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はじめに

「最近ずいぶん調子がよくなってきた。もう薬はいらないんじゃないか」。「いつまで飲み続ければいいんだろう。まさか一生このままなのかな」。うつ病の治療で薬を続けていると、こうした気持ちがふと湧いてくることがあります。よくなったからこそ、やめたくなる。ずっと飲み続けることに、なんとなく不安を感じる。この記事にたどり着いた方も、そんな揺れる気持ちを抱えているのではないでしょうか。

まずお伝えしたいのは、これはあなただけが感じている特別なことではない、ということです。薬をやめたくなる気持ちも、続けることへの不安も、うつ病の治療を受けている多くの方が通る、ごく自然な感覚です。決して「治療に後ろ向き」なわけでも、「わがまま」なわけでもありません。

この記事では、「よくなったらやめたい」という気持ちとどう向き合うか、自己判断で急にやめたときに起こりうる中断症状(中断症候群)とはどんなものか、症状が消えてもしばらく薬を続ける理由、そして「やめどき」を医師とどう相談していくかを、患者さん向けにやさしく整理します。なお、薬の調整は医師が一人ひとりの状態を見ながら行うもので、この記事は自己判断のための手引きではありません。

「よくなったらすぐやめたい」は、よくある気持ち

気分が上向いてくると、「もう大丈夫そうだから、薬を減らしたい・やめたい」と思うのは、とても自然なことです。体の調子が戻ってくれば、毎日薬を飲む手間や、薬に頼っている感覚から早く離れたくなる――その気持ちはよくわかります。

実際、診察の場でも「調子がいいので、そろそろやめてもいいですか」というご相談はとてもよくあります。ですから、そう感じること自体をためらう必要はありません。

ただ、ここで知っておいていただきたいのは、「気分がよくなった」ことと「薬をやめてよい時期になった」ことは、必ずしも同じではない、という点です。表面的な症状が落ち着いても、体の中ではまだ回復の途中、ということが少なくありません。だからこそ、やめたい気持ちが出てきたら、その気持ちをそのまま主治医に伝えることが、安全にやめるための第一歩になります。

急に自分の判断でやめると起こる「中断症候群」とは

薬をやめたくなったとき、いちばん避けたいのが「自分の判断で、急にやめてしまう」ことです。

抗うつ薬を急に中止すると、「中断症候群(ちゅうだんしょうこうぐん)」と呼ばれる一時的な不調が出ることがあります。これは、それまで続けていた薬が体から急になくなったことに対する、体の反応です。「薬が体に合っていなかった」とか「うつが一気に悪くなった」というより、急なやめ方そのものが引き金になって起こるもの、と考えるとイメージしやすいかもしれません。

中断症候群は、ゆっくり時間をかけて薬を減らしていくことで、起こりにくくすることができます。だからこそ、減らし方・やめ方を自己流で決めず、医師と相談しながら進めることが大切なのです。

中断症候群で起こりやすいもの

抗うつ薬を急にやめたときに出やすい不調には、たとえば次のようなものがあります。

  • かぜをひいたときのような、だるさや体の重さ(インフルエンザに似た感冒症状)
  • めまいや、ふわふわするようなふらつき
  • 不安感やそわそわした落ち着かなさ
  • 寝つけない、眠りが浅いといった不眠
  • 吐き気・気持ち悪さ、頭痛

こうした症状が出ると、「うつがぶり返したのでは」と不安になってしまうかもしれません。けれども、急な中止に伴う中断症候群は、もともとのうつ病の悪化とは別のものです。見分けがつきにくいこともあるため、自分で判断せず、こうした不調が出たときは早めに主治医に相談してください。

症状が消えても、しばらく薬を続ける理由

「もうつらい症状はないのに、どうしてまだ飲むの?」と感じる方も多いと思います。これは、とても大事なポイントです。

うつ病は、症状がいったんよくなっても、その直後にやめてしまうと、再び調子をくずしやすい(再燃しやすい)ことが知られています。表面の症状が消えても、体の状態が安定するまでには、もう少し時間がかかるのです。

そのため、症状が落ち着いた後も一定期間は薬を続けて、回復した状態をしっかり固めていく、という進め方が一般的です。これは「ぶり返しを防ぐための、念のための期間」だと考えるとわかりやすいかもしれません。骨折が治りかけのときに、痛みが引いてもしばらくは無理をしないのと、少し似ています。

どのくらいの期間続けるかは、これまでの経過や、うつを繰り返してきたかどうかなどによって変わってきます。一律に「何か月」と決まっているわけではなく、一人ひとりの状況に合わせて医師が判断します。

やめどきは人によって違う――医師と相談して段階的に

「やめどき」は、すべての人に共通する決まった時期があるわけではありません。これまでの経過、再発を繰り返しているかどうか、いまの生活の状況など、いろいろな要素をふまえて、その方ごとに見極めていくものです。

そして、やめるときは「ある日いきなりゼロにする」のではなく、医師と相談しながら少しずつ量を減らしていく(漸減=ぜんげん)のが基本です。段階的に減らすことで、先ほどの中断症候群が起こりにくくなり、再燃のリスクにも気を配りながら進めることができます。

ですから、やめたい気持ちが出てきたときにしていただきたいのは、「自分でやめる」ことではなく、「やめたいと医師に伝える」ことです。「最近調子がいいので、薬を減らすことを考えたい」――その一言からで構いません。そこから、どのタイミングで、どんなペースで減らしていくかを、一緒に組み立てていけます。

妊娠・授乳など、事情がある場合こそ相談を

妊娠や授乳を考えている方の中には、「赤ちゃんのために、薬を今すぐやめたほうがいいのでは」と思う方も少なくありません。その気持ちは、とても自然で大切なものです。

ただ、ここでも自己判断で急にやめてしまうことには注意が必要です。妊娠を機に薬を中断したことで、かえって調子をくずしてしまう例があることが知られています。薬を続けることにも、調整することにも、それぞれに利点と注意すべき点があり、どちらが良いかは一人ひとりのご事情によって変わります。

こうした場面では、「やめる・続ける」を一人で抱えて決めてしまわず、必ず主治医に相談してください。利点と注意点をていねいに見比べながら、その方とお腹の赤ちゃん・お子さんの両方にとって、できるだけ良い方法を一緒に探していきます。診断や治療方針の判断は医師が行いますので、不安なまま自分だけで結論を出す必要はありません。

「一生飲み続けるのか」という不安への向き合い方

「この薬を、一生やめられないのではないか」。この不安は、薬を続けている方の多くが、一度は感じるものです。

まず知っておいていただきたいのは、うつ病の薬は、必ずしも一生続けるものと決まっているわけではない、ということです。多くの方は、回復した状態を一定期間しっかり保ったうえで、医師と相談しながら段階的に減らし、やめていく道を歩んでいきます。一方で、再発を繰り返してきた方などでは、長めに続けることがその方を守ることにつながる場合もあります。いずれにしても、それは「やめられない」のではなく、「その方にとって安全なやめどきを、一緒に見つけていく」という話です。

そして何より大切なのは、「飲み続けることが不安だ」という気持ちそのものを、診察で話してよい、ということです。「いつまで続くのか不安」「本当はやめたい」「副作用が気になる」――そうした思いは、わがままでも、治療への抵抗でもありません。むしろ、その不安を共有してもらえるほど、医師はあなたに合った続け方・減らし方を一緒に考えやすくなります。不安をのみ込んだまま自己判断でやめてしまうより、ずっと安全で、納得して進める道につながります。

受診の目安

以下のようなことに当てはまる場合は、一度ご相談ください。

  • 調子がよくなってきて、薬を減らしたい・やめたいと考えている
  • 自己判断で薬をやめたあとに、だるさ・めまい・ふらつき・不安・不眠などの不調が出ている
  • 「一生飲み続けるのではないか」という不安が、頭から離れない
  • 副作用が気になっていて、続けることをためらっている
  • 妊娠・授乳を考えていて、薬をどうすればよいか迷っている

これらは、専門家に相談する目安です。当てはまるからといって、すぐに薬をやめるべき・続けるべきと決まるわけではありません。判断は医師が一人ひとりの状態を見ながら行いますので、気になることがあれば、抱え込まずにご相談ください。

まとめ

「よくなったらやめたい」「ずっと飲むのは不安」――こうした気持ちは、うつ病の治療を受けている多くの方が感じる、ごく自然なものです。けれども、自己判断で急に薬をやめると、中断症候群と呼ばれるかぜに似た不調・めまい・不安などが出ることがあり、症状がぶり返しやすくなることも知られています。

症状が消えてもしばらく薬を続けるのは、回復した状態を固めて再燃を防ぐためです。やめどきは人によって違い、医師と相談しながら段階的に減らしていくのが安全な進め方です。妊娠・授乳などの事情があるときこそ、一人で決めず相談してください。そして、「飲み続けるのが不安」という気持ちそのものを診察で話してよいのだ、ということを、どうか覚えておいてください。不安を共有しながら進めれば、あなたに合ったやめどきは、きっと見つかっていきます。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 気分症群(神庭重信 編/中山書店)

よくある質問

よくなってきたので、もう薬をやめてもいいですか

気分がよくなってくると薬をやめたくなるのは、とても自然な気持ちです。ただし、症状が消えてすぐにやめると、再び調子をくずしやすいことが知られています。やめてよい時期かどうかは人によって違うため、自己判断ではなく、まずは主治医に「やめたい」という気持ちを伝えて、一緒に相談しながら進めていくことをおすすめします。

急に自分の判断で薬をやめると、何が起こりますか

抗うつ薬を急にやめると、「中断症候群」と呼ばれる一時的な不調が出ることがあります。具体的には、かぜに似ただるさ、めまい、ふらつき、不安、不眠、吐き気、頭痛などです。これらは薬を急にやめたことへの体の反応で、ゆっくり減らすことで起こりにくくなります。減らし方は医師と相談して決めてください。

妊娠を考えています。薬は自分でやめたほうがよいですか

自己判断で急にやめるのは避けて、まず主治医にご相談ください。妊娠を機に薬を中断したことで、かえって調子をくずしてしまう場合があることが知られています。薬を続ける場合・調整する場合それぞれに利点と注意点があり、ご事情をふまえて一緒に最適な方法を考えていきます。

中断症候群と、うつのぶり返しは見分けられますか

自分で見分けるのは難しいことがあります。中断症候群は薬を急にやめたことへの体の反応で、ぶり返し(再燃)はうつ病そのものの悪化です。症状が似ていることもあるため、薬を減らしたあとに不調が出たときは、自己判断せず主治医に相談してください。どちらであっても、対処の仕方を一緒に考えられます。

飲み続けるのが不安です。診察で話してもいいですか

もちろんです。「続けるのが不安」「やめたい」「副作用が気になる」といった気持ちは、診察で遠慮なく話していただいて構いません。むしろ、その不安を共有してもらえるほど、あなたに合った続け方・減らし方を一緒に考えやすくなります。一人で抱え込まずに、そのまま伝えてください。

関連する病気の説明

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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