自律神経失調症とは、体のはたらきを自動で調整している「自律神経」のバランスが乱れることで、動悸、めまい、頭痛、だるさなど、さまざまな体の不調が現れている状態を指す言葉です。内科などで検査を受けても「異常なし」と言われるのに、つらい症状が続く——そのようなときによく使われる、広く知られた呼び名です。
実は「自律神経失調症」は、DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)などの国際的な診断基準に載っている正式な病名ではありません。医学的には、体に起きている状態をわかりやすく表すための「状態像(状態を表す呼び名)」として、日本の診療で慣用的に使われています。とはいえ、症状そのものは気のせいではなく、実際に体に起きている本物の不調です。
背景には、ストレスや、うつ病・不安症などの心の不調が隠れていることが少なくありません。背景にあるものを見きわめ、生活の調整や必要に応じた治療を行うことで、症状は少しずつ落ち着いていくことが期待できます。このページでは、自律神経失調症の症状・原因・診断の考え方・治療について、全体像を整理してお伝えします。
こんなサイン・症状はありませんか
次のような症状に心あたりはないでしょうか。
- 動悸や息苦しさが繰り返し起こる
- めまい、ふらつき、立ちくらみがある
- 頭痛や、頭が重い感じが続いている
- 体がだるく、休んでも疲れがとれない
- 胃の不快感、吐き気、下痢や便秘などお腹の不調が続く
- 手足の冷え、ほてり、汗をかきやすいなどの症状がある
- 夜眠れない、朝起きられない
- 内科で検査を受けても「異常なし」と言われた
- ストレスがかかると症状が強くなる気がする
これらの項目にあてはまるものがあっても、直ちに自律神経失調症と診断されるわけではありません。同じような症状は、甲状腺の病気や貧血、不整脈など、体の病気でも起こります。自己判断で決めつけず、まずは検査や診察で確かめることが大切です。
症状の詳しい説明
体のさまざまな場所に症状が現れる
自律神経は、心臓、血管、胃腸、汗腺など、全身のほとんどの臓器に張りめぐらされています。そのバランスが乱れると、体のいろいろな場所に症状が現れます。どこにどの程度の症状が出るかは、人によって大きく異なります。
- 循環器系: 動悸、脈が速い、胸の圧迫感、血圧の変動
- 呼吸器系: 息苦しさ、息が浅い感じ、のどのつまり感
- 消化器系: 胃もたれ、吐き気、腹痛、下痢や便秘
- 神経系: 頭痛、頭重感、めまい、ふらつき、手足のしびれ感
- 全身: 倦怠感(だるさ)、微熱っぽさ、ほてり、冷え、多汗
- 睡眠: 寝つけない、途中で目が覚める、朝起きられない
症状が変動しやすいのが特徴
自律神経失調症でみられる症状には、「変動しやすい」という特徴があります。日によって、あるいは時間帯によって症状の強さが変わったり、頭痛が落ち着いたと思ったら今度はめまいが気になる、というように症状の場所が移り変わったりすることがあります。ストレスの多い時期に悪化し、休みの日や環境が変わると軽くなる、という波もよくみられます。
心の症状を伴うことも少なくない
体の症状に加えて、不安、イライラ、気分の落ち込み、集中力の低下といった心の症状を伴うこともあります。また、「この症状は重い病気のサインではないか」という心配が続くことで緊張が高まり、かえって症状が強まる、という悪循環が生じることもあります。
原因・メカニズム
自律神経とは
自律神経は、自分の意思とは関係なく、心臓の鼓動、呼吸、消化、体温調節などを24時間調整し続けている神経です。「自動運転」のような仕組みだと考えるとわかりやすいかもしれません。
自律神経には、体を活動モードにするアクセル役の「交感神経」と、休息モードにするブレーキ役の「副交感神経」があります。この2つがバランスよく切り替わることで、体は安定した状態を保っています。
バランスが乱れる仕組み
強いストレスや緊張が続くと、体は「危険に備えるモード」になり、交感神経が優位な状態が長く続きます。この状態が慢性化すると、心臓や胃腸などの調整がうまくいかなくなり、動悸、胃の不調、不眠といったさまざまな症状が現れてくる——と考えられています。ただし、そのメカニズムの詳細はまだ十分に解明されておらず、上記はあくまで現時点での考え方のひとつです。
バランスを乱すきっかけとしては、次のようなものが挙げられます。
- 仕事や家庭などの精神的ストレス
- 過労、睡眠不足、不規則な生活リズム
- 引っ越しや異動などの環境の変化
- 季節の変わり目や気温差
- ホルモンバランスの変動(月経周期、更年期など)
不安が動悸や息苦しさなど「体の症状」として現れる仕組みについては、コラム「動悸・息苦しさ・手の震え ― 不安が『体の症状』に出るのはなぜ?」で詳しく解説しています。
背景に心の不調が隠れていることが多い
自律神経失調症と呼ばれる状態の背景には、うつ病、適応障害、不安症といった心の不調が隠れていることが少なくありません。「心の不調 → 緊張(交感神経の高まり) → 自律神経の乱れ → 体の症状」という流れで症状が現れてくるためです。
そのため精神科・心療内科では、体の症状だけを見るのではなく、その背景に治療できる心の不調がないかをあわせて診ていきます。背景の不調に対応することが、結果として体の症状を楽にする近道になることが多いのです。
診断と、似た状態との違い
正式な診断名ではなく「状態像」
前述のとおり、「自律神経失調症」はDSM-5などの国際的な診断基準には登場しない呼び名です。診断名というより、「自律神経の乱れによると思われる多彩な体の不調がある状態」を指す説明的な言葉として使われています。
だからこそ大切なのは、「自律神経失調症」という言葉で終わりにせず、その背景に何があるのか——体の病気なのか、心の不調なのか、生活やストレスの問題なのか——を見きわめることです。
まず体の病気を除外する
動悸、めまい、倦怠感などの症状は、体の病気でも起こります。代表的なものとして、甲状腺機能の異常、貧血、不整脈、低血圧、低血糖、更年期障害などが挙げられます。そのため、まだ内科的な検査を受けていない場合は、先に内科で体の病気がないかを確認しておくことが大切です。
検査で「異常なし」と言われたのに症状が続くときの考え方については、コラム「動悸・息苦しさ・めまいで異常なしと言われた時の原因」で詳しく解説しています。
似た状態・関連する病気との違い
自律神経失調症とよく似た症状が現れる、あるいは背景として見つかることが多い病気には、次のようなものがあります。
- パニック障害: 突然の強い動悸・息苦しさなどの「発作」が繰り返し起こり、「また発作が起きるのでは」という予期不安を伴います。発作がはっきりしている点が特徴です。
- 全般性不安障害: さまざまなことへの心配が慢性的に続き、肩こり・緊張・疲れやすさなど体の症状を伴います。
- うつ病: 気分の落ち込みや興味・楽しみの喪失が中心ですが、初期には頭痛やだるさなど体の症状のほうが目立つこともあります。
- 適応障害: 特定のストレス(職場の環境変化など)がきっかけとなって、心身の不調が現れます。
- 不眠症: 眠れない状態が続くと自律神経のバランスも乱れやすくなり、互いに悪化させ合うことがあります。
このほか、体の症状へのとらわれや健康への強い不安が中心となる状態(身体症状症と呼ばれます)が背景にあることもあります。いずれも治療のアプローチが異なるため、診察で丁寧に区別していきます。
治療
「自律神経失調症」そのものに直接効く特効薬はありません。治療は、背景にある要因——心の不調、ストレス、生活リズムの乱れ——に合わせて組み立てていきます。当院では、薬物療法、精神療法的なかかわり、生活の調整を、その方の状態に応じて組み合わせています。
薬物療法
背景にうつ病や不安症などの心の不調がある場合は、抗うつ薬や抗不安薬による治療が症状の改善に役立つことがあります。効果の現れ方には個人差があり、抗うつ薬では効果を実感するまでに2〜4週間程度かかることが多いため、焦らずに続けることが大切です。
また、体質や症状のパターンに合わせて漢方薬を使うこともあります。眠れない状態が続いている場合には、睡眠を整える薬を一時的に併用することもあります。
薬には合う・合わないがあります。効果や副作用について気になることがあれば、自己判断で中断せず、診察のときにご相談ください。
精神療法(カウンセリング・心理的アプローチ)
症状の背景にあるストレスを整理し、対処の仕方を一緒に考えていくことも、大切な治療の柱です。
- 心理教育: 症状が起こる仕組みを理解し、「危険な病気ではない」とわかるだけでも、不安と症状の悪循環がゆるみやすくなります。
- ストレスへの対処: ストレスの原因を整理し、環境の調整や考え方のバランスの取り方を検討します。
- リラクセーション法: ゆっくり長く息を吐く呼吸法や、自律訓練法(自己暗示によって心身の緊張をゆるめる訓練法)などが用いられることがあります。
生活・セルフケア
自律神経のバランスは生活リズムの影響を受けやすいため、日常生活の調整は治療の土台になります。
- 起床・就寝の時刻をできるだけ一定にする
- 朝に光を浴び、日中に軽い運動(散歩など)を取り入れる
- カフェインやアルコールをとりすぎない
- 入浴でゆっくり体を温める
- 就寝前はスマートフォンから少し離れ、ゆったり過ごす時間をつくる
眠りを整える具体的な工夫については、コラム「睡眠衛生 ―眠れない夜をこじらせないための工夫」も参考になさってください。
セルフケアは「すべて完璧にやる」必要はありません。できそうなことから少しずつ、無理のない範囲で取り入れ、うまくいかないときは主治医と相談しながら調整していきましょう。
経過と再発予防
自律神経失調症の症状は、すぐには消えなくても、背景にある要因への対応と生活の調整を続けるうちに、少しずつ軽くなっていくことが多いです。経過には波があり、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら回復していくのが一般的ですので、一時的な悪化に落ち込みすぎないことも大切です。
再発予防のポイントは、次のとおりです。
- 自分の「ストレスサイン」(眠りが浅くなる、胃の調子が悪くなる、など)を知り、早めに気づけるようにする
- 症状が落ち着いても、生活リズムを大きく崩さない
- 忙しい時期こそ、意識的に休息の時間を確保する
- 通院や薬を自己判断でやめず、終え方は主治医と相談して決める
仕事・生活への影響と使える制度
だるさやめまいなどの症状が続くと、仕事のパフォーマンスが落ちたり、通勤や家事がつらくなったりすることがあります。「怠けているわけではないのに、うまく動けない」というつらさは、周囲に理解されにくいものです。
症状が強く、背景にうつ病や適応障害などの診断がつく場合には、治療のためにしっかり休む選択肢もあります。休職の流れや過ごし方は「休職について」で、休職中の収入を支える制度は「傷病手当金について」で解説しています。また、通院治療が続く場合には、医療費の自己負担を軽くする「自立支援医療制度」を利用できることがあります。制度の利用や診断書については、診察のときにお気軽にご相談ください。
受診の目安と当院での診かた
次のような状態が続くときは、一度ご相談ください。
- 内科の検査で「異常なし」と言われたのに、体の不調が数週間以上続いている
- ストレスがかかると症状がはっきり悪化する
- 眠れない、気分の落ち込み、強い不安を伴っている
- 症状のせいで仕事や家事、外出に支障が出ている
当院では、体の症状の経過と、その背景にあるストレスや生活の状況を丁寧にお聞きし、うつ病や不安症など治療できる心の不調が隠れていないかをあわせて評価します。体の病気の確認がまだ必要と考えられる場合には、内科的な検査を先に受けていただくようご案内することもあります。受診の流れや持ち物については「初めての方へ」をご覧ください。
なお、激しい胸の痛みや、意識が遠のくなど、命に関わる可能性のある症状が急に現れたときは、ためらわずに救急(119)を利用してください。すでに通院中の方は、症状が急に悪化した場合、次の予約を待たずに主治医へご相談ください。
参考文献
よくある質問
自律神経失調症は何科を受診すればよいですか?
動悸やめまいなどの体の症状が強い場合は、まず内科で体の病気がないかを確認すると安心です。検査で異常が見つからないのに症状が続くときや、ストレス・不眠・気分の落ち込みを伴うときは、精神科・心療内科でご相談ください。どちらに行くべきか迷う段階でご相談いただいても大丈夫です。
自律神経失調症は薬で治りますか?
自律神経失調症そのものに直接効く特効薬はありません。ただし、背景にうつ病や不安症などがある場合は抗うつ薬や抗不安薬が役立つことがあり、症状や体質に合わせて漢方薬を使うこともあります。薬だけでなく、生活の調整やストレスへの対処を組み合わせることが大切です。
検査で「異常なし」と言われたのに症状が続きます。受診してもよいですか?
はい、受診していただいて大丈夫です。検査で体の病気が見つからなくても、症状そのものは気のせいではなく、実際に体に起きている不調です。自律神経の乱れや背景にある心の不調が関係していることがあるため、症状が続く場合は精神科・心療内科にご相談ください。
自律神経失調症はどのくらいで良くなりますか?
経過には個人差が大きく、一概には言えません。背景にあるストレスや心の不調への対応、生活リズムの調整を続けるうちに、数週間から数か月かけて少しずつ症状が軽くなっていく方が多いです。波があっても焦らず、主治医と相談しながら続けていくことが大切です。