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「リスペリドン」「オランザピン」「アリピプラゾール」と処方箋に並ぶ名前を調べると、「第一世代」「SDA」「MARTA」など、さらに知らない言葉が出てきます。新しい薬ほどよく効くのでしょうか。実は、抗精神病薬を比べた研究では、効き目の差よりも副作用の違いのほうが目立ちます。薬の一覧を強さの順位表ではなく、自分に合う治療を考える地図として見てみましょう。

薬の種類が多いのは、効き目に順位があるから?

統合失調症の薬物治療で中心になるのは抗精神病薬です。幻聴や妄想などを和らげ、状態が落ち着いてからは再発を防ぐためにも使われます。やる気が出ない、感情が表れにくいといった症状の改善も期待されます。症状が強く不安定なときは、抗精神病薬による治療が強く勧められています。

薬の名前がたくさんあると、家電のように「新型=高性能」と考えたくなるかもしれません。しかし、抗精神病薬の分類は性能順ではありません。

まず「第一世代」と「第二世代」という大きな分け方があります。さらに第二世代には、脳内の神経伝達物質を受け取る「受容体」にどう働くかによって、SDA、MARTA、DSSなどの呼び名があります。つまり、世代と作用の仕組みは別々の分け方なのです。

2019年には、32種類の飲み薬を比べた研究が報告されました。効果に差がないわけではありませんが、その差の多くは「効く薬と効かない薬」にくっきり分かれるものではなく、なだらかな違いでした。一方、体重増加、眠気、身体の動かしにくさ、ホルモンへの影響などは、薬による違いが比較的はっきりしていました。

薬を選ぶ場面では、「幻聴がどれほど楽になったか」と「朝の眠気で生活に困っていないか」を同じテーブルに載せて考えたいところです。ただし、治療抵抗性統合失調症に使うクロザピンはほかの薬と位置づけが異なるので、後半で扱います。

第一世代の薬は、もう使われていないのでしょうか

第一世代抗精神病薬は、主にドパミンのD2受容体の働きを抑えます。ドパミンは脳のさまざまな場所で働くため、この作用は幻聴や妄想を和らげる一方で、身体の動きやホルモン分泌に影響することもあります。

系統 代表的な薬(一般名) 知っておきたい特徴
フェノチアジン系 クロルプロマジン、レボメプロマジン、フルフェナジン 鎮静が目立つ薬も、作用の強い薬もあります
ブチロフェノン系 ハロペリドール、ブロムペリドール D2受容体への作用が強く、運動の副作用に注意します
ベンザミド系 スルピリド 眠気は比較的少ない一方、プロラクチンが上がりやすい薬です

第一世代には「高力価」「低力価」という分け方もありますが、これは優秀さの点数ではありません。ハロペリドールのような高力価薬では、筋肉のこわばりや手の震え、そわそわして座っていられない状態など、運動に関わる副作用が問題になりやすくなります。

一方、クロルプロマジンやレボメプロマジンのように鎮静作用が目立つ薬では、眠気に加えて、口の渇きや便秘、立ちくらみなども薬を選ぶときの材料になります。同じフェノチアジン系でもフルフェナジンは力価が高く、系統名だけで副作用をひとまとめにはできません。

スルピリドはまた少し違います。眠気や強い鎮静は比較的少ない反面、プロラクチンというホルモンが増えやすく、乳汁分泌や月経の変化につながることがあります。「眠くならないから副作用も少ない」とは言い切れない例です。

現在は第二世代が使われることが多くなりましたが、第一世代で安定している人や、代謝に関する副作用が問題になる人では、第一世代が選ばれることもあります。古いという理由だけで、今うまくいっている治療の価値が下がるわけではありません。

第二世代は「どこに、どう働くか」で名前が変わります

第二世代は、受容体への働き方でさらに細かく呼び分けられます。英語の略称を暗記するより、ドパミンを抑えるのか、複数の受容体に働くのか、完全には遮断せず調整するのかに注目すると整理しやすくなります。

分類 代表的な薬(一般名) 作用のイメージ
SDA リスペリドン、パリペリドン、ペロスピロン ドパミンとセロトニンの受容体を遮断します
DSA ブロナンセリン セロトニンよりドパミンD2・D3受容体への結合が強いタイプです
MARTA オランザピン、クエチアピン、アセナピン ドパミン以外も含む多くの受容体に働きます
DSS アリピプラゾール ドパミン受容体を部分的に刺激して働きを調整します
SDAM ブレクスピプラゾール ドパミンとセロトニンの働きを複数の方法で調整します

SDAは、ドパミンのD2受容体だけでなく、セロトニンの5-HT2A受容体も遮断します。この組み合わせは、第一世代で問題になりやすかった運動系の副作用を抑える仕組みに関係しています。ただし、SDAでも運動の副作用は起こりえます。リスペリドンでは、量などによって身体のそわそわ感が出たり、プロラクチンが上昇したりすることがあります。

MARTAは、作用する受容体の種類が多い薬です。オランザピンやクエチアピンでは、身体の動きに関する副作用が比較的少ない一方、眠気、体重増加、血糖への影響が薬選びのポイントになります。同じ分類でも、困りやすいことまで同じとは限りません。

DSSのアリピプラゾールは、ドパミンの受容体を完全に塞ぐのではなく、部分的に刺激します。ドパミンの働きが強いときには抑える方向に、弱いときには補う方向に調整するという考え方です。眠気や体重増加は比較的少ない一方、不眠やアカシジアという落ち着かなさがみられることがあります。ブレクスピプラゾール(SDAM)も、ドパミンとセロトニンの受容体への部分的な刺激などを組み合わせる呼び名です。

SDA、MARTA、DSSという名前は、どれが一番効くかを示す順位ではありません。作用の仕組みが違うと、日常生活で感じる副作用も変わってきます。

期待する効果は同じでも、困る副作用は違います

「薬が合わない」と感じても、何が起きているかを説明するのは案外難しいものです。朝、目覚ましが鳴っても起きられなかったり、座っていると脚がむずむずして何度も立ち上がりたくなったりすることがあります。立ち上がった瞬間にふらつく人もいます。こうした生活の場面が、薬の働き方を考える手がかりになります。

関係する受容体への作用 生活のなかで気づく変化
ドパミンD2受容体の遮断 手の震え、身体のこわばり、動きにくさ、落ち着かない感じ、乳汁分泌や月経の変化
ヒスタミンH1受容体の遮断 眠気、体重増加
ムスカリン受容体の遮断 口の渇き、便秘、排尿しにくさ
アドレナリンα1受容体の遮断 立ちくらみ、ふらつき

たとえば「落ち着かない」という言葉の裏には、病気による不安だけでなく、アカシジアという薬の副作用が隠れていることがあります。脚がむずむずする、足踏みをしてしまう、じっと座っていられないといった身体の感覚です。強い焦りに加えて自分や他人を傷つけたい気持ちが生じる場合には、緊急に主治医へ連絡する必要があります。

オランザピンやクエチアピンでは、身体の動きへの影響だけを見ればよいわけではありません。眠気に加えて、体重や血糖の変化にも目を向けます。体重が増えてきたときは、定期的な体重測定や食事・運動の見直しが判断材料になります。体重を落とす目的で抗精神病薬を減らすことは勧められておらず、別の薬に変えると症状が悪化する場合もあります。

大切なのは「副作用があるから悪い薬」と決めつけることではなく、症状が楽になった部分と、生活で困っている部分を一緒に見ることです。

錠剤だけではありません。飲み方にも選択肢があります

薬の名前は同じでも、使い方が変わると生活の中での扱いやすさも違ってきます。錠剤を飲み込むのが負担な人もいれば、毎日決まった時間に飲むのが難しい人もいます。抗精神病薬には飲み薬だけでもいくつかの形があり、皮膚に貼る薬もあります。

剤形 代表的な薬 使い方の特徴
普通錠 多くの抗精神病薬 水などで飲む一般的な錠剤です
OD錠(口腔内崩壊錠) オランザピン、アリピプラゾール 口の中で崩れるように作られています
徐放錠 パリペリドン 薬の成分が時間をかけて放出されます
内用液 リスペリドン、アリピプラゾール 液体ですが、混ぜる飲み物には決まりがあります
舌下錠 アセナピン 舌の下に置き、粘膜から吸収させます
テープ剤 ブロナンセリン 皮膚に貼り、24時間ごとに交換します

似ているようで間違えやすいのが、OD錠と舌下錠です。OD錠は口の中で崩れる錠剤ですが、舌下錠は舌の下から吸収させることが使い方の中心です。アセナピンをそのまま飲み込むと吸収が大きく減るため、舌の下で使い、その後10分間は飲食を避けます。名前が似ていても、同じ要領で使う薬ではありません。

液体なら何に混ぜてもよいのかというと、そこにも違いがあります。リスペリドン内用液はそのまま飲むほか、水やジュースに混ぜてすぐに飲むこともできますが、紅茶・烏龍茶・日本茶などの茶葉から作った飲み物やコーラ、汁物には混ぜません。アリピプラゾールの液剤でも、飲み物によっては薬の含量が減ってしまうため、混ぜ方を確かめる必要があります。

もう一つ意外なのは、ブロナンセリンに錠剤とテープ剤があることです。錠剤は食事によって吸収が大きく変わるため、食後に飲みます。一方、ロナセンテープは胸・お腹・背中に貼り、毎日ほぼ同じ時刻に交換します。皮膚への刺激を避けるために貼る場所を変え、古いテープを剥がしてから新しいものを貼ります。切って枚数や量を調整する使い方はしません。

パリペリドン徐放錠では、薬を少しずつ放出するための溶けない部分が便に出ることもあります。見慣れないものが出てきても、製剤の仕組みから説明できる現象です。薬の形には、それぞれそうなっている理由があります。

毎日飲む代わりに、注射で治療を続ける方法もあります

注射薬と聞くと、飲み薬より「強い治療」を想像するかもしれません。しかし、持効性注射剤(LAI)は、薬の作用が長く続くように工夫された剤形です。たとえばアリピプラゾールには持効性の筋肉注射剤があり、第一世代のフルフェナジンにもデポ剤と呼ばれるものがあります。強い興奮に対して使うオランザピンの短時間作用型筋肉注射とは、目的も使い方も異なります。

LAIの利点が目立つのは、毎日の服薬を続けることが難しくなりやすい場面です。飲み忘れや中断が重なると、せっかく落ち着いた状態を保ちにくくなります。2022年のガイドラインによると、服薬状況が保たれていると考えられる条件の比較試験では、LAIと飲み薬に明確な違いは認められませんでした。一方、服薬が不安定になりやすい実際の診療に近い研究では、LAIのほうが再入院や治療中断の少ない結果でした。

これは「注射のほうが誰にでもよく効く」という話ではありません。毎日の服薬が負担になっていることも、本人が注射による治療を希望していることも、選ぶ理由になります。飲み忘れを責めるのではなく、続けやすい形を探すための方法です。

詳しい利点や負担については、「月1回の注射で治療する選択肢――統合失調症の持効性注射剤(LAI)とは」で紹介しています。

飲み方の選択肢が増えても、薬の種類そのものを増やすことが最善とは限りません。

薬の種類が多くても、何種類も飲むほうがよいとは限りません

薬の一覧は長くても、処方箋にたくさんの名前が並ぶことが治療の充実とは限りません。統合失調症の薬物療法では、抗精神病薬を原則1種類、適切な量で使うことが勧められています。

「1種類で十分に良くならないなら、もう1種類足したほうがよいのでは」と考えるのは自然なことです。しかし、研究をまとめたガイドでは、抗精神病薬を複数使うことで症状の改善や治療の続けやすさが明らかに良くなるとは示されていません。抗精神病薬以外の薬を追加する場合にも、同じような検討が必要です。

効果が足りないときは、まず処方どおりに服用できているかを確認します。飲めない日があるなら、責めたり隠したりする話ではなく、その理由を共有するところから始められます。服用できていても効果が不十分なら量を見直し、それでも改善しなければ別の抗精神病薬への変更を考えます。

複数を服用中でも、数だけを見て急に減らす話にはなりません。「この薬は何を改善するために使っているのか」を確かめ、効果を保つことと負担を軽くすることを一緒に考えます。

詳しくは「薬を1種類にまとめる」単剤化がすすめられる理由でも解説しています。

2種類の薬でうまくいかないとき、別の選択肢があります

「薬を足すより、1種類ずつ確かめる」と聞いても、いくつも試して改善しなかった人は、次に何が残されているのか気になるでしょう。ここで登場するのがクロザピン(商品名:クロザリル)です。

クロザピンは、初めから誰にでも使う薬ではありません。異なる抗精神病薬を2種類以上、十分な量と期間で使っても改善が乏しい場合や、副作用が強くて十分に使えない場合に、治療抵抗性統合失調症かどうかが検討されます。ガイドでは、各薬を4週間以上使用したかどうかも確認します。単に「2種類の薬を試した」という回数だけでは判断できません。

ここは、冒頭で紹介した「多くの抗精神病薬では効き目の差より副作用の差が目立つ」という話の重要な例外です。治療抵抗性統合失調症を対象とした研究では、クロザピンはほかの抗精神病薬より精神症状を改善する結果が示され、ガイドラインでも強く推奨されています。また、手の震えや身体の動かしにくさなどの副作用は比較的少ないとされています。

その一方で、安全に使うための条件は厳しくなります。好中球減少・無顆粒球症といった血液の障害、心筋炎、けいれん、血糖の重大な異常などに注意が必要です。

扱うのはCPMSという安全管理制度に登録した医療機関・薬局で、患者さんの登録や定期的な血液検査も欠かせません。原則として開始後18週間は入院で管理することが定められています。

クロザピンは、ほかの薬が効きにくい場合の大切な選択肢であると同時に、治療の利益と安全管理の負担を丁寧に比べて使う薬です。「薬を変えても良くならない」という経験があるときほど、これまでの量・期間・副作用を整理することに意味があります。

薬の名前を覚えるより、診察で伝えてほしいこと

薬の分類を全部覚えなくても、治療について話すことはできます。たとえば「幻聴は少し気にならなくなりました。でも朝、起きるのがつらいです」という言葉には、効果と副作用の両方が入っています。

診察では、次の3点を伝えると役立ちます。

  1. 楽になったこと――幻聴や妄想、日々の過ごしやすさに変化はありましたか。
  2. 困っていること――眠気、足のそわそわ、ふらつき、体重や月経の変化などは、いつ起きますか。
  3. 続けにくい理由――錠剤を飲む負担、服薬を忘れる場面、別の剤形への希望はありますか。

「夕方になると脚が落ち着かない」「服薬を忘れるのは出勤日の朝です」など、時間帯や場面を書いたメモも役立ちます。効果があってもつらいときは、自己判断で中止せず、診察で調整を話し合えます。

薬の種類を知ることは、自分に合う治療を選ぶための言葉を増やすことです。

よくある質問

Q. 第一世代と第二世代では、どちらの薬がよく効きますか?

薬の効果には違いがありますが、第一世代か第二世代かだけで順位は決まりません。比較研究では副作用の違いのほうが目立ち、第一世代の薬で安定している人もいます。今の症状と副作用の両方から考えることが大切です。

Q. OD錠と舌下錠は同じものですか?

OD錠は口の中で崩れる錠剤で、舌下錠は舌の下から成分を吸収させる薬です。アセナピンの舌下錠は飲み込むと吸収が減るため、舌の下で使い、その後10分間は飲食を避けます。見た目が似ていても使い方は異なります。

Q. 飲み薬を忘れがちな場合、注射薬に変更できますか?

毎日の服薬が難しい場合には、長く作用する持効性注射剤(LAI)が選択肢になります。本人が注射を希望することも、選択を考える大切な理由です。ただし、服薬が安定している人にも注射のほうが常に優れているという結果ではありません。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • 『精神科薬物療法マニュアル』日本病院薬剤師会監修・同精神科専門薬剤師部門試験委員会編、南山堂、2018年
  • 『患者と支援者のための統合失調症薬物治療ガイド2022』日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会、2022年
  • 『統合失調症薬物治療ガイドライン2022』同学会、2022年
  • 『ロナセンテープ患者向医薬品ガイド』住友ファーマ、2026年
  • 『リスペリドン内用液患者向医薬品ガイド』PMDA掲載資料
  • 『ジプレキサ医薬品インタビューフォーム』製造販売元資料
  • 『クロザリル電子添文』製造販売元資料
  • Huhn M ほか「Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics」『The Lancet』2019年

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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