族の会といった支援団体が国内にもあり、体験を分かち合ったり、情報を得たりする場になっています。「分かってもらえる」と感じられる相手とつながることは、孤立をやわらげる大きな支えになります。

もうひとつは、産科や助産師、地域の保健センターなどの専門職に相談することです。出産施設や健診の場で、つらい気持ちを言葉にしてみることから始められます。

そして、悲しみが長く続いてつらい、強い不安や抑うつがある、眠れない・日常生活が立ち行かない、消えてしまいたいような気持ちがある——そうしたときには、精神科・心療内科への相談も選択肢です。専門的なグリーフケアの方法や心理的な支援については現在も研究が重ねられている段階ですが、強い不調が続くときに、適切な支援につながることには意味があります。どんなに重い悲しみやトラウマであっても、必要な支えを得ながら、少しずつ回復していくことは十分に可能です。

受診の目安

以下に当てはまるときは、無理をせず、相談を考えてみてください。

  • 強い悲しみやとらわれ、深い罪悪感が長く続き、生活に支障が出ている
  • 流産・死産の場面が繰り返しよみがえる、似た状況を強く避けてしまう
  • 気分の落ち込みや強い不安が続き、眠れない・食べられない状態が続いている
  • お酒や薬などに頼らないとつらさをやり過ごせない
  • 何をしても楽しめず、日常生活や仕事、育児が立ち行かない
  • 自分を強く責めてしまう、自分には価値がないと感じる

特に、消えてしまいたい・自分を傷つけたいといった気持ちがあるときは、期間を問わず、できるだけ早く相談してください。産科や精神科・心療内科、当院に声をかけて大丈夫です。すでに主治医がいる場合は、まず主治医にご相談ください。命に関わる差し迫った状況では、ためらわず救急(119番)に連絡してください。支える立場の方が、ご本人の様子を心配して相談していただくこともできます。

まとめ

流産・死産は、大切な存在を失う正当な喪失体験であり、深い悲しみ(グリーフ)が生じるのは自然なことです。妊娠の週数や周囲の見方によって、悲しみの重さが決まるわけではありません。

悲しみには決まった経過や期間はなく、波を繰り返しながら少しずつ折り合いがついていくことが多い一方で、強い悲しみや不調が半年から1年以上続いて生活に支障が出るときは、支援が必要なこともあります。周囲の人は、無理に励ますより、そばで気持ちを受けとめることが支えになります。

体験を語ること、次の妊娠への複雑な気持ちを抱えること——どれもおかしなことではありません。自助グループや専門職、精神科・心療内科など、頼れる先はいくつもあります。つらさは、あなた一人で抱えるものではありません。どんなに重い悲しみでも、支えを得ながら、自分のペースで歩んでいくことができます。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 周産期メンタルヘルスにおける心理社会的支援(星和書店「精神科治療学」)

よくある質問

流産・死産で深く悲しむのは、おおげさなことなのでしょうか?

いいえ、おおげさなことではありません。流産・死産は、大切な存在を失う正当な喪失体験であり、深い悲しみ(グリーフ)が生じるのは自然なことです。妊娠期間の長短や、周囲がどう感じるかにかかわらず、あなたの悲しみには理由があります。その気持ちを否定せず、大切に扱ってよいものです。

悲しみはどのくらいで落ち着くものですか?長く続くと異常でしょうか?

悲しみの経過には大きな個人差があり、決まった『正しい期間』はありません。波のように強まったりやわらいだりしながら、少しずつ折り合いがついていくことが多いとされています。一方で、強い悲しみやとらわれが半年から1年以上続き、生活に大きな支障が出ている場合は、支援が必要な状態のこともあります。気になるときは相談してください。最終的な判断は医師が行います。

周囲の人として、どんな声かけをすればよいですか?

『次があるよ』『まだ若いから』『早く忘れて』といった、前を向かせようとする言葉は、良かれと思っても深く傷つけることがあります。無理に励ましたり原因を探したりするより、そばにいて気持ちに耳を傾ける、悲しんでよいと伝える、相手のペースを尊重することが支えになります。亡くなった子を一人の存在として大切に扱う姿勢も、大きな意味を持ちます。

パートナーがあまり悲しんでいないように見えます。冷たいのでしょうか?

そうとは限りません。悲しみの表し方には大きな個人差があり、とくにパートナーは「自分が支えなければ」と感じて、自分の悲しみを抑えたり、表に出しにくかったりすることがあります。表面に見えないだけで、内側では深く悲しんでいることも少なくありません。おたがいの感じ方のちがいを責め合わず、それぞれのペースを認め合えるとよいでしょう。

次の妊娠が不安です。こんな気持ちのままで大丈夫でしょうか?

流産・死産のあとに次の妊娠を考えるとき、喜びと不安が入りまじった複雑な気持ちになるのは、とても自然なことです。それは前の子を大切に思う気持ちの表れでもあります。その不安を一人で抱え込まず、パートナーや専門職に話せること、必要なときに支えを得られることが助けになります。気持ちがつらいときは、遠慮なく相談してください。

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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