はじめに
「最近、娘の食事の量が急に減った」「お弁当を残してくるようになった」「体重をやたらと気にしている」——思春期のお子さんの食べ方の変化に、胸がざわつくような不安を感じている親御さんは少なくありません。
一方で、「思春期のダイエットはよくあること」「そのうち元に戻るだろう」と様子を見ているうちに、やせが進んでしまうこともあります。子どもの摂食障害(食事の量や食べ方に関する心の病気)は、平成25年の厚生労働科学研究の調査で中高生女子の約1.5%にやせ症がみられると報告されるなど、決してまれな問題ではなく、発症年齢の低年齢化も指摘されています。小学生で発症することもあります。
この記事では、親御さんが気づきやすいサイン、家庭での関わり方のポイント、受診を考える目安を、公的研究班の手引きをもとに整理します。なお、診断や治療方針の判断は医師が行います。ここでご紹介するのは、相談のきっかけにしていただくための「目安」とお考えください。
「やせたい」と言わない子にも起こります
摂食障害というと「ダイエットのしすぎ」というイメージがあるかもしれません。たしかに、体重増加を強く恐れて食事を極端に制限するタイプ(神経性やせ症、いわゆる拒食症)は代表的です。しかし、子どもの摂食障害はそれだけではありません。
- やせ願望がはっきりしない子がいます。「太りたくない」と言わないのに、食事量が減り、体重が減っていくことがあります。
- **「食べると気持ち悪くなるのが不安」「食べることに興味がない」**という理由で食事を避け、体重減少や栄養不良に至るタイプ(回避・制限性食物摂取症)は、特に子どもに多くみられるとされます。体型へのこだわりがないのが特徴です。
- 過食のタイプもあります。短時間に明らかに多い量を食べてしまい、自分でコントロールできない感覚に陥る、食べた後に強い自己嫌悪や落ち込みにおそわれる、体重を増やさないために嘔吐や絶食・過剰な運動をくり返す、といった形をとることがあります。
- 男の子にも起こります。多くは女子ですが、男子の症例も報告されています。
「痩せたいと言っていないから違うだろう」「男の子だから大丈夫」とは言い切れない、というのが大切なポイントです。
体の症状が先に出ることがあります
もうひとつ知っておいていただきたいのは、摂食障害のお子さんは、食事の問題としてではなく体の不調として現れることが多い、という点です。手引きでは、次のような症状で小児科を受診する例が挙げられています。
- 頭痛、腹痛、便秘、胃の不快感
- めまい・立ちくらみ、倦怠感や脱力
- 手足の冷え、髪の毛が抜ける、産毛が濃くなる
- 月経が止まる、初経が来ない
「食べるとお腹が痛い」という訴えも、食べたくない言い訳とは限りません。やせが進むと、腸の血管の位置関係の影響で実際に腹痛や嘔吐が起こる状態(上腸間膜動脈症候群)があることも知られています。
放っておけない理由——成長への影響
子どもの摂食障害は「小児期だけの問題」ではありません。極端なやせの状態が続くと、期待される身長まで伸びない可能性(低身長)や、女性では骨がもろくなる骨粗鬆症、初経の遅れなど将来の妊娠への影響が指摘されています。だからこそ、早い段階での気づきと対応が大切なのです。
家庭での関わり方——「犯人捜し」をしないこと
心配のあまり、「どうして食べないの」と問い詰めたくなるのは自然な気持ちです。しかし、発症の早い時期のお子さんには、ほとんど病識(自分が病気だという自覚)がないとされます。叱っても本人には届きにくく、不安をあおる言い方は、かえってその後の受診につながらなくなるおそれがあります。
手引きで大切にされている考え方に、**「悪いのは本人ではなく病気」**というものがあります(疾患の外在化と呼ばれます)。誰のせいでこうなったのかという「犯人捜し」——本人を責めることも、親御さんがご自身を責めることも——は、回復の助けになりません。
- 食卓を戦場にしない。無理強いや監視より、責めない雰囲気を保つ
- 体の心配(やせている、疲れやすい、めまいがある)を入り口に、受診を提案する
- 受診できたこと自体をねぎらう
- 通院が始まったら、続けることを支える。週1回・短時間でも、継続することが何より大切とされています
学校との連携も助けになります。養護教諭(保健室の先生)を介して情報を共有すると、学校生活でのサポートが得やすくなります。運動部に所属している場合は、部活動の顧問など運動指導者との相談が必要になることもあります。
受診の目安
次のようなときは、様子を見続けずに受診をご検討ください。
- 食事量の減少や偏りが続き、体重が明らかに減ってきている
- 成長期なのに体重が増えない、身長の伸びが鈍っている
- 頭痛・腹痛・便秘・めまい・冷え・脱毛などの不調が続き、やせも気になる
- 月経が止まった、または初経が来ないまま体重が減っている
- 隠れて大量に食べる、食後にトイレにこもる、嘔吐の形跡があるなど、過食や排出行動が疑われる
- 下剤の使いすぎや、体重を減らすための過剰な運動がやめられない様子がある
やせが目立つ場合、初期はこころのケアよりも体の治療(栄養状態の評価と改善)が最優先とされます。脱水や電解質の異常などがあるときは入院が必要になることもあるため、まず小児科で身体面を評価してもらうことが大切です。自傷などの行動面の問題が大きい場合には、精神科・心療内科が連携して関わります。ぐったりして反応が鈍い、意識がもうろうとしているなど緊急性が疑われるときは、救急(119)や主治医に連絡してください。
まとめ
子どもの摂食障害は増えており、低年齢化も指摘されています。やせ願望を口にしない子や男の子にも起こり、頭痛や腹痛、冷えといった体の不調が先に目立つことも少なくありません。極端なやせが続くと、身長の伸びや骨、将来の月経・妊娠にも影響しうるため、早めの気づきが大切です。
ご家庭では、責めたり犯人捜しをしたりせず、「悪いのは病気」という視点で、受診と通院の継続を支えていただくことが回復への大きな力になります。「これくらいで受診していいのだろうか」と迷う段階でも構いません。気になることがあれば、どうぞご相談ください。
参考にした資料(要約・再構成であり、原文の転載ではありません):
- 外来で役立つ「子どもの摂食障害」診療 早期発見と早期治療の手引き(平成28年度厚生労働科学研究費補助金「摂食障害の診療体制整備に関する研究」)
執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏
よくある質問
本人が「大丈夫」「痩せたいわけじゃない」と言います。それでも摂食障害の可能性はありますか?
あります。子どもの摂食障害では、やせ願望がはっきりしない子も少なくないと報告されています。また、発症の早い時期には本人にほとんど病識(自分が病気だという自覚)がないことが多いとされます。本人の言葉だけで判断せず、体重や食事の様子、体の変化を含めて、医師にご相談ください。
摂食障害は女の子だけの病気ですか?
いいえ。多くは女子にみられますが、男子の症例も報告されています。性別にかかわらず、食事量の極端な減少や体重減少、体の不調が続くときは、同じように相談を検討してください。
無理にでも食べさせたほうがよいでしょうか?
強く叱ったり無理強いしたりすることは、親子関係をこじらせ、かえって治療から遠ざけてしまうことがあります。「悪いのは本人ではなく病気」という視点で、責めずに関わることが大切とされています。食事量や栄養の進め方は体の状態によって調整が必要なため、医師と相談しながら進めてください。
受診はまず何科がよいですか?
子どもの摂食障害では、初期は低栄養や脱水など体の治療が最優先とされるため、やせや体調不良が目立つ場合はまず小児科での身体面の評価が大切です。そのうえで、心理面のケアや行動面の問題が大きい場合には精神科・心療内科が連携して関わります。どこに相談すべきか迷うときは、受診先でその旨をお伝えいただければ、必要な連携を検討します。