朝、寝返りを打つと、天井がぐるりと回ったように感じます。数十秒でおさまっても、もう一度頭を動かすのが怖くなります。仕事が忙しかったことや、最近眠れていないことを思い出して、「ストレスのせいだろうか」と考えるかもしれません。けれども、回転性めまいについて考えるときは、心の負担だけでなく、いつ始まり、何分続き、耳にどんな変化があったかをたどることが大切です。
同じ「ぐるぐる」でも、時計の進み方が違います
「景色が回った」といっても、誰もが同じめまいを経験しているわけではありません。診察の手掛かりになるのは、回転の激しさだけでなく、その前後に何が起きたかです。三つの朝を比べてみてください。
一人目は、目覚めて横を向いた途端に部屋が回り始めます。驚いてじっとしていると、短い時間で回転が静まります。ところが、起き上がろうとすると、また同じ感覚がやってきます。特定の頭の向きで始まる短い発作は、良性発作性頭位めまい症(BPPV)を考える手掛かりです。
二人目は、特に寝返りを打ったわけでもないのに、突然強いめまいに襲われます。数十分たってもおさまらず、気持ち悪さもあります。そういえば、片方の耳がふさがったような感じがして、耳鳴りもいつもと違います。こうした長めの発作と耳の変化が重なると、メニエール病が候補に上がります。
三人目は、めまいよりも「朝から急に片耳が聞こえにくい」ことが気になっています。耳鳴りがする場合もあります。急な聞こえ方の変化にめまいが重なるなら、突発性難聴などを考える必要があります。
三人とも「ぐるぐるした」と表現するかもしれません。ただ、発作が数十秒で終わるか数時間続くか、耳鳴りや聞こえ方に変化があるかは、それぞれ違います。めまいを「回る」「ふわふわする」という言葉だけで分けてしまうと、こうした情報がこぼれ落ちてしまいます。
もう一つ、紛らわしい違いがあります。「頭を動かしたときに初めてめまいが起こる」のと、「すでにあるめまいが、頭を動かすと強くなる」のは別です。たとえば、寝返りのたびに短い発作が起こる場合と、朝からずっと気分が悪く、向きを変えるとさらにひどくなる場合を思い浮かべてください。どちらも「動くとめまいがする」と伝えたくなりますが、医師が確かめたい経過は違います。
もちろん、時計を見て秒数を測る余裕もないほどつらいこともあります。「寝返りのときだけだった」「しばらく横になっていても続いた」「耳の感じがいつもと違った」。まずはこうした違いを思い出すところから、めまいの正体に近づいていきます。
寝返りで天井が回る――耳の中の小さな石の話
良性発作性頭位めまい症という名前は長いので、ここからはBPPVと呼びます。回転性めまいの代表的な原因で、寝返りを打つときや布団から起き上がるとき、棚の上を見るとき、洗髪で頭を傾けるときなどに起こります。じっとしていると落ち着くのに、同じ向きを向くとまた回るという繰り返しが特徴です。
その原因を知ると、症状の激しさと原因の小ささ、その落差に驚くかもしれません。耳の奥には、頭の動きを感じ取る「半規管」という部分があります。BPPVでは、耳石に由来する小さな結晶の粒がそこに入り込み、頭の向きが変わることで刺激が生じます。部屋そのものは動いていないのに、体は回転しているかのように感じてしまうのです。
そのため、BPPVでは、何もしていないときに長時間めまいが続くよりも、ある動作をきっかけに短い発作が起こることが多いのです。頭を動かしてから、ほんの少し間を置いて回り始めることもあります。本人は「向きを変えた瞬間」と覚えていても、実際に刺激が始まるタイミングには、わずかなずれがあっても不思議ではありません。
多くの発作は数秒から30秒ほどで、通常は1分以内におさまります。ただし、BPPVにも種類があり、2分を超えて続く型も報告されています。「1分を超えたからBPPVではない」と、秒数だけで判断することはできません。反対に、めまいが短いというだけでBPPVと決まるわけでもありません。
少し変わった特徴もあります。同じように頭を動かすうちに、発作がだんだん弱くなることがあります。ところが、長い間体を動かさずにいた後、特に朝の寝起きには、また強く感じることがあります。昨日より楽になったと思っていたのに、翌朝の寝返りで再び回ったとしても、この病気の経過として考えられます。
ここで注目したいのが、耳鳴りと聞こえ方です。BPPVは耳の中で起こる病気ですが、発作に合わせて耳鳴りが強くなったり、聞こえにくくなったりすることは通常ありません。もともと耳鳴りがある人でも、めまいのたびに耳鳴りまで変化するとは限りません。この違いは、次に取り上げるメニエール病を考えるうえで大きな手掛かりになります。
耳鼻科では、頭の向きを変えて症状を再現し、そのときの眼の細かな動きである「眼振」を調べます。頭の向きによる眼振の現れ方から、どの半規管が関わっているかを確かめます。耳石を移動させるための体位変換によって、早く改善する場合もあります。単に「ストレスでふらついている」と考えるだけでは、こうした耳の検査や治療にはつながりません。
BPPVは自然に落ち着くことも多く、2〜3週間ほどで治まる例が多いとされています。ただし、数か月、あるいは数年たってから再び起こることもあります。一度治まった経験があっても、ある朝また天井が回れば、不安になるのも当然でしょう。発作が軽くなった後にも、特定の姿勢でふわっとした感覚が残ることがあります。
では、仕事のストレスや睡眠不足は無関係なのでしょうか。少なくとも、BPPVが起こる直接の仕組みは耳石の移動であり、ストレスが耳石を動かすと断定できる材料はありません。「最近疲れていたから心因性だ」と考える前に、まず頭の動きと発作の関係を確かめる意味があります。
ここで一つ疑問が残ります。寝返りで起こる短いめまいでは説明しにくい耳の詰まりや耳鳴りまで一緒に現れるとき、耳の中では何が起きているのでしょうか。
耳が詰まって、世界が回る――メニエール病は何が違う?
BPPVでは寝返りなどが引き金になり、短いめまいが繰り返されます。では、特に頭を動かしたわけでもないのに突然回り始め、耳までおかしく感じるときはどうでしょうか。考えられる病気の一つが、メニエール病です。
メニエール病の背景には、内リンパ水腫という耳の中の変化があります。内耳には液体で満たされた空間があり、その一部が膨らんだ状態を指します。これには、液体が作られる量と吸収される量のつり合いが崩れることが関わっています。BPPVでは半規管に入り込んだ小さな粒が刺激になるのに対し、メニエール病では内耳の液体を含む構造に変化が起きています。どちらも耳に関わる病気ですが、体の中で起きていることは違います。
発作が続く時間も違います。メニエール病では、めまいが10分程度から数時間ほど続きます。特にきっかけが思い当たらなくても始まり、吐き気を伴うことも少なくありません。周囲が回転するように感じることが多い一方で、「ふわふわする」と表現する人もいます。「回る」か「浮く」かという言葉だけでは、やはり区別できません。
そして、耳の症状が重要な手掛かりになります。めまいが起きる前後に、片方の耳で音が鳴ったり、ふさがったように感じたり、聞こえ方が変わったりします。こうした耳の症状がめまいの発作に合わせて強まり、その後に軽くなるのが特徴です。めまいが始まる前から耳に異変が出る場合もあります。
意外なのは、難聴を自覚していなくても、聴力が変化している場合があることです。「音は聞こえるから大丈夫。でも耳に水が入ったような感じがします」という訴えの裏に、聞こえにくさが隠れていることがあります。初期には低い音の聞こえ方に変化が出やすく、自分の耳の感覚だけでは分かりにくい変化を聴力検査で確かめます。
発作が落ち着くと、何事もなかったように感じるかもしれません。ただ、メニエール病は発作を繰り返す病気です。発作の間隔は人によってまちまちで、発作のない時期にも耳鳴りやふらつきが残ることがあります。繰り返すうちに難聴が進み、聞こえ方が元に戻りにくくなる場合もあります。
最初から、めまい・耳鳴り・難聴がはっきりそろうとは限りません。初めての発作だけでは、ほかの病気と見分けにくいこともあります。だからこそ、「耳が詰まるだけ」と片づけず、発作の経過と耳の検査結果を合わせて見ていく意味があります。
「突然聞こえにくい」は、めまい以上に大切な情報です
「今朝から片耳が聞こえにくい。でも、めまいもしたからメニエール病かもしれません」。そう考えたくなる状況でも、別の病気が隠れていることがあります。特に見逃したくないのが、突発性難聴です。
突発性難聴は、はっきりした原因が分からないまま、急に聞こえが悪くなる病気です。朝起きて気づくこともあれば、数日かけて悪化することもあります。耳鳴りや吐き気を伴う場合もあり、約40%にめまいがみられるとされています。つまり、めまいがあるからといって突発性難聴ではないとは言えません。
メニエール病との違いは、その後の経過にも表れます。メニエール病では、耳の症状が強くなったり弱くなったりしながら、めまい発作を繰り返します。一方、突発性難聴では、典型的には聴力の変動やめまい発作の繰り返しはみられません。ただし、初めて難聴とめまいが同時に起きた時点では、両者を区別できない場合があります。最初の一回だけでは、病名を決めるのが難しいのです。
また、「聞こえない」というよりも、「耳が詰まる」「音がこもる」という感覚が目立つこともあります。急性低音障害型感音難聴は、低い音を中心に聞こえにくくなる病気で、耳鳴りや耳が詰まる感じが強く出ることがあります。軽いめまいを伴う例や、耳の症状を繰り返す例もあり、経過を見ながらメニエール病との関係を確かめることがあります。
突発性難聴の診断基準には「72時間以内」という数字が出てきます。これは、一定以上の聴力低下がどれほど急に生じたかを表すもので、72時間待ってから受診するという意味ではありません。突然聞こえにくくなったなら、ストレスのせいと決めず、速やかに耳鼻科で聴力を調べることが先です。
耳鳴りや耳の詰まりを「疲れているからだろう」と考えたくなるときこそ、いつから聞こえ方が変わったのかを振り返ってみてください。激しいめまいに気を取られがちですが、耳の変化そのものも大切な情報です。
耳鼻科では、何を調べるのでしょうか
めまいで受診するとき、「検査を受ける頃には症状がおさまって、何も分からないのでは」と心配になるかもしれません。しかし、耳鼻科で調べるのは、今この瞬間にぐるぐるしているかどうかだけではありません。どのような条件で症状が起き、耳や体にどんな変化が表れるかを確かめていきます。
BPPVが疑われる場合は、頭の位置を変えてめまいが起きるかを確認し、そのときの眼振を観察します。眼振とは、自分では気づきにくい眼の動きのことです。頭の向きによって眼がどう反応するかを見て、関係する半規管を調べます。本人が話す症状だけでなく、実際に起きる反応からも手掛かりが得られます。
耳鳴りや聞こえにくさがあるときは、聴力検査が大切です。低い音が聞こえにくいのか、ほかの音域にも変化があるのかを調べ、聞こえ方が経過とともに変動していないかを確かめます。メニエール病が疑われる場合には、平衡機能の検査や、必要に応じて内リンパ水腫を推定する検査なども診断の材料になります。耳が詰まるという感覚だけで、内耳の状態を判断するわけではありません。
また、めまいの原因は耳だけとは限りません。眼の動きに加え、ろれつが回りにくい、手足が動かしにくい、感覚がおかしい、うまく立てないといった神経の異常を示す所見も確認します。こうした変化があれば、脳を含めて原因を考える必要があります。ろれつが回らない、手足が動かしにくい・しびれる、物が二重に見える、激しい頭痛がある、一人で立てない・歩けないときは、耳鼻科を待たずに救急車を呼ぶか救急外来を受診してください。
受診前に症状を整理するときも、長い説明を用意する必要はありません。「寝返りで始まった」「何分くらい続いた」「そのとき耳鳴りが変わった」「同じことが何回あった」と順番に伝えるだけでも、十分な手掛かりになります。頭を動かしたときに初めてめまいが起きたのか、すでに続いていためまいが動くと強くなったのかも、伝えておきたい違いです。
耳の病気を確かめることと、ストレスや睡眠不足を振り返ることは両立します。耳に起きた変化を見たうえで、心身の負担がめまいにどう影響するのかも考えてみましょう。
では、ストレスはめまいにどう関わるのでしょうか
ここまで耳の話を読んで、「でも、忙しい時期にめまいが増えるのは確かです」と感じた人もいるでしょう。その実感は、耳の病気があることと矛盾しません。
メニエール病では、内耳の液体で満たされた空間が膨らむ「内リンパ水腫」という変化が起きています。一方で、病気の発症や発作には、仕事や家庭での負担、心身の疲れ、睡眠不足などが関わるとされています。
忙しかった翌朝に耳が詰まり、めまいが起きたとしても、その一回の出来事だけで原因は決められません。それでも、発作が起きた時期と疲れ具合、睡眠の状態を振り返る意味はあります。メニエール病の生活面での対策としては、過労や睡眠不足への対応、適度な運動も取り上げられています。
一方、BPPVでは事情が異なります。発作が起きる直接の仕組みは、半規管に入り込んだ耳石由来の粒による刺激です。ストレスが耳石の異常を直接引き起こすと言える根拠は、現時点ではありません。疲れていた時期に寝返りでめまいが起きたからといって、すぐにストレスの影響と結びつけることはできないのです。
では、心の負担はどこでめまいとつながるのでしょうか。
私たちが体の向きや動きを把握するときには、内耳だけでなく、目に映る景色や、筋肉・関節から伝わる体の位置の情報も使っています。これらの情報がうまくかみ合わないと、その食い違いが不快な刺激として受け取られます。研究では、こうした刺激と心理的なストレスが、感情に関わる扁桃体や体のストレス反応を介して重なり、めまいを引き起こしたり強めたりする仕組みが考えられています。
実際、内耳の障害と不安や抑うつが同時に存在することもあります。不安が強くなると、めまいがいっそうつらく感じられたり、耳の状態が改善した後も症状が続いたりする場合があります。つまり、「ストレスも関係しています」という説明は、「耳には何も異常がありません」という意味ではありません。耳の変化と心身の反応は、同じ人の中で重なることがあるのです。
めまいが止まっても、「また回るかも」が止まらない
一度、部屋が激しく回る感覚を経験すると、次に寝返りを打つのが怖くなります。朝起きるときもそっと頭を動かし、「今、揺れなかっただろうか」と確かめたくなります。発作そのものは短くても、怖さがその後に残ることがあります。
危険を避けようとする体の反応を考えれば、不思議なことではありません。滑りやすい場所では、転ばないように体に力を入れ、歩幅を狭くするでしょう。めまいのときにも、これと似た防御反応が起こります。姿勢を固くし、目に映るものや足元の感覚を頼りにしながら、安定を保とうとするのです。
危険が去れば、こうした身構えも本来は緩んでいきます。ところが、めまいがおさまった後も警戒が解けない場合があります。わずかな揺れにも注意を向け、体を動かす前から次の発作を予想するようになります。
ここで、少し逆説的なことが起こります。ふらつかないように姿勢を固め、揺れていないか確かめ続けることで、かえってふらつく感覚が長引く場合があるのです。研究では、姿勢を調整する動きが硬くなり、耳からの情報よりも視覚情報に強く頼る状態が続くことや、めまいを予測すること自体が感覚の受け取り方に影響することが、症状の慢性化につながる仕組みとして考えられています。
最初は寝返りのときだけ回っていたのに、発作がおさまってからも日中に不安定さを感じることがあります。視界にたくさんのものが入る場所では、揺れを意識しやすくなることも考えられます。めまいを気にしてしまう自分を責めたくなるかもしれませんが、本人がわざと作り出している症状ではありません。危険に備えるための反応が、必要な時間を過ぎても続いていると捉えることができます。
こうした経過に関係する病気の一つが、PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)です。耳の病気などによるめまいをきっかけに、警戒する状態や感覚の使い方の変化が続くという研究モデルがあります。ただし、BPPVが再発して短い回転性めまいが起きることと、発作の後にふわふわした感覚が続くことは、別の現象です。回転性めまいを経験した人が、皆PPPDになるわけでもありません。
ここで覚えておいてほしいのは、めまいへの不安が続いていても、最初に耳の病気があったという事実は変わらないということです。耳に起きた変化と、その後に残った警戒やふらつきを分けて考えると、「ストレスのせい」という一言では見えなかった経過がつながってきます。
よくある質問
Q. 良性発作性頭位めまい症は、ストレスが原因で起こるのでしょうか?
BPPVでは、耳の半規管に入り込んだ耳石由来の小さな粒が、頭の向きによって刺激を生みます。ストレスがその粒を動かす直接の原因だと言える根拠は、現時点ではありません。ただし、発作への不安によってめまいがいっそうつらく感じられたり、その後のふらつきに影響したりすることはあります。
Q. ストレスだけで、ぐるぐる回るめまいが起こることはありますか?
心理的な負担がめまいを引き起こしたり、すでにある症状を強めたりする仕組みが研究されています。ただし、ぐるぐる回る感覚があるというだけで、心の問題とは決められません。頭を動かしたときに始まるのか、耳の症状を伴うのかを確かめ、まずは耳の病気を考えることが大切です。
Q. ストレスが強いときの耳鳴りや聞こえにくさも、心の問題でしょうか?
耳鳴りや耳の詰まりには、メニエール病のほか、突発性難聴や低い音が聞こえにくくなる病気が関係していることもあります。自分では聞こえにくさを感じていなくても、検査で聴力の変化が見つかる場合があります。急に聞こえ方が変わったときは、ストレスのせいと決めつけず、速やかに耳鼻科で確かめることが先です。
Q. すぐに救急を受診したほうがよいのは、どんなときですか?
めまいに加えて、ろれつが回らない、手足が動かしにくい・しびれる、物が二重に見える、激しい頭痛がある、一人で立てない・歩けないといった症状があるときは、脳の病気の可能性があります。耳鼻科の受診を待たず、ためらわずに救急車を呼ぶか、すぐに救急外来を受診してください。
参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)
- 『メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版』日本めまい平衡医学会編、金原出版、2020年
- “A New Diagnostic Approach to the Adult Patient with Acute Dizziness” Jonathan A. Edlowほか、Journal of Emergency Medicine、2018年
- “Persistent postural-perceptual dizziness: a common, characteristic and treatable cause of chronic dizziness” Stefan Popkirovほか、Practical Neurology、2018年
- 「めまいとストレス」堀井新、Equilibrium Research、2016年