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「うつ病ではないのに、抗うつ薬を飲むのですか」。全般不安症の治療でイフェクサーSRを提案され、薬の分類名に戸惑う方もいるでしょう。この薬には2026年3月、日本で全般不安症への効能が追加されました。何を治療するために使い、どう飲み始めるのかを、薬の仕組みと一緒に確かめていきます。

1. 抗うつ薬を飲むと、うつ病ということですか?

不安について相談していたのに説明に「抗うつ薬」という言葉が出てきたら、話が違うように感じるかもしれません。「うつ病だと言われた覚えはないけれど、診断が変わったのだろうか」と考えてしまうのも無理はありません。

ここで分けておきたいのは、薬の分類名と、治療を受ける病気の名前です。抗うつ薬は主にうつ病に使われる薬の総称ですが、なかには不安症などにも効果が認められ、治療に使われるものがあります。同じ分類の薬でも、どの病気に使えるかは薬ごとに異なります。ですから、抗うつ薬が処方されたという事実だけで、うつ病と診断されたことにはなりません。

イフェクサーSRも、国内で使える目的が増えた薬の一つです。2015年に「うつ病・うつ状態」の治療薬として承認され、その後、日本人を対象とする全般不安症の臨床試験が行われました。その結果を踏まえて、2026年3月23日に「全般不安症」が効能に加わっています。現在の添付文書には、この二つの効能が別々に記載されています。

ただし、「不安があるから試してみよう」と誰にでも使う薬という意味ではありません。全般不安症に使うときは、DSMなどの適切な診断基準に沿って判断し、その基準を満たしていることが条件です。国内の臨床試験も18歳以上で全般不安症を主な診断とする人を対象にしており、うつ病を併発していなくても参加できる設計でした。うつ病の診断が全般不安症への処方の前提ではないことは、承認までの資料からも読み取れます。

薬の名前を聞いて心配になったら、「私は何の診断に対して、この薬を使うのでしょうか」と尋ねてよいのです。薬の分類を覚えることより、いま何を治療しようとしているのかを知ることが最初の一歩になります。

2. イフェクサーSRは、不安にどう働きかけるのでしょうか?

イフェクサーSRの一般名はベンラファキシンです。SNRIという種類に分類され、これは「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」の略です。長い名前ですが、神経の情報伝達に関わる二つの物質について、いったん放出されたものが回収される働きを妨げる、という仕組みを指しています。

ベンラファキシンと、体内でできる活性代謝物には、セロトニンとノルアドレナリンの取り込みを抑える作用が示されています。基礎研究では、低用量ではセロトニン系への作用が中心で、量が増えるとノルアドレナリン系への作用も強まることが示されました。ただし、これは主に動物などを使った研究で調べた働きであり、「全般不安症はこの二つの物質が足りないから起こる」と証明したものではありません。

では、なぜ不安の治療薬として使えるのでしょうか。その答えを支えているのは、作用の説明だけでなく、実際に全般不安症の人を対象にした臨床試験です。海外では日本で効能が追加される前から使われており、プラセボ(有効成分を含まない薬)を飲む群と比べて不安の評価点が改善するかを調べた試験が複数行われてきました。日本でも国内試験を経て、2026年に承認が追加されました。

薬が神経にどう作用するかという話と、治療を受けた人にどんな変化があったかという話は、似ているようで別の問いです。後者を確かめるには、服用前後の不安や生活の変化を見ていく必要があります。

3. なぜ37.5mgから始めるのでしょうか?

イフェクサーSRの通常の成人用量は、最初から同じ量を飲み続ける形ではありません。承認されている基本の使い方は、まずベンラファキシンとして1日37.5mgを1回、食後に服用し、1週間後から1日75mgを1回にするというものです。その後、年齢や症状に応じて調節するときは、増量の間を少なくとも1週間あけ、1日量を75mgずつ増やします。上限は1日225mgです。

数字を並べると、225mgまで増やしたほうがよく効きそうに見えるかもしれません。けれども225mgは目標の量ではなく、超えてはいけない上限です。添付文書が求めているのは、体調の変化を見ながら、その人に必要な最小限の量を探すことです。増量によって不眠や血圧上昇が生じるおそれもあるため、増やすかどうかは効果と負担の両方を見て判断します。

「朝食後と夕食後なら、どちらがよいのでしょうか」という疑問も出てくるでしょう。医薬品インタビューフォームでは、服用する時刻や食事が薬の動きに影響しないという報告を踏まえ、朝か夕方かを厳密には指定していません。一方で食後とされているのは、吐き気など消化器の副作用を避けることを考えた設定です。処方のときに決めた服用のタイミングを確認しておくと、毎日の飲み方が分かりやすくなります。

名前に付く「SR」は、成分が少しずつ放出される製剤であることに関係しています。カプセルの中身を砕いたりすりつぶしたりするとこの仕組みが失われ、血液中の薬の濃度が高くなるおそれがあります。中身を噛まず、包装シートから取り出して、水かぬるま湯で飲みます。

飲み忘れたときは、気づいた時点で1回分を飲みます。ただし、次に飲む時刻が近ければ忘れた分は飛ばし、次の時刻に1回分だけ飲みます。2回分をまとめて飲むことはしません。多く飲めば飲み忘れを取り戻せる、という薬ではないからです。

肝臓の機能が低下している人では、通常とは開始方法や増量の幅が異なる場合があります。飲み始めの量は、誰にでもそのまま当てはまる数字ではありません。大切なのは何mgまで増やすかよりも、どの量でどんな変化が起きているかを確かめることです。

4. 効き目は、いつ、何を見て判断するのでしょうか?

「薬を飲んだのに、今日も心配が頭から離れません」。服用を始めると、どうしても毎日の調子で効き目を判断したくなるものです。ただ、イフェクサーSRの全般不安症への効果を調べた試験は、飲んだ翌日や数日後に不安が消えるかを確かめたものではありません。

日本で行われた第Ⅲ相試験には全般不安症を主な診断とする18歳以上の人が参加し、イフェクサーSRを飲む群とプラセボを飲む群を比べました。治療期間は8週間です。薬を飲む前と8週後で不安の程度がどれだけ変わったかを、主な評価項目として調べました。

そこで使われたのが、HAM-Aという不安の評価尺度です。心配や緊張に関係する項目だけでなく、体に現れる不安の症状も含めて14項目を評価します。点数が下がれば、その尺度で見た不安が軽くなったことを表します。

結果はどうだったのでしょうか。8週後までのHAM-Aの変化を見ると、イフェクサーSR群はプラセボ群より平均1.9点、改善する方向に差がありました。差の95%信頼区間は0.4~3.4点の改善方向で、統計的に有意な違いが確認されています。これは、たまたま生じた差だけでは説明しにくいという試験上の結果です。

「1.9点なら、あまり効かないのでしょうか」と思う方もいるでしょう。逆に「有意差があったなら、自分にもはっきり効くはず」と期待する方もいるかもしれません。どちらも、この数字だけで決めるのは早いのです。1.9点は二つの集団の平均的な差であって、薬を飲んだ一人ひとりの改善幅ではありません。試験は薬の効果を裏づけますが、自分がどう変化するかまで約束するものではありません。

試験ではHAM-Aに加えて、本人が答えるGAD-7や、仕事・学校、社会生活、家庭生活への支障をみる尺度も使われました。ここに、診察で効き目を話すときの手がかりがあります。「心配はまだあるけれど、以前より日常の用事に取りかかれている」「不安の強さは変わらず、生活の負担も減っていない」。こうした具体的な変化を、服用前と比べてみるのです。

なお、8週間は臨床試験で効果を評価した時点であり、8週目に急に効き始める日付でも、全員がそこで中止を決める期限でもありません。審査では、効果が確認できないまま何となく服用を続けないことも重視されました。次の診察では「あと何週間待つべきか」だけでなく、「今の変化をどう評価するか」を一緒に確かめることができます。

5. 不安を治す薬なのに、不安が強くなることもありますか?

あります。イフェクサーSRでは、服用中に不安や落ち着かなさ、興奮、不眠などが現れることが報告されています。不安を軽くするために飲み始めたのに気持ちがざわつけば、「自分だけおかしいのでは」と戸惑うかもしれません。けれど、その変化は薬との関係も含めて確かめる必要があるものであり、本人の努力不足で説明するものではありません。

まず、比較的よく報告された副作用から見てみましょう。国内の全般不安症を対象とした8週間の試験では、薬との関係を否定できない副作用がイフェクサーSR群の43.6%に認められました。主なものは次のとおりです。

  • 眠気(傾眠):14.0%
  • 吐き気(悪心):9.5%
  • 便秘:6.1%
  • 不眠症:5.0%

これらは全般不安症の国内試験で報告された割合です。病気や薬との関係を問わず試験期間中に起きた出来事を数える「有害事象」は63.1%でした。副作用の43.6%と混ぜて考えないことが大切です。

眠気と不眠が同じ薬の副作用として並ぶのは、不思議に感じられるでしょう。飲んで眠くなる人がいる一方で、眠りにくさを訴える人もいたということです。「眠くならなかったから副作用はない」とも、「寝つきが悪くなったから病気が悪化した」とも、すぐには決められません。

長く服用した場合の資料には、体重の増加も出てきます。国内の長期試験では、体重増加が7.4%、眠気が11.9%、吐き気が10.4%に副作用として報告されました。ただし、この試験の対象は先行試験を終え、服用を続けられた人です。8週間の試験とは期間も参加者の条件も違うため、数字をそのまま並べて増減を判断することはできません。

特に気に留めたいのは、飲み始めや量を増やしたあとの変化です。不安、焦燥感、興奮、眠れなさに加えて、気分が高ぶる状態なども報告されています。症状がつらくなったとき、病気そのものの変化なのか薬が関わっているのかを、本人だけで見分けるのは難しいものです。こうした変化があれば、自己判断で量を増やさず、処方医に経過を伝えてください。

体の変化も判断材料になります。イフェクサーSRでは心拍数が増えたり血圧が上がったりすることがあるため、服用中は適宜、血圧や脈拍を確認します。眠気やめまいを感じるときは、自動車の運転や危険を伴う機械の操作を避けます。副作用を我慢し続けることが治療の目標ではありません。

伝えるのは難しいことではありません。「75mgになってから寝つきが悪い」「午後に眠くなる」「心配が強くなったのは増量後から」といった短い言葉で十分です。大切なのは、何が、いつから、どのくらい変わったかです。その情報が、効果を確かめるときにも量を見直すときにも役立ちます。

6. 飲み合わせと持病で、何を確認するのでしょうか?

イフェクサーSRを使う前に伝えてほしいのは、精神科で処方された薬のことだけではありません。咳止めや痛み止め、サプリメント、以前からある持病も、薬の選び方に関わります。「こんなものまで関係するのかな」と思う情報にも、確認しておく意味があります。

まず、MAO阻害薬を服用している人や、中止してから2週間以内の人には使えません。ほかにも、セロトニンに関わる作用を持つ薬と組み合わせると、作用が強まりすぎるおそれがあります。身近な例では、デキストロメトルファンを含む咳止めや、トラマドールを含む鎮痛薬が挙げられます。健康食品に使われるセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)も確認が必要です。お酒も、薬との間で中枢神経を抑える作用を互いに強める可能性があるため、避けることが望ましいとされています。

次に、肝臓と腎臓の状態です。薬の成分への過敏症の既往がある場合や、重度の肝機能障害、重度の腎機能障害がある場合、透析中の場合には使用できません。中等度の肝機能障害では、通常のように37.5mgを毎日飲むのではなく、37.5mgを2日に1回から始め、1週間後に毎日へ移る方法が定められています。この場合の上限は1日112.5mgです。軽度でも量や間隔の調整を考えます。高齢の方では肝臓や腎臓の働きに加えて、血液中のナトリウムが低くなる状態にも注意します。

妊娠中や妊娠の可能性がある場合も、先に伝えておきたい情報です。妊娠中は、治療による利益が危険性を上回ると判断される場合に使います。授乳中は、薬による治療と母乳栄養の双方の利益を考えて、授乳を続けるかどうかを検討します。

最後に、服用中に見逃したくない変化があります。セロトニン症候群では、発熱、発汗、震え、落ち着かなさや意識の変化などが現れることがあります。普段の吐き気や眠気とは分けて考えるべき、早急な医学的評価が必要な症状です。また、抗うつ薬では24歳以下の人で自殺念慮や自殺企図のリスクが増えたとの報告があります。飲み始めてから気持ちや行動が急に変わった場合も、主治医に早めに伝えてください。命に差し迫る危険があるときは119番で救急を求めてください。

これらは薬を使う資格を試す質問ではなく、安全に使うために何を確認しておくかという話です。

7. よくなったら、いつまで飲み続けるのでしょうか?

8週間という数字を聞くと、「そこまで飲めば終わるのでしょうか」と考えるかもしれません。しかし8週間は国内の比較試験で効果を確かめた期間であり、治療を終える時期を決めた数字ではありません。

全般不安症では再び症状が強くなることも考えて、治療を続ける期間を検討します。審査報告書には、海外では初期の3か月の治療後も少なくとも1年間、有効な治療を続けることが推奨されているという申請者の説明が記されています。ただし、これはすべての人の服用期限や必要な期間を決めるものではありません。

日本では、長く服用した場合の経過も調べられています。先行する試験を終えて薬を続けられていた135人が参加した試験では、52週時点で111人の不安の評価が行われ、HAM-Aの平均点は経過とともに低下しました。ただ、この試験には比較するプラセボ群がなく、参加者もすでに薬への耐えやすさが確認された人たちです。長期の経過を知る資料にはなりますが、誰もが同じ結果になるという意味ではありません。

では、よくなって薬を終えるときはどうするのでしょうか。イフェクサーSRは突然やめたり量を減らしたりすると、めまい、吐き気、不安、眠りの乱れ、感覚の異常などが現れることがあります。そのため、終えるときは体調を見ながら徐々に減量します。全員に共通する減らし幅や日数は決められておらず、処方医と経過を確かめながら進めます。

長く服用する場合には、血清コレステロール値の測定も考慮されます。効いているか、負担はないか、まだ続ける理由があるかを、始めたときだけでなく続けている間も確かめることが大切です。

8. 次の診察で、何を伝えればよいでしょうか?

薬を飲み始めるか迷っている方も、すでに服用している方も、次の診察で話すことを三つに絞ってみてください。

一つ目は、何を改善したいかです。心配の強さなのか、心配によって仕事や家庭で困っていることなのかを、具体的にしておきます。

二つ目は、飲み始めてからの変化です。「量を増やしてから寝つきが悪い」「以前より用事に取りかかれる」など、よい変化も困った変化も材料になります。

三つ目は、今後の見通しです。「いつ、何を基準に効果を判断しますか」「続け方や終え方はどう考えますか」と聞いてよいのです。短いメモを見ながら話しても構いません。

薬を使うことへの迷いも、治療を決めるための情報です。大切なのは「抗うつ薬」という名前ではなく、何を目指して使い、何を見て判断するかです。

よくある質問

Q. うつ病と診断されていなくても、イフェクサーSRを飲むことはありますか? あります。2026年3月に、全般不安症も国内の効能として承認されました。適切な診断基準で全般不安症と判断された場合に使う薬で、うつ病の診断が必要という意味ではありません。

Q. 何週間飲んでも効果が分からない場合は、どうすればよいですか? 国内試験では8週後の不安の変化を主に評価しましたが、8週間が全員共通の中止期限というわけではありません。症状や生活への支障が服用前からどう変わったかを伝え、効果の評価と今後の方針を確認しましょう。

Q. 飲み忘れたり、やめたくなったりした場合はどうすればよいですか? 飲み忘れに気づいたら1回分を飲みますが、次の服用時刻が近ければ飛ばし、2回分を一緒には飲みません。急にやめると体調が変化することがあるため、やめたい気持ちも伝えて、減量の進め方を処方医と決めます。

参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません)

  • ヴィアトリス製薬合同会社『イフェクサーSRカプセル37.5mg/75mg 添付文書』2026年3月、第8版。
  • ヴィアトリス製薬合同会社『イフェクサーSRカプセル 医薬品インタビューフォーム』2026年3月、第7版。
  • 医薬品医療機器総合機構『イフェクサーSRカプセル 審査報告書』2026年1月30日。
  • ヴィアトリス製薬合同会社『イフェクサーSRカプセル 患者向医薬品ガイド』2026年3月。
  • 「精神科治療学」編集委員会編『今日の精神科治療ハンドブック2021』星和書店、2021年。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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