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「WAISを受ければ、発達障害かどうか分かりますか?」「ネットのAQテストで高得点だったけれど、ASDなのでしょうか?」。検査を調べ始めると、こんな疑問が出てきます。実はWAISもAQも診断を決める検査ではありません。WAISは得意・不得意を、AQは自分の特徴をどう捉えているかを知り、日々の困りごとを理解するための手がかりです。まずはWAISで何が分かるのかから見ていきましょう。

1. 同じIQでも、得意なことは違います

「知能検査」と聞くと、頭のよさを数字で判定されるような気がしませんか。IQが高ければ優秀で、低ければ能力が足りない、そんなイメージを持っている方もいるでしょう。

ところが、WAIS-IV(ウェイス・フォー)の面白さは、IQという一つの数字よりも、その内訳にあります。

例えば、同じIQの人が二人いたとします。

一人は、言葉を使って考えるのが得意です。複雑な話でも筋道を立てて説明できます。ただ、口頭でいくつもの指示を受けると、途中で何をするのか分からなくなってしまいます。

もう一人は、図形の関係を見抜いたり、目の前の作業をすばやく進めたりするのが得意です。その一方で、自分の考えを言葉にまとめるには時間がかかります。

全検査IQが同じでも、二人の得意な仕事や苦労する場面は違って見えます。

WAIS-IVは、こうした能力の組み合わせを調べる検査です。全体の知的水準を確かめるだけでなく、どこに強みがあり、どんな課題で負担がかかりやすいのかを考える材料にもなります。

発達障害の診察でも使われますが、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)に特有の得点パターンがあるわけではありません。「この指標が低いからADHD」「得点の差が大きいからASD」とは判断できないのです。

診断では、今の困りごとや子どものころからの経過を丁寧に確かめます。WAIS-IVは、その人を理解するための情報を一つ増やしてくれます。

では、知的な能力の内訳はどのように調べるのでしょうか。

2. WAIS-IVには、4つの「ものさし」があります

WAIS-IVでは、いくつかの課題に取り組み、その結果を主に4つの指標に整理します。

同じ「考える力」でも、言葉を使うのか、図形を見るのか、覚えながら作業するのかによって、使う力は違ってきます。

① 言語理解(VCI):言葉を使って考える力

言葉の意味や知識を理解し、それを使って推理する力を調べます。

例えば、二つの物事に共通する特徴を考えたり、知っていることを言葉で説明したりする場面です。

普段の生活なら、説明を理解する、考えを整理して伝える、言葉を手がかりに問題を考えるといった活動と結びつけて考えられます。

② 知覚推理(PRI):見た情報から関係を見つける力

図形や視覚的な情報をもとに、形の関係や規則性を考える力です。

言葉で説明されるより、図や配置を見たほうが理解しやすいという人もいます。図形の組み合わせを考えたり、見本をもとに形を組み立てたりする課題を通して、視覚情報をどう扱うかを調べます。

③ ワーキングメモリー(WMI):覚えながら頭の中で操作する力

ここで測るのは単に物事を覚えておく力ではなく、例えば聞いた数字を一時的に覚え、それを逆の順番に並べ直すような力です。

会話を聞きながら次に言うことを考える、複数の指示を覚えながら作業する、といった場面を思い浮かべると分かりやすいでしょう。

「説明されたときは分かったのに、作業を始めると手順が抜ける」という困りごとを考えるときにも参考になります。

④ 処理速度(PSI):見た情報をすばやく扱う力

目から入った情報を処理し、決められた課題をどのくらい速く進められるかを調べます。

記号を見比べたり、一定のルールに従って作業したりする課題が含まれます。

じっくり考えれば分かることと、限られた時間で処理できることは同じではありません。正確に考えるのは得意でも、時間に追われる作業では苦労するという違いが見えてくることがあります。

WAIS-IVでは、この4指標を構成する基本の10の下位検査から全検査IQも算出します。

ただし、4つの指標は発達障害の種類を判定するための分類ではありません。ワーキングメモリーや処理速度の低さは、さまざまな状態で見られます。

大切なのは、指標の高低を病名に結びつけることよりも、その組み合わせが自分の生活とどう関係しているかを考えることです。

3. 積木を並べたり、数字を覚えたり。実際は何をするの?

WAIS-IVの検査室では、机を挟んで検査担当者と向き合い、さまざまな課題に取り組みます。

学校の筆記試験とは少し違い、言葉で答える問題もあれば、手を動かす課題もあります。

言葉の課題では、知識と考え方の両方を使います。

例えば、言葉の意味を説明したり、二つの言葉に共通する点を考えたりします。

どれだけ暗記しているかだけでなく、言葉を理解し、共通する特徴を見つけ、説明する力も見ています。

積木の課題では、目と手を使います。

模様のついた積木を使い、見本と同じ形を作る課題があります。

見本を眺めているだけでは完成しません。全体の形をつかみ、どう組み合わせればよいかを考え、実際に並べていきます。

米国版WAIS-IVでは、この積木課題が検査の最初に置かれています。取り組みやすい課題から始めて、検査担当者とのやり取りに慣れてもらう狙いもあります。

図形を扱う課題には、厳しい時間制限があるものとないものがあります。時間をかければ正答しやすくなるかどうかなど、課題の性質に応じて設計されているためです。

数字の課題では、同じ数字でも頭の使い方が変わります。

「数唱」という課題では、読み上げられた数字を聞いて答えます。

聞いた順番のまま繰り返す「順唱」、逆から答える「逆唱」、数字を小さい順に並べ直す「並べ替え」があります。

例えば同じ「3・8・1」でも、そのまま答えるときと逆順に答えるときでは、頭の中でする作業が違います。

並べ替えになると、数字を覚えたまま順序を考え直さなければなりません。同じ数字を使う課題でも、求められる力が少しずつ変わるのが興味深いところです。

記号の課題では、速さが関係してきます。

記号を探したり、決められた対応関係に従って書き込んだりします。時間をかけて考える課題とは違う側面が見えてきます。

検査担当者は、正答だけでなく課題への取り組み方も観察します。難しい課題に出会ったときの様子や検査中の負担なども、結果を理解するための参考になります。

あらかじめ問題を覚えて正解を増やすことが、WAIS-IVを受ける目的ではありません。

普段どのような力を使って考え、どこで難しさを感じるのか、その手がかりを得るために一つひとつの課題に取り組んでいきます。

4. AQは50問。自分で答える検査です

WAIS-IVが「実際に課題をやってみる検査」なら、AQ(自閉症スペクトラム指数)は「自分は普段どうしているかを振り返る質問紙」です。積木や数字の課題はありません。知的な遅れのない16歳以上の人を対象に、ASDに関連する特徴を50の質問で尋ねます。

質問は、次の5つの領域に10問ずつ分かれています。

  • 社会的なスキル:人との関わり方について
  • 注意の切り替え:関心や作業を別のことへ移すときの様子について
  • 細部への注意:物事の細かい部分にどのくらい目が向くかについて
  • コミュニケーション:人とのやり取りについて
  • 想像力:想像することに関わる特徴について

回答は「強くそう思う」「少しそう思う」「あまりそう思わない」「まったくそう思わない」に相当する4段階から選びます。回答の方向によって各項目を採点し、合計は最大50点です。4段階で答えるからといって、1問に4点がつくわけではありません。

ここにWAISとの大切な違いがあります。WAISでは、検査担当者が課題の答えや取り組み方を見ます。一方、AQに表れるのは、本人が自分の普段の姿をどう理解しているかです。

例えば、人とのやり取りで苦労していても、自分ではそれを特別なことと思っていないかもしれません。反対に、最近気になり始めた経験を強く意識して答えることもあるでしょう。AQは役に立つ手がかりですが、答えた人の自己認識も一緒に映る質問紙なのです。

5. ネットのAQで26点。これはASDという意味でしょうか?

検索して見つけたAQテストを受け、結果が「26点」だったとします。「この点数ならASDなのか」と確かめたくなるでしょう。

日本語版AQの研究には、26点を判別の目安としたものがあります。ただしこの数字は、研究で比較された人たちを区別するために設定された境界です。26点以上だからASDと診断される、という意味ではありません。

AQは、自分の特徴を自分で答える検査です。ASDの特徴があっても本人が気づいていなければ、点数が低くなる場合があります。また、得点が高い人の中に、ASD以外の状態の人が含まれる可能性もあります。

さらに興味深い研究があります。2016年に、ASDの疑いで専門外来を受診した成人476人を調べた研究では、AQの点数から最終的なASD診断を十分に予測できませんでした。50問版のAQ50も、短い10問版よりわずかに良い程度でした。

これはASDを疑って専門外来に来た人たちの研究で、誰にでもそのまま当てはめられる数字ではありません。それでも、質問紙の点数だけで「診察を受ける必要がある人」を選び切る難しさは伝わってきます。

ネット上のAQは、検証された日本語版と質問内容や採点方法が同じだと確認できない場合もあります。表示された点数を、そのまま診断の確率に読み替えることはできません。

高得点だったなら、合計点より「どの質問が自分に当てはまったのか」を見てみてください。低得点でも困りごとが続いているなら、点数を理由に相談を諦める必要はありません。

診察で役に立つのは、数字そのものよりも「どんな場面で何が起き、いつから困っているのか」という具体的な話です。

6. 予約から検査当日まで、どう進むのでしょうか?

検査を受けたいと思っても、最初からWAIS-IVやAQを予約するとは限りません。医療機関での一般的な流れは、まず診察で困りごとを聞き、何を確かめるための検査なのかを考えるところから始まります。

最初の診察では、今の困りごとと子どものころの様子を話します。

例えば、仕事で指示を覚えきれないのか、人との会話で行き違いが多いのか、といったことです。いつごろから似た経験があったのかも大切な情報です。可能なら、幼いころを知る人の話や通知表、母子手帳も参考になります。検査が必要かどうかも含めて、診察で考えていきます。

検査が決まったら、内容と日程を調整します。

医師の依頼を受けて、担当者が目的や本人の状態に合わせて検査を組み合わせ、場所と日時を決めます。WAIS-IVの米国版では、基本の課題を行う時間として60〜90分が案内されています。これは日本版の所要時間を保証する数字ではなく、説明や休憩にかかる時間とも分けて考えます。AQは50問に自分で答える質問紙で、所要時間は実施機関にご確認ください。

当日は、説明を聞いてから課題に取り組みます。

静かな部屋で担当者と一対一になり、目的や進め方を確認します。途中で疲れたり不安が強くなったりしたときは、状態に応じて休憩を挟み、内容を変えたり中断したりすることもあります。終わったあとに、難しく感じたことや普段の困りごとを尋ねられる場合もあります。

何を知りたいのか、結果をどのように聞きたいのかを話すことも、検査を受ける準備になります。

当院では、18歳以上のASD・ADHDの評価と診断の相談を、問診を中心にお受けしています。WAIS-IVなどの心理検査は実施していないため、希望される方には実施機関をご自身でお探しいただきますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

7. 費用はいくら? 結果はいつ分かるのでしょうか?

検査を予約する前に確かめておきたいのは、料金と結果説明までの流れです。WAIS-IVは課題を終えてすぐ結果が出る検査ではなく、そのあとの採点や分析にも時間がかかります。

令和6年度末の資料では、WAIS-IVは診療報酬の「D283 発達及び知能検査」の450点区分に分類されていました。これは検査と結果処理の複雑さを踏まえた当時の区分です。450点が、そのまま2026年現在の窓口負担額になるわけではありません。

実施する医療機関には、予約のときに次の3点を聞いておくとよいでしょう。

  • 保険診療で受けられるか、自費になるか
  • 検査料のほか、診察や結果説明にいくらかかるか
  • いつ、誰から、どのような形で結果を聞けるか

自費検査の料金についても、全国一律の金額は示せません。検査料金だけを見て支払い総額を判断しないことが大切です。

検査のあとは担当者が採点し、検査中の様子も踏まえて所見を整理します。報告を受けた医師が結果を分析し、その後の診察などで本人に説明するのが一般的な流れです。結果を聞くための機会が別に設けられることもあります。説明までの日数は医療機関に確認し、詳しい結果の説明を希望する場合は、その機会があるかも聞いてみてください。

8. 検査結果は「成績表」より「自分の取扱説明書」に近いものです

いよいよ結果を聞く日です。全検査IQの数字に真っ先に目が行くかもしれません。でも、そこで話を終えるのはもったいないことです。

WAIS-IVの結果では、全検査IQのほかに、言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の4指標を確認します。必要に応じて、下位検査の得点や検査中の様子についても説明を受けます。

例えば「話は理解できるのに、口頭でいくつも頼まれると抜けてしまう」という人がいます。言語理解とワーキングメモリーの結果を見比べると、これまでの経験を整理する材料になるかもしれません。

「やることは分かっているのに時間内に終わらない」という経験なら、処理速度の結果が話題になるでしょう。図形から考える力が得意と分かれば、その強みをどこで生かせるかも考えられます。

ただし、一つの下位検査の点数だけで苦手な能力を決めつけることはできません。 細かな得点には、全検査IQや4指標のような合成得点よりも大きな測定誤差があります。小さな差に飛びつかず、全体の傾向と普段の経験を照らし合わせることが大切です。

検査室と日常生活の違いもあります。検査は静かな部屋で担当者と一対一で進みますが、仕事や家事では音や周囲の動きなど、検査室にはない刺激が加わります。検査でできたことが、普段も同じようにできるとは限りません。

結果説明では、「何点でしたか」だけでなく、「どんな困りごとと関係しますか」「得意な力はどこですか」「生活でどんな工夫が考えられますか」と尋ねてみてください。苦手なところを知るだけでなく、使える強みを見つけることも検査の大切な役割です。

数字を見るのが怖いなら、その気持ちも伝えて構いません。結果の伝え方について相談することもできます。検査結果は能力や人格のすべてではなく、診断名がつかなかった場合にも、自分の苦労を整理する材料になります。

検査から持ち帰りたいのは、「自分は何点の人間か」という答えより、どんな場面で力を発揮でき、どこで工夫が必要なのかを示す地図です。そこから次の一歩を考えていけます。

よくある質問

Q. WAIS-IVを受ければ、ASDやADHDかどうか分かりますか?
WAIS-IVの得点だけではASDやADHDを診断できません。診断の基本は、今の困りごとと幼少期からの経過を確かめることです。検査は能力の特徴を知り、診察や支援を考えるための補助になります。

Q. AQが26点未満なら、ASDではないと考えてよいですか?
26点は特定の研究で使われた目安で、診断を分ける絶対的な線ではありません。専門外来の成人を調べた研究でも、AQ50の点数による診断の予測には限界がありました。低得点でも困りごとが続くなら、その内容を診察で伝える意味があります。

Q. 検査結果で苦手な部分が多かったら、どうすればよいですか?
苦手な項目だけでなく、得意な指標や生活でうまくできていることも見てみましょう。細かな点差には測定誤差があるので、説明を聞きながら受け止めることが大切です。自分の強みと負担のかかる場面を整理し、対応や支援につなげていきます。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • 『臨床心理・神経心理検査 実施と活用のガイド』松田修・東奈緒子ほか/厚生労働科学研究班/令和5〜6年度研究
  • 『成人期発達障害診療専門拠点ガイドライン』厚生労働科学研究班/2020年
  • 『Wechsler Adult Intelligence Scale Fourth Edition』Pearson/2008年(米国版)
  • 『精神科治療学』第37巻1号/太田豊作・飯田順三/星和書店/2022年
  • 『成人期の自閉症スペクトラム 診療実践マニュアル』神尾陽子 編/医学書院
  • Ashwood KLほか「Predicting the diagnosis of autism in adults using the Autism-Spectrum Quotient (AQ) questionnaire」/Psychological Medicine/Cambridge University Press/2016年

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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