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「これまでとは違う薬があります」と言われたら、期待と不安が一緒に湧いてくるかもしれません。ザズベイは、従来の抗うつ薬とは異なる仕組みで働く、うつ病・うつ状態の飲み薬です。新しいから強い、新しいから安全と決めてしまう前に、試験で確かめられたことと、まだ答えが出ていないことを一つずつ見ていきましょう。

脳の「ブレーキ」に関わる、新しい仕組み

ザズベイカプセル30mgの有効成分はズラノロン(Zuranolone)です。塩野義製薬が製造販売する薬で、2025年12月22日に承認され、2026年3月19日に発売されました。効能は「うつ病・うつ状態」で、成人の治療に使います。

従来の抗うつ薬を調べると、セロトニンやノルアドレナリンという言葉をよく見かけます。SSRIやSNRIなどは、こうした物質の働きに関わる薬です。一方、ズラノロンが働きかけるのは、GABA_A(ギャバ・エー)受容体という別の場所です。

GABAは神経の興奮を抑える方向に働く物質です。脳が活動するには、興奮させる働きと抑える働きが協調する必要があります。車にたとえれば、アクセルだけでもブレーキだけでも思うようには走れない、という関係に近いでしょう。

ズラノロンの分類は「GABA_A受容体ポジティブアロステリックモジュレーター」です。長い名前ですが、GABAが受容体に作用するときにその働きを強める薬、と考えると入りやすくなります。GABAそのものを増やす薬、という説明とは違います。

同じGABA_A受容体に関わる薬には、ベンゾジアゼピン系薬もあります。ただしズラノロンは受容体の別の場所に結合し、神経細胞が情報を受け渡す部分と、その外側にある受容体の両方に働くとされています。そこから抗うつ作用が生じると考えられていますが、うつ病の成り立ちそのものがすべて解明されたわけではありません。

つまり、作用する場所が新しいことと、従来の薬より効き目が強いことは別の話です。現時点では、ほかの抗うつ薬と直接比べて、より強い・より安全だと示した試験はありません。

夕食後に14日間。その短さには理由があります

通常の飲み方は、30mgのカプセルを1日1回、夕食後に14日間です。水かぬるま湯で飲みます。「調子がよくなるまで毎日続ける」のではなく、抑うつ症状がある時期に短期間使うことを想定した薬です。

夕食後という指定には、理由があります。食事の後に飲むほうが、体の中で薬にさらされる量が増えることが分かっています。また、眠気やめまいが日中の生活に及ぼす影響も考えて、夕食後が選ばれました。ただし、夜に飲めば翌朝は必ず安全という意味ではありません。

14日間と決められた背景には、依存が生じる可能性への配慮があります。国内の臨床試験で明らかな依存の問題は確認されませんでしたが、別の試験からは依存を形成するおそれが示されています。そのため、効いたからといって服用期間を延ばす薬ではありません。

飲み忘れたら、その日の分は飲まずに、翌日からいつもどおり1日1回飲みます。飲み忘れた分を後から足して服用期間を延ばすことはせず、予定どおり14日目で終えます。翌日に2回分をまとめて飲むことはしません。14日間で十分に改善しない場合も、自己判断で追加するのではなく、別の治療を検討することになっています。

そして、14日間の服用が終わることと、うつ病の治療が終わることは同じではありません。 改善した後も状態を確かめ、必要に応じて薬以外の治療や別の抗うつ薬を考えます。ザズベイをもう一度使う場合も、前回の終了から6週間以上空けたうえで、繰り返す必要があるかを検討します。

「3日目から効く」は、全員が3日で楽になるという意味でしょうか

新しい薬の説明でとくに目を引くのが、「早く効く」という話です。ズラノロンの国内第Ⅲ相試験では、薬を飲んだグループと、薬の成分を含まないプラセボを飲んだグループを比べました。うつ症状の評価には、HAM-D17という17項目の尺度を使っています。

治療前の平均点は、両グループとも約24点でした。3日目の点数の下がり幅はザズベイ群が3.2点、プラセボ群が1.7点で、8日目もザズベイ群のほうが大きく下がっていました。比較的早い段階から症状の改善が見られたことを示す結果です。

効果を主に判定した15日目には、ザズベイ群で平均7.4点、プラセボ群で6.2点下がりました。群の差は1.2点で、統計学的な差が確認されています。ただ、これは「15日目に全員が7.4点よくなった」という意味ではなく、多くの参加者をまとめた平均値です。

3日目の数字も、一人ひとりが何日目に変化を感じるかを約束するものではありません。早い効果が期待される薬でも、数日で楽にならないことを、自分の治療が失敗した証拠だと受け止める必要はありません。

さらに、症状がある程度よくなった人の割合と、症状が十分軽くなった人の割合も、分けて読む必要があります。15日目の「反応率」はザズベイ群22.4%、プラセボ群17.0%でした。一方、症状尺度が一定の低さに達した「寛解率」は、それぞれ7.8%と4.6%でした。どちらもザズベイ群で高い傾向でしたが、差には不確かさが残っています。平均点の改善が確認されたことと、多くの人が短期間で寛解することは同じ意味ではありません。

では、その効果はどのくらい続くのでしょうか。試験では服用終了後も57日目まで観察しましたが、22日目以降の群間差には統計的な不確かさがありました。「早めに改善が見られた」という結果だけから、「飲み終わった後も長く効き続ける」とは言えません。短期間に変化が起きる可能性と、その後の治療をどう続けるかは、切り分けて考えたいところです。

ほかの抗うつ薬に「足す」と、もっと効くのでしょうか

新しい仕組みの薬と聞くと、今の抗うつ薬に加えれば、違う方向から働いて効果が高まりそうに思えます。ただ、作用する場所が違うことと、一緒に使ったときの効果が証明されていることは別です。

国内では、ほかの抗うつ薬を使っている人にズラノロンを追加する試験も行われました。しかし、主要な評価項目では、あらかじめ決めていた有効性の基準を満たせませんでした。審査では、上乗せによる効果は示されず、その臨床的な意味も分かっていないと評価されています。

これは「併用すると必ず効かない」という結果ではありません。試験には効果を十分な精度で判定するうえでの限界もあり、併用そのものが一律に禁止されたわけでもありません。ただし添付文書は、ほかの抗うつ薬で治療中の人には、ザズベイを単独で使う急性期治療を検討するよう求めています。

すでに飲んでいる薬をどうするかは、症状と治療の経過を踏まえて組み立てる話です。新しい薬を使うからといって、今までの薬を自己判断でやめたり置き換えたりするものではありません。

眠気とめまいは、日常生活に直結する副作用です

副作用の数字は、実際の暮らしの場面に重ねて読むと意味が見えてきます。国内の複数の試験を合わせた514人では、眠気が20.0%、めまいが12.6%に報告されました。自分に起きるかどうかを予言する数字ではありませんが、珍しい反応として片づけられないことは分かります。

報告された眠気やめまいの多くは、軽度から中等度でした。それでも、ふらついたり、普段なら難なくできる動作に不安を感じたりすれば、生活に響きます。「軽い副作用だから我慢しなければ」と考える必要はありません。気になったことは、いつから、どんな場面で起きたかを伝える材料になります。

ほかには頭痛、吐き気、下痢、口の渇き、倦怠感なども挙げられています。また、頻度は分かっていませんが、重大な副作用として錯乱状態が記載されています。急に話がかみ合わなくなる、周囲の状況や場所が分からなくなるといった変化があれば、普段のうつ症状とひとまとめにせず、速やかに医療者に伝える必要があります。

強い鎮静による呼吸の抑制や意識の消失は、国内外の臨床試験では確認されていません。一方、動物試験と薬の作用から、過度の鎮静は今後も確認を続けるべきリスクとされています。「試験で起きなかった」と「今後も起こりえない」の間には、距離があります。

夜に飲む薬でも、翌朝の運転は別問題です

夕食後に飲むと決まっていると、「翌朝になれば運転しても大丈夫」と思うかもしれません。しかし、海外の健康成人を対象にした運転シミュレータ試験では、30mgの服用を始めた翌日に運転能力の低下が見られました(国内で承認された飲み方とは異なる5日間連続の服用では、終了の翌日にプラセボとの有意な差は見られていません)。

電子添文は、服用している間は自動車の運転や危険な機械の操作をしないよう求めています。「眠くなったら運転しない」という条件つきの話ではありません。

朝の送り迎えや車での通勤を一人で担っている人にとって、運転を控えるのは簡単なことではないでしょう。仕事での運転や機械を扱う作業の予定も含めて、薬を始める前に14日間の生活をどう調整するか考えておくことが大切です。

飲み合わせは「薬が強くなる」とは限りません

ズラノロンは主にCYP3Aという酵素の働きで代謝されます。この酵素を強く妨げるイトラコナゾールやクラリスロマイシンなどと一緒に使うと、体内のズラノロンが増えて作用が強まるおそれがあります。反対に、リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトインなどは代謝を促し、作用を弱める可能性があります。

もう一つは、血中濃度の変化だけでは説明できない組み合わせです。ベンゾジアゼピン系の薬や一部の抗うつ薬など、中枢神経の働きを抑える薬を重ねると、その作用が強くなるおそれがあります。海外の試験では、アルプラゾラムやアルコールを一緒に使うと、ズラノロンだけのときより認知機能が低下しました。

飲酒も避けることが望ましいとされています。添付文書上、併用禁忌に指定された薬はありませんが、注意が必要な組み合わせはいくつもあります。服用中の薬を伝えるときは、睡眠薬や抗不安薬だけでなく、ほかの診療科から出ている薬も含めて確認することが大切です。

服用前に確認するのは、うつ症状だけではありません

睡眠時無呼吸症候群や中等度以上の呼吸障害がある人では、呼吸が抑えられるおそれがあります。腎機能の低下や重い肝機能障害がある場合は、体内で薬にさらされる量が増え、副作用が強く出る可能性があります。高齢の人では、眠気や鎮静、錯乱にも慎重な観察が必要です。

妊娠中、または妊娠している可能性がある場合には使えません。動物試験で胎児への影響が確認されているためです。妊娠する可能性のある女性には、服用中と最後の服用から1週間の適切な避妊が必要とされています。

授乳については、薬が母乳に移行することは分かっていますが、授乳を受ける子どもへの影響は不明です。治療を受けることと母乳栄養の両方を考えて、授乳を続けるかどうかを検討します。

これらは薬を使えない理由を探すための質問ではなく、限られた14日間をどう安全に過ごすかを、服用前に一緒に確かめるための情報です。

14日間が終わったら、次はどうなるのでしょうか

服用の最終日が近づくと、「このままよくなるのか」「またつらくなったら飲み直せるのか」という疑問が出てくるかもしれません。ザズベイは、今ある抑うつ症状を改善するための急性期の薬です。症状が落ち着いた後に、再発を防ぐ目的で飲み続ける使い方は認められていません。

審査では、14日間の服用が終わった後も状態を定期的に確かめ、必要に応じて精神療法などの薬を使わない治療や、別の抗うつ薬による治療を続けることが重要だと判断されました。薬を飲み終えた時点で、診察も支えも終わりになるわけではありません。

14日間で改善が見られなかったときや、服用終了から6週間経たないうちに症状が悪化して薬物療法が必要になったときは、ザズベイをもう一度使うのではなく、ほかの治療を検討します。6週間以上空いていても、もう一度使うことが自動的に決まるわけではありません。いったんよくなっても再燃を繰り返す場合には、治療の組み立てそのものを見直します。

短期間で効果が現れる可能性は、つらい時期を過ごす人にとって大切な希望です。その先の治療を一緒に考えることも、同じくらい大切です。

発売された後も、確かめていることがあります

承認までの試験で分かることには、範囲があります。ザズベイについては、眠気・めまい、錯乱、過度の鎮静、依存や乱用、自殺を考える気持ちや行動などを、実際の診療のなかでも調べていく計画が作られています。

計画では、2026年3月から2029年2月までの調査期間に目標1500人の情報を集め、服用開始から最長52週間の経過を追います。臨床試験では一緒に使える薬や治療に制限があったため、日常の診療で使われたときの安全性を確かめる意味があります。

「新しい薬だから情報が少ない」と怖がる必要も、「承認されたからすべて分かっている」と思う必要もありません。確かめられた効果を活かしながら、まだ調べていることも見失わない。そんな姿勢が、この薬には似合っています。

気分や行動の変化にも注意が必要です

うつ病の治療中には、落ち込みだけでなく、焦りが強くなる、ひどく落ち着かない、眠れなくなる、急に怒りっぽくなるといった変化が問題になることがあります。軽躁や躁状態なども含めて、添付文書は治療中の状態を丁寧に観察するよう求めています。

ザズベイの国内外の試験では、こうした変化が薬を飲んだグループで明確に増えたわけではありません。それでも、変化に気づいたときに「薬のせいか病気のせいか」を本人だけで判断する必要はありません。以前との違いを、診察でそのまま伝えることに意味があります。

また、抗うつ薬全般について、24歳以下では自殺を考えたり試みたりする危険が高まったという報告があります。ズラノロン自体の試験ではその増加傾向は認められていませんが、若い成人に使うときには、期待できる利益と危険を見比べることになっています。

家族や身近な人がいるなら、表情だけでなく、眠り方や落ち着かなさ、普段と異なる言動にも目を向けてもらうとよいでしょう。支える人が、変化を一つ残らず見張る役を引き受ける必要はありません。本人の同意のうえで診察に同席してもらい、本人が話しにくいことを代わりに伝えてもらうだけでも、診察の手がかりになります。

死にたい気持ちが強まったり、自分を傷つけそうになったりしたときは、一人で耐えようとせず、すぐに主治医へ連絡してください。差し迫って身の安全を守れないときは119番に助けを求めてください。つらさを言葉にするのが難しければ、そばにいる人に短く伝えるだけでも構いません。

診察で確かめたいのは、点数より暮らしの変化です

ザズベイの試験では症状の点数を使って効果を調べましたが、日々の診察では「何が少し変わったか」を言葉にすることも大事です。気持ちの重さだけでなく、睡眠や食事、家で過ごす時間など、自分が気づいたことを持ち寄れます。

「3日目には変化がなかったけれど、1週間ほどで少し動けた気がする」「気分は変わらないまま、めまいが気になった」という伝え方で十分です。よくなったところと困ったところを一緒に伝えると、14日間をどう評価し、次にどう治療を続けるかを考えやすくなります。

新しい薬を選ぶことは、治療を一度で終わらせる約束ではなく、どんな変化を期待し、何を確かめながら次に進むかを主治医と共有するための選択肢です。

よくある質問

Q. 14日間飲んでもよくならなかったら、もう14日間飲めますか? 改善が見られない場合は、同じ薬をもう一度使うのではなく、ほかの治療を検討します。6週間以上空けて再び使うことがあるのは、いったん症状がよくなった後に再燃・再発した場合で、そのときも治療上の必要性を確かめます。

Q. 3日目に変化がなければ、自分には効かないのでしょうか? 3日目の結果は、臨床試験の参加者をまとめた平均値です。一人ひとりの効き始めを約束する数字ではなく、主な効果判定は15日目に行われました。数日で変化が分からなくても、自分を責めず、そのまま経過を伝えてください。

Q. 夕食後に飲むなら、翌朝は運転できますか? 海外の試験では、30mgの服用を始めた翌日に運転能力の低下が見られました(国内で承認された飲み方とは異なる5日間連続の服用では、終了の翌日にプラセボとの有意な差は見られていません)。服用期間中は自動車の運転や危険な機械の操作を避けるよう求められています。車が必要な生活なら、開始前に移動手段を考えておきましょう。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • 塩野義製薬株式会社『ザズベイカプセル30mg 医薬品インタビューフォーム』塩野義製薬株式会社、2026年3月改訂(第2版)。
  • 医薬品医療機器総合機構『ザズベイカプセル30mg 審査報告書(審議結果報告書を含む)』PMDA、2025年。
  • 塩野義製薬株式会社『ザズベイカプセル30mgに係る医薬品リスク管理計画書』PMDA掲載、2026年。
  • 塩野義製薬株式会社『患者向医薬品ガイド ザズベイカプセル30mg』PMDA掲載、2026年。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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