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はじめに

「精神科に行くなんて、自分くらいなものじゃないだろうか」「心療内科に通っていることを知られたら、変に思われないだろうか」——受診を迷っている方から、こうした声をよく伺います。こころの不調は目に見えにくいぶん、「悩んでいるのは自分だけ」と感じやすいものです。

けれど、実際のデータを見ると、印象は大きく変わるかもしれません。厚生労働省は「患者調査」という大規模な統計調査を定期的に行っており、全国の病院・診療所を利用する患者さんの人数や内訳を推計しています。この記事では、令和5年(2023年)の患者調査の結果をもとに、精神疾患で医療機関にかかっている人がどれくらいいるのかを、できるだけかみ砕いてご紹介します。

数字はあくまで全体の傾向を示すものであり、ご自身の状態をどう評価するか、治療が必要かどうかの判断は医師が行います。ここでは「受診は特別なことではない」と感じていただくための材料として、統計を眺めてみましょう。

患者調査とはどんな調査か

患者調査は、厚生労働省が全国の病院や診療所を対象に行う統計調査です。医療施設を利用する患者さんの属性や、入院・来院時の状況、病名などの実態を明らかにし、地域別の患者数を推計することを目的としています。令和5年調査では、全国から無作為に選ばれた数千の医療施設を対象に、特定の調査日に受診した患者さんのデータが集計されました。

つまりこの調査からは、「ある一日に、日本中でどれくらいの人が、どんな病気で医療機関にかかっているか」の全体像がわかります。令和5年10月の調査日に全国の医療施設で受療した患者さんは、外来が約727.5万人、入院が約117.5万人と推計されています。日本ではたった一日で、これだけ多くの人が医療を利用しているのです。

精神疾患で医療にかかる人は約490万人

継続的に治療を受けている人の推計

患者調査では、調査日の受診者数だけでなく、「継続的に医療を受けていると考えられる人」の総数(総患者数)も推計しています。令和5年調査によると、うつ病や統合失調症、不安症などを含む「精神及び行動の障害」の総患者数は約489.6万人でした。内訳は男性が約214.9万人、女性が約274.7万人です。

約490万人というのは、日本の人口のおよそ25人に1人にあたる規模です。学校の1クラス、職場のひとつの部署を思い浮かべると、その中に1人か2人は、こころの不調で医療機関に通っている人がいてもおかしくない計算になります。「精神科に通うこと」は、統計の上では決してめずらしいことではないのです。

調査日の外来では約24.5万人が受診

調査日という「ある一日」に注目すると、「精神及び行動の障害」で外来を受診した患者さんは約24.5万人と推計されています。その内訳をみると、統合失調症などが約5.0万人、うつ病や躁うつ病を含む「気分[感情]障害」が約7.7万人などとなっています。

気分[感情]障害の外来受療率(人口10万人あたりの受診者数)は、男性50に対して女性73と、女性のほうがやや高くなっています。気分の落ち込みで受診することは、性別を問わず、ごく一般的な受診理由のひとつだといえます。

入院医療からみえる、日本の精神科医療のもうひとつの顔

入院では「精神及び行動の障害」が最も多い

調査日の入院患者さんを病気の分類別にみると、「精神及び行動の障害」は約21.3万人で、循環器系の疾患(心臓や血管の病気)などを上回り、すべての分類の中で最も多くなっています。入院の内訳では統合失調症などが約12.6万人と大きな割合を占めています。

平均在院日数は他の病気より長い

また、退院した患者さんがどれくらいの期間入院していたかをみると、「精神及び行動の障害」の平均在院日数は290.4日で、すべての病気の分類の中で最も長くなっています(全体の平均は28.4日)。精神疾患の治療には、じっくり時間をかけた療養が必要になる場合があることが、この数字からうかがえます。

ただし、これは「精神科にかかると長期入院になる」という意味ではありません。外来で治療を受けている方のほうがずっと多く、多くの方は日常生活を送りながら通院で治療を続けています。早めに相談し、症状が軽いうちから治療を始めることは、生活への影響を小さくするうえでも大切だと考えられます。

数字が教えてくれること——「自分だけ」ではない

統計の数字は、一人ひとりの苦しさをそのまま表すものではありません。それでも、約490万人という規模を知ることには意味があると私たちは考えています。

こころの不調は、体の病気に比べて「気の持ちよう」「甘え」といった誤解を受けやすく、そのために受診をためらってしまう方が少なくありません。しかし実際には、これほど多くの人が精神科・心療内科の医療を利用しながら、仕事や家庭、学業といったそれぞれの生活を続けています。あなたが今つらさを抱えているとしたら、それは「特別に弱い」からではなく、誰にでも起こりうることが、たまたま今あなたに起きているだけなのです。

受診の目安

統計はあくまで全体の話ですが、ご自身のこととして、次のような状態が続くときは受診をご検討ください。

  • 気分の落ち込みや不安、イライラが2週間以上続いている
  • 眠れない、食欲がないなど、体の調子の変化が続いている
  • 仕事や家事、学業に集中できず、以前のようにこなせなくなっている
  • 人と会うのがおっくうで、楽しめていたことが楽しめなくなっている
  • 「病院に行くほどではないかも」と迷いながら、つらさが続いている

特に、消えてしまいたい・自分を傷つけたいといった気持ちがあるときは、期間を問わず、できるだけ早くご相談ください。すでに通院中の方は主治医に、緊急のときは救急(119)に連絡してください。受診が必要かどうか、どんな治療が合うかの判断は医師が行いますので、迷った段階で相談していただいて構いません。

まとめ

厚生労働省の令和5年患者調査からは、精神疾患で継続的に医療を受けていると推計される人が約489.6万人にのぼること、ある一日だけでも約24.5万人が精神科などの外来を受診していること、入院では「精神及び行動の障害」がすべての病気の分類で最も多いことがわかりました。

精神科・心療内科への受診は、統計が示すとおり、多くの人が利用しているごく身近な医療です。「自分だけかもしれない」という不安が受診をためらわせているなら、この数字を思い出してみてください。つらさを一人で抱え込まず、まずは安心できる場で話してみることから始めていきましょう。


参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 令和5年(2023)患者調査の概況(厚生労働省)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

精神科や心療内科に通っている人は、実際どれくらいいるのですか?

厚生労働省の令和5年患者調査では、「精神及び行動の障害」で継続的に医療を受けていると推計される総患者数は約489.6万人とされています。日本の人口のおよそ25人に1人にあたる規模で、精神科への通院は決してめずらしいことではありません。

精神科に通うのは、よほど重い症状の人だけではないのですか?

そうではありません。令和5年患者調査では、調査日に「精神及び行動の障害」で外来を受診した人は入院患者よりも多く推計されています。多くの方が、日常生活を送りながら外来に通って治療を続けています。受診が必要かどうかの判断は、症状の重さを自分で決めつけず、医師に相談していただくのが安心です。

うつ病などの気分の不調で通院している人は多いのですか?

令和5年患者調査では、うつ病や躁うつ病を含む「気分[感情]障害」で調査日に外来受診した人は約7.7万人と推計され、精神科外来の中でも大きな割合を占めています。気分の落ち込みで受診することは、ごく一般的な受診理由のひとつです。

統計で人数を知ることに、どんな意味がありますか?

「自分だけがおかしいのではないか」という不安は、受診をためらう大きな理由になります。同じような不調で多くの人が医療を利用していると知ることは、受診への心理的なハードルを下げる助けになります。ただし、統計はあくまで全体の傾向であり、ご自身の状態の評価や診断は医師が行います。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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