漢方薬は、精神科・心療内科でも、イライラ・不安・のどのつかえ・月経前の不調・不眠など、さまざまな心身の不調に対して使われます。西洋薬とは異なる考え方で、体質や症状の組み合わせ(証)に合わせて選ぶのが特徴です。
このページでは、当院でも扱うことのある代表的な3つの処方(抑肝散・加味逍遥散・半夏厚朴湯)を中心に、効果や注意点をわかりやすく解説します。「漢方は副作用がない」という誤解も多いため、注意点もしっかりお伝えします。なお、ここでの説明は一般的な情報であり、実際にどの漢方が合うかは診察のうえで主治医が判断します。
どんな薬か
漢方薬は、複数の生薬(植物などの天然由来の成分)を組み合わせて作られています。医療用の漢方エキス顆粒は、健康保険で処方でき、品質が一定になるよう作られています。
西洋薬が一つの症状にピンポイントで働くことが多いのに対し、漢方薬は、体質や複数の不調のバランスを整えるように働くのが特徴です。ただし、天然由来であっても副作用がないわけではありません。この点は後の項目で詳しく説明します。
効果と作用の仕組み
ここでは、精神科・心療内科でよく使われる3つの処方を紹介します。どれが合うかは、症状だけでなく体質や体力なども考えて選びます。
抑肝散(よくかんさん)
神経の高ぶり、イライラ、怒りっぽさ、それに伴う不眠などに使われます。添付文書上の効能には、虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症・不眠症などが含まれます。
加味逍遥散(かみしょうようさん)
疲れやすく、肩こりや精神的な不安定さがある方の、冷え症・月経不順・月経前の不調(PMS・PMDD)・更年期障害などに使われます。心と体の両方にまたがる不調に用いられることが多い処方です。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
気分がふさいで、のどや食道のあたりに異物感(つかえる感じ)があり、ときに動悸やめまいを伴う方の、不安神経症・神経性胃炎・不眠症などに使われます。のどのつかえ感を訴える不安に用いられることが知られています。
服用の仕方
添付文書上の標準的な用法は、いずれの処方も、成人1日7.5gを2〜3回に分けて、食前または食間(食事と食事の間)に飲む、とされています。年齢・体重・症状により調整します。いずれもあくまで添付文書上の標準で、実際の量や処方は医師が個別に判断します。
漢方薬は食前・食間の空腹時に飲むのが基本です。飲みにくいときは、少量の白湯に溶かすなどの工夫もあります。ほかに治療中の病気やお薬(市販の漢方を含む)がある方は、生薬が重なることがあるため、必ず診察時にお伝えください。
効果が出るまでの期間
漢方薬は、体質や症状に合っていれば数日から数週間で変化を感じることもありますが、じっくり続けて整えていくタイプのお薬です。効き方には個人差があります。
一定期間続けても改善がみられない場合は、漫然と続けず、証(体質と症状の見立て)を見直して処方を変えることもあります。経過を診察でお伝えいただきながら、合うものを一緒に探していきましょう。
主な副作用と対処
漢方薬でも、体質やお薬によって副作用が起こることがあります。比較的みられるのは、発疹・かゆみなどの過敏症状や、食欲不振・胃の不快感・吐き気・下痢などの消化器症状です。
こうした症状が出たときは、無理に続けず主治医にご相談ください。合わない場合は、別の処方に変えることで楽になることもあります。
まれだが注意したい副作用
漢方薬にも、まれに重い副作用があります。特に、甘草(かんぞう)を含む抑肝散・加味逍遥散では、偽アルドステロン症(血圧の上昇、むくみ、体重増加、体のだるさ、手足のこわばりなど)や、それに伴う低カリウム血症・ミオパチー(筋肉の症状)が起こることがあります。手足に力が入りにくい、体がだるい、むくむといった症状に気づいたら、主治医にご相談ください。
そのほか、いずれの処方でも、まれに間質性肺炎(空咳・息切れ・発熱)や肝機能障害があらわれることがあります。加味逍遥散では、長期の使用(多くは5年以上)で腸間膜静脈硬化症(おなかの症状)が報告されています。息切れや発熱、皮膚や白目が黄色くなるなどの症状があらわれたら、すぐに受診してください。差し迫った状態のときは、ためらわず救急(119)に連絡してください。なお、半夏厚朴湯は甘草を含まないため、偽アルドステロン症の心配は基本的にありません。
減らすとき・やめるとき
漢方薬には、いわゆる依存性の心配は基本的にありません。ただし、症状が落ち着いてきたときに、いつまで続けるか、減らしていくかは、経過を見ながら主治医と相談して決めます。
複数の漢方を使っている場合は、成分の重なりにも配慮しながら調整します。自己判断でやめる前に、一度診察でご相談いただくと安心です。
生活上の注意
- 飲むタイミング: 食前または食間(空腹時)に飲むのが基本です。飲みにくいときは工夫の相談を。
- 飲み合わせ: 複数の漢方を併用すると甘草などの成分が重なり、偽アルドステロン症などが起こりやすくなることがあります。市販の漢方やサプリを含め、使っているものはお伝えください。
- 妊娠・授乳: 処方によって注意の強さが異なります(加味逍遥散は妊婦には投与しないことが望ましいとされています)。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中の方は必ずご相談ください。
- 体調の変化: むくみ・体重増加・だるさ・力の入りにくさ・空咳などに気づいたら、早めにお知らせください。
当院で処方するとき
当院では、症状だけでなく体質や体力、ほかに使っているお薬も確認したうえで、漢方薬が適しているか、どの処方が合いそうかを判断します。西洋薬と組み合わせて使うこともあります。甘草を含む処方では、血圧やむくみ・体重増加・だるさ・手足の力の入りにくさなどの様子に気を配りながら使います。
漢方薬も治療の選択肢の一つであり、それだけがすべてではありません。生活の調整やほかの治療と組み合わせながら、心身の不調の改善を一緒に目指していきます。お薬への不安や疑問は、どんな小さなことでも診察でお聞かせください。
参考文献
- ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) 添付文書(2023年12月改訂・第1版) — KEGG MEDICUS掲載の電子添文を参照(参照日: 2026-07-07)
- ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用) 添付文書(2023年12月改訂・第1版) — KEGG MEDICUS掲載の電子添文を参照(参照日: 2026-07-07)
- ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) 添付文書(2023年12月改訂・第1版) — KEGG MEDICUS掲載の電子添文を参照(参照日: 2026-07-07)
よくある質問
漢方薬は副作用がなくて安全なのですか?
漢方薬は「自然のものだから副作用がない」と思われがちですが、それは正しくありません。たとえば甘草(かんぞう)を含む漢方では、まれに血圧が上がる・むくむ・体のだるさが出るといった偽アルドステロン症が起こることがあります。飲み合わせや体質によって注意が必要なこともあるため、市販の漢方も含めて、使っているものは主治医にお伝えください。
どのくらいで効きますか?
漢方薬は、体質や症状に合っていれば数日から数週間で変化を感じることもありますが、じっくり続けて整えていくタイプのお薬です。効き方には個人差があります。一定期間使っても症状の改善がみられない場合は、漫然と続けず、処方を見直します。
西洋薬と一緒に飲めますか?
多くの場合、抗うつ薬や睡眠薬などの西洋薬と一緒に使うことができます。ただし、複数の漢方を併用すると甘草などの成分が重なり、副作用が出やすくなることがあります。飲み合わせは主治医が確認しますので、ほかに使っているお薬(市販薬・サプリを含む)をお知らせください。
妊娠中でも飲めますか?
漢方薬の種類によって注意の強さが異なります。たとえば加味逍遥散は「妊婦には投与しないことが望ましい」とされています。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中の方は、自己判断で使わず、必ず主治医にご相談ください。
苦くて飲みにくいのですが、工夫はありますか?
漢方薬(エキス顆粒)は独特の味やにおいで飲みにくく感じる方もいます。少量の白湯(さゆ)に溶かして飲む、オブラートを使うなどの工夫があります。飲み方で困ったときは、遠慮なく主治医や薬剤師にご相談ください。